「マーヘヴナのクフーリン」の版間の差分

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『'''マーヘヴナのクフーリン'''』({{lang-en|Cuchulain of Muirthemne}})は[[オーガスタ・グレゴリー]]の作家としてのデビュー作{{refnest|group=""|ただし1883年には旅行記「ポルトガルを通り抜けて」を『[[隔週評論]]』誌に寄稿して原稿料を得た経験があり<ref>杉山寿美子『レイディ・グレゴリ』 p.77</ref>、執筆業について全く未経験であったという訳ではない。}}。1902年初版。
『'''マーヘヴナのクフーリン'''』({{lang-en|Cuchulain of Muirthemne}})は[[オーガスタ・グレゴリー]]の作家としてのデビュー作{{refnest|group=注|ただし1883年には旅行記「ポルトガルを通り抜けて」を『[[隔週評論]]』誌に寄稿して原稿料を得た経験があり<ref>杉山寿美子『レイディ・グレゴリ』 p.77</ref>、執筆業について全く未経験であったという訳ではない。}}。1902年初版。
[[トマス・マロリー|マロリー]]の『[[アーサー王の死]]』をモデルとし、アイルランドの伝説上の英雄[[クフーリン]]にまつわる伝承を収集・編集してひとつながりの物語の形に整えた再話文学であり、語り口として[[アイルランド英語]]を採用した[[方言文学]]でもある。
[[トマス・マロリー|マロリー]]の『[[アーサー王の死]]』をモデルとし、アイルランドの伝説上の英雄[[クフーリン]]にまつわる伝承を収集・編集してひとつながりの物語の形に整えた再話文学であり、語り口として[[アイルランド英語]]を採用した[[方言文学]]でもある。


「マーヘヴナのクフーリン」という転写はこの作品の第一章のみを日本語訳した[[山宮允]]に依、日本語文献ではこの他にも「ムルヘヴネのクフーレン」<ref>[[勝田孝興]]『研究社英米文学評伝叢書80 グレゴリ夫人』p.15</ref>・「ムルテウネのクーフリン」<ref name="ケルト事典">『ケルト事典』p.86 創元社</ref>・「メルズヴナのクーフリン」<ref>『研究叢書25 ケルト復興』p.317</ref>といった名で呼ばれる
「マーヘヴナのクフーリン」という転写はこの作品の第一章のみを日本語訳した[[山宮允]]に依るもので、日本語文献ではこの他にも様々な転写に基づいた題名で呼ばれている{{refnest|group=注|「ムルヘヴネのクフーレン」<ref>[[勝田孝興]]『研究社英米文学評伝叢書80 グレゴリ夫人』p.15</ref>・「ミューレヴナのクーフリン」<ref>『イェイツをめぐる女性たち』p.138</ref>・「ムイルエヴナのクフーリン」<ref>『イェイツ詩辞典』pp.52,97</ref>・「ムルテウネのクーフリン」<ref name="ケルト事典"/>・「メルズヴナのクーフリン」<ref>『研究叢書25 ケルト復興』p.317</ref>など}}


==評価・反応==
==評価・反応==
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[[W・B・イェイツ]]は、デビュー以前のグレゴリーの執筆能力を評価しておらず、またゲール語からの翻訳能力を有していないとも考えていた。
[[W・B・イェイツ]]は、デビュー以前のグレゴリーの執筆能力を評価しておらず、またゲール語からの翻訳能力を有していないとも考えていた。
事実、後者に関してはイェイツの見立ては正しく、『マーヘヴナのクフーリン』が直接依拠していたのは{{仮リンク|アレクサンダー・カーマイケル|en|Alexander Carmichael}}が採集した口碑や<ref>『デアドラ精選シリーズ2 デアドリー』p.143</ref>、{{仮リンク|アンリ・ダルボワ・ド・ジュバンヴィル|en|Marie Henri d'Arbois de Jubainville}}、[[クノ・マイアー]]、{{仮リンク|ユージン・オカリー|en|Eugene O'Curry}}、[[ホイットリー・ストークス]]、[[エルンスト・ヴィンディシュ]],
事実、後者に関してはイェイツの見立ては正しく、『マーヘヴナのクフーリン』が直接依拠していたのは{{仮リンク|アレクサンダー・カーマイケル|en|Alexander Carmichael}}が採集した口碑や<ref>『デアドラ精選シリーズ2 デアドリー』p.143</ref>、{{仮リンク|アンリ・ダルボワ・ド・ジュバンヴィル|en|Marie Henri d'Arbois de Jubainville}}、[[クノ・マイアー]]、{{仮リンク|ユージン・オカリー|en|Eugene O'Curry}}、[[ホイットリー・ストークス]]、[[エルンスト・ヴィンディシュ]],
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{{仮リンク|ハインリヒ・ツィマー|en|Heinrich Zimmer}}などのケルト学者らによる古文献の翻訳成果である<ref name="ケルト事典">『ケルト事典』p.86 創元社</ref>。
しかし、『マーヘヴナのクフーリン』に先立ってグレゴリーが試作した「ウシュナの子」(クフーリンの伯父である王がうら若い娘[[デアドラ]]を娶らんとして、
しかし、『マーヘヴナのクフーリン』に先立ってグレゴリーが試作した「ウシュナの子」(クフーリンの伯父である王がうら若い娘[[デアドラ]]を娶らんとして、
彼女の恋人を謀殺する物語)や「クフーリンの死」の再話を読んで考えを改め、以来彼女の執筆を精神的に支援するようになった。
彼女の恋人を謀殺する物語)や「クフーリンの死」の再話を読んで考えを改め、以来彼女の執筆を精神的に支援するようになった。

2021年11月19日 (金) 17:26時点における版

マーヘヴナのクフーリン』(英語: Cuchulain of Muirthemne)はオーガスタ・グレゴリーの作家としてのデビュー作[注 1]。1902年初版。 マロリーの『アーサー王の死』をモデルとし、アイルランドの伝説上の英雄クフーリンにまつわる伝承を収集・編集してひとつながりの物語の形に整えた再話文学であり、語り口としてアイルランド英語を採用した方言文学でもある。

「マーヘヴナのクフーリン」という転写はこの作品の第一章のみを日本語訳した山宮允に依るもので、日本語文献ではこの他にも様々な転写に基づいた題名で呼ばれている[注 2]

評価・反応

『マーヘヴナのクフーリン』は商業的な成功を収めた[7]。海外においても読者を獲得し、アメリカでは時の大統領セオドア・ルーズベルト[8]、『トムソーヤの冒険』のマーク・トウェインがグレゴリーに感想を寄せている[9]。なおグレゴリーはルーズベルトと、1911年におけるアベイ座のニューヨーク公演に際し直接面会する機会を得てもいる[10]

W・B・イェイツは、デビュー以前のグレゴリーの執筆能力を評価しておらず、またゲール語からの翻訳能力を有していないとも考えていた。 事実、後者に関してはイェイツの見立ては正しく、『マーヘヴナのクフーリン』が直接依拠していたのはアレクサンダー・カーマイケル英語版が採集した口碑や[11]アンリ・ダルボワ・ド・ジュバンヴィル英語版クノ・マイアーユージン・オカリー英語版ホイットリー・ストークスエルンスト・ヴィンディシュ, ハインリヒ・ツィマー英語版などのケルト学者らによる古文献の翻訳成果である[5]。 しかし、『マーヘヴナのクフーリン』に先立ってグレゴリーが試作した「ウシュナの子」(クフーリンの伯父である王がうら若い娘デアドラを娶らんとして、 彼女の恋人を謀殺する物語)や「クフーリンの死」の再話を読んで考えを改め、以来彼女の執筆を精神的に支援するようになった。

書誌情報

  • W・B・イェイツ、A・P・グレイヴス 山宮允訳 (1925), 世界童話大系8 愛蘭篇 イエイツ童話集・グレイヴズ童話集, doi:10.11501/978859 
底本のうちの一冊、A・P・グレイヴスの Irish Fairy Book が「マーヘヴナのクフーリン」の第一章のみを収録していたため、この『世界童話大系8 愛蘭篇』にも第一章のみが日本語訳されていて収録されている。著作権保護期間は終了しており、ウィキソースにて閲覧可能。 オーガスタ・グレゴリー「マーヘヴナのクフーリン」
第七章「ウシュナの子」の翻訳のみ収録。

注釈

  1. ^ ただし1883年には旅行記「ポルトガルを通り抜けて」を『隔週評論』誌に寄稿して原稿料を得た経験があり[1]、執筆業について全く未経験であったという訳ではない。
  2. ^ 「ムルヘヴネのクフーレン」[2]・「ミューレヴナのクーフリン」[3]・「ムイルエヴナのクフーリン」[4]・「ムルテウネのクーフリン」[5]・「メルズヴナのクーフリン」[6]など

出典

  1. ^ 杉山寿美子『レイディ・グレゴリ』 p.77
  2. ^ 勝田孝興『研究社英米文学評伝叢書80 グレゴリ夫人』p.15
  3. ^ 『イェイツをめぐる女性たち』p.138
  4. ^ 『イェイツ詩辞典』pp.52,97
  5. ^ a b 『ケルト事典』p.86 創元社
  6. ^ 『研究叢書25 ケルト復興』p.317
  7. ^ 杉山寿美子『レイディ・グレゴリ』 p.153
  8. ^ Letter from President Roosevelt - ニューヨーク公共図書館
  9. ^ 杉山寿美子『レイディ・グレゴリ』 p.149
  10. ^ 杉山寿美子『レイディ・グレゴリ』 p.257
  11. ^ 『デアドラ精選シリーズ2 デアドリー』p.143