視覚誘導性自己運動感覚
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視覚誘導性自己運動感覚(しかくゆうどうせいじこうんどうかんかく、ベクション(英: vection)とも)とは、実際には静止している人間が、視覚情報によって移動しているような感覚が引き起こされてしまう現象である[1]。1966年、ジェームズ・ギブソンにより報告された[2]この現象は、視覚情報が外界の物体の形状・運動を把握するだけでなく、自身の運動を把握するためにも使われる、ということを示している例でもある[3]。
この現象が誘発されやすい条件として、中心視よりも周辺視にパターンを見せることが有効であると言われている[4][5]。しかし、周辺視野への刺激よりむしろ、パターンが背景として知覚されることが重要であるとも報告されている[6]。また、自分が動く可能性があるという認識を持っていることも重要とされる[6]。
実例
[編集]- トレイン・イリュージョン(英: Train Illusion)[7]
- 停車中の列車から、動き出した別の列車を見ると、あたかも自分の乗っている列車が動いているように感じることがある。これは、日常生活でしばしば経験できるこの現象の一例である[8]。
- VR酔い
- ヘッドマウントディスプレイ等を使い、視界いっぱいに映像を見るという特性上、VRでは自己運動感覚が容易に引き起こされる[9]。そのため、VR映像を体験後、倦怠感、不快感や嘔吐などの症状が生じる「VR酔い」が起こりやすくなっている[10]。
応用例
[編集]- 高速道路などでは、渋滞緩和や速度超過の対策として、発光体を利用した走光型視線誘導システムが利用されている[11][12]。
- スパイダーマンをはじめとする多くのアクション映画や、ガールズ&パンツァーなどのアニメ作品では、この現象を利用した表現が多く使われている[13]。
出典
[編集]- ^ 『大人も知らない?続ふしぎ現象事典』2023年、マイクロマガジン社、p.126
- ^ 妹尾武治「ベクションとは何だ!?」共立出版<共立スマートセレクション16> p1、ISBN 978-4-320-00918-9。
- ^ 日本認知学会編「認知科学辞典」共立出版 ISBN 4-320-09445-X p.54 北﨑充晃「ヴェクション」
- ^ 大山正ほか「新編感覚・知覚心理学ハンドブック」誠信書房、ISBN 4-414-30503-9、p.929。
- ^ Brandt, Dichgans, Koenig「Differential effects of central versus peripheral vision on egocentric and exocentric motion perception」『Experimental Brain Research』16巻5号、1973年3月。
- ^ a b 日本視覚学会編「視覚情報処理ハンドブック」朝倉書店、ISBN 4-254-10157-0、p.422。
- ^ 妹尾武治『脳は、なぜあなたをだますのか』筑摩書房〈ちくま新書〉、29頁。ISBN 978-4-480-06909-2。
- ^ 後藤倬男、田中平八・編『錯視の科学ハンドブック』東京大学出版会、273頁。ISBN 978-4-13-011115-7。
- ^ 妹尾武治『ベクションとは何だ!?』共立出版〈共立スマートセレクション16〉、25頁。ISBN 978-4-320-00918-9。
- ^ “VR酔い不快感が起こる仕組みと対処法とは”. 毎日新聞. (2016年6月21日)
- ^ “ベクション”. 中日本高速道路株式会社. 2016年9月1日閲覧。
- ^ 川島祐貴、内川惠二、金子寛彦、福田一帆、山本浩司、木屋研二「道路側面に設置された点滅柱状物体により生起する視覚誘導自己運動感覚を交通工学的に応用した自動車運転者の速度感覚変化手法」映像情報メディア学会誌 Vol.65 No.7、doi:10.3169/itej.65.833、2016年9月1日閲覧。
- ^ 妹尾武治『脳は、なぜあなたをだますのか』筑摩書房〈ちくま新書〉、42頁。ISBN 978-4-480-06909-2。