鷺とり

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
移動: 案内, 検索

鷺とり(さぎとり)は、古典落語の演目の一つ。原話は、寛政3年(1791年)に出版された笑話本・「鳩灌雑話」の一遍である『鷺』・『鷺の次』[1]

元々は上方落語の演目で、主な演者に東京の6代目三遊亭圓窓4代目柳家つばめ、上方の初代桂春団治2代目桂枝雀などがいる。


注意:以降の記述で物語・作品・登場人物に関する核心部分が明かされています。免責事項もお読みください。


目次

[編集] あらすじ

岩田の隠居が、働かないで遊んでばかりいる男に説教をしている。

「ご飯をどうやって食べるんだ?」
「箸と茶碗で」
「そうじゃない。その米は何処から持ってくるんだ」
「「米屋が運んできます」
「そのお代は?」
「踏み倒します」

「そういう考えでは駄目なんだ!」と隠居。

「そりゃね、あたしだって、遊んでばかりいては駄目だって自覚しているんですよ。いろいろと商売を考えているんです。例えば…そう、雀を捕まえるとか」

ラッカセイとお、そして日本酒を買ってくる。お米を日本酒に漬け、十分に染み込んだ所で庭にザーッ!

「上のほうで相談が始まりますよ。『食べに行こうか』『罠かもしれない、止めよう』、侃々諤々となっていると、そこへ飛んでくるのが雀の難波っ子です」

『難波のど根性を見せたる』と言って、難波っ子雀はお米を食べに行く。無事に帰ってきたので、江戸っ子雀たちも下に降りて来てお米をついばみだして…。

「良く考えてくださいよ? お米は日本酒にしこたまつけてあるんです。そんなものをたらふく食べれば…」
「雀が酔うのか?」
「そうですよ。ヘベレケになったところで、かねてより用意のラッカセイをザーッ!」
「"おつまみ"にしろって言うのか?」
「違いますよ」

酔っ払うとどうしても眠くなる。そこにラッカセイをまくと、雀たちがラッカセイを枕に熟睡してしまうはずだ。そこを塵取りでかき集めれば…。

「それ、やったのか?」
「やってみたんですよ。お米をザーッ、雀が降りてきてチュンチュン、ラッカセイをドバーッ!」
「ほー。で、うまく行ったのか?」
「その音でびっくりして逃げちゃった…」

普通はそうだろう…と呆れる隠居。

「今のは冗談でしてね。実は本命がもう一つあるんです」

を捕まえて、鳥屋に売りさばこうというのが男の【本命】。鷺が池で、泥鰌か何かをついばんでる所へ乗り込んで行って、はるか彼方から呼びかける。

「『サーギー!』、遠くから呼びかけるから、鷺は油断してえさをついばんでいます。少し近づいて、さっきより小さい声で『サーギー!』」

近づくのとは反比例に、どんどん声を小さくしていけば、連中は気づかずにえさをついばみ続けるはずだ。最後は、鷺の真後ろまで忍び寄って…。

「『…』」
「なんだ?」
「聞こえないでしょう。で、油断した鷺の頭を、トンカチでカンコンカンコン! ところで…鷺って何処にいるんでしょうか?」
不忍池…かな?」

その日の深夜…やって来ました不忍池。

鷺たちが羽を休めている。本来なら、群れの一羽が起きていて、何かあったらそいつの合図でバーッと逃げるはずが、その見張りが居眠りしていたせいで…。
男のチープな計画通りに、みんなまとめて捕まった。男は浮き浮きしながら、それを捕まえては縄で腰に結び付け始める。

腰の周りが三十羽の鷺で一杯になった…その時。東の空が白んできて、鷺が目を覚まして一斉に飛び立った。

「ウヒャー、こりゃあサギ(鷺)だー!」

男は高々と空に舞い上がった。そのうち、目の前に鉄の棒が一本ニュ~ッと見えてきたので、これ幸いとそれにつかまった。

「まだ羽ばたいてやがる。こんなのが居るから…飛んでけ! とんでっちゃった。ところで、ここは何処だ…?」

下を見ると隅田川、向こうに見えるのが上野の山…つまりここは浅草だ。

「ウチの近くじゃないか、有り難いな。雷門が見えるから、ここは浅草寺だな。仲見世があって、後ろに本堂があって五重塔…フワー!!」

五重塔の九輪につかまったまま、腰ぬかしてしまった。

一方、こちらは浅草寺の境内。事件を知った人たちが集ってきたのだろう、ワイワイガヤガヤと賑やかになっている。

そのうち、話を聴きつけた浅草寺のお坊さんが、四人集まって分厚い布団の四隅をしっかりと握って…。

「のぼりが出てきたな。『コ』『レ』『ヘ』『ト』『ヘ』『タ』『ス』『ケ』『テ』『ヤ』『ル』? これへ跳べ、助けてやる…有難い!」

男は助かりたい一心で飛び下りた。運よく布団の真ん中にストーン!

ところが、あんまり布団をピンと張りすぎていたせいで、落ちてきた男はトランポリンに落ちたみたいに跳ね飛ばされ、塔の天辺に…戻った!!

「また行きますよ!」

男は助かりたい一心で飛び下りた。運よく布団の真ん中にストーン!

今度は少し力を抜きすぎていたせいで、四隅のお坊さんの頭が真ん中にきて、ゴツゴツゴツーンとぶつかり合った。

四人の僧侶の目からパッと火が出て…布団に燃え移って、そのまま火事になった…。

というのだが、本当だろうか?

[編集] バリエーション

  • 鷺の代わりにが登場する場合もあり、その場合はタイトルも『雁とり』と変わる。
  • 上方版では、男が鷺とりに忍び込むのは長久山圓頓寺の池[要出典]。宙に飛ばされた後、とっ捕まった五重塔は天王寺にあるという設定。

[編集] 上方での演出

  • 前半部は「商売根問」として演じられる。「商売根問」だけで演じられるときは、さまざまな商売をして失敗するパターンを多く演じるが、「鷺取り」では雀を取ろうとして失敗するくだりを冒頭部に演じて

「ようそんなアホなことしよるなあ。」

「へえ。何かええ商売おまへんか。」

「あ、そしたら圓頓寺行ってみんか。あそこの池にようけ鷺おんねん。」

という導入部で主人公が鷺を取りに行く筋となっている。

  • 主人公が四天王寺の塔の五輪にしがみつき、天王寺に異変があったと、人々が「えらうこっちゃ」と騒ぎ、踊りながら天王寺に駆け付けるくだりは、「韋駄天」という「はめもの」を用いており、俄(にわか=宴席、路上、遊郭などで行われた即興の芝居で、このネタでは駄洒落を連発)を言いながら「俄じゃ。俄じゃ。」と浮かれるなど、上方落語らしい賑やかなクライマックスを作っている。桂枝雀は、派手な身振りや表情で観客の爆笑をとっていた。

俄の一例(演者によってさまざまなバージョンがある。)

「あ、えらいこっちゃ。えらいこっちゃ。」

「もうし、どうしたんですか。」

「どうもこうもあらへん。心中ですがな。

「へ。心中でっか。」

「はいな。男が二十。女が十八。」

「えらい若いでんなあ。」

「親が反対するもんやさかい、二人とも大川に身を投げましてな。」

「へえ。」

「ところが、飛び込んだとこが船の上でっさかい、二人とも命拾い。」

「へえ。それやったら、心中しまへんがな。」

「せやから、言いまっしゃろ。心中する者はみな救われる。」(信じる者は皆救われる。)

「もうし、それ何だす。」

「せやからね。・・心中する者皆救われる。」

「俄でおますか。」

「俄でんがな。」

「あ俄じゃ。俄じゃ。・・・えらいこっちゃ。えらいこっちゃ。」

[編集] 珍商売

世の中には様々な職業があるが、落語ほど奇想天外な職業が出てくるものも無かっただろう。以下に、それを少し紹介してみる。

[編集] 『猫いらず』いらず

発案者は与太郎

ねずみ穴に山葵おろしを立てかけておくと、ネズミが巣を出入りするときに少しずつこすれ、仕舞いには無くなってしまうだろう。

これ、名づけて『猫いらずいらず』…。

[編集] 鶯とり

洗濯用の糊に、絵具を混ぜたものを作って腕へ塗り、手のひらに米粒を少々乗っけて天窓から突き出す。

ウグイスは、その手をの木と勘違いしてとまるだろうから、パッと手を握って捕まえるという…。

  • 上方版『鷺とり』に登場する珍商売。結果は、見事にウグイスが手に止まったものの、いざ手を握ろうとしたらカチカチに乾いて動かなくなってしまい、無理に動かそうとしたらバランスを崩して落ちてしまった。「雀とり」→「鶯とり」(ここまでが『商売根問』だが、「鶯」は『鷺とり』では割愛されやすい)→「鷺とり」と進む型もある。

[編集] 脚注

  1. ^ ほかにもいろいろあるが、大本はやはり民話の『鴨とり権兵衛』だろう。
個人用ツール
名前空間

変種
操作
案内
ヘルプ
ツールボックス