コンクリーション

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セプタリアンから転送)
泥岩の風化によって削り出されたコンクリーション(Bowling Ball Beach, Mendocino County, California)

コンクリーション: Concretion)は、堆積物砕屑粒子間の隙間に鉱物が析出・充填することによって凝結したものを指す。いわば"天然のセメント"である。通常、球形あるいは卵形だが、不規則な形状になっていることもある。「ノジュール(団塊)」と区別されないで用いられていることもあるが、本来、ノジュール(nodule)とは、周囲とは異なる鉱物の球状塊のことで、堆積岩中のものとは限らない(例えば、かんらん岩ノジュール)。18世紀頃から地質学的な記録があり、恐竜の卵、動植物の化石、地球外物質あるいは人工物ではないかと考えられていた。

成因[編集]

泥岩中の炭酸塩コンクリーションは、生物起源と考えられ、有機物中の炭素と海水中のカルシウムなどが結合し、方解石などの鉱物が沈殿してできる。このため、コンクリーションには化石が含まれていることが多い。その形成速度は数週間 - 数か月程度と考えられている[1]

砂岩中のコンクリーションの成因ははっきりしないが、水の蒸発による無機的な沈殿と考えられている。

外観[編集]

コンクリーションの大きさは、直径数ミリメートル(mm)のものから、直径3メートル(m)に達するような巨大なものまで様々である。ノースダコタ州セオドア・ルーズベルト国立公園で見つかる巨大な赤色のコンクリーションは直径約3 mもある。エジプト・ファイユーム盆地からは、直径9 mの球状コンクリーションが見つかっている。コンクリーションは通常、含んでいる岩石(母岩)と色が似ており、球状、円板状、管状、ブドウ状または泡状など様々な集合体をなしていることがある。

組成[編集]

コンクリーションのセメント物質は、ふつう方解石などであるが、ドロマイト・アンケライト・シデライト(炭酸塩)、重晶石石膏(硫酸塩)、黄鉄鉱白鉄鉱(硫化物)、フリントのような非晶質または隠微晶質のシリカ褐鉄鉱赤鉄鉱などの水酸化鉄または酸化鉄などであることもある。ふつうは主に1つの鉱物から成っているが、形成環境条件によっては複数の鉱物でできていることもある。例えば、硫酸塩還元バクテリアに応答して生成する炭酸塩コンクリーションには、少量の黄鉄鉱が含まれる。

産状[編集]

主に泥岩・頁岩および砂岩層から産出し、一見すると、レキや化石であるかのように見える。化石などを核として形成されていることもあるが、コンクリーション自体は化石ではない。地層中に層理面に沿って点在し、風化・侵食によって露頭から突き出ていたり、崩れ落ちて下に散らばっていたりしする。

火星探査機オポチュニティーによって、火星上でも小さなコンクリーションが発見され、「ブルーベリー」と呼ばれている。

タイプ[編集]

化学組成、形状、サイズ、成因などによって、さまざまなタイプのコンクリーションが見つかっている。

セプタリアン・コンクリーション[編集]

セプタリアン・コンクリーションの断面。

セプタリアン・コンクリーション(septarian concretion)もしくは亀甲石(きっこうせき)は[2]、セプタリアン・ノジュールとも呼ばれ、セプタリア(septaria)と呼ばれる割れ目状の構造を持つ。セプタリアは、亀裂を意味するラテン語の「septum」に由来する[3]。亀裂の形状は様々で、コンクリーションの大きさや収縮の程度において非常に変化しやすい。亀裂がコンクリーションの縁に向かって細くなっていることから、縁辺部のほうが固く、内部は比較的柔らかかったと考えられる。

形成プロセスはわかっていない。粘土や有機物に富んだ中心部の脱水による収縮、有機物の腐敗によって生じるガスによる膨張、地震や圧密による内部の脆性破壊や収縮(Pratt 2001; McBride et al. 2003)など、多くのメカニズムが提案されている。地下水から沈殿した方解石を含むことが多く、シデライトや黄鉄鉱によって内部の亀裂内の壁面が覆われていることがある。

モエラキ海岸のコンクリーション(ニュージーランド)

セプタリアン・コンクリーションの好例といえるのが、ニュージーランド南島のモエラキ海岸のモエラキ・ボルダー(Moeraki Boulders)である。モエラキ層(新生代暁新世)の泥岩に含まれていた直径が3メートルもある球状コンクリーションが海岸に落ちている。泥粒子が方解石でセメントされたコンクリーション内部にできた亀裂は、方解石、石英、ドロマイトによって充填されている(Boles et al. 1985, Thyne and Boles 1989)。同様な巨大なコンクリーションは、ニュージーランド北島ホキアンガ南岸のコウツボールダー(Koutu Boulders)でも見られる。もっと小さくて典型的なセプタリアン・コンクリーションとしては、イングランドのウェセックス海岸に沿いの崖のキンマリッジ粘土中で見つかるものがある(Scotchman 1991)。

キャノンボール・コンクリーション[編集]

大砲のように巨大な球状コンクリーションを指す。ノースダコタ州モートンとスーカウンティを流れるキャノンボール川沿いで見つかるものは、直径3 mに達することがあり、砂とシルト粒子が方解石によってセメントされてできたものである。ユタ州北東部およびワイオミング州のフロンティア層の砂岩の露頭からは、直径4 - 6メートルにも及ぶ同様のコンクリーションが発見されており、砂粒子が方解石によってセメントされて形成されたものである(McBride et al. 2003)。カンザス州オタワ郡のロックシティでは、直径が6メートルにもなる巨大なコンクリーションが見られる[4]ニュージーランド南島モラエキ海岸と北島のコウツボールダーのコンクリーションも、キャノンボール・コンクリーションと言える。オンタリオ州ケトルポイント近くのヒューロン湖畔では「ケトル」と呼ばれているものも、典型的なキャノンボール・コンクリーションである。そのほか、カナダ、ユーコン準州ヘインズ・ジャンクション付近のスピッツベルゲン、東グリーンランドのジェームソンランド、ボスニア・ヘルツェゴビナのザヴィドヴィチ、アラスカキャプテン・クック州立公園[5]やコディアック島[6]、中国湖南省[7]などでも報告がある。

モキマーブル[編集]

モキマーブルと呼ばれる鉄コンクリーション。ユタ州ナバホ砂岩から産出する。

モキマーブル(Moqui Marbles)は、アメリカ・ユタ州南東部のナバホ砂岩から大量に見つかる鉄分(褐鉄鉱や赤鉄鉱)を主成分とするコンクリーションである。ふつう球状であるが、ディスク状であったり、複数がつながったものなど、様々な形状のものも見られる。エンドウ豆から野球ボールサイズまで、大きさの範囲も広い。地下水に溶けた鉄の沈殿によって形成されたと考えられてきた(Chan and Parry 2002[8], Chan et al. 2005, Loope et al. 2010, 2011)。火星上で見つかった小さなコンクリーション「ブルーベリー」との類似性が指摘され[9]、その成因が研究されている。

脚注[編集]

  1. ^ Yoshida et al. 2018.
  2. ^ 亀甲石 - iStone”. www.istone.org. 2020年10月20日閲覧。
  3. ^ septarian”. dictionary.reference.com. 2014年3月20日閲覧。
  4. ^ Dann, C.; Peat, N. (1989). Dunedin, North and South Otago. Wellington: GP Books. ISBN 0-477-01438-0 
  5. ^ Archived copy”. 2011年7月8日時点のオリジナルよりアーカイブ。2010年5月13日閲覧。
  6. ^ Geological Survey Professional Paper”. U.S. Government Printing Office (1976年5月24日). 2017年11月23日閲覧。
  7. ^ The Epoch Times - Mysterious Huge Stone Eggs Discovered in Hunan Province”. 2007年4月21日時点のオリジナルよりアーカイブ。2007年4月21日閲覧。
  8. ^ Mysteries of Sandstone Colors and Concretions in Colorado Plateau Canyon Country.” (PDF). 2015年12月1日閲覧。
  9. ^ On Earth, as it is on Mars? Nature 429, 707–708 (2004)”. Nature. 2017年12月31日閲覧。

参考文献[編集]

  • Chan, M.A.; Parry, W.T. (2002). “Rainbow of Rocks: Mysteries of Sandstone Colors and Concretions in Colorado Plateau Canyon Country”. Utah Geological Survey Public Information Series (77): 17. 
  • Yoshida, H.; Ujihara, A.; Minami, M.; Asahara,Y.; Katsuta, N.; Yamamoto, K.; Sirono, S.; Maruyama, I.; Nishimoto S.; Metcalfe, R. (2016). “Early post-mortem formation of carbonate concretions around tusk-shells over week-month timescales”. Scientific Reports 5 (14123.). doi:10.1038/srep14123. 
  • Yoshida, H.; Yamamoto, K.; Minami, M.; Katsuta, N.; Sirono, S.; Metcalfe, R. (2018). “Generalized conditions of spherical carbonate concretion formation around decaying organic matter in early diagenesis”. Scientific Reports 8 (6308). doi:10.1038/s41598-018-24205-5. 

外部リンク[編集]