ヴァンセーヌ

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ヴァンセーヌ(LE VINCENNES)は、かつて東京都渋谷区にあった料理店である[1]

1980年、パリのホテル・メリディアンで副料理長を務めていた[2]酒井一之が、「店の一切を任せる」との申し入れを受け、帰国して開店した[3]。酒井は開店時から従業員に米と醤油の使用を禁止し、フランス流の徹底を目指した[4]。当初の顧客は在日フランス人や、酒井のパリ時代の知人などが主体であった。あるとき来店したフランス人にクスクスを食べたいと求められ、材料を取り寄せて供したところ[5]、定番料理として定着し[1]、このころから日本人客も増加していった[5]。日本のクスクスはこの店から広まっていったとも言われる[6]

また、ヴァンセーヌが開店した時期は70年代にフランスで修業した料理人が帰国して店を持つ事例の多かった時期であった。酒井はこうした料理人らとの横のつながりの拡大にも積極的で、料理人の会「クラブ・デ・トラント」に所属し[7]、事務局長も務めた。1991年11月には名誉会長に磯村尚徳、副会長に周富徳を迎え、毎月会食会を開催する「東京たべたべ会」が発足した[8][9]

末期には後にミシュランの星付きシェフとなる松嶋啓介がホール係として働いていた[10]

1999年、酒井は独立してビストロ「パラザ」を開店し[11]、ヴァンセーヌは閉店した。

脚注[編集]

  1. ^ a b 見田盛夫『エピキュリアン 東京・関西フランス料理店ガイド』講談社、1995年、128ページ。ISBN 4-06-207506-7
  2. ^ 酒井一之『シェフ』実業之日本社〈仕事――発見シリーズ⑫〉、1991年、152ページ。
  3. ^ 『シェフ』198ページ。
  4. ^ 『シェフ』215ページ。
  5. ^ a b 酒井一之『酒井一之の南仏プロヴァンス家庭料理』廣済堂出版、1995年、109ページ。ISBN 4-331-50467-0
  6. ^ 嶋啓祐 (2006年11月30日). “ラタン(神保町)”. All About. 2013年11月24日閲覧。
  7. ^ 『外食レストラン新聞』1998年12月7日付。
  8. ^ 「お店招待席 あの店この店 ここが売りもの>3< ヴァンセーヌ 渋谷 シェフの酒井さんはパリで修業 食材はパリ、日本の産地から直接仕入れ フランス人もお気に入りの仏レストラン」『日食外食レストラン新聞』1992年(平成4年)8月3日付6面。
  9. ^ 「この人 この仲間 酒井一之さんら 東京たべたべ会 美食を囲む「人の輪」 多彩な談義の花咲く」『日本経済新聞』1999年(平成11年)3月14日付52面。
  10. ^ 井上俊樹「YOU館 自信でつかんだミシュラン一つ星 大宰府出身の仏料理シェフ・松嶋啓介さん(28) 「大事なのは素材」信条に」『毎日新聞』2006年(平成18年)6月24日付西部本社夕刊1面。
  11. ^ 河崎妙子「ビストロ パラザ フランス料理(東京・千代田区) パリ風のクスクスが自慢」『日経流通新聞』1999年(平成11年)12月9日付13面。