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== 検査 ==
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; 血液検査
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== 治療 ==
== 治療 ==

2012年1月30日 (月) 09:51時点における版

悪性症候群
概要
診療科 神経学, 救急医学
頻度 Lua エラー モジュール:PrevalenceData 内、28 行目: attempt to perform arithmetic on field 'lowerBound' (a nil value)
分類および外部参照情報
ICD-10 G21.0
ICD-9-CM 333.92
DiseasesDB 8968
eMedicine emerg/339 med/2614 ped/1581
Patient UK 悪性症候群
MeSH D009459

悪性症候群(あくせいしょうこうぐん、: Syndrome Malin: Neuroleptic Malignant Syndrome, NMS)は、向精神薬の重篤な副作用である。麻酔薬の副作用として表れる悪性高熱症と症状が類似しているが、別の疾患である。

ブチロフェノン系、フェノチアジン系などの定型抗精神病薬のほか、抗うつ薬、炭酸リチウムなどのさまざまな向精神薬によって生ずる。また、アマンタジンなどの抗パーキンソン薬の突然の服用中止によって発症することもある。

症状

無動、寡黙、筋固縮、高熱、意識障害などの症状が現れる。

機序

最も有力な説によると、ドパミンD2受容体の遮断が関係していると考えられている。

NMSは一般に神経遮断薬によって引き起こされ、広い範囲の薬剤作用に原因がある。[1] ハロペリドールおよびクロルプロマジンを投与された患者において最もリスクが高いことが報告されている。特にパーキンソン病などの患者の場合に、L-ドーパなどのドパミン作動薬を投与されている状態から、急に投与量を減少させた際にも発生する。[2] 加えて、神経遮断薬としては用いられない薬剤でも、抗ドパミン作用を有するものであれば、NMSを誘発することがある(例、メトクロプラミド)。[3] アモキサピンおよびリチウムなどの、抗ドパミン作動活性が知られていない薬剤でさえ、NMSに関与する。また、デシプラミン 、ドチエピン、リチウムおよびフェネルジン、テトラベナジン、レセルピンがNMSの原因になることも知られている。[4] 分子レベルで考えるとNMSは、ドパミン作動薬の打ち切り、または、ドパミン受容体の遮断のどちらかが誘発する、ドパミン活性の顕著かつ突然の減少により引き起こされる。

リスク因子

NMSの発症に最も際立っているリスク因子は、治療のために行われる薬物療法である。効能の高い神経遮断薬、神経遮断薬の用量の急増、長時間作用型神経遮断薬の使用は全て、発症リスクを増大させることが知られている。[5]

遺伝的リスク因子が存在すると推測されており、ある症例の中で一卵性双生児の両方がNMSを呈したり、別の症例では母親と娘2人がNMSを呈しことがある。[6]

人口統計的には、特に40歳未満の男性に最大のリスクがあるとされているが、40歳未満の男性において神経遮断薬の使用が増加したために症例数が増えたのかどうか、明確にはなっていない。[1] 出産後の女性の方がリスクが大きいこともまた示唆されている。[7]

検査

血液検査
筋肉の傷害に伴ないクレアチンキナーゼ(CK,CPK)の上昇がみられ、特にCKアイソザイムではMM分画の増加が認められる。LDHGOT白血球数やCRPが上昇することもある。

治療

ダントロレンナトリウムの内服、注射を行う。

研究

学術的には、最大の関心事であるNMSの病態について、複数の説があり未だ決着はついていない。[8] 悪性高熱症との比較の点からも研究が進められている。[9] 主な説として以下のものがある。

  • ドーパミン受容体遮断仮説
  • ドーパミン・セロトニン不均衡説
  • カテコラミン異常説(ドーパミン・ノルアドレナリン不均衡説)
  • 骨格筋異常説

ドーパミン受容体遮断仮説では、精神病治療薬が神経伝達に関与しているD2受容体を遮断することにより、ドーパミン活性を顕著に減少させると考えられている。近年の研究では、症状に対する遺伝的要素が示されている。[10] カテコラミン異常説では、交感神経細胞中のカルシウム制御タンパク質の欠陥がNMSの発症を促すと考えられ、この疾患を悪性高熱症の神経原性の形態としてとらえる。[11] 骨格筋異常説では、NMSは悪性高熱症と同じ機序で発症すると考える。症例数は多くないものの、骨格筋異常説に基づいた日本の研究としては古いものから挙げると、8症例中6例で筋拘縮テストが陽性[12]、9症例で変異無し[13]、10症例でCICR検査が陰性[14]、アブストラクトからは症例数不明ながらRyR1に変異があったとする文献が1件[15]である。

関連事項

脚注

  1. ^ a b -1Theodore I. Benzer, MD, PhD (2005年). “Neuroleptic Malignant Syndrome”. Emedicine. 2010年2月14日閲覧。
  2. ^ Daniel L. Keyser and Robert L. Rodnitzky Neuroleptic Malignant Syndrome in Parkinson's Disease After Withdrawal or Alteration of Dopaminergic Therapy Arch Intern Med, APRIL 1991; 151: 794 - 796.
  3. ^ Lawrence S. Friedman, Larry A. Weinrauch, and John A. D'Elia Metoclopramide-Induced Neuroleptic Malignant Syndrome Arch Intern Med, August 1987; 147: 1495 - 1497.
  4. ^ Buckley PF and Hutchinson M: Neuroleptic Malignant Syndrome. J. Neurol. Neurosurg. Psychiatry 1995; 58; 271-273
  5. ^ Keck PE Jr, Pope HG Jr, Cohen BM. Risk factors for neuroleptic malignant syndrome. A case-control study. Arch Gen Psychiatry. Oct 1989;46(10):914-8.
  6. ^ Otani K, Horiuchi M, Kondo T. Is the predisposition to neuroleptic malignant syndrome genetically transmitted?. Br J Psychiatry. Jun 1991;158:850-3.
  7. ^ Alexander PJ, Thomas RM, Das A. Is risk of neuroleptic malignant syndrome increased in the postpartum period?. J Clin Psychiatry. May 1998;59(5):254-5.
  8. ^ 山脇 成人『悪性症候群―病態・診断・治療』新興医学出版社、1989年、66頁-82頁(「悪性症候群の病態」より)頁。ISBN 4-8800-2565-8 
  9. ^ 山下 秀尚, 岩本 泰行, 山脇 成人(章担当著者)、菊地 博達(編集)、(以降は書籍共著者)遠藤 實, 小山田 英人, 向田 圭子, 弓削 孟文, 市原 靖子, Carlos A. Ibarra Moreno, 岡田 麻里, 西野 一三, 成田 弥生, 植村 靖史, 松下 祥『悪性高熱症』克誠堂出版、2006年、163頁-183頁(「悪性症候群」より)頁。ISBN 4-7719-0308-5http://www.kokuseido.co.jp/b02/0308-5.htm 
  10. ^ http://www.ingentaconnect.com/content/adis/dsf/1998/00000019/00000001/art00006
  11. ^ Gurrera RJ (2002). “Is neuroleptic malignant syndrome a neurogenic form of malignant hyperthermia?”. Clinical Neuropharmacology 25 (4): 183-93. PMID 12151905. 
  12. ^ Araki M, Takagi A, Higuchi I, Sugita H (1988). “Neuroleptic malignant syndrome: caffeine contracture of single muscle fibers and muscle pathology”. Neurology 38 (2): 297-301. PMID 3340297. 
  13. ^ Isamu Yasuno, Kazuhiro Kodama, Chikara Kumakiri, Eiji Shimizu and Toshio Sato (2000). “Screening for point mutations of the RYR1 and SCN4A genesin neuroleptic malignant syndrome”. 千葉医学 76: 75-79. http://mitizane.ll.chiba-u.jp/metadb/up/AN00142148/KJ00004214791.pdf. 
  14. ^ 向田 圭子, 弓削 孟文(章担当著者)、菊地 博達(編集)『悪性高熱症』克誠堂出版、2006年、106頁(表3より)、114頁(「MH関連疾患と骨格筋検査」より)頁。ISBN 4-7719-0308-5http://www.kokuseido.co.jp/b02/0308-5.htm 
  15. ^ Sato T, Nishio H, Iwata M, Kentotsuboi, Tamura A, Miyazaki T, Suzuki K (2010). “Postmortem molecular screening for mutations in ryanodine receptor type 1 (RYR1) gene in psychiatric patients suspected of having died of neuroleptic malignant syndrome”. Forensic Sci Int. 194 (1-3): 77-9. PMID 19931341.