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[[File:Hatsuga genmai.jpg|thumb|発芽玄米の例]]
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'''発芽玄米'''(はつがげんまい、[[英]]:Hatsuga genmai, Germinated brown rice)は、[[玄米]]を[[発芽]]させた[[米]]である。
'''発芽玄米'''(はつがげんまい、[[英]]:Hatsuga genmai, Germinated brown rice)は、[[玄米]]を[[発芽]](出芽)させた[[米]]で、白米と比較して栄養価が高い玄米を食べやすく加工した製品である。1990年代に発芽に伴い[[γ-アミノ酪酸]](GABA)が増加すると報告された事で注目され商品化が行われた<ref name=bimi2002.2003.12 />


==概要==
==概要==
玄米を 1晩から2晩程度、20℃から30℃の水に浸し、0.5mmほどの[[芽]]が出た状態にしたもの<ref name=bimi2002.2003.12>石渡健一、[https://doi.org/10.11274/bimi2002.2003.12 発芽玄米の機能性] 美味技術研究会誌 2003年 2003巻 3-4号 p.12-18, {{doi|10.11274/bimi2002.2003.12}}</ref>。根が出現すると食味が低下する<ref>石渡健一、[https://doi.org/10.11449/sasj1971.30.1 玄米の出芽制御の解析] 農業施設 1999年 30巻 1号 p.1-10, {{doi|10.11449/sasj1971.30.1}}</ref>ほか、芽が伸びすぎると玄米自身の成長のために消費され栄養価が低下する<ref name=bimi2002.2003.12 />。保存性を高める為に乾燥されたものが流通している。
玄米を約1~2[[日]]程度、[[セルシウス度|摂氏]]32度前後のぬるま[[湯]]に浸し、1mmほどの[[芽]]が出た状態にしたもの。
市販の発芽玄米は人工的に成長を止め、保存性のために再[[乾燥]]等がされているため、高コストである。
家庭で玄米を発芽させて発芽玄米を作る機器やその機能のある炊飯器も市販されている。
自然乾燥の玄米は発芽するが、市販の玄米は加熱乾燥され加熱によって発芽機能が死んでいて発芽しない可能性もある。


玄米を浸水して出芽させた場合、脱籾(脱稃)工程での刺激の影響などで出芽率が低下する<ref name=nskkk.50.316>大久長範、大能俊久、森勝美、[https://doi.org/10.3136/nskkk.50.316 発芽玄米と籾発芽玄米のγ-アミノ酪酸および遊離アミノ酸含量] 日本食品科学工学会誌 2003年 50巻 7号 p.316-318, {{doi|10.3136/nskkk.50.316}}</ref>ため、籾状態で出芽させ乾燥後に脱籾(脱稃)したものもある<ref name=nskkk.50.316 />。
玄米は[[白米]]より栄養豊富である。
発芽玄米はさらに[[発芽]]時の[[酵素]]の働きで、[[モヤシ]]と同様に、玄米にもともと含まれていた栄養成分が増え、玄米の状態では十分に[[消化]]吸収しきれない成分や、新しく有効な成分が発生する。
このことにより炊飯に水量や時間などを要する玄米と違い白米と同様にまたは白米と混ぜて炊くことができるようになる。発芽玄米を白米に混ぜて炊くことで白米に足りない[[栄養素]]を補える。


実際の生産工程では浸水中の雑菌増加<ref name=sasj1971.30.137>鈴木啓太郎、前川孝昭、[https://doi.org/10.11449/sasj1971.30.137 発芽玄米製造時の微生物制御] 農業施設 1999年 30巻 2号 p.137-144, {{doi|10.11449/sasj1971.30.137}}</ref>抑制や発芽率向上のため浸漬水は調整され溶存酸素濃度、浸漬時間、温度の管理を行い<ref>佐竹利子、福森武、劉厚清 ほか、[https://doi.org/10.11357/jsam1937.66.115 高機能性米の調製加工技術の開発 (第1報)] 農業機械学会誌 2004年 66巻 1号 p.115-121, {{doi|10.11357/jsam1937.66.115}}</ref>、食味が良く栄養が損なわれない状態に管理される<ref name=bimi2002.2003.12 />。
==白米・玄米との比較==
玄米は[[白米]]に比べ[[栄養価]]が高く、白米に含有されない[[ビタミンB1]]や[[ミネラル]]を豊富に含んでいる。
発芽玄米は更に栄養豊富なうえ、普通の玄米より[[消化]]も味も良い。甘みが多く感じられ、比較的口にしやすいのも特徴である。
[[発芽]]によって、様々な[[酵素]]が活性化されるため、[[胚乳]]に貯蔵されている[[デンプン]]や[[タンパク質]]が[[分解]]され、甘みや旨みが増す。


==発芽玄米の機能性に関する報告例==
玄米は、普通の炊飯器で炊くと、[[糠]]層の消化が悪く、食感も悪くぼそぼそになる。
* コメ[[アレルギー]]の原因となる[[アレルゲン]]が白米や玄米に比べ低減化されることが報告された<ref>YAMADA C et al. "[https://doi.org/10.1271/bbb.69.1877 Degradation of Soluble Proteins Including Some Allergens in Brown Rice Grains by Endogenous Proteolytic Activity during Germination and Heat-Processing]"., ''Biosci Biotechnol Biochem.'',69(10):1877-83.(2005), {{doi|10.1271/bbb.69.1877}}, {{PMID|16244437}}</ref>。
発芽玄米は 普通の[[炊飯器]]で炊いても比較的消化が良い為、玄米食増加に貢献している。


* 発芽玄米は、玄米や白米よりも血中の解毒酵素として知られるホモシステインチオラクトナーゼ活性を高めたり、[[糖尿病]]合併症で発症率が高い[[神経]]障害の[[症状]]を抑制したりする効果があることが報告された<ref>Usuki S et al. "[https://doi.org/10.1186/1743-7075-4-25 Effect of pre-germinated brown rice intake on diabetic neuropathy in streptozotocin-induced diabetic rats.]" ''Nutr Metab (Lond).'' 23;4:25.(2007), {{doi|10.1186/1743-7075-4-25}}</ref>。
ミネラルの消化吸収が、従来の玄米では[[フィチン酸]]によって抑制されがちであったが、発芽玄米では、フィチン酸が抑えられ、効率よく行われると言われている<ref>{{Cite web|url=http://www4.dhc.co.jp/supplejiten/html/54.html|title=発芽玄米、作用メカニズム
|publisher=[[DHC]]|accessdate=2010-10-30}}</ref>
[[血圧]]上昇を抑制する働きを持つ[[Γアミノ酪酸|ガンマアミノ酪酸]](通称:ギャバ)が玄米より多く、白米の約10倍程度含有される。


* 授乳期の女性41名を対象に行った2群の無作為割付比較試験で、発芽玄米を[[主食]]とした[[グループ]]の食生活が、[[ストレス (生体)|ストレス]]の指標となる[[唾液]]中の[[アミラーゼ]]活性を低下させ、さらに、POMSという[[心理テスト]]により、怒り、敵意、[[うつ]]、[[疲労]]、活気などの[[感情]]程度を表す総合感情障害度(TMD)も、低減させると報告がある<ref>Sakamoto S et al."[https://doi.org/10.1007/s00394-007-0678-3 Pre-germinated brown rice could enhance maternal mental health and immunity during lactation.]" ''Eur J Nutr.'' 46(7):391-6.(2007), {{doi|10.1007/s00394-007-0678-3}}</ref>。この[[研究]]では、白米を主食としたグループでも同様の[[検証]]を行っているが、そのグループでは、発芽玄米で[[観察]]された[[効果]]は認められなかったとしている。また、この研究の中では、[[母乳]]中の[[免疫]]成分も調べており、発芽玄米を摂取していたグループにおいて免疫成分が増えることも観察している
近年、コメ[[アレルギー]]の原因となる[[アレルゲン]]が白米や玄米に比べ低減化されることも発見された<ref>YAMADA C et al. "Degradation of Soluble Proteins Including Some Allergens in Brown Rice Grains by Endogenous Proteolytic Activity during Germination and Heat-Processing" ''Biosci Biotechnol Biochem.'',69(10):1877-83.(2005) PMID 16244437</ref>。


最新の研究によると、発芽玄米は、玄米や白米よりも血中の解毒酵素として知られるホモシステインチオラクトナーゼ活性高めたり[[糖尿病]]合併で発症率が高い[[神経]]障害の[[症状]]を抑制したりる効果があることが報告され<ref>Usuki S et al. "Effect of pre-germinated brown rice intake on diabetic neuropathy in streptozotocin-induced diabetic rats." ''Nutr Metab (Lond).'' 23;4:25.(2007)</ref>。
* マウスを用いた[[動物実験]]では、発芽玄米がストレスに対して抵抗力有しうつ様状になりにくことや、[[]]の[[セロトニン]]増や可能性があることが報告されている<ref>Mamiya T et al."Effects of pre-germinated brown rice on depression-like behavior in mice." ''Pharmacol Biochem Behav.'' 86(1):62-7.(2007), {{doi|10.1016/j.pbb.2006.12.008}}</ref>。
ホモシステインチオラクトナーゼ活性とは、パラオキソナーゼ(PON)ファミリーで知られる酵素が有する活性で、LDLを酸化させ、[[動脈硬化]]の[[リスク]]を高める原因物質のホモシステインチオラクトンを[[加水分解]]する重要な働きを担っている。
PONは、[[農薬]]で使用される[[有機リン]]系農薬の[[解毒]]にも関与しており、この酵素の[[遺伝子]]の多型と有機リン系農薬を無毒化する活性との間には、[[相関]]があることも知られている<ref>Mackness B et al. "Human serum paraoxonase." ''Gen Pharmacol.''31(3):329-36.(1998)</ref>。
発芽玄米が有機リン系農薬に曝露した対象者への諸病状が改善できるかどうかはまだ不明である。


==出典・脚注==
また、[[筑波大学]]名誉教授の村上和雄らは、授乳期の女性41名を対象に行った2群の無作為割付比較試験で、発芽玄米を[[主食]]とした[[グループ]]の食生活が、[[ストレス (生体)|ストレス]]の指標となる[[唾液]]中の[[アミラーゼ]]活性を低下させ、さらに、POMSという[[心理テスト]]により、怒り、敵意、[[うつ]]、[[疲労]]、活気などの[[感情]]程度を表す総合感情障害度(TMD)も、低減させる報告した<ref>Sakamoto S et al."Pre-germinated brown rice could enhance maternal mental health and immunity during lactation." ''Eur J Nutr.'' 46(7):391-6.(2007)</ref>。
{{Reflist}}
この[[研究]]では、白米を主食としたグループでも同様の[[検証]]を行っているが、そのグループでは、発芽玄米で[[観察]]された[[効果]]は認められなかったとしている。
また、この研究の中では、[[母乳]]中の[[免疫]]成分も調べており、発芽玄米を摂取していたグループにおいて免疫成分が増えることも観察している。
発芽玄米がストレスを軽減する[[作用]]機構は明らかになっていないが、行動[[薬理学]]的な手法で研究された[[動物実験]]では、発芽玄米がストレスに対して抵抗力を有し、うつ様症状になりにくいことや、[[脳]]内の[[セロトニン]]量を増やす可能性があることも報告されている<ref>Mamiya T et al."Effects of pre-germinated brown rice on depression-like behavior in mice." ''Pharmacol Biochem Behav.'' 86(1):62-7.(2007)</ref>。

==主な成分==
[[ビタミンB1]] - [[ビタミンE]] - [[脂質]] - [[炭水化物]] - [[ナトリウム]] - [[食物繊維]] - [[カルシウム]] - [[γ-アミノ酪酸]] - [[γ-オリザノール]] - [[フィチン酸|IP6]] - 総イノシトール - 総フェルラ酸 - [[マグネシウム]] - [[カリウム]] - [[亜鉛]]

==発芽玄米を用いた主な食品==
白米と同様無菌パックのご飯も市販されている。
発芽玄米を原料とした[[健康食品]]も多く市販されている。以下がその例である。

*[[納豆]]
*[[麦茶]]
*[[スープ]]
*[[パン]]
*[[酒]]

==脚注==
<references/>


==関連項目==
==関連項目==
*[[全粒穀物]]
* [[全粒穀物]]
*[[w:Sprouted bread|Sprouted bread]]([[発芽パン]])
* [[w:Sprouted bread|Sprouted bread]](゜゜発芽パン]])


==外部リンク==
==外部リンク==
*[http://www.pgbr.jp/ 日本発芽玄米協会]
* [http://www.mfbr.org/hatsugagenmai.html 発芽玄米とは] 高機能玄米協会
* 海老塚広子、佐々木千恵、喜瀬光男 ほか、[https://doi.org/10.2740/jisdh.18.216 発芽玄米含有レトルト米飯を摂取したときの健常人の栄養状態及び身体状況に与える影響] 日本食生活学会誌 2007年 18巻 3号 p.216-222, {{doi|10.2740/jisdh.18.216}}
* 笹川秋彦、内木由美子、長島誠一 ほか、[https://doi.org/10.5458/jag.53.27 圧力処理を利用したGABA富化玄米の製造とその特徴] Journal of Applied Glycoscience., 2006年 53巻 1号 p.27-33, {{doi|10.5458/jag.53.27}}


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2018年9月25日 (火) 04:58時点における版

発芽玄米の例

発芽玄米(はつがげんまい、:Hatsuga genmai, Germinated brown rice)は、玄米発芽(出芽)させたで、白米と比較して栄養価が高い玄米を食べやすく加工した製品である。1990年代に発芽に伴いγ-アミノ酪酸(GABA)が増加すると報告された事で注目され商品化が行われた[1]

概要

玄米を 1晩から2晩程度、20℃から30℃の水に浸し、0.5mmほどのが出た状態にしたもの[1]。根が出現すると食味が低下する[2]ほか、芽が伸びすぎると玄米自身の成長のために消費され栄養価が低下する[1]。保存性を高める為に乾燥されたものが流通している。

玄米を浸水して出芽させた場合、脱籾(脱稃)工程での刺激の影響などで出芽率が低下する[3]ため、籾状態で出芽させ乾燥後に脱籾(脱稃)したものもある[3]

実際の生産工程では浸水中の雑菌増加[4]抑制や発芽率向上のため浸漬水は調整され溶存酸素濃度、浸漬時間、温度の管理を行い[5]、食味が良く栄養が損なわれない状態に管理される[1]

発芽玄米の機能性に関する報告例

  • 発芽玄米は、玄米や白米よりも血中の解毒酵素として知られるホモシステインチオラクトナーゼ活性を高めたり、糖尿病合併症で発症率が高い神経障害の症状を抑制したりする効果があることが報告された[7]
  • 授乳期の女性41名を対象に行った2群の無作為割付比較試験で、発芽玄米を主食としたグループの食生活が、ストレスの指標となる唾液中のアミラーゼ活性を低下させ、さらに、POMSという心理テストにより、怒り、敵意、うつ疲労、活気などの感情程度を表す総合感情障害度(TMD)も、低減させるとの報告がある[8]。この研究では、白米を主食としたグループでも同様の検証を行っているが、そのグループでは、発芽玄米で観察された効果は認められなかったとしている。また、この研究の中では、母乳中の免疫成分も調べており、発芽玄米を摂取していたグループにおいて免疫成分が増えることも観察している。
  • マウスを用いた動物実験では、発芽玄米がストレスに対して抵抗力を有し、うつ様症状になりにくいことや、内のセロトニン量を増やす可能性があることが報告されている[9]

出典・脚注

  1. ^ a b c d 石渡健一、発芽玄米の機能性 美味技術研究会誌 2003年 2003巻 3-4号 p.12-18, doi:10.11274/bimi2002.2003.12
  2. ^ 石渡健一、玄米の出芽制御の解析 農業施設 1999年 30巻 1号 p.1-10, doi:10.11449/sasj1971.30.1
  3. ^ a b 大久長範、大能俊久、森勝美、発芽玄米と籾発芽玄米のγ-アミノ酪酸および遊離アミノ酸含量 日本食品科学工学会誌 2003年 50巻 7号 p.316-318, doi:10.3136/nskkk.50.316
  4. ^ 鈴木啓太郎、前川孝昭、発芽玄米製造時の微生物制御 農業施設 1999年 30巻 2号 p.137-144, doi:10.11449/sasj1971.30.137
  5. ^ 佐竹利子、福森武、劉厚清 ほか、高機能性米の調製加工技術の開発 (第1報) 農業機械学会誌 2004年 66巻 1号 p.115-121, doi:10.11357/jsam1937.66.115
  6. ^ YAMADA C et al. "Degradation of Soluble Proteins Including Some Allergens in Brown Rice Grains by Endogenous Proteolytic Activity during Germination and Heat-Processing"., Biosci Biotechnol Biochem.,69(10):1877-83.(2005), doi:10.1271/bbb.69.1877, PMID 16244437
  7. ^ Usuki S et al. "Effect of pre-germinated brown rice intake on diabetic neuropathy in streptozotocin-induced diabetic rats." Nutr Metab (Lond). 23;4:25.(2007), doi:10.1186/1743-7075-4-25
  8. ^ Sakamoto S et al."Pre-germinated brown rice could enhance maternal mental health and immunity during lactation." Eur J Nutr. 46(7):391-6.(2007), doi:10.1007/s00394-007-0678-3
  9. ^ Mamiya T et al."Effects of pre-germinated brown rice on depression-like behavior in mice." Pharmacol Biochem Behav. 86(1):62-7.(2007), doi:10.1016/j.pbb.2006.12.008

関連項目

外部リンク