イセエビ下目

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イセエビ下目
分類
: 動物界 Animalia
: 節足動物門 Arthropoda
: 軟甲綱 Malacostraca
: 十脚目 Decapoda
亜目 : 抱卵亜目 Pleocyemata
階級なし : 歩行類 Reptantia
下目 : イセエビ下目 Achelata
学名
Achelata Scholtz & Richter[1]1995

イセエビ下目(イセエビかもく、学名: Achelata)は十脚目の下位分類群の1つ。イセエビハコエビウチワエビゾウリエビセミエビなど、大型の海生エビ類を含む。

Achelata は "A" = 「- が無い」、"chelata" = 「はさみ」で、「はさみがない」という意味をもつ。

かつて Borradaile (1907) により、現在のセンジュエビ下目 Polychelida と併せてイセエビ下目 Palinura (和名は Achelata と同じ)としてまとめられたが、別系統であることが判明し Scholtz & Richter (1995) により分離された[2][3]

特徴[編集]

全ての種類が産で、おもに熱帯から亜熱帯にかけて分布する。

浅海から深海まで多くの種類があり、成体の体長は数cmほどのヒメセミエビ類から50cmを超えるニシキエビまで種類によって異なるが、体長20cmを超えるものが多く、エビとしては大型である。大型種はどれも食用として漁獲され、重要な水産資源となっているものも多い。

体のみならず、歩脚と第2触角にも外骨格が発達する。第2触角は節が少ない。メスの第5歩脚は卵の世話をするために小さな鋏脚になるが、他の歩脚に鋏はない。

成体に長距離を泳ぐ遊泳力は無く、全て海底を歩行しながら生活する。成体はどれも分厚く頑丈な外骨格をもつ。受精卵は他のエビ亜目と同様にメスが腹肢に抱え、孵化するまで保護する。

孵化したばかりの幼生はフィロソーマ幼生 (phyllosoma) と呼ばれ、広葉樹ののような体に長い遊泳脚を持つ独特の形態をしている。フィロソーマ幼生はプランクトンとして海中を浮遊するが、遊泳期間は他のエビ目よりも比較的長く、また数cm程度と浮遊生活を送る幼生としてはかなりの大きさにまで成長し、この時期を活かして分布を広げる。形態や生態が親とはかけ離れているため、19世紀に発見された当初はエビ目の新分類群として記載された。成長した幼生はそれぞれの生息に適した場所に定着し、稚エビに変態して定着する。

分類[編集]

De Grave et al. (2009) による[3]

化石種のみを含む科が2科ある。それぞれ1属ずつを含む。

現生種を含む科は2科。詳細は各項目を参照。

かつては、この2科に加えヨロンエビ科 Synaxidae が存在し、ヨロンエビ属 PalinurellusPalibythus が含まれていた。Davie (1990) がヨロンエビ科をイセエビ科に統合して以来、両説が並存していたが[4]分子系統解析により、この2属は基底的なイセエビ科であると判明した[5]

旧イセエビ下目に含まれていた群[編集]

旧イセエビ下目 Palinura に含まれていた群を、現在の分類に則して記す。

センジュエビ下目[編集]

センジュエビ上科 Eryonoidea De Haan1841 や、いくつかの上科不明の属として含まれていた。

成体の体長は10cmほど。複眼が小さく、触角も短い。体表の殻は小さなや剛毛が密生する。体の殻は堅いが、歩脚は細長くあまり強靭ではない。歩脚は5対のうち前4対が鋏脚で、特に第一歩脚が長い。

深海生で、他の食用種と共に混獲されるが、漁獲量は少なく食用にならない。これまでに世界各地で多くの種類が報告されているが、生態にはまだ謎が多い。

ムカシイセエビ下目[編集]

ムカシイセエビ下目 Glypheidea は、ザリガニ下目に近縁な下目。いくつかの絶滅属が Polychelida から移された。

下目不明[編集]

出典[編集]

  1. ^ Ignác Richter(スロバキアの昆虫学者) or Vera Andreevna Richter(ロシアの昆虫学者) or Martha Richter(古生物学者) or Hans-Joachim Richter(魚類学者)
  2. ^ Scholtz, G.; Richter, S. (1995), “Phylogenetic systematics of the reptantian Decapoda (Crustacea, Malacostraca)”, Zoological Journal of the Linnean Society 113: 289–328, http://decapoda.nhm.org/pdfs/826/826.pdf 
  3. ^ a b De Grave, Sammy; Pentcheff, N. Dean; Ahyong, Shane T.; et al. (2009), “A classification of living and fossil genera of decapod crustaceans”, Raffles Bulletin of Zoology Suppl. 21: 1–109, https://hdl.handle.net/10088/8358 
  4. ^ Martin, Joel W.; Davis, George E. (2001). An Updated Classification of the Recent Crustacea. Natural History Museum of Los Angeles County. pp. 1–132. http://atiniui.nhm.org/pdfs/3839/3839.pdf 
  5. ^ Ferran Palero, Keith A. Crandall, Pere Abelló, Enrique Macpherson & Marta Pascual (2009). “Phylogenetic relationships between spiny, slipper and coral lobsters (Crustacea, Decapoda, Achelata)”. Molecular Phylogenetics and Evolution 50 (1): 152–162. doi:10.1016/j.ympev.2008.10.003. PMID 18957325. 
  6. ^ Ignác Richter(スロバキアの昆虫学者) or Vera Andreevna Richter(ロシアの昆虫学者) or Martha Richter(古生物学者) or Hans-Joachim Richter(魚類学者)

参考文献[編集]