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'''アシツキ''' (葦附、葦付) (学名:{{Snamei||Nostoc verrucosum}})は、[[ネンジュモ属]]に属する[[藍藻]]の1種である。清冽な流水や湧水池に生育し、日本では古くから食用とされてきた<ref name="Hirose1977" /><ref name="Takenaka2012">{{cite book|author=竹中 裕行 & 山口 裕司|year=2012|chapter=ノストック (イシクラゲ)|editor=渡邉 信 (監)|title=藻類ハンドブック|publisher=エヌ・ティー・エス|isbn=978-4864690027|pages=651–654}}</ref>。[[天然記念物]]<ref name="toyoma">[http://www.pref.toyama.jp/sections/3009/3007/dokuhon/hyou/hyou-18.htm 天然記念物の一覧]. 富山県. 2019年9月29日閲覧.</ref>や準[[絶滅危惧種]]<ref name="reddata">[http://jpnrdb.com/index.html 日本のレッドデータブック]. 2019年9月29日閲覧.</ref>に指定している地域もある。 |
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別名・地方名が多く、'''アシツキノリ''' (葦附苔)<ref name="Yoneda1962">{{cite journal|author=米田 勇一|year=1962|title=アシツキノリとカモガワノリ|journal=植物分類 地理|volume=20|pages=313|doi=}}</ref>、'''コトブキノリ'''<ref name="Oku2014">{{cite journal|author=Oku, N., Yonejima, K., Sugawa, T. & Igarashi, Y.|year=2014|title=Identification of the n-1 fatty acid as an antibacterial constituent from the edible freshwater cyanobacterium ''Nostoc verrucosum''|journal=Bioscience, Biotechnology, and Biochemistry|volume=78|pages=1147-1150|doi=10.1080/09168451.2014.918484}}</ref> (寿苔)、'''コトブキタケ'''<ref name="Oku2014" /> (寿茸)、'''ミトクノリ'''<ref name="Oku2014" /> (三徳苔)、'''シガノリ'''<ref name="Oku2014" /> (滋賀苔) とも呼ばれる。アシツキの別名として、他にカモガワノリ (鴨川苔) や キブネノリ (貴船苔)、シラカワノリ (白川苔)、アネガワクラゲ (姉川水母) などが挙げられるが<ref name="Hirose1977" /><ref name="reddata" /><ref name="britanica">[https://kotobank.jp/dictionary/britannica/ ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典].</ref><ref>片岡 博尚 (1990) 藻類光反応変異体分離の現状と夢. ''植物の光反応機構の解析と変異株.'' 東北大学遺伝生態研究センター. pp.13-24.</ref>、これらは近縁種の[[イシクラゲ]]のことを指すこともある<ref name="Yoneda1962" />。カワタケ (川茸、河茸) の名も使われることがあるが<ref name="reddata" />、この名はアシツキやイシクラゲ以外に、遠縁の食用藍藻である[[スイゼンジノリ]]を指すこともある<ref>[http://www.nihon-kankou.or.jp/fukuoka/402281/detail/40209fc2270097692 川茸]. 全国観るなび. 公益社団法人 日本観光振興協会.</ref>。またコウタケ (''Sarcodon aspratus'') ([[担子菌門]][[ハラタケ綱]][[イボタケ目]]) も、カワタケ (革茸) と呼ばれることがある。<!--漢名は、天仙菜。--> |
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==特徴== |
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多数のトリコーム (細胞糸) が粘質多糖で包まれた群体を形成し、直径 10 cm 以上になることもある<ref name="Hirose1977">廣瀬 弘幸 & 山岸 高旺 |
多数のトリコーム (細胞糸) が粘質多糖で包まれた[[群体]]を形成し、直径 10 cm 以上になることもある<ref name="Hirose1977">{{cite book|author=廣瀬 弘幸 & 山岸 高旺|year=1977|chapter=|editor=|title=日本淡水藻図鑑|publisher=内田老鶴圃|isbn=978-4753640515|pages=933}}</ref><ref name="York2002">{{cite book|author=York, P. V. & Johnson, L. R.|year=2002|chapter=|editor=|title=The Freshwater Algal Flora of the British Isles: an Identification Guide to Freshwater and Terrestrial Algae|publisher=Cambridge University Press|isbn=0-521-77051-3|pages=702}}</ref>。群体表面は薄いが丈夫な外皮となり、内部は軟質。色は暗褐色〜暗緑色。群体は最初は中実で球形〜半球形だが、次第に表面は凸凹で瘤状隆起の集まりのようになり、全体は平面的で不定形になる。古い群体では表面に孔が開いて内部の軟質部が露出し、また所々がわずかに中空になる。細胞糸は湾曲しており、群体周縁部では細胞糸が密集しているが、中心部では粗。群体周縁部では、各細胞糸の鞘は黄褐色で明瞭。細胞糸を構成する細胞は短樽形、直径 3-4 µm。異質細胞は亜球形、直径 5–6 µm。アキネートは楕円形、大きさ 5–7 x 7–8 µm、アキネートの細胞壁は平滑で黄色。 |
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多量の粘質多糖 (細胞外高分子物質) を産生することや[[トレハロース]]を蓄積する点では、陸 |
多量の粘質多糖 (細胞外高分子物質) を産生することや[[トレハロース]]を蓄積する点では、陸生の近縁種である[[イシクラゲ]]と類似しているが、水生のアシツキは乾燥耐性を示さない点で異なる<ref>{{cite journal|author=Sakamoto, T., Kumihashi, K., Kunita, S., Masaura, T., Inoue-Sakamoto, K. & Yamaguchi, M.|year=2011|title=The extracellular-matrix-retaining cyanobacterium ''Nostoc verrucosum'' accumulates trehalose, but is sensitive to desiccation|journal=FEMS Microbiology Ecology|volume=77|pages=385-394|doi=10.1111/j.1574-6941.2011.01114.x}}</ref>。細胞外基質はポルフィラ-334 (porphyra-334) を主とするマイコスポリン様アミノ酸 (MAAs) を含む [他の藍藻ではふつうシノリン (shinorine) が主]<ref>{{cite journal|author=Inoue-Sakamoto, K., Nazifi, E., Tsuji, C., Asano, T., Nishiuchi, T., Matsugo, S., ... & Sakamoto, T.|year=2018|title=Characterization of mycosporine-like amino acids in the cyanobacterium ''Nostoc verrucosum''|journal=The Journal of General and Applied Microbiology|volume=64|pages=203-211|doi=10.2323/jgam.2017.12.003}}</ref>。また[[細菌]]の増殖を抑える[[脂肪酸]]を産生することが示されている<ref name="Oku2014" />。 |
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低温の清流や湧水池に季節的に出現する<ref name="Oku2014" />。ふつう水中の岩や石に付着している。[[ヨシ]] (アシ、葦) など植物の茎に付着して生育することもあるとされる<ref name="Yoneda1962" />。世界各地に分布し、日本でも関東、中部、近畿、中国地方の各地から報告がある<ref name="Hirose1977" />。 |
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<!--[[ユスリカ]] (ツヤユスリカ属 ''Cricotopus'') の幼虫が、ときに群体性藍藻に共生することが知られているが、スペインにおいてアシツキの群体内にユスリカ幼虫がときに生育することが報告されている<ref>Sabater, S. & Muñoz, I. |
<!--[[ユスリカ]] (ツヤユスリカ属 ''Cricotopus'') の幼虫が、ときに群体性藍藻に共生することが知られているが、スペインにおいてアシツキの群体内にユスリカ幼虫がときに生育することが報告されている<ref>{{cite journal|author=Sabater, S. & Muñoz, I.|year=2000|title=''Nostoc verrucosum'' (cyanobacteria) colonized by a chironomid larva in a mediterranean stream (Note)|journal=Journal of Phycology|volume=36|pages=59-61|doi=10.1046/j.1529-8817.2000.99100.x}}</ref>。--> |
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==人間との関わり== |
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多数の地方名があることから (上記)、身近な食用藻であったことが伺える<ref name="Oku2014" />。生育環境の悪化などにより、現在ではまれな存在になってしまったと考えられている。現在では培養が成功しており、食品にも利用されている<ref>[https://webun.jp/item/7567883 アシツキ人工栽培成功.岐阜の企業が利賀で試料採取]. 北日本新聞. 2019年5月28日.</ref><ref>[https://www.gifu-np.co.jp/news/20190830/20190830-168838.html 「万葉そば」もちもち食感 人工栽培成功のアシツキ使用]. 岐阜新聞. 2019年8月30日.</ref>。 |
多数の地方名があることから (上記)、身近な食用藻であったことが伺える<ref name="Oku2014" />。生育環境の悪化などにより、現在ではまれな存在になってしまったと考えられている。現在では培養が成功しており、食品にも利用されている<ref>[https://webun.jp/item/7567883 アシツキ人工栽培成功.岐阜の企業が利賀で試料採取]. 北日本新聞. 2019年5月28日.</ref><ref>[https://www.gifu-np.co.jp/news/20190830/20190830-168838.html 「万葉そば」もちもち食感 人工栽培成功のアシツキ使用]. 岐阜新聞. 2019年8月30日.</ref>。 |
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==出典== |
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==引用文献・注釈== |
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==関連項目== |
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2019年12月22日 (日) 12:42時点における版
アシツキ | ||||||||||||||||||
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アシツキの群体全形 (上) と細胞糸 (下)
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分類 | ||||||||||||||||||
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学名 | ||||||||||||||||||
Nostoc verrucosum Vaucher ex Bornet & Flahault 1886[1] | ||||||||||||||||||
シノニム | ||||||||||||||||||
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アシツキ (葦附、葦付) (学名:Nostoc verrucosum)は、ネンジュモ属に属する藍藻の1種である。清冽な流水や湧水池に生育し、日本では古くから食用とされてきた[2][3]。天然記念物[4]や準絶滅危惧種[5]に指定している地域もある。
別名・地方名が多く、アシツキノリ (葦附苔)[6]、コトブキノリ[7] (寿苔)、コトブキタケ[7] (寿茸)、ミトクノリ[7] (三徳苔)、シガノリ[7] (滋賀苔) とも呼ばれる。アシツキの別名として、他にカモガワノリ (鴨川苔) や キブネノリ (貴船苔)、シラカワノリ (白川苔)、アネガワクラゲ (姉川水母) などが挙げられるが[2][5][8][9]、これらは近縁種のイシクラゲのことを指すこともある[6]。カワタケ (川茸、河茸) の名も使われることがあるが[5]、この名はアシツキやイシクラゲ以外に、遠縁の食用藍藻であるスイゼンジノリを指すこともある[10]。またコウタケ (Sarcodon aspratus) (担子菌門ハラタケ綱イボタケ目) も、カワタケ (革茸) と呼ばれることがある。
特徴
多数のトリコーム (細胞糸) が粘質多糖で包まれた群体を形成し、直径 10 cm 以上になることもある[2][11]。群体表面は薄いが丈夫な外皮となり、内部は軟質。色は暗褐色〜暗緑色。群体は最初は中実で球形〜半球形だが、次第に表面は凸凹で瘤状隆起の集まりのようになり、全体は平面的で不定形になる。古い群体では表面に孔が開いて内部の軟質部が露出し、また所々がわずかに中空になる。細胞糸は湾曲しており、群体周縁部では細胞糸が密集しているが、中心部では粗。群体周縁部では、各細胞糸の鞘は黄褐色で明瞭。細胞糸を構成する細胞は短樽形、直径 3-4 µm。異質細胞は亜球形、直径 5–6 µm。アキネートは楕円形、大きさ 5–7 x 7–8 µm、アキネートの細胞壁は平滑で黄色。
多量の粘質多糖 (細胞外高分子物質) を産生することやトレハロースを蓄積する点では、陸生の近縁種であるイシクラゲと類似しているが、水生のアシツキは乾燥耐性を示さない点で異なる[12]。細胞外基質はポルフィラ-334 (porphyra-334) を主とするマイコスポリン様アミノ酸 (MAAs) を含む [他の藍藻ではふつうシノリン (shinorine) が主][13]。また細菌の増殖を抑える脂肪酸を産生することが示されている[7]。
生態
低温の清流や湧水池に季節的に出現する[7]。ふつう水中の岩や石に付着している。ヨシ (アシ、葦) など植物の茎に付着して生育することもあるとされる[6]。世界各地に分布し、日本でも関東、中部、近畿、中国地方の各地から報告がある[2]。
人間との関わり
日本では古くから食用とされており、『万葉集』にアシツキを採取する女性たちを詠んだ大伴家持の歌がある[2][3]。雄神河は庄川の古称。
雄神河 くれなゐ匂ふ をとめらし あしつきとると 瀬に立たすらし 『万葉集』(巻17-4021)
多数の地方名があることから (上記)、身近な食用藻であったことが伺える[7]。生育環境の悪化などにより、現在ではまれな存在になってしまったと考えられている。現在では培養が成功しており、食品にも利用されている[14][15]。
出典
- ^ Guiry, M.D. & Guiry, G.M. (2019) AlgaeBase. World-wide electronic publication, Nat. Univ. Ireland, Galway. http://www.algaebase.org; searched on 28 Septmber 2019.
- ^ a b c d e 廣瀬 弘幸 & 山岸 高旺 (1977). 日本淡水藻図鑑. 内田老鶴圃. pp. 933. ISBN 978-4753640515
- ^ a b 竹中 裕行 & 山口 裕司 (2012). “ノストック (イシクラゲ)”. In 渡邉 信 (監). 藻類ハンドブック. エヌ・ティー・エス. pp. 651–654. ISBN 978-4864690027
- ^ 天然記念物の一覧. 富山県. 2019年9月29日閲覧.
- ^ a b c 日本のレッドデータブック. 2019年9月29日閲覧.
- ^ a b c 米田 勇一 (1962). “アシツキノリとカモガワノリ”. 植物分類 地理 20: 313.
- ^ a b c d e f g Oku, N., Yonejima, K., Sugawa, T. & Igarashi, Y. (2014). “Identification of the n-1 fatty acid as an antibacterial constituent from the edible freshwater cyanobacterium Nostoc verrucosum”. Bioscience, Biotechnology, and Biochemistry 78: 1147-1150. doi:10.1080/09168451.2014.918484.
- ^ ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典.
- ^ 片岡 博尚 (1990) 藻類光反応変異体分離の現状と夢. 植物の光反応機構の解析と変異株. 東北大学遺伝生態研究センター. pp.13-24.
- ^ 川茸. 全国観るなび. 公益社団法人 日本観光振興協会.
- ^ York, P. V. & Johnson, L. R. (2002). The Freshwater Algal Flora of the British Isles: an Identification Guide to Freshwater and Terrestrial Algae. Cambridge University Press. pp. 702. ISBN 0-521-77051-3
- ^ Sakamoto, T., Kumihashi, K., Kunita, S., Masaura, T., Inoue-Sakamoto, K. & Yamaguchi, M. (2011). “The extracellular-matrix-retaining cyanobacterium Nostoc verrucosum accumulates trehalose, but is sensitive to desiccation”. FEMS Microbiology Ecology 77: 385-394. doi:10.1111/j.1574-6941.2011.01114.x.
- ^ Inoue-Sakamoto, K., Nazifi, E., Tsuji, C., Asano, T., Nishiuchi, T., Matsugo, S., ... & Sakamoto, T. (2018). “Characterization of mycosporine-like amino acids in the cyanobacterium Nostoc verrucosum”. The Journal of General and Applied Microbiology 64: 203-211. doi:10.2323/jgam.2017.12.003.
- ^ アシツキ人工栽培成功.岐阜の企業が利賀で試料採取. 北日本新聞. 2019年5月28日.
- ^ 「万葉そば」もちもち食感 人工栽培成功のアシツキ使用. 岐阜新聞. 2019年8月30日.