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== 歴史と動向 ==
== 歴史と動向 ==
アメリカの[[狂騒の20年代]]と呼ばれた[[1920年代]]において、資産家にのみ提供される投資商品が数多く存在した。そのうち現代でもっともよく知られているのが、[[ベンジャミン・グレアム]]とジェリー・ニューマン({{lang|en|Jerry Newman}})によるグレアム=ニューマン・パートナシップであり、これは2006年の[[ウォーレン・バフェット]]による{{仮リンク|アメリカ金融博物館|en|Museum of American Finance}}への書簡で初期のヘッジファンドとして言及された<ref name="bloomberg.com">{{cite web|author=Chet Currier |url=https://www.bloomberg.com/apps/news?pid=newsarchive&sid=a1UhnH5DkE34 |title=Buffett Says Hedge Funds Are Older Than You Think: Chet Currier |publisher=Bloomberg |date=29 September 2006 |archiveurl=https://web.archive.org/web/20131025132323/http://www.bloomberg.com/apps/news?pid=newsarchive&sid=a1UhnH5DkE34|archivedate=2013-10-25 |accessdate=2017-04-09}}</ref>。
ヘッジファンドという語は社会学者の{{仮リンク|アルフレッド・ウィンスロー・ジョーンズ|en|Alfred Winslow Jones}}によってはじめて使われ<ref>当時は{{lang|en|Hedge'''d''' fund}}と呼ばれた。</ref><ref name="Ubide">{{cite news |title=Demystifying Hedge Funds |first=Angel |last=Ubide |url=http://www.imf.org/external/pubs/ft/fandd/2006/06/basics.htm |magazine=Finance & Development |publisher=International Monetary Fund |date = June 2006|accessdate=2017-04-09}}</ref><ref name="Ineichen">{{cite book |title=Absolute Returns: the risks and opportunities of hedge fund investing |first=Alexander|last=Ineichen |year=2002 |publisher=John Wiley & Sons |location= |isbn=0-471-25120-8 |pages=8–21}}</ref>、1949年に同氏によりはじめて設立されたと言われるが、異説もある<ref name="Anson">{{cite book |title=The Handbook of Alternative Assets |last=Anson |first=Mark J.P. |year=2006 |publisher=John Wiley & Sons |location= |isbn= 0-471-98020-X |page=36}}</ref>。


ヘッジファンド({{lang|en|Hedged fund}}、ヘッジ)という語は社会学者の{{仮リンク|アルフレッド・ウィンスロー・ジョーンズ|en|Alfred Winslow Jones}}によってはじめて使われ<ref name="Ubide">{{cite news |title=Demystifying Hedge Funds |first=Angel |last=Ubide |url=http://www.imf.org/external/pubs/ft/fandd/2006/06/basics.htm |magazine=Finance & Development |publisher=International Monetary Fund |date = June 2006|accessdate=2017-04-09}}</ref><ref name="Ineichen">{{cite book |title=Absolute Returns: the risks and opportunities of hedge fund investing |first=Alexander|last=Ineichen |year=2002 |publisher=John Wiley & Sons |location= |isbn=0-471-25120-8 |pages=8–21}}</ref>、1949年に同氏によりはじめて設立されたと言われるが、異説もある<ref name="Anson">{{cite book |title=The Handbook of Alternative Assets |last=Anson |first=Mark J.P. |year=2006 |publisher=John Wiley & Sons |location= |isbn= 0-471-98020-X |page=36}}</ref>。
1990年代は、年率20~30%など、高リターンを達成することも珍しくはなかった<ref name="170405nikkei"/>。


ジョーンズは自らのファンドが「ヘッジド」({{lang|en|Hedged}}、「[[リスクヘッジ]]が行われた」の意)としたが、これは当時金融市場での変動による投資リスクの管理を指す用語として[[ウォール街]]でよく使われていた<ref name="Lhabitant">{{cite book |title=Handbook of Hedge Funds |last=Lhabitant |first=François-Serge |year=2007 |publisher=John Wiley & Sons |isbn=0-470-02663-4 |page=10}}</ref>。
2008年の[[世界金融危機 (2007年-)|金融危機]]で運用が一気に悪化し、2009年から2016年まで連続してS&P500指数(アメリカ)の騰落率にも及ばない成績を記録しており、2016年は再びヘッジファンド運用成績が8年ぶりに大きく悪化して大規模な資金流出が起こった<ref name="170405nikkei">{{cite news |url=http://www.nikkei.com/article/DGXLZO14964270V00C17A4EE9000/|title=ヘッジファンドに陰り、資金流出11カ月で6.7兆円|newspaper=[[日本経済新聞]]|date=2017-04-05 |accessdate=2017-04-08}}</ref>。2016年には、2008年の金融危機が起こったとき以上に多数のヘッジファンドが閉鎖している<ref name="170405nikkei"/>。

多くのヘッジファンドが{{仮リンク|1969年-1970年の不況|en|Recession of 1969–70}}と{{仮リンク|1973年-1974年の株価暴落|en|1973–74 stock market crash}}で大損を出して廃業に追い込まれたが、1980年代後期に再び脚光を浴びた<ref name="Ineichen" />。1990年代、ヘッジファンドの数が大幅に上昇したが、これは[[インターネット・バブル]]による株価上昇で増えた資金によって支えられ<ref name="Ubide" />、信託報酬が運用成績と連動したのと運用成績自体がよかったため多くの関心を集めた<ref>{{cite book |title=Hedge funds of funds investing: an investor's guide |last=Nicholas |first=Joseph G. |year=2004 |publisher=John Wiley & Sons |isbn=1-57660-124-2 |page=11}}</ref>。実際この時期には年率20から30パーセントなど、高リターンを達成することも珍しくはなかった<ref name="170405nikkei" />。その後の10年間、クレジット・アービトラージ、ディストレスト証券戦略、債券アービトラージ、定量戦略などの新しい投資戦略、さらには複数の投資戦略を使うヘッジファンドが現れた<ref name="Ineichen" />。

21世紀のはじめ、ヘッジファンドは世界中で人気を集め、2008年にはヘッジファンドの{{仮リンク|運用資産|en|Assets under management}}総計が1.93兆[[アメリカ合衆国ドル|米ドル]]に上った<ref>{{cite news |title=Hedge fund industry assets swell to $1.92 trillion |first=Svea |last=Herbst-Bayliss |url=http://www.reuters.com/article/2011/01/19/us-hedgefunds-assets-idUSTRE70I6JY20110119 |work=Reuters |date=19 January 2011 |accessdate=2017-04-09}}</ref>。しかし、[[世界金融危機 (2007年-)|2008年の金融危機]]では多くのヘッジファンドが解約を制限した結果、その人気も運用資産も減退した<ref name="WSJ">Wall Street Journal 6 December 2010, Hedge-Fund Firms Woo the Little Guy, Jaime Levy Pessin</ref>。しかし、運用資産の総額は後に上昇に転じ、2011年4月には2兆米ドル近くになったと概算された<ref name="WSJ 2011">{{cite news |url=https://www.wsj.com/article/SB10001424052702304887904576399983107988642.html |title=Bridgewater Goes Large |last1=Corkery |first1=Michael |date=2011-06-22 |accessdate=2017-04-09}}</ref><ref>{{cite news |url=https://www.wsj.com/article/SB10001424052748704204604576269114056530484.html |title=Hedge Funds Bounce Back |last1=Strasberg |first1=Jenny |last2=Eder |first2=Steve |date=18 April 2011 |work=Wall Street Journal Online |accessdate=2017-04-09}}</ref>。また2011年2月時点ではヘッジファンドへの投資のうちの61パーセントは機関投資家によるものであり、2008年末時点の45パーセントと比べて大幅に上昇していた<ref name="Williamson">{{cite web |url=http://www.pionline.com/article/20110210/DAILYREG/110219980 |title=Institutional Share Growing For Hedge Funds |date=10 February 2011 |work=FINalternatives|publisher= |accessdate=2017-04-09}}</ref>。2011年6月時点で運用資産が最も大きいヘッジファンドは上から順に{{仮リンク|ブリッジウォーター・アソシエーツ|en|Bridgewater Associates}}(589億米ドル)、[[マン・グループ]](393億米ドル)、{{仮リンク|ポールソン・アンド・カンパニー|en|Paulson & Co.}}(352億米ドル)、{{仮リンク|ブレバン・ハワード|en|Brevan Howard}}(310億米ドル)、{{仮リンク|オク=ジフ・キャピタル・マネジメント|en|Och-Ziff Capital Management}}(294億米ドル)であった<ref>{{cite web|url=http://www.pionline.com/article/20110919/PRINTSUB/110919925 |title=Updated The biggest hedge funds – Pensions & Investments |publisher=Pionline.com |date= |accessdate=2017-04-09}}</ref>。このうち、1位のブリッジウォーター・アソシエーツは運用資産をさらに増やし、2012年3月1日時点で700億米ドルになった<ref>{{cite news |title=Dalio Earns $3.9bn to Top Hedge Fund Pay List |first=Dan |last=McCrum |url=http://www.cnbc.com/id/46901989/Dalio_Earns_3_9bn_to_Top_Hedge_Fund_Pay_List |newspaper=The Financial Times|date=30 March 2012 |archiveurl=https://web.archive.org/web/20130527033012/http://www.cnbc.com/id/46901989/Dalio_Earns_3_9bn_to_Top_Hedge_Fund_Pay_List|archivedate=2013-05-27|accessdate=2017-04-09}}</ref><ref>{{cite news |title=The 40 Highest-Earning Hedge Fund Managers |first=Nathan |last=Vardi |url=http://www.forbes.com/sites/nathanvardi/2012/03/01/the-40-highest-earning-hedge-fund-managers-3/2/ |work=Forbes |date=3 March 2012 |archiveurl=https://web.archive.org/web/20170405171342/https://www.forbes.com/sites/nathanvardi/2012/03/01/the-40-highest-earning-hedge-fund-managers-3/2/#38d6e2d54e14|archivedate=2017-04-05|accessdate=2017-04-09}}</ref>。2012年末時点ではアメリカの最大手ヘッジファンド会社241社の運用資産総計は1.335兆米ドルであった<ref>{{cite news |title=Billion dollar club |first=Amel |last=Robleh |url=https://www.hedgefundintelligence.com/Article/2988498/Billion-Dollar-Club.html?ArticleId=2988498 |work=Absolute Return |date=5 March 2012 |accessdate=2017-04-09}}</ref>。2012年4月、ヘッジファンドの運用資産総計が史上最高の2.13兆米ドルに上った<ref name="Chung">{{cite news |title=Hedge-Fund Assets Rise to Record Level |last=Chung |first=Juliet |url=https://www.wsj.com/article/SB10001424052702304331204577354043852093400.html?mod=googlenews_wsj |newspaper=The Wall Street Journal |date=19 April 2012 |accessdate=14 June 2012}}</ref>。

運用資産増えたヘッジファンドの運用成績は2009年から2016年まで連続してS&P500指数(アメリカ)の騰落率にも及ばない成績を記録しており、2016年は再びヘッジファンド運用成績が8年ぶりに大きく悪化して大規模な資金流出が起こった<ref name="170405nikkei">{{cite news |url=http://www.nikkei.com/article/DGXLZO14964270V00C17A4EE9000/|title=ヘッジファンドに陰り、資金流出11カ月で6.7兆円|newspaper=[[日本経済新聞]]|date=2017-04-05 |accessdate=2017-04-08}}</ref>。2016年には、2008年の金融危機が起こったとき以上に多数のヘッジファンドが閉鎖している<ref name="170405nikkei"/>。


[[日本経済新聞]]は、世界的な「カネ余り」で資産規模が膨れあがったために運用が困難となっているのに加え、英国による欧州連合(EU)離脱や米大統領選などの政治状況に市場が振り回されて2016年の運用成績が大幅下落したことを受け、ヘッジファンドの影響力が世界的に「徐々に縮小していく可能性」があると報じている<ref name="170405nikkei"/>。また、大手投資家はヘッジファンドから資金を引き揚げ、より低コストな投資商品に資金が流出していると報じられている<ref name="170405nikkei"/>。
[[日本経済新聞]]は、世界的な「カネ余り」で資産規模が膨れあがったために運用が困難となっているのに加え、英国による欧州連合(EU)離脱や米大統領選などの政治状況に市場が振り回されて2016年の運用成績が大幅下落したことを受け、ヘッジファンドの影響力が世界的に「徐々に縮小していく可能性」があると報じている<ref name="170405nikkei"/>。また、大手投資家はヘッジファンドから資金を引き揚げ、より低コストな投資商品に資金が流出していると報じられている<ref name="170405nikkei"/>。


[[ブルームバーグ]]は、「ヘッジファンドが商品市場で危険地帯にいるつの理由」として、「原油のポジション減少」、「株式の売り建玉」、「パラジウムのシグナル」、「金属価格のモメンタム」、「綿花の乖離(かいり)」をあげている<ref>{{cite news |url=https://www.bloomberg.co.jp/news/articles/2017-04-06/ONYVU56TTDS201|title=ヘッジファンドが商品市場で危険地帯にいる5つの理由|newspaper=[[ブルームバーグ]]|date=2017-04-06|accessdate=2017-04-08}}</ref>。
[[ブルームバーグ]]は、「ヘッジファンドが商品市場で危険地帯にいる5つの理由」として、「原油のポジション減少」、「株式の売り建玉」、「パラジウムのシグナル」、「金属価格のモメンタム」、「綿花の乖離(かいり)」をあげている<ref>{{cite news |url=https://www.bloomberg.co.jp/news/articles/2017-04-06/ONYVU56TTDS201|title=ヘッジファンドが商品市場で危険地帯にいる5つの理由|newspaper=[[ブルームバーグ]]|date=2017-04-06|accessdate=2017-04-08}}</ref>。


== 機関投資家 ==
== 機関投資家 ==

2017年4月9日 (日) 15:09時点における版

ヘッジファンド英語: Hedge fund)は、金融派生商品など複数の金融商品に分散化させて、高い運用収益を得ようとする代替投資の一つ[1]投資信託そのもののみならず、投資信託を運用する基金や組織を指すこともある。ヘッジファンドも機関投資家の一種である[2]

特徴

ヘッジファンドの運用コストは高く、預かり残高の2%相当の手数料のほか、成功報酬として運用益の20%を追加で請求されることが一般的である[2]。2016年の運用成績の悪化により、一部では手数料を引き下げる動きがある[2]

投資対象は、株式等よりは商品先物金融先物が多く、買いのみではなく売りの活用、レバレッジの活用など多くの手法を複雑に組み合わせて、市場の下落局面であっても損失を回避しプラスの収益(絶対的リターン)を目指す投資手法が特徴である[3]

なお、「絶対収益」や「絶対的リターン」を目指す投資手法という意味における、「絶対」という単語は、「絶対に儲かる」という意味ではない[4]。単に、市場が不況である場合に利益が減る伝統的な投資手法(相対収益型)とは対称的に、好況でも不況でも、市況によらずにハイリスクをとって利益を目指すという意味における「絶対」である[4]

監督官庁に届け出る義務や規制がなく、投資対象や投資手法に規制や制限がかからない私募形式によるファンドに資金を集め、ハイリスク・ハイリターンを目指して運用されることが一般的である[1][5]

45日前までに解約を通告しなければならないのが一般的であり、解約までの期間が伝統的な投資ファンドよりも長い[3]

歴史と動向

アメリカの狂騒の20年代と呼ばれた1920年代において、資産家にのみ提供される投資商品が数多く存在した。そのうち現代でもっともよく知られているのが、ベンジャミン・グレアムとジェリー・ニューマン(Jerry Newman)によるグレアム=ニューマン・パートナシップであり、これは2006年のウォーレン・バフェットによるアメリカ金融博物館英語版への書簡で初期のヘッジファンドとして言及された[6]

ヘッジドファンド(Hedged fund、ヘッジ)という語は社会学者のアルフレッド・ウィンスロー・ジョーンズ英語版によってはじめて使われ[7][8]、1949年に同氏によりはじめて設立されたと言われるが、異説もある[9]

ジョーンズは自らのファンドが「ヘッジド」(Hedged、「リスクヘッジが行われた」の意)としたが、これは当時金融市場での変動による投資リスクの管理を指す用語としてウォール街でよく使われていた[10]

多くのヘッジファンドが1969年-1970年の不況英語版1973年-1974年の株価暴落英語版で大損を出して廃業に追い込まれたが、1980年代後期に再び脚光を浴びた[8]。1990年代、ヘッジファンドの数が大幅に上昇したが、これはインターネット・バブルによる株価上昇で増えた資金によって支えられ[7]、信託報酬が運用成績と連動したのと運用成績自体がよかったため多くの関心を集めた[11]。実際この時期には年率20から30パーセントなど、高リターンを達成することも珍しくはなかった[2]。その後の10年間、クレジット・アービトラージ、ディストレスト証券戦略、債券アービトラージ、定量戦略などの新しい投資戦略、さらには複数の投資戦略を使うヘッジファンドが現れた[8]

21世紀のはじめ、ヘッジファンドは世界中で人気を集め、2008年にはヘッジファンドの運用資産英語版総計が1.93兆米ドルに上った[12]。しかし、2008年の金融危機では多くのヘッジファンドが解約を制限した結果、その人気も運用資産も減退した[13]。しかし、運用資産の総額は後に上昇に転じ、2011年4月には2兆米ドル近くになったと概算された[14][15]。また2011年2月時点ではヘッジファンドへの投資のうちの61パーセントは機関投資家によるものであり、2008年末時点の45パーセントと比べて大幅に上昇していた[16]。2011年6月時点で運用資産が最も大きいヘッジファンドは上から順にブリッジウォーター・アソシエーツ英語版(589億米ドル)、マン・グループ(393億米ドル)、ポールソン・アンド・カンパニー英語版(352億米ドル)、ブレバン・ハワード英語版(310億米ドル)、オク=ジフ・キャピタル・マネジメント英語版(294億米ドル)であった[17]。このうち、1位のブリッジウォーター・アソシエーツは運用資産をさらに増やし、2012年3月1日時点で700億米ドルになった[18][19]。2012年末時点ではアメリカの最大手ヘッジファンド会社241社の運用資産総計は1.335兆米ドルであった[20]。2012年4月、ヘッジファンドの運用資産総計が史上最高の2.13兆米ドルに上った[21]

運用資産が増えた一方、ヘッジファンドの運用成績は2009年から2016年まで連続してS&P500指数(アメリカ)の騰落率にも及ばない成績を記録しており、2016年は再びヘッジファンド運用成績が8年ぶりに大きく悪化して大規模な資金流出が起こった[2]。2016年には、2008年の金融危機が起こったとき以上に多数のヘッジファンドが閉鎖している[2]

日本経済新聞は、世界的な「カネ余り」で資産規模が膨れあがったために運用が困難となっているのに加え、英国による欧州連合(EU)離脱や米大統領選などの政治状況に市場が振り回されて2016年の運用成績が大幅下落したことを受け、ヘッジファンドの影響力が世界的に「徐々に縮小していく可能性」があると報じている[2]。また、大手投資家はヘッジファンドから資金を引き揚げ、より低コストな投資商品に資金が流出していると報じられている[2]

ブルームバーグは、「ヘッジファンドが商品市場で危険地帯にいる5つの理由」として、「原油のポジション減少」、「株式の売り建玉」、「パラジウムのシグナル」、「金属価格のモメンタム」、「綿花の乖離(かいり)」をあげている[22]

機関投資家

ヘッジファンドへの投資家は、年金基金や退職金基金、銀行投資顧問などの機関投資家が占める割合が大きい[要出典]。最低金額が数千万円からの投資金額が一般的であったが、小口化したヘッジファンドが投資信託で募集されるようになり、個人投資家も参入できる環境である[3]

ハーバード大学年金基金は、ポートフォリオの30%をヘッジファンドを含むオルタナティブ投資に振り分けている。日本の年金基金でもヘッジファンドをポートフォリオに組み込む動きがある。[要出典]

2016年には大手投資家の引き上げが増加し、カリフォルニア州職員退職年金基金(カルパース)もヘッジファンドから撤退している[2]

ヘッジファンドのデューディリジェンスの能力を単独でもちうる年金基金はあまりないため、ゲートキーパーと呼ばれるヘッジファンド専門の投資顧問が運用するファンド・オブ・ヘッジファンズ (Fund of Hedge Funds、FoHF) への投資という形態をとっていることが多い。FoHFでは、一つのファンドに投資するだけで様々な運用戦略のヘッジファンドに分散投資する効果が得られる。[要出典]

ウォーレン・バフェットは、ヘッジファンドの投資によって、世界の投資家は「過去10年で1000億ドルは浪費している」と批判している[2]

レバレッジ

一般の投資信託は空売りができないので、下げ相場では買持ちしている資産の価値が低下し、運用利回りがマイナスとなる場合が多い。空売りを積極的に利用できるヘッジファンドの場合は、上げ相場でも下げ相場でも利益を上げる機会があり、実際に下げ相場を得意とするヘッジファンドもある。

リスクヘッジのために開発された各種の金融派生商品(デリバティブ)を駆使して投機的に高い運用利益を上げようとする投資手法をとる場合もある。デリバティブは原資産の将来の値動きに対するリスクヘッジ手段として開発されたものが多く、一般的なデリバティブ取引では、満期日における原資産の価格と、デリバティブ契約上の取決め価格との差額分だけを決済する。したがって、原資産取引でいう“元本”部分を準備する必要はなく、低額な証拠金(通常は原資産取引元本の3~10%程度)を準備するだけで、原資産取引と同規模の取引が可能となる。この場合、実際の投下資金に対しての運用利回りは、原資産取引の10~30倍程度になる(レバレッジ)。利益だけでなく損失も同様に10~30倍となり、ハイリスク・ハイリターンの取引となる。

投資戦略

ロング・ショート

現在のヘッジファンドでもっとも運用残高の多い投資戦略である。

ロング・ショートという名前からもわかるように、株式等の有価証券のロング(買い持ち)とショート(売り持ち)の双方のポジションを同時に取るものである。アナリストまたはファンドマネージャーが割安つまり過小評価されていると判断した銘柄については一般的な投資信託と同じく買い(ロング)のポジションを取り、逆に割高つまり過大評価されていると判断した銘柄については売り(ショート)のポジションを取る。

不況等の相場全体が下げの環境下では積極的に空売りを仕掛けることで、絶対的な収益を生み出すことが可能になる。逆に、好況期の相場全体が上げの環境下では、相場全体について行けずインデックス以下またはマイナスの運用実績しか上げられず苦戦しているファンドも多い。マイナスの運用成績は問題であるが、そもそもヘッジファンドの本質は相場環境にかかわらず長期的に安定的にプラスのリターンを達成し続けることにあるので、好況期にインデックスに対して勝った負けたと議論するのはナンセンスであるとの論もある。

また、売りと買いの両方を仕掛けているので、相場全体の動きがどちらに進んでも、片方の玉がヘッジ(保険つなぎ)となり、損失は最小になるとの考えもあり、ヘッジファンドの名前はこの点に由来する。しかし、買建て玉が下がり、売建て玉が上がる場合も当然ありうるので、このような状況が生じると莫大な損失を出す可能性を秘めている。同方式は、思惑売買を売り買い両面で仕掛けているにすぎず、売建て玉と買建て玉の価格連動性も考慮していないので、本来の意味でのヘッジにはなっていない。このような売買手法に対して、ヘッジファンドという名称を付けたのは、一種の誤解に基づくものといえる。ただし、売建て玉を利用できる点については相場技法上、多大なメリット(特に短期売買の場合には顕著)がある。近年では、売立て玉と買建て玉の価格連動性を考慮した方式が取られる場合も多い。

近年、このロング・ショートの手法を採用した一般個人投資家向けの投資信託も出現している。

なお、株式ロング・ショートのヘッジファンドには、特定の業種・セクターに絞った運用をするものが多い。一般的な株式投資信託では広範な業種の銘柄を買いながら、その銘柄選択効果でTOPIX等の市場インデックスを上回ることを追求するのに対し、ロング・ショートでは買い・売り双方の機会を求め、特定業種・セクターにおける、より徹底したボトムアップ調査を基に運用することに起因する。したがって、多くの株式ロング・ショートヘッジファンドの運用成績は、その専門分野におけるボトムアップ調査・運用能力に比例すると考えられる。なお、経験測では多くのロング・ショートファンドにおいてネット・ロング(買いポジション>売りポジション)の状態にいるケースが多いことが確認されている。

アービトラージ

上記の原始的なヘッジファンドの次に誕生したのが、いわゆる鞘取りで利益を稼ぎ出す売買手法を取るものである。最もよく知られているのは、裁定取引(アービトラージ)を利用したものであろう。

同一の取引銘柄が、複数の市場に上場されている場合、同じ銘柄であるにもかかわらず、価格に乖離が生じることがある。この場合、一時的にバイアスがかかっても、長期的には必ず乖離が修正されるので、高いほうを売って、安いほうを買っておき、乖離が修正された時点で反対の売買を行えば、安全かつ確実に利益を出すことができる。また、市場間のバイアスを利用した取引なので、上げ下げには依存せず相場に動きがない局面でも利益を生み出せる。

ただし、裁定取引での投下資金に対する利益は1/1000~1/10000程度(0.1~0.01%)と極めて微小なものとなる。したがって、レバレッジ比率と売買頻度を高めなければ、高い利回りは望めない。一般的にヘッジファンドのレバレッジ比率は、3~5倍程度といわれている。

マーケット・タイミング

マーケット・タイミングは伝統的なロング・オンリー運用と異なり、ロング(買い)ポジションに入るタイミングを見計らいながら、それまでは主に現金や短期金融資産等で安全運用を行う戦略である。一般的には株式相場全体の上昇基調入りを見計らいながら、下げ相場では現金運用を行い、上昇期にはインデックス運用を行うタイプが多い。トップダウン型の一種であり、金融政策や財政、主要な経済指標などを分析しマクロ経済のサイクルを見計らうアプローチが取られる。

マーケット・タイミングは、その特性上、一般的な株式投資信託よりもリスクが低い運用手法と考えられる。

レラティブ・バリュー

上述の裁定取引(アービトラージ)と混同して議論されることが多いが、レラティブバリューは、広義では相対的な割安・割高を収益機会と捉える手法である。裁定取引は厳密には市場における完全なミスプライス(全く同じ経済効果をもたらす複数の資産やポートフォリオの間で異なる価格が存在している状態)を収益機会と捉えるのに対し、レラティブ・バリューではあくまで相対的な割安・割高をもって収益機会と捉える点で異なる(なお、実運用においては完全なミスプライス状態はそうそう頻出するものではないので、ほぼ完全なミスプライス状態をもって裁定機会と捉えるアービトラージャーが多い)。

LTCMの運用手法は裁定取引型と表現されるケースもあるが、むしろレラティブバリュー型の方が実態に近かったと考えられる。

イベント・ドリブン

イベント・ドリブン型は、主に企業の買収・合併等のイベント発生時における市場でのミスプライスを収益機会と捉える手法である。例えばある企業同士の合併が公表されてから、実際に合併が成立するまでの間に発生する各企業の株価の差異を、合併成立に伴って収斂するものと考えてポジションを構築する。イベントが正確に市場価格に反映されるまでにタイムラグがあることによって、収益機会が生まれる。

ただし、リスクとして合併が不成立となる場合などがあり、その場合には大きな損失を発生しかねない運用手法でもある。

マーケット・ニュートラル

マーケット・ニュートラル(市場中立型)とは、その名のとおり市場に対して中立なポジションを取る運用手法である。一般的な株式投資信託では、株式市場全体の動き(TOPIXなど)をベンチマークとし、そのベンチマークに対するポートフォリオの感応度をベータ、ベンチマークの動きにかかわらず生じる収益をアルファと表現する。ベータのリスクを排除した運用手法ともいえる。

マーケットニュートラルでは、市場全体の値動きに左右されず、銘柄選定効果(アルファ)だけを積み上げていくリターン特性をもつので、ヘッジファンドの中で最もリスクが低く安定した運用手法の一つである。また、伝統的な資産クラスとの相関が低いので、既存の伝統的ポートフォリオに追加した際に得られる分散効果が最も高いともいわれている。

グローバル・マクロ

グローバル・マクロは、実質的には特定の運用手法を指すものではなく、多種多様な市場において多種多様な資産を多種多様な手法で運用するファンドの総称である。その多くが、世界のマクロ経済動向見通しをベースにしたトップダウンアプローチに基づき、世界各市場で多種多様なポジションを張っている。有名なものではジョージ・ソロスのクオンタムファンドがこの分類に入る。一時期はヘッジファンド=グローバルマクロというようなイメージで語られることもあったが、機関投資家側のヘッジファンドに対するニーズが具体化・特定化している現在においては、主要な地位を占める戦略ではなくなっている。

マネージド・フューチャーズ

マネージド・フューチャーズは、取引所に上場している先物に投資する運用手法。カテゴリーとしてはヘッジファンドではなくコモディティ投資とする見解が多く、広義では代替投資の一つである。元来は商品に限らず各種金融資産、通貨等も含めた先物全体を活用した運用手法で、運用者はコモディティ・トレーディング・アドバイザー(CTA)と呼ばれ、米国ではCFTCの管轄下である。投資対象の定義を除けば、ロング・ショート・タイミングなどの具体的な戦略を特定するものではない。

日本

日本でも、高額な手数料をとられるにもかかわらず、それに見合った運用成績をあげることが難しくなっているため、ヘッジファンド投資は減少傾向にある[2]

2014年の調査では、日本の投資家によるヘッジファンドへの投資残高は2.2兆円(年間純増2,794億円)であった[23]

海外ファンドへの投資

公募によって一般から広く小口の資金を集めて大規模なファンドを形成することを目指す通常の投資信託とは異なり、世界のヘッジファンドは大部分がオフショア籍であるため、日本の証券会社や銀行は販売できない。そのため、日本国内に居住する個人投資家がヘッジファンドを購入するには以下の3つの方法がある[24][25]

  1. 海外のフィーダーファンド(投資信託)を国内の証券会社で購入
  2. 外資系証券会社の日本支店からオリジナルファンドに投資
  3. 投資顧問会社を通して海外のオリジナルファンドに直接投資

脚注

  1. ^ a b コトバンク 2017年4月8日閲覧。
  2. ^ a b c d e f g h i j k “ヘッジファンドに陰り、資金流出11カ月で6.7兆円”. 日本経済新聞. (2017年4月5日). http://www.nikkei.com/article/DGXLZO14964270V00C17A4EE9000/ 2017年4月8日閲覧。 
  3. ^ a b c “「絶対的リターン」を目指すヘッジファンド投資の概要”. 幻冬舎 ゴールドオンライン. (2017年4月3日). http://gentosha-go.com/articles/-/8626 2017年4月9日閲覧。 
  4. ^ a b “「テーマ型」「絶対収益型」――2つの投資信託の特徴とは?”. 幻冬舎 ゴールドオンライン. (2015年12月4日). http://gentosha-go.com/articles/-/1305 2017年4月9日閲覧。 
  5. ^ 「40兆円の男たち ──神になった天才マネジャーたちの素顔と投資法」マニート・アフジャ
  6. ^ Chet Currier (2006年9月29日). “Buffett Says Hedge Funds Are Older Than You Think: Chet Currier”. Bloomberg. 2013年10月25日時点のオリジナルよりアーカイブ。2017年4月9日閲覧。
  7. ^ a b Ubide, Angel (2006年6月). “Demystifying Hedge Funds”. Finance & Development (International Monetary Fund). http://www.imf.org/external/pubs/ft/fandd/2006/06/basics.htm 2017年4月9日閲覧。 
  8. ^ a b c Ineichen, Alexander (2002). Absolute Returns: the risks and opportunities of hedge fund investing. John Wiley & Sons. pp. 8–21. ISBN 0-471-25120-8 
  9. ^ Anson, Mark J.P. (2006). The Handbook of Alternative Assets. John Wiley & Sons. p. 36. ISBN 0-471-98020-X 
  10. ^ Lhabitant, François-Serge (2007). Handbook of Hedge Funds. John Wiley & Sons. p. 10. ISBN 0-470-02663-4 
  11. ^ Nicholas, Joseph G. (2004). Hedge funds of funds investing: an investor's guide. John Wiley & Sons. p. 11. ISBN 1-57660-124-2 
  12. ^ Herbst-Bayliss, Svea (2011年1月19日). “Hedge fund industry assets swell to $1.92 trillion”. Reuters. http://www.reuters.com/article/2011/01/19/us-hedgefunds-assets-idUSTRE70I6JY20110119 2017年4月9日閲覧。 
  13. ^ Wall Street Journal 6 December 2010, Hedge-Fund Firms Woo the Little Guy, Jaime Levy Pessin
  14. ^ Corkery, Michael (2011年6月22日). “Bridgewater Goes Large”. https://www.wsj.com/article/SB10001424052702304887904576399983107988642.html 2017年4月9日閲覧。 
  15. ^ Strasberg, Jenny; Eder, Steve (2011年4月18日). “Hedge Funds Bounce Back”. Wall Street Journal Online. https://www.wsj.com/article/SB10001424052748704204604576269114056530484.html 2017年4月9日閲覧。 
  16. ^ Institutional Share Growing For Hedge Funds”. FINalternatives (2011年2月10日). 2017年4月9日閲覧。
  17. ^ Updated The biggest hedge funds – Pensions & Investments”. Pionline.com. 2017年4月9日閲覧。
  18. ^ McCrum, Dan (2012年3月30日). “Dalio Earns $3.9bn to Top Hedge Fund Pay List”. The Financial Times. オリジナルの2013年5月27日時点におけるアーカイブ。. https://web.archive.org/web/20130527033012/http://www.cnbc.com/id/46901989/Dalio_Earns_3_9bn_to_Top_Hedge_Fund_Pay_List 2017年4月9日閲覧。 
  19. ^ Vardi, Nathan (2012年3月3日). “The 40 Highest-Earning Hedge Fund Managers”. Forbes. オリジナルの2017年4月5日時点におけるアーカイブ。. https://web.archive.org/web/20170405171342/https://www.forbes.com/sites/nathanvardi/2012/03/01/the-40-highest-earning-hedge-fund-managers-3/2/#38d6e2d54e14 2017年4月9日閲覧。 
  20. ^ Robleh, Amel (2012年3月5日). “Billion dollar club”. Absolute Return. https://www.hedgefundintelligence.com/Article/2988498/Billion-Dollar-Club.html?ArticleId=2988498 2017年4月9日閲覧。 
  21. ^ Chung, Juliet (2012年4月19日). “Hedge-Fund Assets Rise to Record Level”. The Wall Street Journal. https://www.wsj.com/article/SB10001424052702304331204577354043852093400.html?mod=googlenews_wsj 2012年6月14日閲覧。 
  22. ^ “ヘッジファンドが商品市場で危険地帯にいる5つの理由”. ブルームバーグ. (2017年4月6日). https://www.bloomberg.co.jp/news/articles/2017-04-06/ONYVU56TTDS201 2017年4月8日閲覧。 
  23. ^ 金融庁ファンドモニタリング調査2014
  24. ^ 岩崎博充『日本人が知らなかった海外資産運用術』P133 翔泳社
  25. ^ 「世界の好成績ヘッジファンドにアクセスしたいなら」ダイヤモンドZAI 2012年4月号

外部リンク