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'''ミールザー・ムハンマド・ハイダル・ドゥグラト'''（Mirza Muhammad Haidar Dughlat Beg, [[1499年]]/[[1500年]] - [[1551年]]）は、[[モグーリスタン・ハン国]]（東チャガタイ・ハン国）の[[貴族]]、[[歴史家]]。[[テュルク]]系の[[ドゥグラト|ドゥグラト部]]の出身で[[ムガル帝国]]の創始者[[バーブル]]の従弟にあたる。著作の『ターリーヒ・ラシーディー』は[[14世紀]]から[[16世紀]]にかけての中央アジア史、特にモグーリスタン・ハン国史についての重要な史料で<ref name="ce-jiten">濱田「ターリーヒ・ラシーディー」『中央ユーラシアを知る事典』、327-328頁</ref>、バーブルの著書『[[バーブル・ナーマ]]』に比肩する歴史書として評価されている |
'''ミールザー・ムハンマド・ハイダル・ドゥグラト'''（Mirza Muhammad Haidar Dughlat Beg, [[1499年]]/[[1500年]] - [[1551年]]）は、[[モグーリスタン・ハン国]]（東チャガタイ・ハン国）の[[貴族]]、[[歴史家]]。[[テュルク]]系の[[ドゥグラト|ドゥグラト部]]の出身で[[ムガル帝国]]の創始者[[バーブル]]の従弟にあたる。著作の『ターリーヒ・ラシーディー』は[[14世紀]]から[[16世紀]]にかけての中央アジア史、特にモグーリスタン・ハン国史についての重要な史料で<ref name="ce-jiten">濱田「ターリーヒ・ラシーディー」『中央ユーラシアを知る事典』、327-328頁</ref>、バーブルの著書『[[バーブル・ナーマ]]』に比肩する歴史書として評価されている{{sfn|間野|1987|p=97}}。 |
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== 生涯 == |
== 生涯 == |
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[[File:Silver coin of Haidar Dughlat in name of Said Khan.jpg|thumb|right|200px|[[1533年]]にハイダル支配下のカシミールで鋳造された銀貨で、スルターン・サイードの名前が刻まれている。 表面には''al-sultan al-a'zam mir sa'id ghan''という銘文が刻まれている。]] |
[[File:Silver coin of Haidar Dughlat in name of Said Khan.jpg|thumb|right|200px|[[1533年]]にハイダル支配下のカシミールで鋳造された銀貨で、スルターン・サイードの名前が刻まれている。 表面には''al-sultan al-a'zam mir sa'id ghan''という銘文が刻まれている。]] |
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[[ヒジュラ暦]]905年（1499年/1500年）に父のムハンマド・フサインの領地であるタシュケント近郊のウラ・テペでハイダルは誕生する |
[[ヒジュラ暦]]905年（1499年/1500年）に父のムハンマド・フサインの領地であるタシュケント近郊のウラ・テペでハイダルは誕生する{{sfn|間野|1987|p=105,108,126}}。 |
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[[1503年]]にハイダルと彼の姉妹は[[ヒサール]]のホスロウ・シャーフに捕らえられ、1年を[[クンドゥズ]]で過ごした。翌[[1504年]]にクンドゥズは[[ウズベク人|ウズベク]]国家の[[シャイバーニー朝]]に征服され、ハイダルはシャイバーニー朝の客将となっていたムハンマド・フサインと再会した。ハイダルは[[ハッジ|メッカ巡礼]]を望むムハンマド・フサインに連れられて父の領地の[[シャフリサブス]]を発ち、[[1505年]]に親密な交流があった[[カーブル]]の[[バーブル]]の元を訪れる |
[[1503年]]にハイダルと彼の姉妹は[[ヒサール]]のホスロウ・シャーフに捕らえられ、1年を[[クンドゥズ]]で過ごした。翌[[1504年]]にクンドゥズは[[ウズベク人|ウズベク]]国家の[[シャイバーニー朝]]に征服され、ハイダルはシャイバーニー朝の客将となっていたムハンマド・フサインと再会した。ハイダルは[[ハッジ|メッカ巡礼]]を望むムハンマド・フサインに連れられて父の領地の[[シャフリサブス]]を発ち、[[1505年]]に親密な交流があった[[カーブル]]の[[バーブル]]の元を訪れる{{sfn|間野|1987|p=111-112}}。[[1506年]]にムハンマド・フサインは[[ホラーサーン]]地方に向かったバーブルからカーブルの留守を任されるが、ハイダル、バーブルの義理の祖母であるシャーフ・ベギムがバーブルに対して起こした反乱に参加する{{sfn|間野|1987|p=112-115}}。反乱が失敗に終わった後、バーブルに罪を許されたムハンマド・フサインはハイダルを伴ってホラーサーン地方に向かった。[[1507年]]に[[ヘラート]]のティムール朝がシャイバーニー朝によって滅ぼされた後、ムハンマド・フサインは[[ムハンマド・シャイバーニー・ハン]]に招かれてウズベクの宮廷を訪れ、ハイダルは義兄にあたる[[ウバイドゥッラー・ハン|ウバイドゥッラー]]と共に[[ブハラ]]に移った{{sfn|間野|1987|p=116}}。ムハンマド・シャイバーニーはムハンマド・フサインがモグーリスタンのマフムード・ハンと合流することを恐れ、[[1508年]]にマフムード、ムハンマド・フサインの二人を暗殺する{{sfn|間野|1987|p=117}}。 |
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父が暗殺された後、ハイダルは[[ブハラ]]を脱出し、ヒジュラ暦913年（1507年/08年）に[[バダフシャーン]]を支配するティムール朝の王族ミールザー・ハンの保護を受けた。[[1509年]]にミールザー・ハンはバーブルの要請に応じて、ハイダルと16人の従者をカーブルに送り出したが、ハイダル、ミールザー・ハンのどちらも窮乏した状態にあったため、出立に際して十分な用意が整えられなかったという |
父が暗殺された後、ハイダルは[[ブハラ]]を脱出し、ヒジュラ暦913年（1507年/08年）に[[バダフシャーン]]を支配するティムール朝の王族ミールザー・ハンの保護を受けた。[[1509年]]にミールザー・ハンはバーブルの要請に応じて、ハイダルと16人の従者をカーブルに送り出したが、ハイダル、ミールザー・ハンのどちらも窮乏した状態にあったため、出立に際して十分な用意が整えられなかったという{{sfn|間野|1987|p=117}}。カーブルに到着したハイダルは手厚いもてなしを受け、『ターリーヒ・ラシーディー』では常にバーブルが自分を側に置いていたこと、表向きはバーブルの兄弟や甥と同列に扱われていたが陰では息子に接するような態度をとっていたことを回想している{{sfn|間野|1987|p=118-119}}。[[1510年]]末からバーブルが実施したシャイバーニー朝に対する軍事活動にハイダルも従軍し、ハイダルはモグール兵を率いてブハラ、サマルカンド攻撃に参加するが、バーブルは彼の身に注意を払っていた{{sfn|間野|1987|p=119-120}}。[[1512年]]にバーブルがキョリ・マリクの戦いでウバイドゥッラーが率いるウズベク軍との戦闘に敗れた後、ハイダルはバーブルとともにヒサールに退却する。ヒサールに到着したバーブルの元に、[[アンディジャン]]を本拠とするモグーリスタンの[[スルターン・サイード]]・ハンからハイダルを自分の元に派遣するように求める使者が何度も送られ、ハイダルはサイードの元に送り出された{{sfn|間野|1987|p=21}}。 |
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ハイダルはスルタン・サイードの[[カシュガル市|カシュガル]]、[[ヤルカンド県|ヤルカンド]]遠征に参加し、勢力を回復したモグーリスタン・ハン国（[[ヤルカンド・ハン国]]）の重職に就いた<ref name="a-jiten">羽田「ハイダル・ミールザー」『アジア歴史事典』7巻、319頁</ref>。ハイダルはサイードの命令を受けてバダフシャーン、[[ヌーリスターン]]などの土地に遠征を行った<ref name="a-jiten"/>。[[1531年]]には聖戦（[[ジハード]]）のため[[ラダック]]遠征を指揮するが |
ハイダルはスルタン・サイードの[[カシュガル市|カシュガル]]、[[ヤルカンド県|ヤルカンド]]遠征に参加し、勢力を回復したモグーリスタン・ハン国（[[ヤルカンド・ハン国]]）の重職に就いた<ref name="a-jiten">羽田「ハイダル・ミールザー」『アジア歴史事典』7巻、319頁</ref>。ハイダルはサイードの命令を受けてバダフシャーン、[[ヌーリスターン]]などの土地に遠征を行った<ref name="a-jiten"/>。[[1531年]]には聖戦（[[ジハード]]）のため[[ラダック]]遠征を指揮するが{{sfn|アジア遊牧民族史|p=795}}、チベット攻撃は失敗に終わった<ref>{{cite book|author=Bell, Charles|url=http://books.google.co.uk/books?id=RgOK7CgFp88C&printsec=frontcover&dq=tibet#v=onepage&q=&f=false|title=Tibet Past and Present|publisher=omer Banarsidass Publ.|year=1992|page=33|isbn=81-208-1048-1}}</ref>。[[1533年]]にハイダルはサイードの代理として[[カシミール]]地方に遠征を行った。しかし、ハイダルはカシミールに長く留まらず、現地の支配者と条約を締結し、スルターン・サイードの名前が刻まれた貨幣を鋳造した。 |
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[[File:Silver coin of Haidar Dughlat in name of Humayun.jpg|thumb|right|200px|[[1546年]]から[[1550年]]にかけてハイダル支配下のカシミールで鋳造された、ムガル皇帝[[フマーユーン]]の名前が入れられた銀貨。表面には''al-sultan al-a'zam Muhammad humayun ghazi''という銘文が刻まれている。]] |
[[File:Silver coin of Haidar Dughlat in name of Humayun.jpg|thumb|right|200px|[[1546年]]から[[1550年]]にかけてハイダル支配下のカシミールで鋳造された、ムガル皇帝[[フマーユーン]]の名前が入れられた銀貨。表面には''al-sultan al-a'zam Muhammad humayun ghazi''という銘文が刻まれている。]] |
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サイードが没した後、跡を継いだアブドゥッラシードは強大な力を有するドゥグラト部と対立し、ハイダルの叔父サイイド・ムハンマド・ミールザーを処刑する |
サイードが没した後、跡を継いだアブドゥッラシードは強大な力を有するドゥグラト部と対立し、ハイダルの叔父サイイド・ムハンマド・ミールザーを処刑する{{sfn|アジア遊牧民族史|p=796}}。ハイダルはモグーリスタンを追われ、これまで敵対していたバダフシャーンに亡命する<ref name="a-jiten"/>。[[1537年]]にハイダルはカーブルを訪れ、[[ラーホール]]に駐屯していたバーブルの次男[[カームラーン]]の保護を受ける{{sfn|間野|1987|p=122}}。[[1539年]]にハイダルはバーブルの長子である[[ムガル帝国の君主|ムガル皇帝]][[フマーユーン]]に身を寄せ{{sfn|間野|1987|p=122}}、[[1540年]]の[[カナウジの戦い]]でバーブルの長子であるムガル皇帝[[フマーユーン]]は敗北を喫するが、この戦闘ではドゥグラト部もフマーユーンの側についていた。同1540年にハイダルはフマーユーンを援護するため、カシミールに帰還する<ref>Shahzad Bashir, ''Messianic Hopes and Mystical Visions: The Nurbakhshiya Between Medieval And Modern Islam'' (2003), p. 236.</ref>。この地の支配権を巡って争いを続けていた土着勢力の一つがハイダルを招き入れ、カシミールに到着したハイダルはサイイド派の指導者ナズクをスルターンに擁立した。1541年にハイダルはカシミールを征服し、事実上の独立国家を形成した<ref name="a-jiten"/>。フマーユーンがカーブルを奪回した後、[[1546年]]にハイダルはナズクを廃位し、ムガル皇帝の名前が刻まれた貨幣を発行する<ref>Stan Goron and J.P. Goenka: ''The Coins of the Indian Sultanates'', New Delhi: Munshiram Manoharlal, 2001, pp. 463-464.</ref>。[[1551年]]、ハイダルは反乱を起こしたカシミール人との戦闘で落命する<ref name="a-jiten"/>。 |
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ハイダルの遺体はカシミールの[[シュリーナガル]]内のGorstan e Shahiに埋葬されている。 |
ハイダルの遺体はカシミールの[[シュリーナガル]]内のGorstan e Shahiに埋葬されている。 |
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== 著作 == |
== 著作 == |
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ハイダルが著した歴史書『ターリーヒ・ラシーディー（Tarikh-i-Rashidi）』は、ハイダル自身の回想録、中央アジア史の概説が収録された書物である。書名は「ラシードの歴史」を意味し、旧主であるアブドゥッラシードへの変わらぬ忠誠を示している<ref>歴史学研究会編『世界史史料』4（岩波書店, 2010年11月）、271頁</ref>。ハイダル自身の[[チャガタイ語]]の話者だったが、『ターリーヒ・ラシーディー』は[[ペルシア語]]によって書かれている |
ハイダルが著した歴史書『ターリーヒ・ラシーディー（Tarikh-i-Rashidi）』は、ハイダル自身の回想録、中央アジア史の概説が収録された書物である。書名は「ラシードの歴史」を意味し、旧主であるアブドゥッラシードへの変わらぬ忠誠を示している<ref>歴史学研究会編『世界史史料』4（岩波書店, 2010年11月）、271頁</ref>。ハイダル自身の[[チャガタイ語]]の話者だったが、『ターリーヒ・ラシーディー』は[[ペルシア語]]によって書かれている{{sfn|アジア遊牧民族史|p=793}}。モンゴルおよびモグーリスタン・ハン国の歴史の概説から成る「本史」とハイダル自身の回想録と[[モグーリスタン]]、チベット、カシミールの地誌について述べられた「簡史」の二部構成で、前者は[[1546年]]に、後者は[[1543年]]までに書き上げられた<ref name="ce-jiten"/>。ハイダルは従兄のバーブルに敬意を抱いており、『ターリーヒ・ラシーディー』の執筆に際してバーブルの自伝である『[[バーブル・ナーマ]]』のスタイルを模倣した<ref name="ce-jiten"/>。また、『ターリーヒ・ラシーディー』では[[1465年]]の[[カザフ・ハン国]]の建国についても言及されており、ハイダルが初期のカザフ・ハンの一人である[[カーシム・ハン]]と個人的な交友があったことが述べられている。 |
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[[1895年]]にネイ・エリアスと[[エドワード・デニソン・ロス]]によって『ターリーヒ・ラシーディー』は英語に翻訳された。後にロシア語訳本、新たな英訳本が出版された<ref name="ce-jiten"/>。 |
[[1895年]]にネイ・エリアスと[[エドワード・デニソン・ロス]]によって『ターリーヒ・ラシーディー』は英語に翻訳された。後にロシア語訳本、新たな英訳本が出版された<ref name="ce-jiten"/>。 |
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== 家族 == |
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ムハンマド・ハイダルはカシュガルの世襲的支配層であるドゥグラト部の[[アミール]]の家系に属する。ムハンマド・フサイン・ミールザー・クルカンを父に持ち、[[ユーヌス (モグーリスタン)|ユーヌス]]・ハンの娘であるフブ・ニガール・ハニムを母に持つ |
ムハンマド・ハイダルはカシュガルの世襲的支配層であるドゥグラト部の[[アミール]]の家系に属する。ムハンマド・フサイン・ミールザー・クルカンを父に持ち、[[ユーヌス (モグーリスタン)|ユーヌス]]・ハンの娘であるフブ・ニガール・ハニムを母に持つ{{sfn|間野|1987|p=99}}。父方の祖父であるムハンマド・ハイダル・ミールザー・クルカンは[[エセン・ブカ (モグーリスタン)|エセン・ブカ]]・ハンの娘ダウラト・ニガール・ハニムを妻としていた。ムハンマド・ハイダル・ミールザー・クルカンの父アミール・サイイド・アリー・クルカンは[[ワイス (モグーリスタン)|ワイス]]・ハンの姉妹ウズン・スルターン・ハニムを妻に持ち、アリーの祖父フダーイダードは[[ヒズル・ホージャ]]からワイスまでの6人のモグーリスタンのハンを擁立した。 |
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母のフブ・ニガール・ハニムはユーヌス・ハンとダウラト・ベグムの間に生まれた三女で、バーブルの母クトゥルク・ニガール・ハニムの妹にあたる。フブ・ニガール・ハニムは1500年に没した |
母のフブ・ニガール・ハニムはユーヌス・ハンとダウラト・ベグムの間に生まれた三女で、バーブルの母クトゥルク・ニガール・ハニムの妹にあたる。フブ・ニガール・ハニムは1500年に没した{{sfn|間野|1987|p=112}}。 |
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== 映画 == |
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== 参考文献 == |
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* {{Cite book|和書|author=貝塚茂樹, 平凡社 |title=アジア歴史事典 |chapter=羽田明、 ハイダル・ミールザー |publisher=平凡社 |year=1961 |NCID=BN01687470 |isbn=9784582108002 |id={{JP番号|21609503}} |url=https://iss.ndl.go.jp/books/R100000002-I000010363912-00 |ref=harv}} |
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* 羽田明「ハイダル・ミールザー」『アジア歴史事典』7巻収録（平凡社, 1961年） |
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** {{Cite book|和書|author=平凡社 |title=アジア歴史事典 |publisher=平凡社 |year=1984 |edition=新装復刊版 |NCID=BN00524685}} |
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* 濱田正美「ターリーヒ・ラシーディー」『中央ユーラシアを知る事典』収録（平凡社, 2005年4月） |
* 濱田正美「ターリーヒ・ラシーディー」『中央ユーラシアを知る事典』収録（平凡社, 2005年4月） |
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* {{Cite journal|和書|author=間野英二 |title=バーブル・パーディシャーフとハイダル・ミールザー:その相互関係 |journal=東洋史研究 |ISSN=03869059 |publisher=東洋史研究會 |year=1987 |month=dec |volume=46 |issue=3 |pages=559-590 |naid=40002659988 |doi=10.14989/154212 |url=https://hdl.handle.net/2433/154212 |ref={{harvid|間野|1987}}}} |
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* {{Cite book|和書|author=ルネ・グルセ, 後藤冨男 |title=アジア遊牧民族史 |publisher=原書房 |year=1979 |series=ユーラシア叢書 |issue=27-28 |edition=山一書房昭和19年刊の複製 |NCID=BN01181325 |id={{JP番号|79011477}} |doi=10.11501/1918115https://iss.ndl.go.jp/books/R100000039-I001527244-00 |id={{NDLJP|1918115}} |ref={{harvid|アジア遊牧民族史}}}} |
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* ルネ・グルセ『アジア遊牧民族史』下（後藤富男訳, ユーラシア叢書, 原書房, 1979年2月） |
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== 翻訳元記事参考文献 == |
== 翻訳元記事参考文献 == |
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2022年1月27日 (木) 15:12時点における版
ミールザー・ムハンマド・ハイダル・ドゥグラト（Mirza Muhammad Haidar Dughlat Beg, 1499年/1500年 - 1551年）は、モグーリスタン・ハン国（東チャガタイ・ハン国）の貴族、歴史家。テュルク系のドゥグラト部の出身でムガル帝国の創始者バーブルの従弟にあたる。著作の『ターリーヒ・ラシーディー』は14世紀から16世紀にかけての中央アジア史、特にモグーリスタン・ハン国史についての重要な史料で[1]、バーブルの著書『バーブル・ナーマ』に比肩する歴史書として評価されている[2]。
生涯
ヒジュラ暦905年（1499年/1500年）に父のムハンマド・フサインの領地であるタシュケント近郊のウラ・テペでハイダルは誕生する[3]。
1503年にハイダルと彼の姉妹はヒサールのホスロウ・シャーフに捕らえられ、1年をクンドゥズで過ごした。翌1504年にクンドゥズはウズベク国家のシャイバーニー朝に征服され、ハイダルはシャイバーニー朝の客将となっていたムハンマド・フサインと再会した。ハイダルはメッカ巡礼を望むムハンマド・フサインに連れられて父の領地のシャフリサブスを発ち、1505年に親密な交流があったカーブルのバーブルの元を訪れる[4]。1506年にムハンマド・フサインはホラーサーン地方に向かったバーブルからカーブルの留守を任されるが、ハイダル、バーブルの義理の祖母であるシャーフ・ベギムがバーブルに対して起こした反乱に参加する[5]。反乱が失敗に終わった後、バーブルに罪を許されたムハンマド・フサインはハイダルを伴ってホラーサーン地方に向かった。1507年にヘラートのティムール朝がシャイバーニー朝によって滅ぼされた後、ムハンマド・フサインはムハンマド・シャイバーニー・ハンに招かれてウズベクの宮廷を訪れ、ハイダルは義兄にあたるウバイドゥッラーと共にブハラに移った[6]。ムハンマド・シャイバーニーはムハンマド・フサインがモグーリスタンのマフムード・ハンと合流することを恐れ、1508年にマフムード、ムハンマド・フサインの二人を暗殺する[7]。
父が暗殺された後、ハイダルはブハラを脱出し、ヒジュラ暦913年（1507年/08年）にバダフシャーンを支配するティムール朝の王族ミールザー・ハンの保護を受けた。1509年にミールザー・ハンはバーブルの要請に応じて、ハイダルと16人の従者をカーブルに送り出したが、ハイダル、ミールザー・ハンのどちらも窮乏した状態にあったため、出立に際して十分な用意が整えられなかったという[7]。カーブルに到着したハイダルは手厚いもてなしを受け、『ターリーヒ・ラシーディー』では常にバーブルが自分を側に置いていたこと、表向きはバーブルの兄弟や甥と同列に扱われていたが陰では息子に接するような態度をとっていたことを回想している[8]。1510年末からバーブルが実施したシャイバーニー朝に対する軍事活動にハイダルも従軍し、ハイダルはモグール兵を率いてブハラ、サマルカンド攻撃に参加するが、バーブルは彼の身に注意を払っていた[9]。1512年にバーブルがキョリ・マリクの戦いでウバイドゥッラーが率いるウズベク軍との戦闘に敗れた後、ハイダルはバーブルとともにヒサールに退却する。ヒサールに到着したバーブルの元に、アンディジャンを本拠とするモグーリスタンのスルターン・サイード・ハンからハイダルを自分の元に派遣するように求める使者が何度も送られ、ハイダルはサイードの元に送り出された[10]。
ハイダルはスルタン・サイードのカシュガル、ヤルカンド遠征に参加し、勢力を回復したモグーリスタン・ハン国（ヤルカンド・ハン国）の重職に就いた[11]。ハイダルはサイードの命令を受けてバダフシャーン、ヌーリスターンなどの土地に遠征を行った[11]。1531年には聖戦（ジハード）のためラダック遠征を指揮するが[12]、チベット攻撃は失敗に終わった[13]。1533年にハイダルはサイードの代理としてカシミール地方に遠征を行った。しかし、ハイダルはカシミールに長く留まらず、現地の支配者と条約を締結し、スルターン・サイードの名前が刻まれた貨幣を鋳造した。
サイードが没した後、跡を継いだアブドゥッラシードは強大な力を有するドゥグラト部と対立し、ハイダルの叔父サイイド・ムハンマド・ミールザーを処刑する[14]。ハイダルはモグーリスタンを追われ、これまで敵対していたバダフシャーンに亡命する[11]。1537年にハイダルはカーブルを訪れ、ラーホールに駐屯していたバーブルの次男カームラーンの保護を受ける[15]。1539年にハイダルはバーブルの長子であるムガル皇帝フマーユーンに身を寄せ[15]、1540年のカナウジの戦いでバーブルの長子であるムガル皇帝フマーユーンは敗北を喫するが、この戦闘ではドゥグラト部もフマーユーンの側についていた。同1540年にハイダルはフマーユーンを援護するため、カシミールに帰還する[16]。この地の支配権を巡って争いを続けていた土着勢力の一つがハイダルを招き入れ、カシミールに到着したハイダルはサイイド派の指導者ナズクをスルターンに擁立した。1541年にハイダルはカシミールを征服し、事実上の独立国家を形成した[11]。フマーユーンがカーブルを奪回した後、1546年にハイダルはナズクを廃位し、ムガル皇帝の名前が刻まれた貨幣を発行する[17]。1551年、ハイダルは反乱を起こしたカシミール人との戦闘で落命する[11]。
ハイダルの遺体はカシミールのシュリーナガル内のGorstan e Shahiに埋葬されている。
著作
ハイダルが著した歴史書『ターリーヒ・ラシーディー（Tarikh-i-Rashidi）』は、ハイダル自身の回想録、中央アジア史の概説が収録された書物である。書名は「ラシードの歴史」を意味し、旧主であるアブドゥッラシードへの変わらぬ忠誠を示している[18]。ハイダル自身のチャガタイ語の話者だったが、『ターリーヒ・ラシーディー』はペルシア語によって書かれている[19]。モンゴルおよびモグーリスタン・ハン国の歴史の概説から成る「本史」とハイダル自身の回想録とモグーリスタン、チベット、カシミールの地誌について述べられた「簡史」の二部構成で、前者は1546年に、後者は1543年までに書き上げられた[1]。ハイダルは従兄のバーブルに敬意を抱いており、『ターリーヒ・ラシーディー』の執筆に際してバーブルの自伝である『バーブル・ナーマ』のスタイルを模倣した[1]。また、『ターリーヒ・ラシーディー』では1465年のカザフ・ハン国の建国についても言及されており、ハイダルが初期のカザフ・ハンの一人であるカーシム・ハンと個人的な交友があったことが述べられている。
1895年にネイ・エリアスとエドワード・デニソン・ロスによって『ターリーヒ・ラシーディー』は英語に翻訳された。後にロシア語訳本、新たな英訳本が出版された[1]。
家族
ムハンマド・ハイダルはカシュガルの世襲的支配層であるドゥグラト部のアミールの家系に属する。ムハンマド・フサイン・ミールザー・クルカンを父に持ち、ユーヌス・ハンの娘であるフブ・ニガール・ハニムを母に持つ[20]。父方の祖父であるムハンマド・ハイダル・ミールザー・クルカンはエセン・ブカ・ハンの娘ダウラト・ニガール・ハニムを妻としていた。ムハンマド・ハイダル・ミールザー・クルカンの父アミール・サイイド・アリー・クルカンはワイス・ハンの姉妹ウズン・スルターン・ハニムを妻に持ち、アリーの祖父フダーイダードはヒズル・ホージャからワイスまでの6人のモグーリスタンのハンを擁立した。
母のフブ・ニガール・ハニムはユーヌス・ハンとダウラト・ベグムの間に生まれた三女で、バーブルの母クトゥルク・ニガール・ハニムの妹にあたる。フブ・ニガール・ハニムは1500年に没した[21]。
映画
2007年にカザフフィルム・スタジオは、Kalila Umarov監督のドキュメンタリー映画『ムハンマド・ハイダル・ドゥグラト（Мұхаммед Хайдар Дулати）』を製作した。
脚注
- ^ a b c d 濱田「ターリーヒ・ラシーディー」『中央ユーラシアを知る事典』、327-328頁
- ^ 間野 1987, p. 97.
- ^ 間野 1987, p. 105,108,126.
- ^ 間野 1987, p. 111-112.
- ^ 間野 1987, p. 112-115.
- ^ 間野 1987, p. 116.
- ^ a b 間野 1987, p. 117.
- ^ 間野 1987, p. 118-119.
- ^ 間野 1987, p. 119-120.
- ^ 間野 1987, p. 21.
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- ^ アジア遊牧民族史, p. 795.
- ^ Bell, Charles (1992). Tibet Past and Present. omer Banarsidass Publ.. p. 33. ISBN 81-208-1048-1
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- ^ a b 間野 1987, p. 122.
- ^ Shahzad Bashir, Messianic Hopes and Mystical Visions: The Nurbakhshiya Between Medieval And Modern Islam (2003), p. 236.
- ^ Stan Goron and J.P. Goenka: The Coins of the Indian Sultanates, New Delhi: Munshiram Manoharlal, 2001, pp. 463-464.
- ^ 歴史学研究会編『世界史史料』4（岩波書店, 2010年11月）、271頁
- ^ アジア遊牧民族史, p. 793.
- ^ 間野 1987, p. 99.
- ^ 間野 1987, p. 112.
参考文献
- 貝塚茂樹, 平凡社「羽田明、 ハイダル・ミールザー」『アジア歴史事典』平凡社、1961年。ISBN 9784582108002。 NCID BN01687470。全国書誌番号:21609503。
- 平凡社『アジア歴史事典』（新装復刊版）平凡社、1984年。 NCID BN00524685。
- 濱田正美「ターリーヒ・ラシーディー」『中央ユーラシアを知る事典』収録（平凡社, 2005年4月）
- 間野英二「バーブル・パーディシャーフとハイダル・ミールザー:その相互関係」『東洋史研究』第46巻第3号、東洋史研究會、1987年12月、559-590頁、doi:10.14989/154212、ISSN 03869059、NAID 40002659988。
- ルネ・グルセ, 後藤冨男『アジア遊牧民族史』27-28号（山一書房昭和19年刊の複製）、原書房〈ユーラシア叢書〉、1979年。doi:10.11501/1918115https://iss.ndl.go.jp/books/R100000039-I001527244-00。 NCID BN01181325。NDLJP:1918115。
翻訳元記事参考文献
- Mansura Haidar (translator) (2002), Mirza Haidar Dughlat as Depicted in Persian Sources
