ホタルイカモドキ科

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ホタルイカモドキ科
ホタルイカ Watasenia scintillans
分類
: 動物界 Animalia
: 軟体動物門 Mollusca
: 頭足綱 Cephalopoda
亜綱 : 後生頭足亜綱 Coleoidea[1]
: ツツイカ目 Teuthoidea[1][* 1]
亜目 : 開眼亜目 Oegopsida[1]
: ホタルイカモドキ科
Enoploteuthidae[1]
学名
Enoploteuthidae
Pfeffer, 1900
亜科
本文参照

ホタルイカモドキ科学名Enoploteuthidae )は、ツツイカ目 開眼亜目(ツツイカ類 開眼目[2])に所属するイカの分類群の一つである[3]。ホタルイカモドキ科はホタルイカをはじめとして世界の温熱帯外洋域で4属39種が認められ、さらに未記載種の存在が示唆されている[4]ホタルイカモドキ属 (Enoploteuthis ) が模式属となっていることから、科の和名がホタルイカモドキ科となっている[4]

分布・生態[編集]

ホタルイカモドキ科は、小型のイカで全世界の温熱帯外洋域[4]、赤道から混合域、冷水域の亜表層から中層に分布する[5]。亜表層の複雑な水塊に棲息する遊泳力が低いマイクロネクトンであるため、外洋性のイカとしては種の多様性が高く[4]、そのバイオマスも高い[5]

自身は高次の捕食者でありながら、さらにまた大型の遊泳生物に捕食されその重要なえさとなっている[5]

中層と表層を日周鉛直移動を繰り返すことから、中深層への物質移動に大きく関与していると推測されている[5]

形態[編集]

外套膜は円錐形から円筒形で、後方になるにつれ細くなり、後端はゼラチン質様の組織の尾部となる[6]

体表腹面全体に粒状の発光器をもち、この発光器がときには明瞭な配列を示すものがある[6]。眼胞腹面に5-9個の発光器をもつ[6]。触腕、内臓上には発光器をもたない[4]

腕には2列の吸盤があり、腕基部よりのものは小鉤に変形し、成体では先端よりにだけ吸盤がある[6]。オスの右第IV腕は交接腕化し[* 2]、1-2枚の半月状の膜が発達し、その部分の吸盤および鉤は失われることが多い[4][6]。触腕は一般的には長く[6]、掌部基部には少数の吸盤と肉瘤、中央部には吸盤の変形した鉤が1-2列にあり、吸盤が1-2列にならぶ[6]。先端部には小吸盤が2-4列に密にならぶ[6]

纏卵腺がないため、卵は細い卵紐として産出される[4]

分類[編集]

ホタルイカモドキ科には、ホタルイカモドキ属、ナンヨウホタルイカ属 ( Abralia )、ニセホタルイカ属 ( Abraliopsis ) およびホタルイカ属 ( Watasenia ) の4属が認められている[6][7]。この4属の間での系統関係については、まだ十分な検討がなされていない[7][8]。また、ホタルイカ属については触腕以外に明確な形態学的な形質の差異がニセホタルイカ属との間で見られないことから、ニセホタルイカ属の亜属となる可能性が示唆されている[8]

形態的な特徴から、ホタルイカモドキ科は尾部とヒレの位置および眼胞上にある発光器の数などにより、ホタルイカモドキ亜科 ( Enoploteuthinae ) とナンヨウホタルイカ亜科 ( Abraliinae ) の2亜科に分けられる[8]。ホタルイカモドキ亜科には、ヒレが外套膜後端よりも前に位置し、眼胞上の発光器は9個もつことを特徴とするホタルイカモドキ属[4]の1属のみが属する[8]。ナンヨウホタルイカモドキ亜科には、ヒレが外套膜後端と同位となり、眼胞上の発光器は5個(ナンヨウホタルイカ属では発光器5個に小発光器が加わることがある[6]。)を特徴として、本科の残り3属が属する[8]

また、明確に上科を形成するとまではいかないものの、ホタルイカモドキ科とダイオウホタルイカ科 ( Ancistrocheiridae ) 、マダマイカ科 ( Pyroteuthidae ) およびヒカリイカ科 ( Lycoteuthidae )は次の形質

  • 腕、触腕に鉤をもつ
  • 囲口膜に8本の支持肉柱をもつ
  • 囲口膜が第IV腕の背側に接続する
  • 触腕掌部の固着器が基部にのみ認められる
  • 発達した肉質の尾部をもつ
  • 囲口膜の内側に多数の微小な肉質突起をもつ
  • 第IV腕が交接腕化する

(以上ついては、土屋 (2009)、p.251 による。)の類似性でホタルイカモドキ科群 ( Enoploteuthid families ) としてまとめられている[8][9]

科レベルでの系統解析では異なる結果が示唆されていて、未だに確定的な結果が出ていない[8]。これには、従来のツツイカ類が単系統群ではないとするものがあり、まずホタルイカモドキ科がイカ類で最も早く分岐し、ツツイカ類にコウイカ類およびミミイカ類が内包されるという仮説がある[8]。これによれば、ホタルイカモドキ科群は単系統群ではないという結果となる[8]。一方、別の系統解析結果では、ツツイカ類および開眼類の単系統性が支持され、ホタルイカは最も遅い分岐となるという異なる結果を示している[8]

ホタルイカモドキ科の種[編集]

ここではTree of Life Web Projectに記載されている種を掲げる(和名については、土屋 (2000)、pp.195-269. による。)。

ホタルイカモドキ属の一種モトホタルイカモドキ Enoploteuthis leptura

その他[編集]

ホタルイカという種が「モドキ」という名のつく科に属するということについて、フジテレビ系列のバラエティ番組『トリビアの泉 〜素晴らしきムダ知識〜』において「ホタルイカはホタルイカモドキ科」というかたちで紹介された。番組ではその続きに「ホタルイカモドキ科にはニセホタルイカがいる」という事実も紹介した[19]

日本では1905年に渡瀬庄三郎がホタルのように光るイカを発見しホタルイカと命名し、1914年に石川千代松が発見したイカがホタルイカに似ていたことからホタルイカモドキと命名した。一方、世界的には日本のホタルイカよりも前にホタルイカモドキに近い種がすでに発見されており、1900年に「ホタルのように光る小さいイカ」のグループはこのホタルイカモドキに近い種を基準としてENOPLOTEUTHIDAE科と命名されていた。このため、ENOPLOTEUTHIDAE科の和名はホタルイカモドキ科とされて現在に至っている。

脚注[編集]

注釈[編集]

  1. ^ 土屋 (2009)、p.247 では、ツツイカ類 開眼目としている。
  2. ^ 土屋 (2000)、p.196 では、交接腕化するのが右または左の第IV腕としている。

出典[編集]

  1. ^ a b c d 窪寺 (2000)、pp.4-6.
  2. ^ a b 土屋 (2009)、p.247
  3. ^ 窪寺 (2000)、pp.4-5.
  4. ^ a b c d e f g h i 土屋 (2009)、p.248
  5. ^ a b c d 土屋 (2009)、p.252
  6. ^ a b c d e f g h i j 土屋 (2000)、p.196
  7. ^ a b Tree of Life web project: Enoploteuthidae 2012年5月31日閲覧。
  8. ^ a b c d e f g h i j k l m 土屋 (2009)、p.251
  9. ^ Tree of Life web project: Enoploteuthid families 2012年6月4日閲覧。
  10. ^ a b c Tree of Life web project: Enoploteuthis 2012年5月31日閲覧。
  11. ^ a b c d e f g Tree of Life web project: Abralia 2012年5月31日閲覧。
  12. ^ a b c 土屋 (2009)、p.249
  13. ^ Tree of Life web project: Abralia veranyi 2012年5月31日閲覧。
  14. ^ 土屋 (2000)、p.244
  15. ^ a b c d Tree of Life web project: Abraliopsis 2012年5月31日閲覧。
  16. ^ a b 土屋 (2009)、p.250
  17. ^ 土屋 (2009)、pp.250-251
  18. ^ Tree of Life web project: Watasenia 2012年5月31日閲覧。
  19. ^ 『トリビアの泉 ~素晴らしきムダ知識~ 15』フジテレビ・トリビア普及委員会、講談社、2006年、25-28頁、ISBN 4-06-352743-3

参考文献[編集]

  • 窪寺恒己 著「第1章 ホタルイカの素姓」、奥谷喬司編 編『ホタルイカの素顔』東海大学出版会、2000年、1-34頁。ISBN 4-486-01502-9 
  • 土屋光太郎 著「第7章 ホタルイカの仲間図鑑」、奥谷喬司編 編『ホタルイカの素顔』東海大学出版会、2000年、195-269頁。ISBN 4-486-01502-9 
  • 土屋光太郎「ホタルイカの分類学」『海洋と生物』第31巻第3号、生物研究社、2009年6月、247-252頁、NAID 40016736252 

外部リンク[編集]