陸上自衛隊のC4Iシステム
本項では、陸上自衛隊が配備しているC4Iシステムについて述べる。
概要
陸上自衛隊が運用するC4Iシステムは、陸上自衛隊の駐屯地において使用する固定型の戦略/作戦級システムである陸自指揮システムと、第一線部隊が作戦地域において機動しつつ使用する戦術級の野外型システムに区分される。また、後方支援業務においては、補給管理システムが運用されている。
陸自指揮システム
陸自指揮システムは、陸上自衛隊の基幹となる戦略/作戦級C4Iシステムであり、維持運営区分により次の3つに分類される。下位のシステムはそれぞれ、直近上位のシステムと相互に連接する。
- 陸幕システム:陸上幕僚監部及び防衛大臣直轄部隊等に装備されるもの
- 方面隊指揮システム:方面総監部及び方面直轄部隊等に装備されるもの
- 師団等指揮システム(FiCs):師団・旅団司令部及び師団・旅団直轄部隊に装備されるもの
また、これらの指揮システムの基盤となる通信システムとしては、防衛情報通信基盤(DII)が使用されている。
陸自指揮システムは、ソフトウェアアーキテクチャとして、アイログ社製のAP2000(Advance Paradigm 2000)アーキテクチャを採用している。これはのちに、優れた柔軟性などを買われて、3自衛隊の統合運用を見据えた防衛省共通運用基盤(COE: Common Operating Environment)に採用され、これ以降に開発された自衛隊のすべてのC4Iシステムに採用された。これにより、自衛隊のC4Iシステムの相互運用性は飛躍的に向上した。
陸幕システムは、防衛大臣が市ヶ谷駐屯地の中央指揮所(自衛隊最高司令部)で指揮統制する際に使用する中央指揮システムを構成する5つの構成要素のうちの1つとして機能している。他の4つの構成要素は、中央・海幕・空幕・情報支援の各システムである。
野外型システム
野外型システムは、各方面隊/師団/旅団が戦場において機動的に運用する戦術級C4Iシステムである。
野外通信システム
野外通信システムが導入される以前の基盤となる野外型通信システムとしては、方面隊通信群レベルでは方面隊電子交換システム(AESS)が、師団通信大隊以下のレベルでは師団通信システム(DICS)が使用されてきた。師団/旅団司令部のFiCsと、隷下部隊のReCs/FADS/DADSは、DICSを介して連接されており、相互運用性も確保されていることから、このレベルで、作戦階梯と戦術階梯のC4Iシステムが連接されていることになる。
AESSとDICSの後継として、2007年(平成19年)度から2011年(平成23年)度まで野外通信システム(試作段階の呼称は「新野外通信システム」)が開発され、2012年(平成24年)度に初めて調達予算が計上された。さらに、2013年(平成25年)度から2016年(平成28年)度までに「広帯域多目的無線機への機能付加の研究」を行い、将来的に野外通信システムと海上自衛隊の艦船部隊と航空自衛隊の高射部隊の無線機の連接を可能にし、効果的な島嶼防衛を実現する予定である[1]。さらに2014年(平成26年)度から2016年(平成28年)度まで「野外指揮・通信システム一体化技術の研究」を行い、陸上自衛隊の指揮統制システムをソフトウェア化して野外通信システムに搭載することで、指揮階梯から第一線部隊まで情報の共有を可能とし、海自・空自・米軍との秘匿情報の共有も可能にする予定である。これにより、方面隊や師団の指揮階梯と、後述するFCCS、ADCCS、ReCsが連接・一体化され、情報が共有化される[2]。
基幹連隊指揮統制システム
基幹連隊指揮統制システム(Regiment Command Control system, ReCs)は、普通科連隊、戦車連隊指揮統制システム(Tank-ReCS, T-ReCs)は、戦車連隊[3]が使用する、戦術レベルのC4Iシステムである。これらの機動部隊が作戦地域において使用することを前提としていることから、可搬型のシステムとして開発された。AP2000アーキテクチャに則って東芝が開発・制作し、2007年(平成19年)度より第2師団に配備。2008年(平成20年)7月、同師団において実験演習が行われた。
ReCsにおいては、連隊/大隊本部に設置される中央処理装置(73式中型トラックに搭載して運用可能)および大型スクリーンを中核に、連隊/大隊/中隊本部で使用されるラップトップ型端末(TOUGHBOOKを採用)と、中隊以下の階梯で使用される携帯情報端末が連接されている。アメリカ陸軍のFBCB2システムの日本版といえるものであり、部隊の指揮・統制および戦術情報の共有を目的としている。携帯端末にはハンドヘルドGPS機能があり、自隊の位置を常に上級司令部に報告するとともに、電子メールなどを使って、自隊が接触した敵のすべての情報を送信することができる。隊本部においては、これらの情報と上級司令部からの命令を総合して指揮官が意思決定を行うとともに、本システムを介して、指揮下の部隊に対して共通戦術状況図と指揮官の企図を伝達する。ただし野外通信システムが普及していない2013年現在、第2師団での実験においては、ReCSは通信速度の遅さなどが指摘され、評価は高くないともされている[4]。
特科部隊情報処理システム
一方、特科部隊においては、陸自指揮システムや基幹連隊指揮統制システムの開発以前より、順次C2/C3/C3Iシステムを開発・配備してきた。現在、これらのシステムをC4I化するとともに、上記の各システムとの総合運用性向上を図っている。
野戦特科部隊では、C2システムとしての野戦特科射撃指揮装置(FADAC)およびこれに連接されたC4Iシステムとしての野戦特科情報処理システム(FADS)が配備されている。同様に、高射特科部隊においては、C2システムとしての対空戦闘指揮装置、およびこれに連接されたC4Iシステムとしての師団対空情報処理システム(DADS)が配備されている。
FADACおよびFADSの後継としては、2006年(平成18年)度から2010年(平成22年)度までに火力戦闘指揮統制システム(FCCS)が開発され、2011年(平成23年)度に初めて予算が計上された。DADSと方面隊の対空指揮装置である方面隊高射指揮所装置(MTQ-1)の後継としては、2004年(平成16年)度から2008年(平成20年)度までに対空戦闘指揮統制システム(ADCCS)が開発され、2009年(平成21年)度に予算が計上され、2011年(平成23年)年度から配備が始まる予定である。ADCCSには、方面隊用のI型、師団用のII型、旅団用のIII型がある[5]。ReCs、FCCS、ADCCSは野外通信システムによる連接・一体化され情報の共有化が可能となる。
脚注
- ^ 平成25年度予算の概要 防衛省技術研究本部
- ^ 我が国の防衛と予算 平成26年度予算の概要
- ^ 「イーグル・アイ」 「玄武2010」で2師団 C4ISRで継戦能力保持(朝雲新聞・2010年11月4日号(2010/11/17閲覧)
- ^ 竹内修「初公開! 陸上自衛隊の最新陸戦兵器 - 「機動戦闘車」を解剖する!」『軍事研究』、ジャパン・ミリタリー・レビュー、2013年12月、28-37頁。
- ^ 防衛省. “対空戦闘指揮統制システムの運用構想図” (PDF). 2012年12月28日閲覧。
参考文献
- 防衛庁管理局開発計画課 (2006年6-8月). “平成18年度政策評価書 - 新野外通信システム” (PDF). 2010年7月15日閲覧。
- 防衛庁管理局開発計画課 (2004年6-8月). “平成16年度政策評価書 - 基幹連隊指揮統制システム” (PDF). 2010年7月15日閲覧。
- 防衛庁管理局開発計画課 (2005年6-8月). “平成17年度政策評価書 - 火力戦闘指揮統制システム” (PDF). 2010年7月15日閲覧。
- 防衛省管理局開発計画課 (2009年6-8月). “平成21年度政策評価書 - 対空戦闘指揮統制システム” (PDF). 2010年7月15日閲覧。
- 朝雲新聞 (2007年8月23日). “前線も司令部も戦況共有” (HTML). 2009年12月12日閲覧。
- アイログ株式会社 (2003年12月8日). “アイログの視覚化製品 ILOG Views、防衛庁のシステム開発における共通運用基盤に標準コンポーネントとして採用” (PDF). 2009年12月12日閲覧。
関連項目
- C4Iシステム
- 自衛隊のC4Iシステム
- 陸軍戦闘指揮システム - アメリカ陸軍のC4Iシステムに関する項目。