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[[1935年]]には[[ウェンデル・スタンリー]]がこのウイルスの[[電子顕微鏡]]観察のために[[結晶]]化に成功し、結晶化後も活性を失わないことを示した。ウイルスは生物というより物質に近いことが明らかになり、彼はこの業績により[[1946年]]度[[ノーベル化学賞]]を授与された。
[[1935年]]には[[ウェンデル・スタンリー]]がこのウイルスの[[電子顕微鏡]]観察のために[[結晶]]化に成功し、結晶化後も活性を失わないことを示した。ウイルスは生物というより物質に近いことが明らかになり、彼はこの業績により[[1946年]]度[[ノーベル化学賞]]を授与された。


[[1955年]]、H.フレンケル=コンラートとロブリー・ウィリアムズにより、精製されたTMVの[[RNA]]と、それを包む[[カプシド]](コート)[[タンパク質]]が自動的に結合してウイルスとして機能することが示され、これが最も安定な構造([[自由エネルギー]]が最低)であることが明らかになった。宿主細胞内でもこのメカニズムにより会合が起こると考えられる。
[[1955年]]、H.フレンケル=コンラートとロブリー・ウィリアムズにより、精製されたTMVの[[リボ核酸|RNA]]と、それを包む[[カプシド]](コート)[[タンパク質]]が自動的に結合してウイルスとして機能することが示され、これが最も安定な構造([[自由エネルギー]]が最低)であることが明らかになった。宿主細胞内でもこのメカニズムにより会合が起こると考えられる。


結晶学者[[ロザリンド・フランクリン]]はスタンリーのもとで[[X線回折]]による研究を行い、後にTMVの模型を造った([[1958年]])。彼女はTMVが中空で中に1本鎖のRNAが入っていると想像したが、それが正しいことは彼女の死後証明された。
結晶学者[[ロザリンド・フランクリン]]はスタンリーのもとで[[X線回折]]による研究を行い、後にTMVの模型を造った([[1958年]])。彼女はTMVが中空で中に1本鎖のRNAが入っていると想像したが、それが正しいことは彼女の死後証明された。

2006年10月14日 (土) 12:43時点における版

タバコモザイク病は、タバコモザイクウイルスによる植物病気タバコなどの葉に、モザイク状の斑点ができ葉の成長を悪くする病気。

知られている限りで9科、125種の植物に感染し、その中にはタバコ、トマトトウガラシキュウリのほか多くの花卉がある。

タバコモザイクウイルスには病原性の異なる多くの系統があり、異なる系統が同時には増殖しないことから、弱毒株をワクチンのように用いて強毒株による被害を防ぐ方法も試みられている。

タバコモザイクウイルス

タバコモザイクウイルス(Tobacco mosaic virus、TMVと略す)は1本鎖+鎖型RNAウイルスである。初めて発見されたウイルスであり、最も詳細に研究された植物ウイルスでもある。

1883年アドルフ・マイヤー細菌の感染と同じように植物間を転移することを初めて記載した。

1892年にはドミトリー・イワノフスキーにより、また1898年にはマルティヌス・ベイエリンクによって、ろ過した抽出液(細菌は含まない)も依然として感染性因子を含んでいることが示された(ろ過性病原体すなわちウイルスの発見)。

1935年にはウェンデル・スタンリーがこのウイルスの電子顕微鏡観察のために結晶化に成功し、結晶化後も活性を失わないことを示した。ウイルスは生物というより物質に近いことが明らかになり、彼はこの業績により1946年ノーベル化学賞を授与された。

1955年、H.フレンケル=コンラートとロブリー・ウィリアムズにより、精製されたTMVのRNAと、それを包むカプシド(コート)タンパク質が自動的に結合してウイルスとして機能することが示され、これが最も安定な構造(自由エネルギーが最低)であることが明らかになった。宿主細胞内でもこのメカニズムにより会合が起こると考えられる。

結晶学者ロザリンド・フランクリンはスタンリーのもとでX線回折による研究を行い、後にTMVの模型を造った(1958年)。彼女はTMVが中空で中に1本鎖のRNAが入っていると想像したが、それが正しいことは彼女の死後証明された。

TMVの構造

TMVのウイルス粒子は棒状の外観を示し、長さ約300 nm、直径約18 nm。外側のカプシド(コート)は莫大な数の同一タンパク質分子からなり、らせん状(1周あたり16.3タンパク質分子)に結合して棒状構造を形成している。このタンパク質分子は158アミノ酸からなり(アミノ酸配列は最後に示す)、4本のαへリックスがループ(ウイルス粒子軸の側に突き出る)を介して連結している。

ウイルス粒子は内部に直径約4 nmの孔をもつ筒状であることが電子顕微鏡により示されている。RNAはその中の半径約6 nmの位置にらせんを作り、カプシドタンパク質により細胞のもつ酵素の攻撃から守られている。カプシドタンパク質1分子にRNAの3ヌクレオチドが結合している。

RNA上にはカプシドのほか、RNAポリメラーゼ、植物内移動に関与するタンパク質などがコードされている。

TMVは大量に得ることができ、数本のタバコ植物から簡単な操作でグラム単位のTMVが得られる。また動物には感染しない。これらの利点から、ウイルス粒子の会合・解離などに関する膨大な構造生物学分子生物学的研究が行われてきた。

豆知識

次に示すDahlemense株のカプシドタンパク質の名称は1972年ケミカルアブストラクツに1単語として登録されており(アミノ酸配列をそのまま書いたもの)、これは1185文字からなり、英語で文献に書かれたものとして3番目に長い単語とされている:

Acetylseryltyrosylserylisoleucylthreonylserylprolylserylglutaminyl- phenylalanylvalylphenylalanylleucylserylserylvalyltryptophylalanyl- aspartylprolylisoleucylglutamylleucylleucylasparaginylvalylcysteinyl- threonylserylserylleucylglycylasparaginylglutaminylphenylalanyl- glutaminylthreonylglutaminylglutaminylalanylarginylthreonylthreonyl- glutaminylvalylglutaminylglutaminylphenylalanylserylglutaminylvalyl- tryptophyllysylprolylphenylalanylprolylglutaminylserylthreonylvalyl- arginylphenylalanylprolylglycylaspartylvalyltyrosyllysylvalyltyrosyl- arginyltyrosylasparaginylalanylvalylleucylaspartylprolylleucylisoleucyl- threonylalanylleucylleucylglycylthreonylphenylalanylaspartylthreonyl- arginylasparaginylarginylisoleucylisoleucylglutamylvalylglutamyl- asparaginylglutaminylglutaminylserylprolylthreonylthreonylalanylglutamyl- threonylleucylaspartylalanylthreonylarginylarginylvalylaspartylaspartyl- alanylthreonylvalylalanylisoleucylarginylserylalanylasparaginylisoleucyl- asparaginylleucylvalylasparaginylglutamylleucylvalylarginylglycyl- threonylglycylleucyltyrosylasparaginylglutaminylasparaginylthreonyl- phenylalanylglutamylserylmethionylserylglycylleucylvalyltryptophyl- threonylserylalanylprolylalanylserine

関連項目