飯山由貴

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飯山 由貴(いいやま ゆき、1988年 - )は、日本現代美術家多摩美術大学講師。精神疾患、歴史的事象、社会的スティグマにかかわるインスタレーション作品を制作している。

経歴[編集]

神奈川県生まれ。2011年女子美術大学芸術学部絵画学科洋画専攻卒業。2013年東京藝術大学大学院美術研究科油画修了[1]

国立西洋美術館で開催された「ここは未来のアーティストたちが眠る部屋となりえてきたか?」の内覧会で、パレスチナでのイスラエル政府による「ジェノサイド」に反対の意を示す抗議活動を行う。[2]

作品[編集]

  • 展示『湯気 けむり 恩賜』(2013年)[3]
  • 映像『あなたの本当の家を探しにいく』(2013年)[3]
  • 映像『海の観音さまに会いにいく』(2014年)[3]
  • 映像『hidden names』(2014年、2021年)[4]
  • 展示『生きている百物語』(2016年)[5]
  • 展示『生きている百の物語』(2020年)[6]
  • 映像『In-Mates』(2021年)[7][8]
  • 映像『家父長制を食べる』(2022年)[9]

検閲[編集]

経緯[編集]

2022年10月、東京都の施設「東京都人権プラザ」が開催した企画展「あなたの本当の家を探しにいく」で飯山の制作した映像作品『In-Mates』が上映中止となった。飯山は記者会見を開き「在日コリアンへの差別に基づく都による検閲が行われた」と批判した[10]。都内部のメールでは中止の理由を「朝鮮人虐殺を事実とする動画に懸念がある」などとしていた[11]。同年11月、上映中止となった作品の都議会議員向け上映会が行われた[注 1][12][13]2023年3月、飯山は東京都に上映の実施を求める要望書を提出し、さらに中止を決定した過程を開示するよう求めた[14]

展示内容[編集]

「あなたの本当の家を探しにいく」は2022年8月30日から同年11月30日まで東京都人権プラザで開催された企画展(担当:村上由鶴)。告知文では、飯山の映像作品3点[注 2]を通して「精神障害がある人の語りと向き合うこと、寄り添うことの在り方を示します」としている[15]。飯山の事業計画では『In-Mates』上映とトークイベントを含む予定だった[16]

『In-Mates』[編集]

上映中止となった作品『In-Mates』は、戦前に存在した精神科病院王子脳病院」をテーマにした約26分の映像作品。入院していた朝鮮人患者2名の診療記録を参照しながら、ラッパー・詩人の在日韓国人FUNIが川崎港海底トンネルでパフォーマンスを行う。在日朝鮮人の歴史を研究する外村大が「日本人が朝鮮人を殺したのは事実」と説明する場面もある。彫刻家の小田原のどかは『飯山の作品が「精神疾患」をめぐり、「家族」から「国家」へと射程を広げ、さらに「帝国」の問題系と接続されていく様子をたどることができた』と評している[11][17]

出演[編集]

ウェブ番組[編集]

注釈[編集]

  1. ^ 上映会には都議会議員の竹井ようこ、五十嵐えり阿部祐美子漢人あきこが参加した。
  2. ^ 『あなたの本当の家を探しにいく』、『海の観音さまに会いにいく』、『hidden names』の3点。

脚注[編集]

  1. ^ 多摩美術大学 絵画学科油画専攻”. 多摩美術大学. 2023年12月3日閲覧。
  2. ^ Ryuichiro, Sato (2024年3月11日). “国立西洋美術館でパレスチナ人虐殺反対のパフォーマンス、警察による介入も”. Time Out Tokyo. 2024年3月15日閲覧。
  3. ^ a b c 精神疾患とアート その3 飯山由貴さんのインタビュー<後編>/鈴木 晃仁(慶応義塾大学)・飯山 由貴(アーチスト)”. 医学史と社会の対話 (2020年2月17日). 2023年12月6日閲覧。
  4. ^ 「この病気にならないと理解できないと思います。どうせ、他人事でございましょう」展”. シアターねこ (2022年12月25日). 2023年12月22日閲覧。
  5. ^ アーティストin 六区 2016vol.1 飯山由貴「生きている百物語」”. ベネッセアートサイト直島 (2016年8月19日). 2023年12月6日閲覧。
  6. ^ 瀬戸内で集めた「生きている百の物語」。飯山由貴の個展がWAITINGROOMで開催”. 美術手帖 (2020年6月24日). 2023年12月6日閲覧。
  7. ^ “国際交流基金が中止判断/在日精神病患者に関する映像作品”. 朝鮮新報. (2021年9月21日). https://chosonsinbo.com/jp/2021/09/18-49top-2/ 2023年12月6日閲覧。 
  8. ^ 小田原のどか×山本浩貴 対談「この国(近代日本)の芸術をめぐって」”. 月曜社 (2022年5月10日). 2023年12月6日閲覧。
  9. ^ DVやジェンダー格差をめぐる飯山由貴の応答。森美術館での展示から見えてきたものとは”. 美術手帖 (2022年9月11日). 2023年12月6日閲覧。
  10. ^ “朝鮮人虐殺に触れた映像作品の上映、都が不許可に 関係者「検閲だ」”. 毎日新聞. (2022年10月28日). https://mainichi.jp/articles/20221028/k00/00m/040/342000c 2023年12月3日閲覧。 
  11. ^ a b “東京都が朝鮮人虐殺題材の映像作品を上映禁止…作者「検閲だ」と批判 都職員が小池知事に忖度?”. 東京新聞. (2022年10月28日). https://www.tokyo-np.co.jp/article/210760 2023年12月7日閲覧。 
  12. ^ 東京都人権部が上映を認めなかった飯山由貴作品の都議会議員向け上映会が開催。議員らは都議会で本件を問う姿勢を明らかに”. Tokyo Art Beat (2022年11月22日). 2023年12月7日閲覧。
  13. ^ 東京都人権部による飯山由貴の映像作品検閲問題。都議会議員らが意見交換”. 美術手帖 (2022年11月22日). 2023年12月7日閲覧。
  14. ^ “朝鮮人虐殺に触れた映像作品の上映求め都に要望書 制作の美術家ら”. 毎日新聞. (2023年3月1日). https://mainichi.jp/articles/20230301/k00/00m/040/309000c 2023年12月7日閲覧。 
  15. ^ 飯山由貴「あなたの本当の家を探しにいく」展”. 東京都人権プラザ (2022年8月29日). 2023年12月7日閲覧。
  16. ^ 東京都⼈権部が飯山由貴のアート作品を検閲か。小池百合子都知事の関東大震災朝鮮人犠牲者追悼式典への態度も影響した可能性”. Tokyo Art Beat (2022年10月28日). 2023年12月8日閲覧。
  17. ^ “朝鮮人虐殺の歴史否定 小池知事に追従した東京都人権部…展示介入事件の深刻さ<寄稿・小田原のどかさん>”. 東京新聞. (2022年11月14日). https://www.tokyo-np.co.jp/article/213611 2023年12月7日閲覧。 

外部リンク[編集]