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「ガロア理論の基本定理」の版間の差分

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Enyokoyama (会話 | 投稿記録)
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2014年4月29日 (火) 14:38時点における版

数学では、ガロア理論の基本定理(fundamental theorem of Galois theory)は、体の拡大の構造を記述した結果である。

定理の最も基本的な形は、有限拡大(finite extension)でガロア拡大である体の拡大 E/F が与えられると、1:1の対応中間体(intermediate field)とガロア群部分群の間に存在する。(中間体とは、F ⊆ K ⊆ E を満たす体のことを言う、それらは E/F の部分拡大と言う。)

証明

基本定理の証明は、自明なことではない。通常の扱いで最も重要な点は、{{仮リンク|エミール・アルティン|en|Emil Artin}}(Emil Artin)のむしろ微妙でデリケートな結果であり、与えられた自己同型群により固定された中間体の次元を制御することができる。ガロア拡大 K/F の自己同型群は、体 K 上の函数として線型独立である。この事実は、より一般的な事実である指標(characters)の線型独立から従う。

原始的元定理英語版(primitive element theorem)を使う単純な正当な証明もあり、おそらく有限体の場合に独立した(しかしより簡単な)証明が要求されているので、この証明は現代的な手法により棄却されているかのように見える。[1]

抽象的な言葉で言うと、ガロア接続(Galois connection)が存在する。性質は全く形式的であるが、順序集合(poset)の同型の証明が必要である。

対応の明確な記述

有限拡大に対し、対応は次のように明確に述べることができる。

  • Gal(E/F) の任意の部分群 H に対し、対応する体は普通 EH と書き、全ての H の自己同型により固定される E の元の集合である。
  • E/F 任意の中間体 K に対し、対応する部分群は、まさに Aut(E/K) に一致し、全ての K の元を固定する Gal(E/F) の中の自己同型の集合である。

例えば、頂点にある体 E は Gal(E/F) の自明な部分群に対応し、基礎体 F は Gal(E/F) の全体に対応する。

対応の性質

対応はつぎのような有益な性質を持っている。

  • 逆包含関係(inclusion-reversing)。部分群の包含関係 H1 ⊆ H2 が成り立つことと体の包含関係 EH1 ⊇ EH2 が成り立つこととは同値。
  • 拡大次数は群の位数に関係していて、方法は逆包含関係と整合している。特に H が Gal(E/F) の部分群であれば |H| = [E:EH] であり |Gal(E/F)/H| = [EH:F] である。
  • 体 EH は F の正規拡大(normal extension)であること(同じことであるが分離拡大の部分拡大は分離的であるのでガロア拡大である)と、H が Gal(E/F) の正規部分群であることとは同値である。この場合は、Gal(E/F) の元の EH への制限は、Gal(EH/F) と商群(quotient group) Gal(E/F)/H の間の同型(isomorphism)を惹き起す。

部分体と部分群の格子英語版(Lattice of subgroups)

体 K = Q(√2, √3) = Q(√2)(√3) と考える。最初 K は √2 を添加することにより決定され、次に √3 を添加することで決定されるので、K の各々の元は次ように表すことができる。

ここに a, b, c, d は有理数である。このガロア群 G = Gal(K/Q) は a を固定するような K の自己同型を試すことで決定することができる。ガロア群の中の置換は基本多項式の根の入れ替えだけとすることができるので、そのような自己同型は √2 を √2 もしくは −√2 へ写し、√3 を √3 もしくは −√3 へ写す必要がある。f が √2 と −√2 とを入れ替えるとすると、

となり、g が √3 と −√3 を入れ替えるとすると、

となる。これらは明らかに K の自己同型である。何の変えることをしない単位元である自己同型 e も存在し、f と g の合成も存在し、それらな両方の'根基の符号を変える。

従って、

と G はクラインの四元群に同型である。この群は 5つの部分群を持ち、それらの各々は定理を通して K の部分体である。

  • (点に元のみを含む)自明な部分群は、K の全体に対応する。
  • G の全体は、基礎体 Q に対応する。
  • 2つの元の部分群 {1, f } は、f が √3 を固定するので部分体 Q(√3) に対応する。
  • 2つの元の部分群 {1, g } は、再び g が √2 を固定するので部分体 Q(√2) に対応する。
  • 2つの元の部分群 {1, fg} は、fg が √6 を固定するので部分体 Q(√6) に対応する。

非アーベル的な例

部分体と部分群の格子

次の例はガロア群がアーベル群でない最も簡単な例である。

Q 上の多項式 x3−2 の分解体 K を考える。すなわち、K = Q (θ, ω) で、ここに θ は 2 の立法根であり、ω は 1 の立法根である(が 1 ではない)。例えば、K を複素数の中の体と考えると、θ を2 の実立法根で、ω を

とする。ガロア群 G = Gal(K/Q) は 6 つの元をもち、3つの対象の置換群と同型である。G は 2つの自己同型、いわば、f と g により生成され、それらは θ と ω の効果により次のように決定される。

と、従って、

G の部分群と対応する部分体は次のようになる。

  • 普通に行うように、G 全体は基礎体 Q に対応し、自明な群 {1} は K 全体に対応する。
  • 位数 3 の群、{1, f, f 2} が唯一、存在する。対応する部分体は Q(ω) であり、これは Q 上、次数 2 であり(ω 最小多項式は x2 + x + 1 )、G の指数(index) 2 の G の部分群であるという事実に対応している。また、この部分群は正規部分群で、Q 上で正規な体であるという事実に対応している。
  • 位数 2 の部分群が 3個存在し、{1, g}、{1, gf}、{1, gf2} で、これらがそれぞれ 3つの部分体 Q(θ), Q(ωθ), Q2θ) に対応している。3つの部分体は Q 上、次数 3 の部分体であり、指数 3 をもつ G の部分群に対応している。注意すべきは、部分群が G で正規部分群ではなく、この事実は部分体は Q 上、ガロア的になっていないという事実に対応している。例えば、Q(θ) は多項式 x3−2 の根を一つしか持っていないので、Q 上、正規ではありえない。

応用

この定理は拡大体 E/F の中間体の分類という難しく聞こえる問題を、ある有限群の部分群を列挙せよというより扱い易い問題へ変換している。

例えば、一般の五次方程式式が解けないアーベル-ルフィニの定理を参照)ことを証明するため、まず最初に、根基による拡大(radical extension)(α を F のある元の n 番目の根としたときに F(α) となるような拡大)により問題を言い換え、この基本定理を使い、根基拡大の問題を直接対応できる群の問題へ変換する。

クンマー理論類体論のような理論は、この基本定理から予想することができる。

無限の場合

この基本定理には、無限代数拡大(algebraic extension)へ適用できるバージョンも存在し、正規拡大(normal extension)であり、分離拡大(separable extension)である。このバージョンは、クルル位相英語版(Krull topology)というある位相構造(topological structure)を定義することを意味し、そこでの閉集合である部分群は上記の対応と整合している。

参考文献

  1. ^ See Marcus, Daniel (1977). Number Fields. Appendix 2. New York: Springer-Verlag. ISBN 0-387-90279-1