破産債権

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破産債権者から転送)

破産債権(はさんさいけん)とは、

  • 日本において、破産者に対し破産手続開始決定前の原因に基づいて生じた財産上の請求権であって、財団債権に属さないものをいう(破産法2条第5項)。
  • 免責された債務債権化したもの。ゾンビ負債とも呼ばれる。

である。

財産上の請求権[編集]

破産者に対し破産手続開始決定前の原因に基づいて生じた財産上の請求権であって、財団債権に属さないものをいう(破産法2条第5項)。

破産債権は、特別な定めがある場合を除き、破産手続によらなければ、これを行使することができない(同法100条)。破産債権を債権者各自の自由な行使に委ねると、経済的破綻に陥った債務者の財産の公平な分配という破産手続の目的そのものが無意味となるからである。

破産手続については、破産を参照。

破産債権に含まれる請求権[編集]

破産法97条1号から12号までに掲げる債権は、(財団債権でない限り)破産債権に含まれるものとされる(破産法第97条)。

  1. 破産手続開始後の利息の請求権(破産法第97条第1号)
  2. 破産手続開始後の不履行による損害賠償又は違約金の請求権(破産法第97条第2号)
  3. 破産手続開始後の延滞税、利子税又は延滞金の請求権(破産法第97条第3号)
  4. 国税徴収法又は国税徴収の例によって徴収することのできる請求権であって、破産財団に関して破産手続開始後の原因に基づいて生ずるもの(破産法第97条第4号)
  5. 加算税、又は加算金の請求権(破産法第97条第5号)
  6. 罰金、科料、刑事訴訟費用、追徴金又は過料の請求権(破産法第97条6号)
  7. 破産手続参加の費用請求権(破産法第97条第7号)
  8. 双務契約について破産者及びその相手方が破産手続開始の時において共にまだその履行を完了していないときは、破産管財人は、契約の解除ができるが、その相手方の損害賠償の請求権(破産法第97条第8号、第54条第1項、第58条第3項において準用する場合も含む。)
  9. 破産法第57条(委任者について破産手続が開始された場合において、受任者は、民法第655条の規定による破産手続開始の通知を受けず、かつ、破産手続開始の事実を知らないで委任事務を処理したときは、これによって生じた債権について、破産債権者としてその権利を行使することができる。)に規定する債権(破産法第97条第9号)
  10. 第59条第1項(交互計算は、当事者の一方について破産手続が開始されたときは、終了する。この場合においては、各当事者は、計算を閉鎖して、残額の支払を請求することができる。)の規定による請求権であって、相手方の有するもの(破産法第97条第10号)
  11. 第60条第1項(為替手形の振出人又は裏書人について破産手続が開始された場合において、支払人又は予備支払人がその事実を知らないで引受け又は支払をしたときは、その支払人又は予備支払人は、これによって生じた債権につき、破産債権者としてその権利を行使することができる。(同条第二項において準用する場合(小切手及び金銭その他の物又は有価証券の給付を目的とする有価証券について準用する。)を含む。))に規定する債権
  12. 第168条第2項第2号又は第3号に定める権利
    1. 破産者の受けた反対給付によって生じた利益が破産財団中に現存しない場合 破産債権者として反対給付の価額の償還を請求する権利(第168条第2項第2号)
    2. 破産者の受けた反対給付によって生じた利益の一部が破産財団中に現存する場合 財団債権者としてその現存利益の返還を請求する権利及び破産債権者として反対給付と現存利益との差額の償還を請求する権利(第168条第2項第3号)

優先的破産債権[編集]

破産財団に属する財産につき一般の先取特権(民法306条)その他一般の優先権がある破産債権を優先的破産債権といい、他の破産債権に優先して弁済を受ける(破産法第98条第1項)。

先取特権などの一般の優先権は、保護する必要が大きい債権に対して他の一般債権者に優先して弁済を受けることを可能とするために政策的に付与される権利であり、優先的破産債権は、これと同様の保護を破産手続において付与するために認められた制度である。

劣後的破産債権等[編集]

他の破産債権に劣後して弁済を受ける破産債権を、劣後的破産債権という(破産法第99条第1項1号から4号で列挙)。

  1. 次に掲げる債権
    1. 破産手続開始後の利息(破産法第97条第1号)(破産法第99条第1項第1号)。
    2. 破産手続開始後の不履行による損害賠償又は違約金の請求権(破産法第97条第2号)(破産法第99条第1項第1号)。
    3. 破産手続開始後の延滞税利子税又は延滞金の請求権(破産法第97条第3号)
    4. 国税徴収法又は国税徴収の例によって徴収することのできる請求権であって、破産財団に関して破産手続開始後の原因に基づいて生ずるもの(破産法第97条第4号)(破産法第99条第1項第1号)。
    5. 加算税、又は加算金の請求権(破産法第97条第5号)(破産法第99条第1項第1号)。
    6. 罰金科料刑事訴訟費用追徴金又は過料の請求権(破産法第97条6号)(破産法第99条第1項第1号)。
    7. 破産手続参加の費用請求権(破産法第97条第7号)(破産法第99条第1項第1号)。
  2. 破産手続開始後に期限が到来すべき確定期限付債権で無利息のもののうち、破産手続開始の時から期限に至るまでの期間の年数(その期間に一年に満たない端数があるときは、これを切り捨てるものとする。)に応じた債権に対する法定利息の額に相当する部分(破産法第99条第1項第2号)。
  3. 破産手続開始後に期限が到来すべき不確定期限付債権で無利息のもののうち、その債権額と破産手続開始の時における評価額との差額に相当する部分(破産法第99条第1項第3号)。
  4. 金額及び存続期間が確定している定期金債権のうち、各定期金につき第二号の規定に準じて算定される額の合計額(その額を各定期金の合計額から控除した額が法定利率によりその定期金に相当する利息を生ずべき元本額を超えるときは、その超過額を加算した額)に相当する部分(破産法第99条第1項第4号)。

約定劣後破産債権は、破産債権者と破産者との間で破産手続前に、当該債務者について破産手続が開始されたとすれば当該破産手続における破産配当の順位が劣後的破産債権に遅れる旨の合意がされた債権で、劣後的破産債権にも劣後すると規定されている(破産法第99条第2項)。

破産債権者の手続参加[編集]

破産債権者は、その有する破産債権をもって、破産手続に参加することができる(破産法第103条第1項)。

その場合において、破産債権の額は、破産法第103条第2項1号と2号に規定された次に掲げる債権の区分に従い、それぞれ定める額とする。

  1. 次に掲げる債権・・・破産手続開始の時における評価額
    1. 金銭の支払いを目的としない債権
    2. 金銭債権で、その額が不確定であるもの又はその額を外国通貨をもって定めたもの
    3. 金額又は存続期間が不確定である定期金債権
  2. 上記以外の債権・・・債権額

有する破産債権が期限付債権でその期限が破産手続開始後に到来すべきものである時は、その破産債権は破産手続開始決定の時において弁済期が到来したものとみなされる(破産法第103条第3項)。

有する破産債権が条件付債権、将来の請求権でも、その破産債権をもって破産手続きに参加できる(破産法第103条第4項)。

連帯債務者の一部の破産、保証債務履行請求債権、求償権等の手続参加[編集]

数人が各自全部の履行をなす義務を負う場合(連帯債務など)において、その全員又はその中の数人が破産手続開始決定を受けたときは、債権者は、破産手続開始の時において有する債権の全額につき、それぞれの破産手続に参加することができる(破産法第104条第1項)。

この場合において他の(破産者以外の)全部の履行をする義務を負う者(連帯債務者など)が、破産手続開始決定後に債権者に弁済等を行ったときでも、その債権者は、破産手続開始の時において有する債権の全額についてその権利を行使できる(破産法第104条第2項)。

破産者に対して将来行うことあるべき求償権を有する者(保証人、他の連帯債務者など)も、その全額につき、破産債権者としてその権利を行うことができるが(破産法第104条第3項)、債権者がその債権の全額につき権利を行ったときは、求償権者が破産手続に参加するには、自らの債務の全部を履行しなければならないとされている(破産法第104条第3項但し書き、第4項により「最高裁昭和62年6月2日判決・民集41巻4号769頁」を法制化)。

担保を供した第三者(物上保証人)が破産者に対して将来行うことあるべき求償権についても、同様である(破産法第104条第5項で、同条第2項、第3項,第4項を準用)。

保証人が破産手続開始決定を受けたときは、債権者は、破産手続開始の時において有する債権の全額につき、破産債権者としてその権利を行うことができる(破産法第105条)。

法人の債務について無限責任を負う者(合名会社合資会社無限責任社員など)について破産手続き開始決定があったときは、当該法人の債権者は、破産手続開始の時において有する債権の全額につき、破産手続に参加することができる(破産法第106条)。

法人の債務について有限責任を負う者(株式会社株主特例有限会社社員合資会社有限責任社員合同会社の有限責任社員など)について破産手続き開始決定があったときは、当該法人の債権者は、破産手続手続に参加することができない(破産法第107条第1項)。

法人の債務に付有限の責任がある場合に、当該法人について破産手続開始決定があったときは、当該法人の債権者は、当該法人の債務につき、有限責任を負う者に対してその権利を行使することができない(破産法第107条第2項)。

破産債権者は、破産手続開始決定があった後に、破産財団に属する財産で外国にあるものに対して権利行使したことにより、破産債権について弁済を受けた場合であっても、その弁済を受ける前の債権の額について破産手続に参加することができる(破産法第109条)。

別除権者等の手続参加[編集]

別除権者は、当該別除権に係る第65条第2項に規定する担保権によって担保される債権については、その別除権の行使によって弁済を受けることができない債権の額についてのみ、破産債権者としてその権利を行使することができる。ただし、当該担保権によって担保される債権の全部又は一部が破産手続開始後に担保されないこととなった場合には、その債権の当該全部又は一部の額について、破産債権者としてその権利を行使することを妨げない。(破産法第108条第1項)。

破産財団に属しない破産者の財産につき特別の先取特権質権若しくは抵当権を有する者又は破産者につき更に破産手続開始の決定があった場合における前の破産手続において破産債権を有する者も、上記と同様とする(破産法第108条第2項)。

破産債権の届出及び調査[編集]

破産債権の届出[編集]

破産債権者は、裁判所の定めた債権届出期間内に次の事項を裁判所に届け出なければならない。(破産法111条第1項)

  1. 各破産債権の額及び原因(破産法111条第1項第1号)
  2. 優先的破産債権(一般の先取特権その他の優先権)であるときはその旨(破産法111条第1項第2号)
  3. 劣後的破産債権又は約定劣後破産債権でありときは、その旨(破産法111条第1項第3号)
  4. 劣後的破産債権又は約定劣後破産債権であるときは、その旨(破産法111条第1項第4号)
  5. 自己に対する配当額の合計額が最高裁判所規則で定める額に満たない場合においても配当金を受領する意思があるときは、その旨(破産法111条第1項第5号)
  6. 前各号に掲げるもののほか、最高裁判所規則で定める事項(破産法111条第1項第6号)

別除権者は、前項各号に掲げる事項のほか、次に掲げる事項を届け出なければならない(破産法111条第2項)。

  1. 別除権の目的である財産(破産法111条第2項第1号)
  2. 別除権の行使によって弁済を受けることができないと見込まれる債権の額(破産法111条第2項第2号)

上記の規定は、第108条第2項に規定する特別の先取特権、質権若しくは抵当権又は破産債権を有する者(以下「準別除権者」という。)について準用する(破産法111条第3項)。

債権届出書を裁判所に届け出るときには、証拠書類又はその謄本(全部事項証明書)若しくは抄本を提出することを要する。実際には破産債権届出書は裁判所が選任した破産管財人(弁護士)に届け出る取り扱いになっている。

破産債権表の作成[編集]

裁判所書記官は、届出のあった破産債権について破産債権表を作り、以下の事項を記載することを要する(破産法115条第1項、第2項)。

  1. 各破産債権の額及び原因
  2. 優先的破産債権であるときは、その旨
  3. 劣後的破産債権又は約定劣後破産債権であるときは、その旨
  4. 自己に対する配当額の合計額が最高裁判所規則で定める額に満たない場合においても配当金を受領する意思があるときは、その旨
  5. 別除権者(準別除権者)は、別除権(準別除権)の行使によって弁済を受けることができないと見込まれる債権の額
  6. 前各号に掲げるもののほか、最高裁判所規則で定める事項

債権調査[編集]

裁判所は債権調査の期日において、届出があった各債権につき、破産管財人が作成した認否書並びに破産債権者及び破産者の書面による異議に基づいて債権表記載の事項を調査する(破産法第116条)。

  • 認否書の作成及び提出
  1. 破産管財人は、一般調査期間が定められたときは、債権届出期間内に届出があった破産債権について、次に掲げる事項についての認否を記載した認否書を作成しなければならない(破産法第117条)。
    1. 破産債権の額
    2. 優先的破産債権であること。
    3. 劣後的破産債権又は約定劣後破産債権であること。
    4. 別除権(第108条第2項に規定する特別の先取特権、質権若しくは抵当権又は破産債権を含む。)の行使によって弁済を受けることができないと見込まれる債権の額
  2. 破産管財人は、債権届出期間の経過後に届出があり、又は届出事項の変更(他の破産債権者の利益を害すべき事項の変更に限る。以下この節において同じ。)があった破産債権についても、前項各号に掲げる事項(当該届出事項の変更があった場合にあっては、変更後の同項各号に掲げる事項。以下この節において同じ。)についての認否を同項の認否書に記載することができる。
  3. 破産管財人は、一般調査期間前の裁判所の定める期限までに、前2項の規定により作成した認否書を裁判所に提出しなければならない。
  • 一般調査期間における調査(破産法第118条)
  1. 届出をした破産債権者は、一般調査期間内に、裁判所に対し、破産債権についての破産債権の額・別除権などの事項について、書面で、異議を述べることができる。
  2. 破産者は、一般調査期間内に、裁判所に対し、前項の破産債権の額について、書面で、異議を述べることができる。
  3. 裁判所は、一般調査期間を変更する決定をしたときは、その裁判書を破産管財人、破産者及び届出をした破産債権者(債権届出期間の経過前にあっては、知れている破産債権者)に送達しなければならない。
  • 特別調査期間における調査(破産法第119条)
  1. 裁判所は、債権届出期間の経過後、一般調査期間の満了前又は一般調査期日の終了前にその届出があり、又は届出事項の変更があった破産債権について、その調査をするための期間(以下「特別調査期間」という。)を定めなければならない。ただし、当該破産債権について、破産管財人が第117条第3項の規定により提出された認否書に同条第1項各号に掲げる事項の全部若しくは一部についての認否を記載している場合又は一般調査期日において調査をすることについて破産管財人及び破産債権者の異議がない場合は、この限りでない。
  2. 一般調査期間の経過後又は一般調査期日の終了後に第112条第1項若しくは第3項の規定による届出があり、又は同条第4項において準用する同条第1項の規定による届出事項の変更があった破産債権についても、同様とする。
  3. 特別調査期間に関する費用は、当該破産債権を有する者の負担とする。
  4. 破産管財人は、特別調査期間に係る破産債権については、必要事項についての認否を記載した認否書を作成し、特別調査期間前の裁判所の定める期限までに、これを裁判所に提出しなければならない。
  5. 届出をした破産債権者は前項の破産債権についての認否書に掲げる事項について、破産者は当該破産債権の額について、特別調査期間内に、裁判所に対し、書面で、異議を述べることができる。
  6. 裁判所は、特別調査期間を決定するとき又は変更する決定をしたときは、その裁判書を破産管財人、破産者及び届出をした破産債権者(債権届出期間の経過前にあっては、知れている破産債権者)に送達しなければならない。
  7. 特別調査期間に破産債権を有する者が費用の予納をしないときは、裁判所は、決定で、その者がした破産債権の届出又は届出事項の変更に係る届出を却下しなければならない。
  8. この却下の決定に対しては、即時抗告をすることができる。
  • 一般調査期日における調査(破産法第121条)
  1. 破産管財人は、一般調査期日が定められたときは、当該一般調査期日に出頭し、債権届出期間内に届出があった破産債権について、第117条第1項各号に掲げる事項についての認否をしなければならない。
  2. 届出をした破産債権者又はその代理人は、一般調査期日に出頭し、前項の破産債権についての同項に規定する事項について、異議を述べることができる。
  3. 破産者は、一般調査期日に出頭しなければならない。ただし、正当な事由があるときは、代理人を出頭させることができる。
  4. 一般調査期日に出頭した破産者は、破産債権の額について、異議を述べることができる。
  5. 出頭した破産者は、必要な事項に関し意見を述べなければならない。
  6. 一般調査期日における破産債権の調査は、破産管財人が出頭しなければ、することができない。
  7. 裁判所は、一般調査期日を変更する決定をしたときは、その裁判書を破産管財人、破産者及び届出をした破産債権者(債権届出期間の経過前にあっては、知れている破産債権者)に送達しなければならない。
  8. 裁判所は、一般調査期日における破産債権の調査の延期又は続行の決定をしたときは、当該一般調査期日において言渡しをした場合を除き、その裁判書を破産管財人、破産者及び届出をした破産債権者に送達しなければならない。
  • 特別調査期日における調査(破産法第122条)
  1. 裁判所は、債権届出期間の経過後、一般調査期間の満了前又は一般調査期日の終了前に届出があり、又は届出事項の変更があった破産債権について、必要があると認めるときは、その調査をするための期日(以下「特別調査期日」という。)を定めることができる。ただし、当該破産債権について、破産管財人が認否書に掲げる事項の全部若しくは一部についての認否を記載している場合又は一般調査期日において調査をすることについて破産管財人及び破産債権者の異議がない場合は、この限りでない。
  2. その他の事項は一般調査期日の規定を準用する。

破産債権の確定[編集]

債権調査の期日において破産管財人及び破産債権者の異議がなかったときは、債権の額、優先権及び劣後的破産債権の区分は、これによって確定する(同法124条1項)。確定債権については、破産債権者表の記載は、破産債権者の全員に対し、確定判決と同一の効力を有する(同法124条3項)。

調査への異議と債権の確定に関する訴訟[編集]

破産者、破産債権者又はその代理人は、異議を述べることができる(破産法121条2項、123条など)。

異議を出された破産債権の破産債権者は、異議者を相手方として裁判所に破産債権査定申立てをすることができる(破産法125条1項)。裁判所は原則としてこれに対する裁判(破産債権査定決定)をすることになるが(破産法125条3項)その決定に対して不服のある異議者はさらに訴え(破産債権査定異議の訴え)を提起することができる(破産法126条1項)。

もっとも、破産債権者は、上述の査定決定又は異議の訴えにおいて、債権調査の結果として破産債権者表に記載された事項のみを主張することができる(破産法128条)。また、執行力ある債務名義又は終局判決がある債権については、異議者が、破産者がなすことができる訴訟手続(例えば確定判決であれば、口頭弁論の終結後に生じた異議の事由をもってする請求異議の訴え(民事執行法35条1項、2項))によってのみ、その異議を主張することができる(破産法129条1項)。

債権確定訴訟の結果は、破産管財人又は破産債権者の申立てにより破産債権者表に記載される(破産法130条)とともに、破産債権者の全員に対してその効力を有する(破産法131条1項)。

相殺権[編集]

破産債権者が、破産手続開始の当時、破産者に対して債務を負担するときは、破産手続によらないで相殺をなすことができる(破産法第67条第1項)。相殺の担保的機能に対する信頼を重視し、債務者が破産した場合にも原則それが認められることを定めた規定である。ただし、以下の場合は相殺をなすことができない。

相殺をなすことができない場合・その1[編集]

破産債権者は、以下の場合においては、相殺をなすことができない(破産法71条第1項1号から4号)。

  1. 破産債権者が、破産手続開始後、破産財団に対して債務を負担したとき(破産法71条第1項第1号)。
  2. 支払不能になった後に契約によって負担する債務を専ら破産債権をもってする相殺に供する目的で破産者の財産の処分を内容とする契約を破産者との間で締結し、又は破産者に対して債務を負担する者の債務を引き受けることを内容とする契約を締結することにより破産者に対して債務を負担した場合であって、当該契約の締結の当時、支払不能であったことを知っていたとき(破産法71条第1項第2号)。ただし、①法定の原因、②支払不能であったこと又は支払の停止若しくは破産手続開始の申立てがあったことを破産債権者が知った時より前に生じた原因、③破産手続開始の申立てがあった時より一年以上前に生じた原因に基づくときは、相殺をなすことができる(破産法71条第2項)。
  3. 破産債権者が、支払の停止があった後に破産者に対して債務を負担した場合であって、その負担の当時、支払の停止があったことを知っていた時。ただし、当該支払の停止があった時に支払不能でなかった時は相殺ができる(破産法71条第1項第3号)。また、①法定の原因、②支払不能であったこと又は支払の停止若しくは破産手続開始の申立てがあったことを破産債権者が知った時より前に生じた原因、③破産手続開始の申立てがあった時より一年以上前に生じた原因に基づくときは、相殺をなすことができる(破産法71条第2項)。
  4. 破産手続開始の申立があった後に破産者に対して債務を負担した場合であって、その負担の当時、破産手続開始の申立があったことを知っていた時(破産法71条第1項第4号)。ただし、①法定の原因、②支払不能であったこと又は支払の停止若しくは破産手続開始の申立てがあったことを破産債権者が知った時より前に生じた原因、③破産手続開始の申立てがあった時より一年以上前に生じた原因に基づくときは、相殺をなすことができる(破産法71条第2項)。

相殺をなすことができない場合・その2[編集]

破産者に対して債務を負担する者は、以下の場合においては、相殺をなすことができない(破産法72条第1項)。

  1. 破産手続開始後に他人の破産債権を取得したとき)(破産法72条第1項第1号)。
  2. 支払不能になった後に破産債権を取得した場合であって、その取得の当時、支払不能であったことを知っていたとき(破産法72条第1項第2号)。ただし、①法定の原因、②支払不能であったこと又は支払の停止若しくは破産手続開始の申立てがあったことを破産者に対して債務を負担する者が知った時より前に生じた原因、③破産手続開始の申立てがあった時より一年以上前に生じた原因、④破産者に対して債務を負担する者と破産者との間の契約に基づく時は相殺できる(破産法72条第2項)。
  3. 支払の停止があった後に破産債権を取得した場合であって、その取得の当時、支払の停止があったことを知っていたとき。ただし、当該支払の停止があった時において支払不能でなかったときは、この限りでない(破産法72条第1項第3号)。ただし、①法定の原因、②支払不能であったこと又は支払の停止若しくは破産手続開始の申立てがあったことを破産者に対して債務を負担する者が知った時より前に生じた原因、③破産手続開始の申立てがあった時より一年以上前に生じた原因、④破産者に対して債務を負担する者と破産者との間の契約に基づく時は相殺できる(破産法72条第2項)。
  4. 破産手続開始の申立てがあった後に破産債権を取得した場合であって、その取得の当時、破産手続開始の申立てがあったことを知っていたとき(破産法72条第1項第4号)。ただし、①法定の原因、②支払不能であったこと又は支払の停止若しくは破産手続開始の申立てがあったことを破産者に対して債務を負担する者が知った時より前に生じた原因、③破産手続開始の申立てがあった時より一年以上前に生じた原因、④破産者に対して債務を負担する者と破産者との間の契約に基づく時は相殺できる(破産法72条第2項)。

免責債務の債券化[編集]

アメリカにおいては、免責され価値が無くなったはずの債務が一部において取引されている。市場の創設は、1990年代初めだという[1]

通常、破産法により免責が決まるとクレジットリポートが更新される。ところが、債権会社の事務手続の不備等によりクレジットリポートが更新されず、あたかも債務が免責されていない状態になることがあるという。こうした債務は、他のクレジット会社などに買い取られ、新たな債務に衣替えをして元々の(本来、法律により借金が無くなっているはずの)債務者に請求が行われる。このようなケースでは、会社にクレジットレポートの更新を拒否され、訴訟となることもある[1]

元々の債務者にとっては、新規の借金(例えば住宅ローン)の障害となる(借金があると新しいローンが組めない)ことや、借りたお金を返さないのかという道義的な責任から、ゾンビ負債を支払うケースも多い[1]

他に免責された債務が回収可能となる方法としては、以下の場合がある[1]

脚注[編集]

  1. ^ a b c d 『“ゾンビ負債”の呪縛』2007年11月12日 日経ビジネスオンライン