司法警察官

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司法警察官(しほうけいさつかん)は、旧々刑事訴訟法(明治23年法律第96号)及び旧刑事訴訟法(大正11年法律第75号)において、検事犯罪捜査を補助することとされた機関である。

旧々刑事訴訟法[編集]

旧々刑事訴訟法(明治23年法律第96号)[1]における司法警察官には、犯罪の捜査について地方裁判所検事と同一の権限を有するものと、検事の補佐としてその指揮を受けて犯罪を捜査するものとがある。

その管轄区域内において犯罪の捜査について地方裁判所検事と同一の権限を有するものは、次の者である(同法47条1項)。

検事の補佐としてその指揮を受けて犯罪を捜査するものは、次の者である(同法47条2項)。

また、海船内の犯罪については、船長司法警察の職務を行うこととされている(同法48条)。

旧々刑事訴訟法においては、巡査は司法警察官ではないから[2]、独立して犯罪捜査の権限を有するものではない[注釈 1]。しかしながら、巡査は、明治14年司法省布達甲第5号及び明治14年司法省達丙第13号によって、司法警察事務に関し、警部を代理することができることから、司法警察官である警部を代理する範囲内においては、巡査は、司法警察官たるものとされる[注釈 2]

巡査は、独立して司法警察官となるものではないが、告訴の受付については、その権限を有するとされている[注釈 3]。旧々刑事訴訟法47条が検事又は司法警察官の職にあるものでなければ犯罪の捜査をすることができない旨を規定しているのは、犯罪の証拠及び犯人を捜査する行為が人権の消長に重大な影響を及ぼし、同条所定の者以外の者にこれをさせることは危険が少なくないからであるとされている[注釈 4]。他方で、告訴の受付は、人権の消長に重大な影響を及ぼすものではないから、巡査にこれをさせることができるとされている[注釈 5]

旧刑事訴訟法[編集]

旧刑事訴訟法(大正11年法律第75号)[3]における司法警察官についても、旧々刑事訴訟法と同様に、犯罪の捜査について地方裁判所検事と同一の権限を有するものと、検事の補佐としてその指揮を受けて犯罪を捜査するものとの区別が維持された。

その管轄区域内において犯罪の捜査について地方裁判所検事と同一の権限を有するものは、次の者である(同法247条)。

  • 警視総監
  • 地方長官(東京府知事を除く(同法247条ただし書)。)
  • 憲兵司令官

検事の補佐としてその指揮を受けて犯罪を捜査するものは、次の者である(同法248条)。

これに加えて、旧刑事訴訟法においては、検事又は司法警察官の命令を受けて捜査の補助をするものとして司法警察吏が新設され、巡査及び憲兵が司法警察吏とされた(同法249条)。巡査が警部を代理する場合は、司法警察官代理となる[4]

司法警察官と司法警察吏とを併せて、司法警察官吏と総称する[5]

これらの者のほか、勅令をもって司法警察官吏を定めることができる(同法250条)。勅令によって定められている司法警察官吏は、司法警察官吏及司法警察官吏ノ職務ヲ行フヘキ者ノ指定等ニ関スル件(大正12年勅令第528号)[6]1条の規定による外務省の警察官及び巡査のみであった[4]

また、森林、鉄道その他特別の事項について司法警察官吏の職務を行うべき者及びその職務の範囲は、勅令をもって定めることとされている(同法251条)。この勅令の定めは、上記勅令2条以下の規定である[7]

廃止[編集]

現行刑事訴訟法(昭和23年法律第131号)[8]の施行によって、「司法警察官」及び「司法警察吏」の職は廃止され、新たに「司法警察員」及び「司法巡査」と称する職が設けられた。他の法令中の「司法警察官」及び「司法警察吏」については、司法警察職員等指定応急措置法(昭和23年法律第234号)[9]2条の規定によって、それぞれ「司法警察員」及び「司法巡査」と読み替えるべき旨の規定が設けられた。

脚注[編集]

注釈[編集]

  1. ^ 大判明治41年11月13日刑録14輯1015頁。
  2. ^ 大判大正6年7月26日刑録23輯894頁は、このことを理由として、巡査が司法警察官たる警部を代理して捜査上聴取書を作成することは違法ではないと判示している。
  3. ^ 大判明治41年11月13日刑録14輯1015頁。
  4. ^ 大判明治41年11月13日刑録14輯1015頁。
  5. ^ 大判明治41年11月13日刑録14輯1015頁。

出典[編集]

参考文献[編集]

  • 牧野英一『刑事訴訟法』(増訂5版)有斐閣、1918年。NDLJP:952478 
  • 団藤重光『刑事訴訟法綱要』弘文堂書房、1943年。NDLJP:1276095