直交補空間

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』

これはこのページの過去の版です。Angol bot (会話 | 投稿記録) による 2015年11月8日 (日) 12:21個人設定で未設定ならUTC)時点の版 (リンク貼替え (Wikipedia:Bot作業依頼, oldid=57465452 による))であり、現在の版とは大きく異なる場合があります。

数学線型代数学および関数解析学の分野において、双線型形式 B を備えるベクトル空間 V のある部分空間 W直交補空間(ちょっこうほくうかん、: orthogonal complement)とは、W 内のすべてのベクトルと直交するような V 内のすべてのベクトルからなる集合 W のことを言う。「perpendicular complement」の略として、perp と非公式的に呼ばれることがある。そのような直交補空間は、V の部分空間である。

一般的な双線型形式

V を、双線型形式 B を備える F 上のベクトル空間とする。B(u,v) = 0 が成り立つとき、uv に左直交(left-orthogonal)であり、vu に右直交(right-orthogonal)であると定義する。V のある部分集合 W に対して、その左直交補空間(left orthogonal complement)W を、

で定義する。同様に、右直交補空間(right orthogonal complement)も定義される。V 内のすべての uv に対して、B(u,v) = 0 であれば B(v,u) = 0 が成り立つような反射的双線型形式に対しては、左直交補空間と右直交補空間は一致する。このようなことは、B対称双線型形式あるいは歪対称双線型形式であれば、成立する。

この定義は、ある可換環についての自由加群上の双線型形式や、 共役英語版を伴うある可換環についての任意の自由加群を含むようにされた半双線型形式へと、拡張される[1]

性質

  • 直交補空間は、V の部分空間である;
  • XY であるなら、XY が成立する;
  • V の根 V は、すべての直交補空間の部分空間である;
  • WW が成立する;
  • B非退化であり、V が有限次元であるなら、dim W + dim W = dim V が成立する。


特殊相対性理論において、直交補空間は世界線のある点における同時超平面を決定するために用いられる。ミンコフスキー空間で用いられる双線型形式 η は、事象の擬ユークリッド空間英語版を決定する。光円錐上の原点とすべての事象は、自己直交である。双線型形式のもとで時間事象と空間事象がゼロと評価されるとき、それらは双曲直交英語版である。この用語は、擬ユークリッド空間における二つの共役双曲線の使用に由来する。すなわち、それらの双曲線の共役直径英語版は、双曲直交である。

内積空間

この節では、内積空間における直交補空間を考える[2]

性質

距離位相において、直交補空間は常に閉集合である。有限次元空間においては、このことは単にベクトル空間のすべての部分空間が閉集合である事実の特別な例である。無限次元ヒルベルト空間においては、いくつかの部分空間は閉集合でないが、直交補空間はすべて閉集合である。そのような空間においては、W の直交補空間の直交補空間は、W閉包である。すなわち、

(W) = W

が成立する。いくつかの常に成立するような便利な性質として、次が挙げられる。H をヒルベルト空間とし、XY をその線型部分空間とする。このとき、

  • X = X
  • YX なら XY が成立する;
  • XX = {0};
  • X ⊆ (X)
  • XH の閉線型部分空間であるなら、(X) = X が成立する;
  • XH の閉線型部分空間であるなら、H = XX が成立する(内積直和)。

が成立する。

直交補空間は零化域英語版[要リンク修正]へ一般化され、内積空間の部分空間上のガロア接続を、対応する閉包作用素英語版とともに与える。

有限次元

次元 n の有限次元内積空間に対して、k-次元部分空間の直交補空間は、(nk)-次元部分空間であり、二重の直交補空間は、もとの部分空間である。すなわち、

(W) = W

が成立する。Am × n 行列で、Row ACol AおよびNull Aがそれぞれ行空間列空間および零空間を表すとき、

(Row A) = Null A
(Col A) = Null AT

が成立する。

バナッハ空間

一般バナッハ空間においては、この概念と同様のものが存在する。この場合、V双対空間の部分空間として定義される W の直交補空間は、零化域

と同様に定義される。これは、常に V の閉部分空間である。二重の補空間の性質にも、同様のものが存在する。W⊥⊥ は今(V と一致はしない)V∗∗ の部分空間である。しかしながら、回帰的空間には VV∗∗ の間の自然同型 i が存在する。この場合、

が成立する。これはむしろハーン-バナッハの定理の自然な帰結である。

関連項目

参考文献

  1. ^ Adkins & Weintraub (1992) p.359
  2. ^ Adkins&Weintraub (1992) p.272
  • Adkins, William A.; Weintraub, Steven H. (1992), Algebra: An Approach via Module Theory, Graduate Texts in Mathematics, 136, Springer-Verlag, ISBN 3-540-97839-9, Zbl 0768.00003 
  • Halmos, Paul R. (1974), Finite-dimensional vector spaces, Undergraduate Texts in Mathematics, Berlin, New York: Springer-Verlag, ISBN 978-0-387-90093-3, Zbl 0288.15002 
  • Milnor, J.; Husemoller, D. (1973), Symmetric Bilinear Forms, Ergebnisse der Mathematik und ihrer Grenzgebiete, 73, Springer-Verlag, ISBN 3-540-06009-X, Zbl 0292.10016 

外部リンク