命令 (法規)

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命令(めいれい)は、法用語としては以下の意味で使われる。

  1. 行政機関が制定する法規。本稿で後述
  2. 行政行為の一種である下命
  3. 公務員法制においては、上司である公務員による部下である公務員に対する職務命令
  4. 訴訟法においては、(裁判所ではなく)裁判官が行う裁判

法規としての命令

命令(めいれい)とは、行政機関が制定する法規のことである。立法権と行政権の帰属が一体化している場合には法律と別に命令の意義を論ずる意味はないが、国民の権利義務に関する法規範の制定につき公選された議員を構成員とする議会の関与を必要とする制度の発達により、立法権と行政権とが分離されると、行政機関が制定できる法規の範囲等が問題になってくる。

なお、行政法学では、本項目にいう命令のことを法規命令といい、行政規則(行政機関が定立する定めのうち国民の権利・義務に直接関連しないもの)と合わせて行政立法の一つとして扱われる。

法律との関係による分類

命令は、法律との関係で主に以下のように分類される。

執行命令
法律の規定を執行するために必要な細則を定める命令
委任命令
法律が立法権を行政機関に委任したことにより定められる命令
独立命令
法律とは無関係に、行政機関の独自の権限に基づき定められる命令
緊急勅令
緊急時に、法律に代わって制定される天皇の命令

日本国憲法下における命令

大日本帝国憲法下では天皇に幅広い命令制定権があったが、日本国憲法下においては、前述の分類のうち独立命令と緊急勅令は認められず、執行命令と委任命令しか認められないと解されている。

すなわち、内閣の政令制定権を規定した日本国憲法第73条6号本文は「この憲法及び法律の規定を実施するために、政令を制定すること」という表現を採っているところ、「実施するため」の文言は上記の執行命令や委任命令を定めることを含む趣旨であるほか、「憲法及び法律」は一体として理解すべきであり、立法権が国会に帰属していること(憲法41条)からも憲法を直接実施するのは国会の権限であると解されることに基づく。ただし、栄典の授与に関し、日本の内閣は法律ではなく政令に基づき行えるものとして扱っており、栄典について定めた太政官布告や勅令を政令により改正している。この点については、栄典の授与は法律事項であるとして、法律の委任に基づかない以上違憲ではないかとの疑義が、憲法学者から出されている。

なお、憲法上は委任命令が許されているとはいっても、立法権は国会に帰属することから、立法権を放棄するような白紙的な委任は認められず、基本的な事項は法律で定められなければならないと一般に考えられている。

日本における制定主体による分類については、法令を参照すること。

行政手続法上の定義

行政手続法において、「命令等」とは、内閣又は行政機関が定める次に掲げるものをいう(同法2条)。 命令等制定機関は、命令等を定めようとする場合には、当該命令等の案及びこれに関連する資料をあらかじめ公示し、意見・情報の提出先及び意見提出期間を定めて広く一般の意見を求る意見公募手続を行わなければ成らない(同法39条)。

  • 法律に基づく命令又は規則
  • 審査基準
申請により求められた許認可等をするかどうかをその法令の定めに従って判断するために必要とされる基準をいう。
  • 処分基準
不利益処分をするかどうか又はどのような不利益処分とするかについてその法令の定めに従って判断するために必要とされる基準をいう。
  • 行政指導指針
同一の行政目的を実現するため一定の条件に該当する複数の者に対し行政指導をしようとするときにこれらの行政指導に共通してその内容となるべき事項をいう。

訴訟法上の命令

裁判官の命令(本記事冒頭の定義4)には、訴状の却下(民事訴訟法137条2項)、期日の指定(同法93条1項)、受命裁判官等による証人等に対する過料の裁判(同法206条、192条)などがある[1]

文書提出命令(民事訴訟法223条)や差押命令(民事執行法145条)、転付命令(同法159条)等は、条文上、「命令」の語も用いられているが、通常、裁判官ではなく、裁判所が命じるものであるから、講学上、「決定」として分類されるものである[2]。条文上も、「文書提出命令」と題しながら、「裁判所は、~決定で、~命ずることができる。」(民事訴訟法223条1項)としたり、「転付命令」と題しながら、「~の決定に対しては」(民事執行法159条5項)などとされている。

脚注

  1. ^ 新堂幸司『新民事訴訟法』[第2版]、弘文堂、546頁。
  2. ^ 新堂幸司『新民事訴訟法』[第2版]、弘文堂、546頁。

関連項目