ウラジーミル・シクリャローフ

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』

ウラジーミル・シクリャローフVladimir Shklyarov: Владимир Шкляров1985年2月9日 - )は、ロシアバレエダンサーである[1][2]。2003年にワガノワ・バレエ学校を卒業後、マリインスキー・バレエに入団した[1][2]。入団後昇進を重ね、2008年にファースト・ソリスト、2011年にプリンシパルに昇進した[1][2][3]ダンスール・ノーブルにふさわしい容姿と優れた舞踊技巧、そして幅広い芸域を兼ね備えたダンサーで、マリインスキー・バレエのみならず世界各地で活躍している[1][3][4]。妻は同じくマリインスキー・バレエに所属するバレエダンサーのマリア・シリンキナ[注釈 1][6][7][8]。なお、しばしば「シクリャーロフ」とも表記される[9]

経歴[編集]

サンクトペテルブルクの生まれ[2][3]。ワガノワ・バレエ学校に入学して、ヴィターリー・アファナスコフのクラスでバレエを学んだ[3][10][11]。在学中の2002年に、ワガノワ賞バレエ・コンクールに入賞している[10][11]

Mariinsky 2017

2003年にワガノワ・バレエ学校を卒業し、同年マリインスキー・バレエに入団した[2][3]。入団後の2007年にマリウス・プティパ原振付『フローラの目覚め』(セルゲイ・ヴィハレフ英語版復元振付)のゼフィール役、2008年にはミハイル・フォーキン原振付『ル・カルナヴァル』(en:Carnaval (ballet)、ヴィハレフ復元振付)のアルルカン役の初演者となった[2][10]。入団後昇進を重ね、2008年にファースト・ソリスト、2011年にプリンシパルに昇進した[1][2]

シクリャローフはダンスール・ノーブルにふさわしい容貌に恵まれたダンサーで、『白鳥の湖』、『眠れる森の美女』、『くるみ割り人形』での王子役の他、『ロミオとジュリエット』(ロミオ)、『ライモンダ』(ジャン・ド・ブリエンヌ)などの主役の他に『白鳥の湖』の道化、『海賊』のアリとランケデム、『ラ・バヤデール』の黄金の像などキャラクテール風の役柄をも踊りこなす芸域の幅広さを持つ[3][9][10]。舞踊の技巧にも優れ、ジョージ・バランシン振付『ジュエルズ』、『シンフォニー・イン・C』、ハラルド・ランダー英語版振付『エチュード』(en:Études (ballet))などのアブストラクト・バレエもレパートリーに加えている[3][10][4]

マリインスキー・バレエのロシア国外での公演に参加するほか、他のバレエ団等へのゲスト出演も多い[3][2]。2012年にモスクワボリショイ劇場で『白鳥の湖』に主演、2014年5月にはアメリカン・バレエ・シアターで『ラ・バヤデール』のソロル役でデビューを果たした[2][6]。『ラ・バヤデール』はシクリャローフ自身が最も好きな作品の1つであり、アメリカン・バレエ・シアターへの招聘もこの作品が契機であったという[6]。アメリカン・バレエ・シアターでは、ナタリア・マカロワ(『ラ・バヤデール』の演出と振付を担当した)とともにリハーサルする機会があった[6]。シクリャローフはマカロワについて「本当に並はずれた女性」と評し、「唯一無二の、かけがえのない存在ですよ」と高い評価を与えていた[6]

2015年6月には東京バレエ団のゲストとして、アリーナ・コジョカルとともに『ラ・バヤデール』に主演している[6][12]。東京バレエ団へのゲスト出演は、マカロワの推薦によるものであった[6]。シクリャローフはコジョカルとの共演について「アリーナは本当に素敵でした!彼女と踊ることは長いことぼくの夢だったのですよ(後略)」とインタビューでその喜びを語っていた[6]

2015年11月のマリインスキー・バレエ日本公演では『愛の伝説』(ユーリー・グリゴローヴィチ振付)のフェルハド役で舞台に立った[13][14][15][16]。しかし、3幕の大詰めで負傷するアクシデントに見舞われ、出演予定だった『ロミオとジュリエット』は降板となった[14][17]。その後復帰を果たし、2016年3月31日から4月10日にかけて行われたマリインスキー国際バレエフェスティバルでは『青銅の騎士』(ロスチラフ・ザハロフ英語版原振付、ユーリー・スメカロフ再振付)に主演した[18]

2016年5月にバイエルン国立バレエの芸術監督イーゴリ・ゼレンスキーの招聘に応じて、同バレエ団と1年契約を結んだことが明らかにされた [19]。ただし、マリインスキー・バレエを退団せずに1年間の休暇をとった状態で参加することになり、この1年契約はもう1年延長される可能性があるという[19]。シクリャローフはバイエルン国立バレエとの契約を結んだ理由として、「マリインスキー・バレエでは踊りたい役をすべて踊ったから、新しい環境に身を置いてさらにレパートリーを広げたい」との考えを表明した[13][19]

ワガノワ賞バレエ・コンクールの他にも受賞歴は数多い[3][2][10]。主なものとしては、「バレエ」誌の「ダンスの魂」新人賞(2008年)、レオニード・マシーン舞踊芸術賞(2008年)、モスクワ国際バレエコンクールシニア男性金賞(2009年)などがある[1][2][10]。2014年には国際バレエフェスティバル「ダンス・オープン」においてミスター・ヴィルトゥオーゾに選出された[2]

私生活[編集]

シクリャローフは、同僚のバレエダンサー、マリア・シリンキナと結婚している[注釈 1][6][7][8]。シリンキナはペルミの生まれで、同地でバレエを学んだ[5][7][8]。2006年にペルミ国立舞踊学校を卒業して、同年マリインスキー・バレエに入団して、タチアナ・テレホワの指導を受けた[5][7]

シリンキナの主なレパートリーとしては、『ジゼル』のタイトル・ロールや、『海賊』のギュリナーラ、『眠れる森の美女』のオーロラ姫とフロリナ王女などクラシック・バレエの主要な役柄のみならず、ジョージ・バランシン振付の『ジュエルズ』、『チャイコフスキー・パ・ド・ドゥ』などのアブストラクト・バレエやアレクセイ・ラトマンスキーによる『シンデレラ』のタイトル・ロールなど幅広い役柄を踊っている[5][7]

2人の間には、2015年2月に男児が誕生した[6][8]。シクリャローフは「本当にかわいい。ぼくの三十年の人生のなかでもっとも素晴らしい授かりものです」とその喜びを語っている[6]。シリンキナは同年7月30日にマリインスキー劇場での『ロミオとジュリエット』で舞台に復帰し、11月の日本公演では『愛の伝説』で夫妻共演を果たした[注釈 2][14]。なお、シリンキナもシクリャローフとともに、バイエルン国立バレエとの1年契約を結んだことが明らかになっている[19]

脚注[編集]

注釈[編集]

  1. ^ a b 名前については、「マリーヤ」とも表記される[5]
  2. ^ 当初、シクリャローフの相手役はアリーナ・ソーモワ英語版が予定されていたが、降板によりシリンキナが出演することとなった[12]

出典[編集]

  1. ^ a b c d e f ウラジーミル シクリャローフ”. コトバンク(現代外国人名録2012). 2016年6月11日閲覧。
  2. ^ a b c d e f g h i j k l 『マリインスキー・バレエ 2015年公演プログラム』、p.46.
  3. ^ a b c d e f g h i 『バレエ・ダンサー201』、p.193.
  4. ^ a b 『ダンスマガジン』2016年7月号、p .25.
  5. ^ a b c d 『マリインスキー・バレエ 2015年公演プログラム』、p.48.
  6. ^ a b c d e f g h i j k 『ダンスマガジン』2015年9月号、pp .12-13.
  7. ^ a b c d e Margaret Willis (2013年5月5日). “Mariinsky Ballet – Giselle (Shirinkina and Shklyarov) – St. Petersburg” (英語). Dance Tabs. 2016年6月11日閲覧。
  8. ^ a b c d 小野寺悦子 (2015年6月30日). “バレエ/バレエ観劇の関連情報 ウラジーミル・シクリャローフ インタビュー!”. All About. 2016年6月11日閲覧。
  9. ^ a b アンジェラ・加瀬 (2014年9月10日). “ヴィシニョーワとシクリャーロフの『ロミオとジュリエット』に沸いたマリインスキーのロンドン公演”. Chacott Web magazine"DANCE CUBE" ワールド・レポート-世界のダンス最前線-. 2016年6月11日閲覧。
  10. ^ a b c d e f g Vladimir Shklyarov” (英語). Mariinsky Theatre. 2016年6月11日閲覧。
  11. ^ a b ジャパン・アーツ (2009年11月6日). “来日記念イベントのお知らせ[マリインスキー・バレエ]”. バレエ・舞踊ブログ(ジャパン・アーツ). 2016年6月11日閲覧。
  12. ^ a b 小野寺悦子 (2015年6月30日). “バレエ/バレエ観劇の関連情報 ウラジーミル・シクリャローフ インタビュー!”. All About. 2016年6月11日閲覧。
  13. ^ a b 『SWAN MAGAZINE』 2016年春号(vol.43)、pp .16-18.
  14. ^ a b c 『ダンスマガジン』2016年3月号、pp .43-45.
  15. ^ マリインスキー・バレエ2015年来日合同取材会レポート”. ジャパン・アーツ (2015年11月25日). 2016年6月11日閲覧。
  16. ^ マリインスキー・バレエ2015年来日合同取材会レポート”. WEBぶらあぼ(イープラス) (2015年11月20日). 2016年6月11日閲覧。
  17. ^ 【キャスト変更のお知らせ(マリインスキー・バレエ)】11月30日「ロミオとジュリエット」”. ジャパン・アーツ (2015年11月30日). 2016年6月11日閲覧。
  18. ^ 『ダンスマガジン』2016年7月号、pp .84-85.
  19. ^ a b c d Владимир Шкляров: «В Мариинском театре я уже станцевал все, что хотел»” (ロシア語). Вечерняя Казань (2016年5月18日). 2016年6月12日閲覧。

参考文献[編集]

  • ジャパン・アーツ 『マリインスキー・バレエ』 2015年日本公演プログラム
  • ダンスマガジン編 『バレエ・ダンサー201』 新書館、2009年。ISBN 978-4-403-25099-6
  • ダンスマガジン 2015年9月号(第25巻第9号)、新書館、2015年。
  • ダンスマガジン 2016年3月号(第26巻第3号)、新書館、2016年。
  • ダンスマガジン 2016年7月号(第26巻第7号)、新書館、2016年。
  • 『SWAN MAGAZINE』 2016年春号(vol.43)、平凡社、2016年。

外部リンク[編集]