望遠レンズ

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望遠レンズ(35mm判)
キヤノンEF300mmF4L IS USM

望遠レンズ(ぼうえんレンズ)は、写真レンズの分類の1つである。「望遠レンズ」を定義する厳密な基準はなく、標準レンズよりも「画角の狭いレンズ」・「焦点距離が長いレンズ」という意味で分類される。(詳細は、#望遠単焦点レンズを参照。)

カメラシステムには、さまざまな画面サイズ(フォーマット)がある。他のフォーマットでは、レンズの焦点距離に対する画角が異なるため、望遠レンズの定義を焦点距離で分類するのは適切ではなく、画角で分類される。

例えば、APS-Cサイズイメージセンサーの画角は、焦点距離を1.5〜1.6倍にした値が、35mm判用レンズの焦点距離の画角に相当する。互換性のあるレンズマウントを持つAPS-Cサイズカメラに、35mm判用の50mmの標準レンズを装着した場合、35mm判の画角に換算すると75〜80mmの相当となる。

他のフォーマットのレンズにおいて、35mm判に換算した焦点距離を表すための係数を公表しているメーカーもある。(詳細は、35mm判換算焦点距離の求め方を参照。)

Cross-section - typical telephoto lens.
L1 - Tele positive lens group
L2 - Tele negative lens group
D - Diaphragm

特性

「望遠レンズ」は、以下の特性も持つ。焦点距離が長くなるほど、その特性がより顕著になる。

切り取り効果
画角が狭いため、狭い範囲を切り取るように写すことができる。
圧縮効果
近くの被写体も遠くの被写体も大きさの変化が少なくなり、遠近感が少ない写真になる。
圧縮効果により、カメラに対して傾斜した面の傾斜角が、極端に急角度に見える。
被写界深度が浅い
焦点距離が長くなるほど、被写界深度が浅くなる。
この特性により、ボケを生かした描写に用いられる。
ブレに弱い
「望遠レンズ」は、拡大倍率が高いため手ブレによる画像のブレが起きやすい。また、焦点距離が長いほど手ブレを起こしやすくなる。
撮影者の技術にも影響されるが、「焦点距離分の1秒[1]」よりも速いシャッタースピードで撮影すれば手ブレが起きにくいとされる[2]。つまり焦点距離500mmレンズであれば、500分の1秒以上が目安である。
しかし、イメージセンサーの高画素化などの要因により、上記の目安が必ずしも当てはまらなくなっている。
特に35mm判で300mm以上の焦点距離を持つ望遠レンズでの撮影には、三脚一脚・ビーンズバックなどの支持器具を使った方が、良好な画像を安定して得られる。
焦点距離だけでなく、大口径レンズや中判カメラ用レンズなど非常に重量が重いレンズを使う場合も、支持器具を使ったほうが確実である。
レンズまたはデジタル一眼レフカメラのボディに、「手ぶれ補正機構」を搭載している機種は、シャッタースピードを手ブレを起こさない目安より2〜5段分遅くしても、手ブレを回避できる。
被写界深度の例ピント位置:5m
焦点距離(35mm判) 50mm 100mm 200mm 400mm
ピントが合う範囲(F2.8) 4.2〜6.1m 4.8〜5.2m 4.942〜5.059m 4.985〜5.015m
被写界深度(F2.8) 約1.9m 約0.4m 約0.12m 約0.03m
ピントが合う範囲(F11) 2.9〜18.7m 4.2〜6.1m 4.781〜5.240m 4.943〜5.058m
被写界深度(F11) 約15.8m 約1.9m 約0.46m 約0.11m
許容錯乱円径:0.033mmにおける計算値

望遠単焦点レンズ

中望遠レンズ(35mm判)
キヤノンEF85mmF1.8USM
望遠レンズ(35mm判)
キヤノンEF200mmF2.8L USM
反射望遠レンズ(35mm判)
ミノルタAFレフレックス500mmF8

望遠レンズを分類する基準は、諸説あり下記は一例である。

35mm判用の望遠単焦点レンズの分類基準
  • 35mm判(ライカ判)で標準レンズとして作られた最長焦点距離のレンズはコニカの「ヘキサノン60mmF1.2」であり、その対角線画角は39°である。そのため、対角線画角が39°未満のレンズを「望遠レンズ」とする。
  • 35mm判用単焦点レンズでは、60mmの次に長い焦点距離は、85mmであることが多い。そのため一般的には、85mm以上の焦点距離のレンズが35mm判の「望遠レンズ」と分類する。

望遠単焦点レンズは、「中望遠レンズ」・「望遠レンズ」・「超望遠レンズ」に小分類される。小分類の基準も、メーカー・ユーザーによって異なり定説はない。

中望遠レンズ
焦点距離が85mmから100mmまでのレンズは、望遠レンズの特性があまり強くないので、「中望遠レンズ」と分類される。焦点距離が135mmのレンズまでを「中望遠レンズ」と分類するメーカーもある。
特に85mmから105mm程度までのレンズは、以下の人物撮影に向いた特性を持っているので、「ポートレート・レンズ」と呼ばれることがある。
  • ある程度近距離を写す場合に遠近感が標準レンズよりも自然で、被写体と撮影者の間に適当な距離を置くことができる。
  • 被写界深度が浅いので被写体が背景や前景から浮き上がるように写る。
また、この特性はマクロ撮影用途にも有効である。現在は、35mm判マクロレンズの焦点距離は100mm前後のものが多い[3]
望遠レンズ
焦点距離135〜300mm前後の焦点距離のレンズを「望遠レンズ」と分類する。この分類は、「中望遠レンズ」・「超望遠レンズ」の特性などに対して用いられる。
標準レンズと比較すると、望遠レンズの特性が顕著になる。
超望遠レンズ
焦点距離が300mm以上のレンズは、望遠レンズの特性がきわめて強くなり、「超望遠レンズ」と分類される。
焦点距離300mmまでを「望遠レンズ」、400mm以上を「超望遠レンズ」と分類するメーカーもある。
反射望遠レンズ
超望遠レンズでは、軽量化・小型化と色収差軽減のため、レンズの代わりに反射鏡を用いたレンズを「反射望遠レンズ」という。光学系最前部の副鏡が中心光軸を遮蔽してしまうため、F値が暗く、ボケがリング状になる。また、絞りが固定であるため露出調整は、NDフィルターを用いるなどの欠点がある。
明るさに関しては、ツァイスの「ミロター1000mm F5.6」やロシア製の「ルビナー500mm F5.6」など屈折系に比肩するF値を持つ反射望遠レンズがあるが、その明るさを得るための口径(太さ)が欠点となる。

望遠ズームレンズ

望遠ズームレンズ(35mm判)
Nikon AF-S VR Zoom-Nikkor ED 70-300mm F4.5-5.6G(IF)
大口径超望遠ズームレンズ(35mm判)
SIGMA APO 200-500mm F2.8 / 400-1000mm F5.6 EX DG[4]

望遠ズームレンズとは、一般に望遠レンズの焦点域のみをカバーするズームレンズをいう。

焦点距離は、広角端が70〜100mm、望遠端が200〜300mmのレンズを指すことが多い。100-400mmのレンズも「望遠レンズ」と分類するメーカーもある[5]

しかし望遠側の焦点距離が200〜300mmで望遠域をカバーしていても、標準域(35mm判で焦点距離50mm)を中心とするレンズは、「高倍率ズームレンズ」と分類する[6]

大口径望遠ズームレンズ
開放F値がF2.8より明るい望遠ズームレンズは、「大口径望遠ズームレンズ」などと分類される。焦点距離が70-200mm前後、ズーム比で3倍前後のレンズが多い。
超望遠ズームレンズ
焦点距離400mm以上の超望遠域をカバーする望遠ズームレンズを「超望遠ズームレンズ」と分類するメーカーもある。

機構上の特徴

望遠レンズは被写界深度が浅い特性を持つので、より精密なピント合わせが必要である。このため、本格的な望遠レンズの使用は使用するレンズの焦点距離にかかわらず測距精度が一定の距離計連動式カメラでは難しく、ピントを直接確認できる一眼レフカメラが望遠レンズに適する。

望遠レンズは光学設計上、長く重くなることが不可避である。これを直進式ヘリコイドで、全体を前後させるピント合わせ機構にすると、ピントリングの回転が重く回転数も膨大なものになってしまう。このためマニュアルフォーカス時代には、ノブやクランクを回転させてフォーカシングを行うラック&ピニオン式(比較的最近の製品ではペンタックス67用800ミリF6.7ED等)や、ノボフレックスのスーパーラピッドフォーカシングレンズシステムのようなピストン方式のレンズが製造された。マニュアルフォーカス時代には、撮影者が握力を鍛えて重いヘリコイドを回転する努力をしたり、ヘリコイド部分に自作のハンドルを設けたり、前述のノブ式やピストン式でレンズ繰り出しの重さを改善する対策がなされることで対処された。

オートフォーカスカメラ用のレンズでは、レンズ繰り出しトルクがあまり重いとモーターで動かせなくなる。そのため、前玉回転式・インナーフォーカス式・リアフォーカス式など、レンズ構成の一部だけを前後させる方式が開発された。

また、焦点距離が長くなればなるほど、ピント合わせ時のレンズ繰り出し量が長くなる。そのため、最短撮影距離は焦点距離が増えるにつれて長くなっていく傾向がある。

脚注

  1. ^ 焦点距離分の1秒…「焦点距離分の1秒」は、35mm判のカメラの場合の目安である。APS-CサイズDSLRやマイクロフォーサーズシステム、中判カメラなど他のフォーマットでは、35mm判換算焦点距離を目安とする。
  2. ^ 技術・研究開発|VR(手ブレ補正)システム”. キヤノン (2008年3月). 2011年6月21日閲覧。技術ルーム - 手ブレ補正”. ニコン (2008年3月). 2011年6月21日閲覧。
  3. ^ かつては50mm前後が一般的であった。
  4. ^ SIGMA APO 200-500mm F2.8 / 400-1000mm F5.6 EX DG…標準装備されている「400-1000mm F5.6 Attachment」を装着する事により焦点距離が400-1000mmとなる。非装着時の焦点距離は200-500mm。
  5. ^ ニコンは、「Ai AF VR Zoom-Nikkor ED 80-400mm F4.5-5.6D」を「超望遠レンズ」とし、キヤノンは、「EF100-400mm F4.5-5.6L IS USM」を「望遠ズームレンズ」としている
  6. ^ キヤノンの場合、「EF28-300mm F3.5-5.6L IS USM」は「望遠ズーム」と分類し、35mm判換算で29-320mm相当の焦点距離イメージを持ちつ「EF-S18-200mm F3.5-5.6 IS」は「高倍率ズームレンズ」と分類している。

参考文献

  • 田中希美男、並木 隆・佐々木啓太、他『交換レンズ活用バイブル』モーターマガジン社〈MotorMagazinMook・カメラマンシリーズ〉、2010年。ISBN 978-4-86279-132-0 

関連項目

外部リンク