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66式鉄帽

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手前は旧型迷彩の66式鉄帽をかぶった2等陸士(1985年11月)
迷彩覆いを被せた状態、88式と形状に差異がある事も確認出来る

66式鉄帽(66しきてつぼう)は、自衛隊で使用されている戦闘用ヘルメットである。陸上自衛隊の他、海上自衛隊等でも使用される。現在は後継の88式鉄帽の調達が行われている。原型となったM1型ヘルメット同様、合金製で純粋な鉄製ではない。外帽は指名契約で川崎製鉄(現JFEスチール)製造。中帽は契約入札による。

概要

第二次世界大戦朝鮮戦争ベトナム戦争等で使用され、戦後警察予備隊保安隊に供与された米軍M1型ヘルメットをベースに、若干の改良を行い1966年に正式採用された。

米軍のものと同様に中帽(ライナー)と外帽(シェル)の2重構造になっている。米軍のM1型ヘルメットに外見は似ているが、ツバの形状が若干長くなっている。また、M1型ヘルメットがアメリカ人、特に最も多数派の白人のアングロサクソン系成人男性の頭部に最も適合するように設計された為、前後に長く大多数の日本人頭部には安定性が悪いという問題点があったため、中帽のインナーが改良されている[1]

材質はM1型ヘルメットに準じた高マンガン鋼が用いられている。この材質は戦前の大日本帝國陸軍制式の九八式鉄帽九〇式鉄帽、或いは同時期に欧州の軍隊で用いられていた鉄帽のニッケルクロム鋼に比較して柔軟である反面、ブルドーザーの刃やレールのジョイントにも用いられるなど、生産性や資源量の点で優位に立つ。戦前の鉄帽が自身の硬度で命中した弾丸を破壊して貫徹を予防する設計であるのに対して、高マンガン鋼の66式やM1は命中した弾丸を自身の柔軟性を利用して凹みながら受け止める設計となっている。この為、戦前の鉄帽のように略帽の上に直接小さめの鉄帽を被るのではなく、中帽の上に大きな(隙間の大きい)鉄帽を被る二段構えの構造となっているのである。64式7.62mm小銃の設計者の一人であり、66式鉄帽の対射撃試験を担当した伊藤眞吉によると、66式鉄帽には「試験弾丸が命中した際に穿孔してはいけないが、1-1/2インチ(約38ミリ)以下の凹みで弾丸を受け止めればよい」という性能要求が科されたという[2]

中帽の材質は樹脂の単純な金型成形で作られており、内装も異なる[3]。中帽及び外帽の重量の合計は約1.4キログラムである。なお、前述の伊藤の記述によると、中帽は鉄帽を被せた状態で試験弾丸を受けた際に鉄帽の凹みに伴う衝撃を吸収し、「着弾による亀裂は生じて良いが、衝撃で破片が飛散してはならない」事が性能要求に科されたという[2]。高速で飛散する破片は樹脂といえども頭部に大きな損傷を与えうる為である。

1988年に新型の88式鉄帽が採用されたが、現在でも66式鉄帽を完全に更新するにはいたっておらず、大臣・陸幕・方面直轄の後方職種や学校、教育隊、予備自衛官等で使用される。88式が配備された部隊でも、二重構造を廃し単一構造とした88式鉄帽は中帽が存在しないことから、66式鉄帽の中帽(一部では新設計の中帽,2形に更新)が軽作業用に使用され続けている。

特徴

66式鉄帽を着用した2等陸士
中帽を被った自衛官(右)

88式鉄帽と異なり、サイズは一種類のみである。調整はライナー内部の紐の縛り位置や、頭周部で保持するバンド部分で調整する。固定用のあご紐であるが、中帽については固定金具付き革製のものがある。外帽についてはOD色の布製の帯であるが、着脱の容易さと見栄えの為に、私物として専用のストラップを購入する場合もある。

色はつや消しのOD色であり、新品においては粒子状のざらざらした質感がある。部隊において新品が支給されず再塗装が施されたものについてはこの粒子感は再現されない(場合によっては緑色味が殆どなく灰色味の強い塗装となる)。また本体には迷彩効果がないため、上から布製の迷彩覆と、植生を利用する偽装網の装着が可能である。なお、偽装網を付けた場合にゴムバンドを併用する事があるがこれは売店で売っていたり、ゴムチューブなどから作った、隊員の私物である。66式鉄帽の迷彩覆い(,1形)は外帽、中帽の間に挟んで使用されているケースが一般的だが、本来はアメリカ軍の覆いように挟んで使うものではなく、外帽中帽の両方の上からかぶせて固定紐を締めるものだったが、外帽と中帽に挟んで使われる事で外帽と中帽が密着せず、安定性が一段と悪くなった。そこで文具のクリップ(ターンクリップ)を使用して外帽と中帽を後部で固定し、運動時のがたつきを抑えるなどの工夫も見られる。

顕著な欠点としては、64式小銃の伏せ撃ちの際に鉄帽を深くかぶっていると、銃の照門とひさしが干渉することである。この点は後継の88式鉄帽の導入で改善されている。その他、長時間被っているとライナー内部の紐が頭部に食い込む事が多い事などがあげられる。また、中帽に関しても2002年度より内装の形状の変更及び顎紐が従来の合成皮革製からナイロン製の取り外しが容易なものに変更されている。

脚注

  1. ^ 韓国軍等のアジア地域の軍隊でも、このM1ヘルメットを採用した国が多いが、自衛隊の場合と同様、頭部によく適合しないという問題が発生している。
  2. ^ a b 伊藤眞吉 「鉄砲の安全(その4)」『銃砲年鑑』10-11年版、117頁、2010年
  3. ^ 外帽と中帽の両方で耐弾性能を高めると言う発想はそれほど強くなく(ただし、米軍のM1でも、浅い角度で入った敵弾が両者の間の隙間を廻って外に抜け、命を拾った例はある)、軽作業時の安全帽以上の役目は中帽にはないが、逆にこのことが、車両乗車時など非戦闘時における中帽のみの着用を許可し、快適性を保ちつつ頭部の保護を可能にした。これは88式鉄帽が行き渡った部隊においても66式鉄帽の中帽が利用されていることにも顕著である。

関連項目