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無名の反逆者

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無名の反逆者(むめいのはんぎゃくしゃ)は、1989年6月4日中華人民共和国で起こった天安門事件の直後、天安門広場に通ずる長安大街の路上で撮影された、戦車の行く手を遮る映像に登場する男性のこと。氏名不詳のため、「無名の反逆者」(: the Unknown Rebel)、「戦車男」(Tank Man)などのニックネームで呼ばれている。

概要

天安門事件の翌日(6月5日)、天安門前の10車線道路(長安街)で、彼は事件を鎮圧するために現れた59式戦車の車列の前に立ち、行く手を遮った。場所は北京飯店南西の交差点(北緯39度54分23.5秒 東経116度23分59.8秒 / 北緯39.906528度 東経116.399944度 / 39.906528; 116.399944座標: 北緯39度54分23.5秒 東経116度23分59.8秒 / 北緯39.906528度 東経116.399944度 / 39.906528; 116.399944)。戦車は何度も彼を回避するために横に迂回しようとするが、その都度彼は戦車の前に立ちふさがり侵入を防いだ[1]。しばらくそれを繰り返した後、彼が戦車に飛び乗って中の兵士となんらかの口論をしていた様子が、CNNBBCのクルーによって撮影され、世界中に配信され一躍その姿を知らしめることになった。ビデオ映像は、心配した他の市民(または私服警官という説もあるが不明)が彼を群衆の中に引き戻し[1]、戦車が再び行進する場面で終わっている。映像のほかに、1キロメートル弱離れた北京飯店6階に宿泊していたAP通信ジェフ・ワイドナー英語版によって『400mmレンズを使用した写真(4台の戦車の前に男性がたたずんでいる)』マグナム・フォト所属のスチュアート・フランクリンによる写真(ワイドナーの写真より広範囲が撮影され、さらに多くの戦車が後に続いている)が撮影され、世界の新聞に掲載された。この印象的な映像や写真は何度も使われ、戦車の前に立って無言の抵抗をした彼は、西側諸国において中国の民主化運動の象徴的存在となった。1998年4月の『タイム』誌はこの人物を「20世紀最も影響力のあった人物100人」に選び、2003年に『ライフ』誌はスチュアートの写真を「世界を変えた写真100」に選んでいる。しかし、戦車の行動を阻止するのは戦車が天安門を離れる時のことであり、その阻止行動自体の意義は希薄である。

この映像に対し、「この衝撃的な映像には二人の無名の英雄がいる。それは戦車の前に立ちはだかった男と、彼をひき殺すことを躊躇した戦車の兵士だ」という意見がある[2]

誰なのか?

写っている男性の素性は謎に包まれている。当時の学生指導者ウーアルカイシや中国の知識人にさえ、彼のことを知る者が存在しないことから、その場にたまたま居合わせた普通の中国人の若者の1人ではないかと言われている[3]

イギリスタブロイド紙『サンデー・タイムズ』は事件直後、この人物はWang Weilin(王維林、王维林)という19歳の学生であると報じた。彼は後に「政治的内乱罪」(political hooliganism) と 「人民解放軍のメンバーを覆そうと試みた罪」(attempting to subvert members of the People's Liberation Army) により起訴されたとも報じられている。しかし、両者ともに確たる証拠が存在しない。

彼のその後については、「すぐに処刑された」「刑務所の中で精神に異常を来した」「出所して台湾で暮らしている」などの説もある[3]

事件後、1990年の記者会見で、アメリカのジャーナリスト、バーバラ・ウォルターズからの「中国の自由の象徴というべきあの男はどうなったのか?」という質問に対し、江沢民中国共産党総書記は「死んではいないと思うが……」と言葉を濁しただけにとどまった[1]

脚注

  1. ^ a b c TIME 100: The Unknown Rebel(英語) Time Magazine(タイム誌「20世紀の100人:無名の反逆者」)
  2. ^ Iyer, Pico (1998年4月13日). “The Unknown Rebel - TIME” (英語). TIME. pp. 2. http://www.time.com/time/magazine/article/0,9171,988169-2,00.html 2010年4月12日閲覧。 
  3. ^ a b 天安門事件、いまだに謎の「戦車に立ち向かう男」産経新聞、2009年6月4日付。

関連項目

外部リンク