名前探しの放課後

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名前探しの放課後』(なまえさがしのほうかご)は、辻村深月による日本小説講談社ノベルスより刊行されている。2008年、第29回吉川英治文学新人賞候補作。

ストーリー[編集]

山中の渓谷の吊り橋から高校生が飛び降り自殺をし、麓の池にその遺体が浮かび上がった。通っている高校のその子の机の中に遺書があった。 同じクラスの「依田いつか」は藤見高校に通う男子高校1年生。ある日、ふと気が付くと、そこはいつかの知る3か月前の世界だった。それもクラスの誰かが、自殺したという記憶を持ちながら、自分だけ時間が巻き戻っていた。自殺したクラスメイトの誰かを救うべく、いつかは行動を始める……。

依田いつかはまず、藤見高校で唯一自分と同じ中学校出身で、中学時代に自由研究でタイムトラベルについて取り上げたことのある坂崎あすなに、時間が3ヶ月後戻りした違和感を理解してもらおうとする。更に自身の親友、長尾秀人やその彼女、椿史緒、学年一の秀才、天木敬らにも協力を仰ぎ、自殺者を探し始めることに。 そこでいじめにあっているという河野基という男子生徒が浮かんでくる。しかも、英語の授業でクラス編成が変わる時、彼は依田いつかの机を使用、その机の中に置き忘れたノートの中に「遺書」と本人の「死亡記事」があり、死亡記事の日付は12月24日の深夜、3ヶ月後に自殺する生徒の死亡時間と一致する。そのあと、彼が体育館にわざと閉じ込められるという事件が起こり、みんなで救出。本人は、遺書と死亡記事は、自分の趣味で、死なないための代償行為だと、自殺の懸念を一蹴する。河野の生きる意欲を高めるために、いじめのきっかけを解消するため、みんなでプールで水泳を指導。それが短期間で成果を上げてきたので、坂崎あすなも、一緒に水泳を習い始める。

そこに、坂崎の唯一の肉親である祖父が貧血で倒れたとの知らせが入る。順調に見えていた河野基は、福島で開催される水泳の大会に参加する予定のところ、その参加費と旅費をいじめっ子たちに奪われてしまうが、仲間がお金を貸してくれて参加することに鳴る。 そこで、依田いつかは思い出す。自殺の死亡記事に出ていた名前が、彼の名だったことを。クリスマスパーティの準備を進める依田いつかは、坂崎の祖父から「石のスープ」を作ろうとしていないかと話しかけられ、返す言葉を失う。 水泳に来なくなった河野基をクリスマス・イヴの3日前、彼らは見つけて話をすることができ、みんなは彼の自殺を予防するために見守っていたのだと打ち明ける。

「グリル・さか咲」でのクリスマスパーティはなごやかに終わった。しかし、期末試験の最中、坂崎は祖父が倒れたという連絡で呼び出される。依田は、唯一の肉親の死に立ち会えなかったことが原因で坂崎あすなが自殺することを3ヶ月後の自分の記憶として思い出す。 しかし、坂崎の祖父はなんとか持ち直すことができ、坂崎の自殺は回避され、依田は来年の天木の生徒会長選挙の応援を約束する。

主な登場人物[編集]

依田いつか(よだ いつか)
藤見高等学校生徒。1年3組。不二芳南中学校出身。
不二芳市から高校がある県庁所在地の江布市まで電車で通っている。自分の住む街が田舎であることにコンプレックスを抱いている模様。かなり女子にモテるがだれとも長続きせず、恋人を取っ替え引っ替えするのは不誠実であるとして、秀人に叱咤されたことも。深い付き合いの人間は少なく、秀人が唯一の親友である。名前の由来は、「いつか、なりたいものになれるように」。
坂崎あすな(さかざき あすな)
藤見高等学校生徒。1年3組。不二芳南中学校出身。
藤見高校1年の中で唯一、いつかと同じ中学校出身。本屋で半日つぶせるという発言もあるほどの読書家であり、いつかの持ちかけたタイムスリップに関する質問にも流暢に答える。『スロウハイツの神様』に登場するチヨダ・コーキの著作も愛読しているようだ。身長は172cmと、いつかよりも高い。名前の由来は「翌檜(あすなろ)」から。唯一の肉親である祖父は、レストラン、「グリル・さか咲」を経営している。
長尾秀人(ながお しゅうと)
藤見高等学校生徒。1年4組。陸上部所属。江布北中学校出身。
いつかの唯一の親友。いつかとは異なり、幅広い人脈を持っている。揉め事をあまり好まないようで、相手が折れないとすぐに臨戦態勢を解いてしまう。椿と長い間交際を続けている。椿に関することは歯が浮くようなことでも平気で語る。
椿史緒(つばき ふみお)
礼華女子高等学校生徒。1年生。江布北中学校出身。
茶色いフレームの眼鏡がトレードマーク。秀人とは小学校に入る前からの幼馴染。ピアノや書道のたしなみがある。
天木敬(あまき たかし)
藤見高等学校生徒。1年5組の学級委員長。サッカー部所属。江布北中学校出身。
学業で優秀な成績を残しつつサッカー部の活動もしている多才な人物。中学時代には生徒会長を務め、藤見高校でも同じ座を狙っている。かなりの負けず嫌いで、小学校の児童会長選で椿に敗れたことをまだ引きずっているらしい。
河野基(こうの はじめ)
藤見高等学校生徒。1年2組。
小瀬友春からいじめを受けている。遺書を書くことと、自分の自殺の記事を書くことが趣味と語る。自殺したのは彼だろうと推測し、あすなたちはそれを未然に防ぐべく、さまざまな対策を講じる。
小瀬友春(こせ ともはる)
藤見高等学校生徒。1年2組。陸上部所属。江布北中学校出身。
陸上部では短距離でかなりの成績を出している。あすなの面前で河野基に暴力を振るったり、基自身の証言などから、基をいじめ始めた張本人だろうと特定される。バイク通学をしている模様。小学校時代は「トモ」と呼ばれていた。

その他の登場人物[編集]

三山志緒(みやま しお)
藤見高等学校生徒。1年3組。
あすなの親友。友春とは友人で、やや派手な風貌をしている。
松永郁也(まつなが いくや)
藤見高等学校生徒。1年5組。ピアノ部。江布北中学校出身。
ピアノ部の唯一の部員として、学校から第二音楽室を貸し付けられている。ピアノの天才。クラスメートの天木が彼から第二音楽室の鍵を借り、そこをいつかたちとの作戦会議の場にすることも。秀人、椿とも知り合いであり、天木には「信頼できる」と言われている。
豊口絢乃(とよぐち あやの)
藤見高等学校生徒。1年5組。
いつかの元恋人。
芦沢理帆子(あしざわ りほこ)
多恵と共に「グリル・さか咲」を訪れた女性。『凍りのくじら』『スロウハイツの神様』にも登場。いつかから「美人」と称されている。
多恵(たえ)
『凍りのくじら』にも登場。松永郁也の付き人として理帆子と共に現れた。

章タイトル[編集]

前作にあたる『ぼくのメジャースプーン』の章名しりとりの法則(同項目を参照)を第一章のみ受け継ぎ、本作の第一章は「秘密の花園」と名付けられている。以降、上下巻共に、第十一章の「石のスープ」まで、日本国外の童話のタイトルが章名になっている。