砲兵

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高射特科から転送)
独ソ戦ZiS-3 76mm野砲を使用するソ連赤軍の砲兵
アフガニスタン紛争M777 155mm榴弾砲を使用するアメリカ陸軍の砲兵

砲兵(ほうへい、: artillery)は、陸上戦闘を行う兵科の1つであり、火砲(大砲)・ロケットミサイルによる支援攻撃を担っている。日本陸上自衛隊では特科(とっか)と称される(自衛隊用語)。

概要[編集]

大日本帝国陸軍1882年(明治15年)当時の砲兵下士卒の軍装
大日本帝国陸軍、1940年満州における八八式七糎野戦高射砲
ブラウ作戦15cm Kanone 18を使用するドイツ陸軍の砲兵(1942年)

20世紀初頭、特に第一次世界大戦以降において砲兵が多用する間接射撃による攻撃は、目標へ正確に弾着でき、自らの位置が露呈しない限りにおいては非常に有効な方法である。また、戦闘前面から数km以上離れた位置から射撃出来るため、直接射撃による攻撃を受けて部隊が損耗する危険を小さく出来る。特に比較的低コストである砲弾を多量に投射出来る大口径の火砲を多数並べて一斉に射撃する攻撃では、強固な陣地構築物を除いてあらゆる目標物が広範囲に破壊できるため、ロケット・ミサイル技術の普及した現代においても有用な手段である。

火薬の普及以来、砲兵と火砲は野戦攻城戦において重要な役割を果たしてきた。特に三十年戦争ナポレオン戦争では、カノン砲(加農砲・加農)や榴弾砲を持つ砲兵の有無、火砲の数と配備位置が勝敗を決した。さらに、当時まだ重要な戦略・戦術であった攻城戦においても、大口径の重砲が無くては外壁を打ち崩せなかった。

近代的な火薬装薬)を使った火砲は15世紀頃からみられるが、それらを扱う専門の兵科たる「砲兵」が確立されたのは18世紀フランスであり、砲術家ジャン=バティスト・ヴァケット・ド・グリボーバルによる組織改革に端を発する。それ以前は火砲の運搬は民間の請負業者(軍夫)の仕事であったが、グリボーバルは運搬・整備・射撃までの一連を、軍の将兵(砲兵)の任務とした。また、火薬の取り扱いや冶金技術などの知識・スキルをはじめ、砲弾の照準に重要な物理法則およびその基礎となる近代数学といった高度な自然科学の素養を必要とする砲兵将校を育成するための軍学校を設立し、砲術理論および戦術を教授した[1]

移動手段として初期には人力やによる牽引(騎馬砲兵)が主流だったが、後世には自動車による牽引や砲自体に移動能力を持たせる自走砲も登場した。特殊な運用法としてラクダの背に旋回砲を乗せて移動砲台とするザンブーラキがあった。

分類[編集]

重迫撃砲(120mm迫撃砲 RT空挺特科大隊など砲兵が運用することもある。
自走榴弾砲(M109 155mm自走榴弾砲

階梯[編集]

直接支援(DS)砲兵
戦術階梯で運用される砲兵で、火力支援を主に、阻止攻撃を従にしている。運用砲としては、重迫撃砲や軽砲を装備するのが一般的であるが、自動車化の進展による機動力の向上を受けて、現在では全般支援砲兵と同一の中砲を装備する場合が多い。
全般支援(GS)砲兵
作戦術戦略階梯で運用される砲兵で、阻止攻撃を主に、火力支援を従にしている。運用砲としては、作戦術階梯においては中砲、戦略階梯においては重砲やロケット砲、ミサイルが装備される。

用途[編集]

野戦砲兵[編集]

野戦砲を運用する。

攻城砲兵[編集]

攻城砲を運用する。

沿岸砲兵[編集]

沿岸砲を運用する。海軍の管轄下にある場合もある。現在の装備ははほぼ大砲から地対艦ミサイルに置き換えられた。

要塞砲兵[編集]

要塞砲を運用する。固定要塞とともに廃れた。

高射砲兵[編集]

高射砲を運用し、防空戦闘を行う。前線の各部隊の頭上を守る野戦防空のほか、航空部隊を補完し工法を守る国土防空を担う。また、敵航空機のみならず弾道ミサイル砲弾といった飛翔体の迎撃も行っている。空軍防空軍の管轄下にある場合もある。自衛隊においては、野戦防空は陸上自衛隊が、長距離ミサイルを用いた国土防空は航空自衛隊が担う。

戦略砲兵[編集]

長距離対地兵器をもって敵後方の戦略目標を攻撃する。その性質上、核弾頭や弾道ミサイルを主に運用する。陸軍や空軍のほか、戦略軍として独立している場合もある[注釈 1]

運用砲[編集]

砲兵は運用する砲の種類によって3つに分類できる。

在来砲兵
野戦砲を運用する。
軽砲
西側:口径75mm、105mm 東側:口径76mm、122mm
  • 105-122mmの軽榴弾砲第一次世界大戦頃ないし戦間期から、口径75-84mmの野砲と共に師団/旅団所属砲兵の主力(師団砲兵)として運用されるようになり、第二次世界大戦頃にはどこの国の軍隊でも使用されるようになった。
  • 軽榴弾砲は戦後も長期にわたって使用されてきたが、近年は120mm迫撃砲の性能向上などもあって、山岳部隊や機動力が重視される空挺部隊など重装備の運用制限が厳しい部隊か、発展途上国および後方の二線級部隊で使用される程度になってきている。
中砲
西側:口径150mm、155mm 東側:口径130、152mm
  • 戦間期から第二次大戦にかけては区分は「重砲」であり、ソ連赤軍大日本帝国陸軍などでは軍団ないし司令部に直属する軍団砲兵軍砲兵の装備として運用されていた。しかしながら同時期のアメリカ陸軍ドイツ陸軍においては、師団砲兵に1個大隊分の150mm級榴弾砲(M1 155mm榴弾砲15cm sFH 18)を野砲に変わって配備、軽榴弾砲との混成装備として火力増強を図った。
  • 122mmや150mmクラスのカノン砲は同口径の榴弾砲と比較し、極めて大重量(8t前後)であり性能も異なるため軍団砲兵・軍砲兵として運用される。
  • また、東側が第二次大戦後に制式化した130mm砲弾M-46 130mmカノン砲で使用される程度であり、その長射程と大重量から軍団砲兵で運用された。
  • 現在の先進国の師団砲兵では、軽榴弾砲を廃し155mm/152mm砲に集約されている傾向があり、自走榴弾砲も155mm/152mm口径のものが中心となっている。
重砲
西側:口径175mm、203mm、280mm 東側:口径180mm、203mm
  • 第一次、第二次両大戦において軍団砲兵・軍砲兵に配備され、攻城砲として要塞などの硬化目標の破壊や遠距離砲撃を任務とし、また、要塞砲沿岸砲としても運用された。
  • 現在では重砲の任務は航空攻撃かミサイル攻撃、MLRSBM-30などの長射程・多連装のロケット砲にとって代わられ、姿を消しつつある[2]
ロケット砲兵
ロケット砲を運用する。基本的には重砲の代替用途として、作戦術以上の階梯で運用される。
ミサイル砲兵
短距離弾道ミサイルなどの戦術地対地ミサイルを運用する。基本的には戦略階梯で運用される。

組織[編集]

九六式十五糎榴弾砲を運用する日本陸軍の野戦重砲兵(野戦重砲兵第7連隊砲兵トラクターである九八式六屯牽引車 ロケによって牽引中

国や時代によって様々な編制が存在するが、一般的な事例としては師団砲兵として1個師団に1個砲兵連隊が存在する。1個砲兵連隊の編制は2-4個大隊で、大隊は2-4個中隊編成される。砲兵は中隊単位でバッテリーと呼ばれるひとそろいのシステムになっており、砲撃は最低でも中隊単位で行う。砲兵連隊の大隊数は同じ師団に属する歩兵連隊の数と関連しており、歩兵連隊数と同じ数の大隊が編成される。また、歩兵連隊を直協支援する部隊とは別に全般支援を行う重砲を運用する大隊が存在していることも多い。

砲兵連隊は砲列を構成する中隊が数個と指揮小隊と観測班小隊に弾薬を運ぶ段列が集まって大隊が構成され、大隊が集まって連隊となる。砲兵はその運用に弾道学に基づく複雑な計算を必要とするために高い教育を受けた将校下士官を必要とする。教育水準の低い国では優秀な砲兵の確保が難しい場合も多く、砲兵の能力の低さから砲戦能力が制限されることも多く、砲兵将校の能力不足から間接射撃が行えずに直接照準に頼った運用が行われることもある。

陸上自衛隊[編集]

陸上自衛隊の事実上の前身である日本陸軍の時代においては、おおむね第二次世界大戦頃の砲兵の兵種として野砲兵山砲兵騎砲兵・重砲兵・野戦重砲兵・臼砲兵迫撃砲兵噴進砲兵速射砲兵高射砲兵機関砲兵船舶砲兵などに分かれていたが、現代では火砲の発達やドクトリンなどの進化により自然に統廃合が行われ、基本的に対地攻撃・対艦攻撃を行う野戦砲兵と対空攻撃を行う防空砲兵に分かれ、前者を野戦特科と後者を高射特科と称している。職種学校は野戦特科が富士学校特科部、高射特科が高射学校であり、それぞれ教育支援部隊として特科教導隊高射教導隊が編成される。

2022年12月に制定された防衛力整備計画では、以前の中期防衛力整備計画に従い火砲定数の削減をする一方で、ロケット砲兵・ミサイル砲兵を大幅増強する計画されている。野戦特科部隊は、北部方面隊隷下部隊を除き、4個方面隊の師団旅団の特科(連)隊を統廃合した方面特科連隊の編成が計画されている。うち3個方面連隊は編成完結済、1個方面特科隊も連隊への増強が予定されている。 また、陸上自衛隊で最大の野戦特科部隊である第1特科団においては部隊の廃止・統合が実施され、特科団に準じる東北方面特科隊については廃止、隷下部隊の方面隊直轄化が予定されている。一方、西部方面特科隊においては増強改編が実施され、第2特科団への昇格が予定されている[3]。 高射特科は現勢維持とされている一方で装備の更新が進む。なお、陸上自衛隊の野戦特科部隊では、榴弾砲の射撃中隊が5門編制で、特科大隊が直協任務大隊が2個射撃中隊10門(一部3個射撃中隊15門)、全般支援大隊が3個射撃中隊編成15門を基本編制としており、今日の列国が基本的に射撃中隊が6門編成で3個射撃中隊18門で一個大隊としているのに比して著しく劣っている。

野戦特科[編集]

部隊の運用[編集]

  1. 北部方面隊西部方面隊には方面隊直属の特科団が置かれている。特科団は特科群もしくは特科連隊と、複数個の地対艦ミサイル連隊基幹の編合部隊であり、多連装ロケットシステムMLRS88式地対艦誘導弾12式地対艦誘導弾を装備する。
  2. 東北方面隊東部方面隊中部方面隊の各方面隊直轄、北部方面隊の師団、西部方面隊の第2特科団隷下には特科連隊が置かれ、155mmりゅう弾砲(北部方面区は99式自走155mmりゅう弾砲、西部方面区の一部は19式装輪自走155mmりゅう弾砲)を主要装備としている。特科連隊は本部中隊、情報中隊及び野戦砲5門から成る射撃中隊2-3個で編成される大隊2-5個からなる。各部隊の特性により内部編制は異なるため、詳細は各部隊の記事を参照されたい。
  3. 北部方面隊の旅団には特科隊が置かれ、99式自走155mmりゅう弾砲を装備する。特科隊は大隊に準じた規模で、本部管理中隊と3個射撃中隊で編成される。
  4. 普通科職種が運用する120mm迫撃砲RTを野戦特科が装備している部隊がある。第1空挺団特科大隊水陸機動団特科大隊即応機動連隊の火力支援中隊がそれに該当する。
  5. 富士学校の野戦特科職種の学生に対する教育支援のため特科教導隊が編成されている。
特科団[編集]

特科団は、団本部中隊と複数個の地対艦ミサイル連隊、独立特科大隊を基幹とする特科群もしくは、固定編成の特科連隊を基幹とし、情報中隊に音響観測等を拡充した観測中隊(第1特科団のみ)等をもって編成している。冷戦時代は方面隊全般の特科火力支援、重砲・ロケット弾による戦略的火力発揮を目的としていたが、21世紀以降は対艦戦闘、長距離ミサイルを主体とした戦略火力部隊へと変化している。

特科団の一覧[編集]
  • 第1特科団(北千歳駐屯地):団本部、本部中隊、第1特科群、第1地対艦ミサイル連隊、第2地対艦ミサイル連隊、第3地対艦ミサイル連隊、第301観測中隊
  • 第2特科団(湯布院駐屯地):団本部、本部中隊、西部方面特科連隊、第5地対艦ミサイル連隊、第7地対艦ミサイル連隊、第301多連装ロケット中隊
特科群[編集]

特科群は現在、第1特科団隷下に第1特科群が編成され、本部中隊と数個の独立特科大隊を基幹として編成されている。かつては4個群が編成され、最大で1個群に4個特科大隊を有した。群隷下の独立特科大隊は方面隊全般の射撃支援を担う射撃大隊であり、必要に応じ戦闘団等を増強する予備戦力として運用する[注釈 2]。独立特科大隊は高射火器を装備する大隊を含めて33個大隊が日本各地で編成されたが、2個大隊が第1特科群に編合されて第1特科団への配置のみとなっている。

第2特科群は第4地対艦ミサイル連隊を編合し東北方面特科隊へ、第3特科群は第5地対艦ミサイル連隊を編合し西部方面特科隊へ増強改編された。その後、2024年(令和6年)に東北方面特科隊は廃止、西部方面特科隊は第2特科団に増強改編した。また、同年に第1特科団第4特科群が廃止され、所属する特科大隊は第1特科群に統合された。

特科群の一覧[編集]
  • 第1特科群(北千歳駐屯地)第1特科団:群本部、本部中隊、第129特科大隊、第131特科大隊
地対艦ミサイル連隊[編集]

地対艦ミサイル連隊は、第1特科団に3個、第2特科団に2個、東北方面隊直属に1個の計6個連隊が編成され、本部管理中隊および4個射撃中隊基幹[注釈 3]となっている。本部管理中隊に捜索・標定レーダー装置12基と中継装置12基と指揮統制装置1基、各射撃中隊に射撃統制装置を1基、ミサイルを6発搭載できる発射機と装填機が4基ずつ配備されている。本部管理中隊が索敵標定・指揮統制を行い、敵艦の位置情報等が各射撃中隊に伝達され連隊本部の射撃統制により、射撃中隊指揮小隊の射撃統制により射撃を行う。

方面・師団特科連隊[編集]

特科連隊は普通科(戦車)連隊を直接支援する射撃大隊及び全般支援を担う射撃大隊を基幹とし、各射撃大隊等の支援を行う情報中隊及び連隊等本部を支援する本部中隊で構成されている。各射撃大隊には本部管理中隊及び2個以上の射撃中隊が編成され、大隊本部管理中隊が実際の射撃管制・諸元計算等の射撃に関する全般支援を担っている。

また、師団特科連隊の射撃大隊には普通科(戦車)戦闘団隷属指定された第1から第4大隊(普通科(戦車)連隊の数に対応する)と、師団全般の射撃支援を担う第5大隊が存在し、前者は全ての特科連隊に存在しているが、後者は第2特科連隊に限定されている。

また、従来の師団・旅団特科部隊の主装備である火砲を、北部方面隊を除いて方面隊直轄運用として再編成し、東北方面特科連隊東部方面特科連隊中部方面特科連隊西部方面特科連隊として編成された。編成は師団特科連隊と同様の編成。西部方面特科連隊は第2特科団隷下として編成され、その他の特科連隊は方面隊直轄として編成している。

方面特科連隊の一覧[編集]
師団特科連隊の一覧[編集]
旅団特科隊[編集]

旅団特科隊は普通科連隊への射撃支援を担う射撃中隊3個及び射撃中隊の射撃管制及び隊本部の支援を担う本部管理中隊で構成されている。師団特科連隊と違い各射撃中隊に対する管制・諸元計算等は中隊単位では行わずに全て隊直轄の本部管理中隊が行っている。基本原則は中隊単位では各普通科連隊への射撃支援は行わず、特科隊全般が必要に応じて旅団隷下の特定の普通科連隊への射撃任務を行うが、状況に応じて普通科連隊への隷属が中隊単位で行われる事を想定し、中隊長の階級は射撃大隊隷下中隊の1等陸尉に対し、一般には大隊長クラスとなる3等陸佐が補職されており運用能力の向上を図っている[注釈 4]

かつて第1師団・第3師団にも同様の特科隊が編成されていたが、同師団は「政経中枢師団」として編成されているため、特科連隊でなく特科隊編成であった。旅団特科隊と同様に運用されるが4個射撃中隊基幹で、情報中隊が編成されるなど増強されていた。また2018年から2024年の間、機動性を高めるために旅団化された第14旅団においては隷下部隊であった第14特科隊を元に方面隊直轄として「中部方面特科隊」が編成されていた。方面隊直轄部隊だが、第14旅団に平時隷属となっていた。

旅団特科隊の一覧[編集]
  • 第5特科隊(帯広駐屯地)第5旅団:隊本部、本部管理中隊、3個射撃中隊
  • 第11特科隊(真駒内駐屯地)第11旅団:隊本部、本部管理中隊、3個射撃中隊
重迫撃砲を装備する野戦特科部隊[編集]

120mm迫撃砲RTは普通科連隊に編成される重迫撃砲中隊等[注釈 5]が装備し、普通科隊員が運用する。教育も陸曹教育隊普通科教育中隊、普通科教導連隊等で実施されているが、重迫撃砲を野戦特科隊員が運用する部隊が存在する。

第1空挺団特科大隊は従来105mmりゅう弾砲をヘリ空輸等で運用していたが、その後継であるFH70はヘリ空輸が困難である(仕様上は空輸可能[4] であるが実用的でない)ため、空輸しやすく口径の大きい重迫撃砲へ装備転換を実施した。3個射撃中隊編成となっている。

水陸機動団特科大隊も輸送性能等を踏まえ、重迫撃砲を装備した中隊を編成している。3個射撃中隊と1個火力誘導中隊で構成される。火力誘導中隊は観測中隊・情報中隊と同様に観測斥候として砲の射撃要求・観測を行うほか、水陸機動連隊に「火力誘導班」として同行し、特科火力や艦砲射撃、近接航空支援(空対地爆撃)の火力誘導を行う。

即応機動連隊の火力支援中隊は普通科連隊の重迫撃砲中隊等を野戦特科職に職種・特技転換し、更に廃止された特科連隊等の一部人員をもって編成されている。

重迫撃砲を装備する野戦特科部隊の一覧[編集]

野戦特科部隊の装備[編集]

現用

過去

高射特科[編集]

部隊の運用[編集]

  1. 特定の方面隊(北部方面隊・西部方面隊)には、2個高射特科群基幹となる高射特科団が置かれている。高射特科団は本部管理中隊と2個高射特科群および、無線誘導機隊もしくは、それを増強した無人標的機隊をもって編成されている。第1高射特科団は地対空誘導弾改良ホーク、第2高射特科団は03式中距離地対空誘導弾をもって中距離防空・対巡航ミサイル戦(第2高射特科団のみ)を担当する。
  2. 高射特科団を設置しない方面隊には、高射特科群が1個置かれている。高射特科群は原則、本部管理中隊と4個高射中隊・1個高射搬送通信中隊(通信科)、高射運用隊(一部)で編成され、地対空誘導弾改良ホーク(第5高射特科群のみ)または、03式中距離地対空誘導弾をもって中距離防空・対弾道ミサイル戦を担当する。
  3. 師団に高射特科大隊、旅団には高射特科隊(なお、第7師団と第15旅団は高射特科連隊、第13旅団は高射特科中隊)が置かれる。師団高射特科部隊は原則として本部管理中隊と2個高射中隊で編成され、近距離・短距離地対空誘導弾を用いて師団・旅団・普通科戦闘団の防空(短距離・近距離防空)を担当する。第1高射中隊が近SAM装備、第2高射中隊が短SAM装備と装備ごとに中隊が編成されていたが、第3高射特科大隊、第6高射特科大隊等のように、指揮情報中隊及び高射中隊に再編成された部隊もある。
  4. 戦車戦闘団に所属する部隊(第2高射特科大隊第3中隊・第7高射特科連隊第1-第4中隊)は87式自走高射機関砲を用いて戦車戦闘団の戦域防空を担当する。
  5. 例外として、第6高射特科群から改編した第15高射特科連隊は、03式中距離地対空誘導弾(改善型)11式短距離地対空誘導弾を装備、高射搬送通信中隊を編成し、南西諸島における中距離・短距離防空および、対巡航ミサイル戦を兼ねて担当する。
  6. 即応機動連隊の本部管理中隊には高射小隊が編成され、同師旅団の高射特科部隊から管理換えされた93式近距離地対空誘導弾をもって即応展開した部隊の防空を担当する。
  7. 高射学校学生に対する教育支援のため高射教導隊が編成されている。
  8. 03式中距離地対空誘導弾よりも長距離射程の装備(PAC-3)ついては、航空自衛隊の高射群の担当となる。
高射特科の改良ホーク
高射特科団[編集]

第1高射特科団」、「第2高射特科団」を参照。

北部方面隊西部方面隊において、それぞれ1個団が編成されており、陸将補が指揮を執る。団は団本部、本部付隊、2個高射特科群基幹。訓練支援部隊として、第1高射特科団には第101無人標的機隊が、第2高射特科団には第304無線誘導機隊が編合されている。高射特科では最大規模の編成となる。

高射特科群[編集]

東部方面隊中部方面隊では方面隊直轄部隊として、北部方面隊西部方面隊においては先述の通り高射特科団隷下部隊として、6個群が編成されている。1個高射特科群は4個高射中隊・1個高射搬送通信中隊基幹であり、一部の高射特科群は、対空戦闘指揮統制システムを有する高射運用隊を編成する。

航空自衛隊高射部隊が担う長距離防空と師団・旅団の近距離防空の間である中距離防空を担う。群長は1等陸佐。

高射特科隊[編集]

第2高射特科団隷下部隊として、1個隊が編成されている。

陸上自衛隊の100番台の地対空誘導弾を装備する大隊規模の独立高射特科部隊である。大隊規模に準ずる編成で1個射撃中隊を擁し、高射特科群に準じた運用を行う。隊長は2等陸佐。

陸上自衛隊の独立高射大隊等一覧#高射特科隊を参照。

独立高射中隊[編集]

陸上自衛隊の独立高射大隊等一覧を参照。

師団直轄の高射特科部隊[編集]

各師団隷下には高射特科連隊1個、高射特科大隊8個が師団長直轄部隊として編成されている。

師団直轄の高射特科部隊の一覧

師団高射特科連隊

師団高射特科連隊(しだんこうしゃとっかれんたい)は、師団直轄の高射特科部隊で隊長は1等陸佐。第7師団のみ編成されている。

詳細は第7高射特科連隊を参照。

師団高射特科大隊

師団高射特科大隊(しだんこうしゃとっかだいたい)は、師団直轄の高射特科部隊で隊長は2等陸佐。第7師団を除き8個大隊が編成されている。

師団高射特科部隊の配置

北部方面隊

東北方面隊

東部方面隊

中部方面隊

西部方面隊

旅団直轄の高射特科部隊[編集]

各旅団隷下には高射特科連隊1個、高射特科隊4個、高射特科中隊1個が旅団長直轄部隊として編成されている。

旅団高射特科連隊

旅団高射特科連隊(りょだんこうしゃとっかれんたい)は、旅団直轄の高射特科部隊で隊長は1等陸佐。第15旅団のみ編成されている。

詳細は第15高射特科連隊を参照。

旅団高射特科隊

旅団高射特科隊(りょだんこうしゃとっかたい)は、旅団直轄の高射特科部隊で隊長は2等陸佐。

北部方面隊

東部方面隊

中部方面隊

旅団高射特科中隊

旅団高射特科中隊(りょだんこうしゃとっかちゅうたい)は、旅団直轄の高射特科部隊で隊長は3等陸佐。師団から旅団への改編時に高射特科大隊から高射特科中隊へ縮小編成された。第15旅団を除く5個中隊が編成されたが、その後の旅団改編時に新装備の導入して高射特科隊へ逐次改編され第13高射特科中隊のみが編成されている。

中部方面隊

即応機動連隊本部管理中隊の高射小隊[編集]

即応機動連隊の本部管理中隊には、近距離地対空誘導弾を装備する高射小隊が編成されている。

北部方面隊

東北方面隊

中部方面隊

西部方面隊

高射教導隊[編集]

詳細は高射教導隊 (陸上自衛隊)を参照。

高射特科部隊の装備[編集]

地対空誘導弾[編集]
対空レーダー[編集]
指揮装置[編集]

航空自衛隊[編集]

運用術[編集]

対地攻撃を担っている野戦砲兵の任務の1つは、戦闘前面で直接照準射撃を行う近接戦闘部隊を、間接照準射撃によって後方から掩護攻撃することである。また、これとは別に砲の長射程化とロケット・ミサイルなどの発達により、砲兵と砲兵の火力戦闘、いわゆる対砲兵戦が前線の近接戦闘部隊の援護に先だって行われる事も多い。初期の対砲兵戦に勝利出来れば、以後の近接戦闘においても有利な戦闘が期待できる。

戦技[編集]

主な砲兵の作業として「観測」、「射撃」、「移動」がある[5]

観測[編集]

野戦砲兵は砲兵隊員自身や他部隊の隊員による前進観測員からの射撃要請や航空機・人工衛星による攻撃目標情報の他にも、前線後方に位置する砲兵部隊自身が行う観測も実施する。

気象観測
火砲は温度・湿度・気圧や風向・風速によって着弾地点は大きく変化するため、射撃に先立って随時、気象観測が行われる。発射地点での温度・湿度は装薬の燃焼速度を変化させ、発射後の弾道経路の空中における気圧や風向・風速は弾道を変化させる。発射地点での温度・湿度・気圧は容易に計測できるが、弾道経路そのものは無理としても、発射地点付近上空の風向・風速は小さなバルーン、またはラジオゾンデによって観測される。昼間の使用に限定されるバルーンの動きは目視観測によって追跡され夜間でも使用可能なラジオゾンデは追跡レーダーによって追跡され、同時に空中の温度や気圧が受信される。ラジオゾンデは電波が敵に受信されることで砲兵の射撃準備が察知されるため、使用には配慮が求められる。
音響観測
音源標定とも呼ばれ、集音マイクを5-6個、広い範囲に事前配置して分析装置と有線接続する。昼夜の別なく敵の初弾発射音からその位置を直ちに特定できるため、非常に有効であるが配置には時間が掛かる。
対砲迫レーダ観測
対砲迫レーダによって敵の砲弾が空中を飛翔している弾道を精密に測定し、発射地点を特定する。アンテナの設置によっては放射可能なレーダー波の方向がある程度限定され、敵の射撃以前にレーダー波を放射すれば、自ら対砲迫レーダの位置を教えてしまう危険があるため、通常は敵の初弾発射後に観測が開始できる。
火点観測
敵の発射炎や発射煙を観測して発射位置を特定する。遠距離射撃が主体となった近代戦闘ではあまり発生しない。
射弾観測
砲弾の落着、あるいは曳火破裂した位置が目標に対してどのような位置関係にあったかを観測し、射撃修正の要不要や射撃諸元の修正程度を算出する。

これらの情報や他部隊部から情報も含めて、すべてを素早く伝達・分析して敵の位置を特定し有効な射撃を行う。そのためには、コンピュータとデジタル通信を活用した情報技術が導入されている[5]

射撃[編集]

野戦砲兵部隊の砲撃は綿密な射撃計画に基づいた「計画射撃」を行うことが多いが、戦闘正面の部隊からの射撃要請によって開始する「要請射撃」、また、野戦砲兵部隊の前進観測者が後方の野戦砲兵部隊に目標座標を伝達して行う「臨機目標射撃」もある。その射撃の方法には大きく分けて弾幕射撃と集中射撃がある。

弾幕射撃
特定の地点を狙うのではなく、敵のあらゆる行動を妨害、無力化することを目的とし、戦線に対して横一列に並んだ砲撃を加える射撃である。この弾幕射撃を戦闘部隊の前進と速度を合わせて前方に狙いを変えていけば、前進弾幕を行うことができる。前進弾幕を的確に行えば前進する部隊は敵の反撃を受けることなく前進することが可能である。
集中射撃
特定の目標に対する射撃であり、一点に砲撃が集中される。

移動[編集]

戦闘状況下における砲兵の移動は2種類に分かれる。1つは、戦闘前面の移動や近接戦闘部隊の移動に合わせて、その展開位置を移動することであり、随時行なわれてそれほど緊急性はない。別の1つは、敵への射撃後に予想される敵砲兵からの対抗射撃による攻撃を避けるために移動することであり、可能な限り素早く移動することが求められる。もちろん、こちらから射撃を行わないうちに、攻撃を受けた場合も素早く移動する必要がある[5]

自衛戦闘[編集]

間接射撃を専門とする砲兵部隊は、敵と接近戦闘する状況は出来るだけ避けなければならないが、不可避な場合には最低限度の自衛が行えるように接近戦闘用の兵器として、間接射撃用火砲に直接照準用の照準具が備わっていたり、兵士の個人武装として機関銃ライフルピストルといった小口径火器も配備されている場合が多い。

戦術[編集]

支援射撃
敵部隊を壊滅、無力化、または制圧して前線の歩兵部隊を火力支援すること。壊滅とは、部隊が30%以上の人員損耗を受け、戦闘力を大幅に喪失して補充などを受けねば戦力にならない状態を指す。無力化とは、部隊が10%以上の人員損耗を受け、数時間は交戦できない状態を指す。制圧とは、敵兵の攻撃を中断させ、掩蔽へ追い立てて応射の精度と威力を削ぐことである。
これらの損害率は、あくまで大隊以上の戦術単位の人員・車輌の損耗に対するものであり、分隊・小隊・中隊といった戦闘単位の損害率ではない。歩兵分隊に3名の死傷者が発生しても「壊滅」とは表現しない。大隊以上の部隊には、最前線の主力部隊の他に火力支援部隊・戦闘支援部隊が付随している。兵科によって異なるが、これらの支援部隊は前線の後方で各任務に従事しているため、全体で30%の損害が発生しているということは、最前線では更に大きな損害を受けているということである。
  • 制圧射撃
    戦線上の敵部隊を制圧することで、敵の自由行動を阻止し、味方の行動機会を作るために行われる。
  • 前進支援射撃
    攻撃(特に陣地攻撃)を行なう時に、攻撃側が戦線上の敵防御部隊に対して射撃を加えることで、これを支援するために行われる。縦進陣地を攻撃する場合は移動弾幕射撃が行なわれうる。
  • 突撃支援射撃
    突撃を行なう時に、攻撃側が最前線上の敵防御部隊に対して射撃を加えることで、これを支援するために行われる。
  • 最終防護射撃(突撃破砕射撃)
    防御側が突撃に相対した時に、敵の突撃部隊に対して弾幕射撃を加えることで、突撃を破砕するために行われる。
  • 標示射撃
阻止射撃
まだ攻撃や防御の態勢が整っていない敵を攻撃して損害を与えること。敵の基地や後方連絡線、集結地点、兵站本部などを狙う。
阻止射撃には、攻撃準備破砕射撃や交通遮断射撃を含む。
  • 攻撃準備射撃
    攻撃に先立って、戦線上の攻撃予定地域に砲撃を加えることで、敵の防御を阻害すること。
  • 攻撃準備破砕射撃
    敵の攻勢が開始される直前に、第一線付近に集結した敵部隊を砲撃すること。
  • 交通遮断射撃
    敵の予備兵力の増援や配置転換による移動を妨げ、弾薬・糧食等が最前線へ補給されるのを阻止するために道路や連絡網に損害を与えること。
対射撃
直接または間接照準射撃を行っている敵の火器や観測所、指揮統制施設を破壊する砲撃である。特に、敵の火砲・迫撃砲に対する射撃を「対砲迫射撃英語版」という。
通常、砲兵の攻撃準備が整うまでは迫撃砲による対射撃を行うが、これが標示射撃を兼ねることも多い。

脚注[編集]

注釈[編集]

  1. ^ ソヴィエト・ロシアの戦略ロケット軍中国の第二砲兵隊および中国人民解放軍ロケット軍北朝鮮朝鮮人民軍戦略軍など
  2. ^ 一般的に群長の高級幹部としての名簿上における序列は、各師団等普通科連隊の次級者になる例も多い。
  3. ^ 第1地対艦ミサイル連隊については第306地対艦ミサイル中隊含む5個中隊基幹、第3地対艦ミサイル連隊については第305地対艦ミサイル中隊含む5個中隊基幹、第4地対艦ミサイル連隊は1個中隊基幹。
  4. ^ 射撃大隊本部管理中隊が行っていた人事・訓練・補給等の業務を射撃中隊単位で行う事・中隊単位で隷属する場合における旅団普通科連隊に対する射撃任務上、1尉では指揮能力上の問題がある事などから、指揮官は3佐が指定される他に補佐として1尉の副中隊長が設置されている。
  5. ^ 旅団には、本部管理中隊に小隊として編成。

出典[編集]

  1. ^ マクニール (2002) p.230
  2. ^ 高井三郎著 『現代軍事用語』 アリアドネ企画 2006年9月10日第1版発行 ISBN 4384040954
  3. ^ 「第2特科団」新編 長距離ミサイルから野砲までそろう日本初の部隊、2025年3月末の編成完結目指す」『zakzak by 夕刊フジ』、2023年10月27日。2023年10月31日閲覧。
  4. ^ 輸送ヘリ(CH-47J)と155mmりゅう弾砲FH70”. 1992年度防衛白書 第2章 わが国の防衛政策. 防衛省. 2020年2月5日閲覧。
  5. ^ a b c 加藤健二郎著 『いまこそ知りたい 自衛隊のしくみ』 日本実業出版社 2004年1月20日初版発行 ISBN 4534036957

参考文献[編集]

  • マクニール, ウィリアム 著、高橋均 訳『戦争の世界史』(初版)刀水書房。ISBN 978-4887082717 

関連項目[編集]