ヒトーパデーシャ

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ヒトーパデーシャ』(サンスクリット: हितोपदेश hitopadeśa、「有益な(hita)教訓(upadeśa)」の意)は、主に動物を主人公にしたインド寓話集。散文韻文を交える。ベンガル地方のダヴァラチャンドラ王の宮廷でナーラーヤナによって書かれたと伝えられる。『パンチャタントラ』の伝本のひとつであるが、大幅に手が加えられている。本来5巻からなる『パンチャタントラ』を4巻にまとめ直し、多数の話が追加・削除されている。

成立[編集]

『ヒトーパデーシャ』は800年から950年の間に書かれたという[1]。もっとも古い写本は1373年のものである[2][3]

他の『パンチャタントラ』諸本にない話が17話あり、序文によれば『パンチャタントラ』以外にもう一つ別の物語集を元にして書かれた[2][3]

構成[編集]

『ヒトーパデーシャ』は序文と4部から構成される。第1部と第2部は『パンチャタントラ』と順序が逆になっている。『パンチャタントラ』の第3部(および第5部)は2つに分割されて第3部と第4部となり、第4部の枠物語は新たに書きおろされた。『パンチャタントラ』第4部に相当する箇所は『ヒトーパデーシャ』には存在しない。ほかにも順序を変えたり、削除されたり、新たに追加されたりした話がある[4]

  1. Mitralābha 友の獲得(9話)
  2. Suhridbheda 友の喪失(10話)
  3. Vigraha 戦争(10話)
  4. Sandhi 平和(13話)

翻訳[編集]

『ヒトーパデーシャ』は早くから西洋に紹介されたインド文学のひとつで、最初の英語訳はチャールズ・ウィルキンズによって1787年に出版された。本文はセランポール英語版で1804年に出版された。その後フランシス・ジョンソン (英語版) によって校訂本文(1847)と新しい英訳(1848)が出版された。エドウィン・アーノルドは『よい忠告の書』(The Book of Good Counsels, 1861)の題で翻訳した。

フランスではラングレスによる翻訳が1790年に出版された。

ドイツではアウグスト・ヴィルヘルム・シュレーゲルクリスチャン・ラッセンによって校訂本文が出版され、1844年にマックス・ミュラーによってドイツ語に翻訳された。

日本語訳[編集]

  • 金倉円照・北川秀則 訳『ヒトーパデーシャ:処生の教え』岩波文庫、1968年。 
  • 岩本裕 訳「パンチャ・タントラとヒトーパデーシャ」『世界文学大系 第4(インド集)』筑摩書房、1959年。 (抄訳)
  • Francis Johnson 編、平松友嗣 訳『ひとーぱでーしゃ:インドの古典民話』理想社、1956年。 (英語からの重訳)

脚注[編集]

  1. ^ Haksar (2007) の序文による
  2. ^ a b Keith (1920) p.263
  3. ^ a b Winternitz (1920) p.291
  4. ^ Keith (1920) pp.263-264

参考文献[編集]

  • Haksar, A.N.D. (2007). The Hitopadesa. Penguin Classics. ISBN 0140455221 
  • Keith, A. Berriedale (1920). A History of Sanskrit Literature. Oxford University Press. https://archive.org/details/in.ernet.dli.2015.23671 
  • Winternitz, Moriz (1920). Geschichte des indischen Litteratur. 3. Leipzig: C. F. Amelangs Verlag. https://archive.org/details/geschichtederind03wintuoft