「中央セム諸語」の版間の差分

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== 特徴 ==
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音声上、[[強調音]]はほかの西セム語(エチオピアの諸言語や[[現代南アラビア語]])では[[入破音]]として実現されるが、中央セム語、とくにアラビア語では[[咽頭化]]子音(ただし q は[[口蓋垂音]])が現れる<ref>Faber (1997) p.8</ref><ref>Huehnergard (2004) p.144</ref>。
音声上、[[強調音]]はほかの西セム語(エチオピアの諸言語や[[現代南アラビア語]])では[[放出音]]として実現されるが、中央セム語、とくにアラビア語では[[咽頭化]]子音(ただし q は[[口蓋垂音]])が現れる<ref>Faber (1997) p.8</ref><ref>Huehnergard (2004) p.144</ref>。


形態上は、未完了形の語幹がアッカド語・エチオピアの言語・現代南アラビア語に残る([[セム祖語]]に由来する)形であるC<sub>1</sub>aC<sub>2</sub>C<sub>2</sub>VC<sub>3</sub>ではなく、C<sub>1</sub>C<sub>2</sub>VC<sub>3</sub>の形をしていることがあげられる。たとえばアラビア語で「彼は殺す」(語根 q-t-l)は ya-qattal にはならず、ya-qtulu として現れる(ヘブライ語では {{unicode|yi-qṭol}})。この語幹は表面的には要求法<ref>主にヘブライ語文法では「指示形」とも呼ばれる</ref>(jussive)の形である ya-qtul に類似している<ref>Faber (1997) pp.8-9</ref>。
形態上は、未完了形の語幹がアッカド語・エチオピアの言語・現代南アラビア語に残る([[セム祖語]]に由来する)形であるC<sub>1</sub>aC<sub>2</sub>C<sub>2</sub>VC<sub>3</sub>ではなく、C<sub>1</sub>C<sub>2</sub>VC<sub>3</sub>の形をしていることがあげられる。たとえばアラビア語で「彼は殺す」(語根 q-t-l)は ya-qattal にはならず、ya-qtulu として現れる(ヘブライ語では {{unicode|yi-qṭol}})。この語幹は表面的には要求法<ref>主にヘブライ語文法では「指示形」とも呼ばれる</ref>(jussive)の形である ya-qtul に類似している<ref>Faber (1997) pp.8-9</ref>。

2018年11月10日 (土) 23:39時点における版

中央セム諸語
話される地域中東
言語系統アフロ・アジア語族
下位言語
Glottologcent2236[1]

中央セム諸語(ちゅうおうセムしょご、Central Semitic)は、セム語派の下位群のひとつであり、カナン諸語フェニキア語ヘブライ語など)、アラム語ウガリット語アラビア語などを含む。

概要

中央セム諸語という分類は比較的新しいものである。伝統的な分類では、セム語派のうちアッカド語を除く西セム語群は北西セム語と南セム語に2分され、前者にカナン諸語やアラム語、後者にアラビア語やアムハラ語などが属していた。しかしこの分け方は地理的・文化的な根拠にもとづいており、言語学的な根拠はほとんど存在しない[2]

これに対して1970年代にロバート・ヘツロン英語版は形態論における革新を根拠にして西セム語群を再整理し、従来の北西セム語にアラビア語を加えた中央セム諸語を立てた[3]

特徴

音声上、強調音はほかの西セム語(エチオピアの諸言語や現代南アラビア語)では放出音として実現されるが、中央セム語、とくにアラビア語では咽頭化子音(ただし q は口蓋垂音)が現れる[4][5]

形態上は、未完了形の語幹がアッカド語・エチオピアの言語・現代南アラビア語に残る(セム祖語に由来する)形であるC1aC2C2VC3ではなく、C1C2VC3の形をしていることがあげられる。たとえばアラビア語で「彼は殺す」(語根 q-t-l)は ya-qattal にはならず、ya-qtulu として現れる(ヘブライ語では yi-qṭol)。この語幹は表面的には要求法[6](jussive)の形である ya-qtul に類似している[7]

下位分類

中央セム諸語はアラビア語サイハド語(古代南アラビア語)、北西セム諸語に分かれる[8]。北西セム諸語はカナン諸語、アラム語、ウガリット語、およびテル・デイル・アッラー英語版の碑文(バラム碑文)の言語を含む[3]

脚注

  1. ^ Hammarström, Harald; Forkel, Robert; Haspelmath, Martin et al., eds (2016). “Central Semitic”. Glottolog 2.7. Jena: Max Planck Institute for the Science of Human History. http://glottolog.org/resource/languoid/id/cent2236 
  2. ^ Faber (1997) p.5
  3. ^ a b Faber (1997) p.6-7
  4. ^ Faber (1997) p.8
  5. ^ Huehnergard (2004) p.144
  6. ^ 主にヘブライ語文法では「指示形」とも呼ばれる
  7. ^ Faber (1997) pp.8-9
  8. ^ Huehnergard (2004) p.141

参考文献

  • Alice Faber (1997). “Genetic Subgrouping of the Semitic Languages”. In Robert Hetzron. The Semitic Languages. Routledge. pp. 3-15. ISBN 9780415412667 
  • John Huehnergard (2004). “Afro-Asiatic”. In Roger D. Woodard. The Cambridge Encyclopedia of the World's Ancient Languages. Cambridge University Press. pp. 138-159. ISBN 9780521562560