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「常温核融合」の版間の差分

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* [http://www.geocities.jp/hjrfq930/ 常温核融合研究所] 小島英夫静岡大学名誉教授の私設研究所
* [http://www.geocities.jp/hjrfq930/ 常温核融合研究所] 小島英夫静岡大学名誉教授の私設研究所
* [http://newenergytimes.com/ New Energy Times] 常温核融合分野のニュース。荒田教授の公開実験の写真も。
* [http://newenergytimes.com/ New Energy Times] 常温核融合分野のニュース。荒田教授の公開実験の写真も。
* [http://www.lenr-canr.org/acrobat/ArataYdevelopmenb.pdf Development of "DS-Reactor"] 荒田方式の説明(PDF)



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2008年6月5日 (木) 14:12時点における版

常温核融合(じょうおんかくゆうごう、Cold Fusion)とは、室温で、水素原子の核融合反応が起きるとされる現象。もしくは、1989年にこれを観測したとする発表にまつわる社会現象。常温での水素原子の核融合反応は、きわめて低い頻度ながら、トンネル効果宇宙線に含まれるミューオンによって実際に起き、観測もできる。しかし、本項目では、そのような規模ではなく、常温で目視できる規模で起きたと主張されていた核融合反応を扱っている。

概要

1989年イギリスサウサンプトン大学マルチン・フライシュマン教授とアメリカユタ大学スタン・ポンス教授が、この現象を発見したと発表した。この発表においてマルチン・フライシュマン教授とスタン・ポンス教授は、重水を満たした試験管(ガラス容器)に、パラジウムプラチナの電極を入れ暫らく放置、電流を流したところ、電解熱以上の発熱(電極の金属が一部溶解したとも伝えられた)が得られ、核融合の際に生じたと思われるトリチウム中性子ガンマ線を検出したとしている。

経緯

現代の物理学理論では水素原子核融合反応を起こすには、極度の高温と高圧が必要であり、室温程度の温度で目視できるほどの核融合反応が起きるとは考えられていなかった。

背景

しかし前年に、絶対零度に近い低温でしか起きないとされていた超伝導が、それまでの理論の予言からは説明のつかない高温で起こると言う高温超伝導現象が発見されて世界的なブームが起きていたことや、フライシュマンがイギリスの電気化学の大家であったことから、従来の物理理論以外での新しい現象が発見されたのではないかとみなされた。

追試結果と結末

このため多くの科学者が追試を行ない、様々な仮説も立てられ、これがマスメディア上にまで流布される騒ぎとなった。追試を行ったグループの一部はフライシュマンらと同等あるいはそれ以上の結果を得たと報告したことも、フィーバーに拍車をかけることになった。しかしながら、実施された追試の多くの場合には核融合反応や入力以上のエネルギー発生が観測できなかった事や、追試に成功したと報告された条件でも現象が再現しないことなどから、一般には電気分解反応で生じた発熱量の測定を誤ったのではないかと考えられた。また、当時の東京大学学長で原子核物理学者である有馬朗人が「もし常温核融合が真の科学的現象ならば坊主になる」と発言したとされ、一般には常温核融合はなにかの間違いという認識が定着した。

事件の背後には、別の観点からミューオン核融合を研究していたブリガムヤング大学のジョーンズ教授との研究の先取権争いや、研究資金の獲得競争、化学者と物理学者の対立、マスコミの暴走、ユタ州とユタ大学の財政難を解消するための大学当局の政治的策謀など、様々な要因が挙げられている。発表当初は過剰熱を主張するフライシュマンらより中性子のデータを示したジョーンズの報告を信頼する科学者が多かった。しかしジョーンズは後に神岡鉱山内の背景中性子がほとんどない環境で実験し、中性子が観測されなかったことから常温核融合を自ら否定する。このことも多くの科学者が常温核融合はうそだったと考える要因となった。

マスメディアの報道が沈静化した1994年になって日本では通産省エネルギー庁が新水素エネルギー実証試験プロジェクト(NHE)をスタートさせた。約20億円が投入され1998年に終了したが、その最終報告は「過剰熱現象は確認出来なかった」というものであった。

1990年代中頃には関係者の大半が研究を諦める事態となった。だが、その後幾つかの現象が観測され、また様々な推論による論理が発表されたことにより、別の物理現象として注目する研究者もあり、現在に至るまで「固体内核反応」として、一部の研究者による研究が続けられている。

北海道大学水野忠彦助教は、1996年に、常温核融合の正体は原子核が他の原子核に変化する「核変換」現象だったという、当初考えられていた常温核融合に対する解釈とはまったく異なる内容の論文を発表している。これをフランスの研究者が再現テストを行い、その結果をインターネットで公開している。

三菱重工の岩村康弘は、2001年にパラジウム、酸化カルシウムの多層基板上にセシウムをつけて重水素ガスを透過させセシウムからプラセオジウムへの核変換が生じたと発表した。同様にストロンチウムからモリブデンへの核変換も報告した。この実験系の再現性は100%と言われており多くの追試がなされている。

荒田吉明大阪大学名誉教授は、特殊加工されたパラジウムの格子状超微細金属粒子内に、重水素ガスを取り込ませてることで凝集し、これにレーザーを照射することで、通常の空気中の10万倍のヘリウムの発生を観測した。この方式は荒田方式と呼ばれ、現在までに多くの追試がなされている。この現象の発見は、2002年12月7日の毎日新聞電子版などで報じられた。

2005年カリフォルニア大学ロサンゼルス校で常温核融合から(検知可能と言う意味で)有効な熱エネルギーの発生が確認されネイチャーに掲載された。

イスラエルのエナジェティクステクノロジー、アメリカSRI、イタリアENEAの合同チームは表面処理をしたパラジウム電極を用いた重水電気分解でスーパーウエーブと呼ばれる波形の電圧入力や超音波照射などを組み合わせることにより入力の10倍以上の過剰熱を2007年時点で再現性60%で発生させたと発表している。最大の例では平均0.74ワットの入力時に平均20ワットの熱出力が17時間継続したと報告している。

2007年のマサチューセッツ工科大学(MIT)の試算では、世界中で3000件の論文で追試されているといわれる[1]。多くの研究で再現され検証そのものはできているものの、結果にばらつきがあることが問題視されている[2]

2008年5月22日に大阪大学で公開実験が行われ、5月23日の日経産業新聞および日刊工業新聞で報道された。これは上述の荒田吉明大阪大学名誉教授によるもので、レーザ、電気、熱等を使わずに、酸化ジルコニウム・パラジウム合金の格子状超微細金属粒子内に重水素ガスを吹き込むことだけで、大気中の10万倍のヘリウムと30kJの熱が検出されたものである(日経産業新聞)。生成されたヘリウムは一度金属内に取り込まれると数百度の熱を加えないと放出されないためサンプル再生が課題となるとしている(日刊工業新聞)。一般紙ではまったく報道されていない。同内容の論文は高温学会誌Vol34で発表されている。

研究結果と評価

常温核融合現象に関する基礎研究は一部の研究者(世界で300人といわれる)により地道に続けられており、これまでに実験的には以下のようなことが報告されている。

  • 検出される中性子量は一般の核融合で予想される量より7桁以上少ない。
  • γ線はほとんど検出されない。
  • 面心立方型および六方稠密型金属では起きるが体心立方型では起きない。
  • 反応生成物は主にHe(4)で、またPbまでのほとんどすべての元素が生成される(核変換)。生成された元素の同位体比率は天然のものとは異なっている。
  • 軽水でもNiなどとの組み合わせで現象が発生する。
  • 過剰熱現象の再現性は最大60%程度の実験系が、核変換では再現性100%の実験系が報告されている。
  • 過剰熱の発生量としては電極1平方センチあたり0.1~1W程度がもっとも多く、まれに10Wとか1000W/ccという報告もある。
  • 過剰熱の発生頻度と過剰熱の大きさをプロットすると両対数グラフ上でほぼ直線になって勾配は-1から-2の間となる。

これらの報告は常温核融合研究者間では多くの追試がなされており、少なくとも定性的再現性は十分あると考えられている。また、多くの研究で現象は電極表面付近で起こっていることが示されており、現象の発生には試料表面付近のナノ構造が関与しているものとみられている。これらの結果は現代の物理学では説明のつかないものであり、実験と並行してこれらの結果を説明するための理論面の研究も続けられている。しかし、いまだに実験結果を現代物理学に矛盾なく説明でき、多くの科学者が納得するような理論は構築されていない。

このような実験結果は現代物理学から予想されるものとはあまりにもかけ離れており、さらにその理論も構築されていないことから、常温核融合研究者以外の多くの科学者は中性子やγ線が少ないか検出されないことが核反応がないことの証明であり、それ以外の過剰熱や生成物の実験結果は測定の間違いか結果の解釈の間違いであろうと考えている。そして、常温核融合研究者たちは一般の科学者が検出できない過剰熱やわずかな中性子の検出を核反応の証拠と主張する人々とされ、常温核融合は病的科学とみなされている。そのため常温核融合研究者同士の追試は関係者の追試とみなされ評価されていない。また、常温核融合研究者でない科学者が追試をすることはほとんどなく、追試をした場合はやはり関係者とみなされるので追試として評価されない。よって常温核融合分野ではいかなる追試を行っても評価されない状態となっている。

また、ネイチャーなどの主な科学誌は常温核融合に関する追試論文について原則として掲載を拒否している。そのため常温核融合関連の論文は査読に耐えられないレベルとみなされ評価されない理由となっている。

このような環境であるため研究者は研究費の捻出に頭を悩ませており、現在でも研究費のかなりの部分は私費でまかなわれているといわれている。また新規研究者も参入しないので、研究者の高齢化・研究の先細りが心配されている。

脚注

  1. ^ 「常温核融合」会議、MITで開催(1) (WIRED VISION、2007年8月27日)
  2. ^ 「常温核融合」会議、MITで開催(2) (WIRED VISION、2007年8月28日)

参考文献

  • J.R.ホイジンガ著、青木薫訳『常温核融合の真実 今世紀最大の科学スキャンダル』化学同人、1995年1月、ISBN 4759802738
  • ガリー・A. トーブス著、渡辺正訳『常温核融合スキャンダル―迷走科学の顛末』朝日新聞、1993年12月、ISBN 4022567074
  • 水野忠彦、「核変換—常温核融合の真実」、1997年、工学社 ISBN-13: 978-4875932147
  • Mallove, Eugene. Fire from Ice: Searching for the Truth Behind the Cold Fusion Furor. Concord, N.H.: Infinite Energy Press, 1991. ISBN 1-892925-02-8
  • Beaudette, Charles. Excess Heat: Why Cold Fusion Research Prevailed, 2nd. Ed. South Bristol, ME, Oak Grove Press, 2002. ISBN 0-9678548-3-0
  • Kozima, Hideo. The Science of the Cold Fusion phenomenon, Elsevier Science, 2006. ISBN 0-08-045110-1.
  • Storms, E., The Science Of Low Energy Nuclear Reaction. 2007: World Scientific Publishing Company. ISBN-13: 9789812706201
  • チャールズ・プラット、夏目大訳「すべての家庭に核融合炉を」、Make:、Vol.1、pp. 30-39、オライリージャパン、オーム社、2006年8月、ISBN 4873112982
  • 『日経産業新聞』2008年5月23日
  • 『日刊工業新聞』2008年5月23日
  • 小島英夫、「「常温核融合」を科学する―現象の実像と機構の解明」、2005年、工学社 ISBN : 4-7775-1153-7
  • 「固体内核反応研究 No.1」、1999年、工学社 ISBN : 4-87593-229-4
  • 高橋亮人、「常温核融合2006―凝集系科学への展開」、2006年、工学社 ISBN978-4-7775-1208-9
  • 高橋亮人、「常温核融合2008 凝集核融合のメカニズム」、2008年、工学社 ISBN978-4-7775-1361-1 C3042

関連項目

外部リンク