チオ炭酸

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チオ炭酸イオン(Thiocarbonate)は、炭酸イオンCO2−
3
酸素原子のうち1-3個が硫黄に置き換わった陰イオンである[1]。置換数により、(モノ)チオ炭酸(CO2S2−)、ジチオ炭酸(COS2−
2
)、トリチオ炭酸(CS2−
3
)と呼び分けられる。炭酸イオンと同様に炭素を中心とした平面構造をとり、CからSまたはOへの結合次数の平均は1+13である。プロトン化する原子は通常指定されない[注 1]。これらの陰イオンは優れた求核剤配位子となる[2]

  1. ^ H2COxSy(x+y=3)において、2つの水素原子の離脱しやすさに優劣はない。

(モノ)チオ炭酸[編集]

(モノ)チオ炭酸イオン(Monothiocarbonate)はC2v対称性を持つ二価イオンCO2S2−である。チオホスゲンの加水分解や、塩基硫化カルボニルの反応によって生じる。

ジチオ炭酸[編集]

ジチオ炭酸イオン(Dithiocarbonate)は同じくC2v対称性を持つ二価イオンCOS2−
2
である。塩基水溶液と二硫化炭素との反応から生じる。

重要な誘導体にキサントゲン酸エステル(ジチオカルボン酸塩のO-エステル、一般式ROCS
2
)がある。これらの塩は通常、ナトリウムアルコキシドと二硫化炭素の反応によって調製される。

酸素原子の位置が異なる(RS)2COという構造のエステルもあり[3]、対応するトリチオ炭酸エステル(RS)2CSの加水分解によって得られることが多い。一例として、2つのジチオ炭酸基からなる複素環式化合物である1,3,4,6-テトラチアペンタレン-2,5-ジオンがある[4]

トリチオ炭酸[編集]

トリチオ炭酸イオン(Trithiocarbonate)はD3h対称性を持つ二価イオンCS2−
3
である。1824年にツァイゼ英語版によって報告され、1826年にベルセリウスによって詳細に調査された[5]。どちらも二硫化炭素を硫化水素塩(硫化水素カリウム等)に作用させることによって合成した[6][7]

酸で処理すると、トリチオ炭酸が赤い油として遊離する。

この酸とその塩の多くは不安定で、特に加熱によって二硫化炭素を放出し分解する。

エステルはチオキサントゲン酸エステルと呼ばれ、可逆的付加開裂連鎖移動重合英語版Reversible Addition/Fragmentation Chain Transfer Polymerization,RAFT重合)に利用されている。

ペルチオ炭酸[編集]

ペルチオ炭酸イオン(Perthiocarbonate)は、トリチオ炭酸イオンに硫黄原子を追加してS-S結合させた二価陰イオンCS2−
4
である[8]。遊離型の純粋なペルチオ炭酸[9]はまだ得られていない[10]が、暗赤色の油状液体とされる[11]

出典[編集]

  1. ^ ChemicalBook---化学产品搜索 化学产品目录”. www.chemicalbook.com. 2021年8月19日閲覧。
  2. ^ Holleman, A. F.; Wiberg, E. "Inorganic Chemistry" Academic Press: San Diego, 2001. ISBN 0-12-352651-5.
  3. ^ Perumalreddy Chandrasekaran, James P. Donahue (2009). “Synthesis of 4,5-Dimethyl-1,3-dithiol-2-one”. Org. Synth. 86: 333. doi:10.15227/orgsyn.086.0333. 
  4. ^ 1,3,4,6-テトラチアペンタレン-2,5-ジオン | 64394-45-2”. www.chemicalbook.com. 2021年8月19日閲覧。
  5. ^ Berzelius, J. J. (1826). “Ueber die Schwefelsalze [About the sulfur salts]” (German). Annalen der Physik 82 (4): 425–458. doi:10.1002/andp.18260820404. https://zenodo.org/record/1423508. 
  6. ^ O'Donoghue, Ida Guinevere; Kahan, Zelda (1906). “CLXXIV.—Thiocarbonic acid and some of its salts”. J. Chem. Soc., Trans. 89: 1812–1818. doi:10.1039/CT9068901812. https://zenodo.org/record/2186178. 
  7. ^ R. E. Strube (1959). “Trithiocarbodiglycolic Acid”. Org. Synth. 39: 967. doi:10.15227/orgsyn.039.0077. (a procedure for synthesis of K2CS3
  8. ^ PubChem. “Sodium tetrathiocarbamate” (英語). pubchem.ncbi.nlm.nih.gov. 2021年8月19日閲覧。
  9. ^ PubChem. “Tetrathioperoxycarbonic acid” (英語). pubchem.ncbi.nlm.nih.gov. 2021年8月19日閲覧。
  10. ^ A Text-book of Inorganic Chemistry, Volume 7, Issue 2, 1931, p. 269
  11. ^ 第2版, 化学辞典. “ペルチオ炭酸(塩)とは”. コトバンク. 2021年8月19日閲覧。