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スカラリテス

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
スカラリテス
Scalarites scalaris
地質時代
後期白亜紀チューロニアン - コニアシアン[1]
分類
: 動物界 Animalia
: 軟体動物門 Mollusca
: 頭足綱 Cephalopoda
亜綱 : アンモナイト亜綱 Ammonoidea
: アンモナイト目 Ammonitida
: ディプロモセラス科 Diplomoceratidae
: スカラリテス Scalarites
学名
Scalarites Wright and Matsumoto, 1954

本文参照

スカラリテス(学名:Scalarites)は、チューロニアンからコニアシアンにかけて後期白亜紀の海に生息していた、ディプロモセラス科に属する異常巻きアンモナイトの属。日本フランスおよびデンマークボーンホルム島)などで化石が産出している[1]。同科の中では極めて原始的な部類であり、ポリプチコセラスなど他の属の直接の祖先となった。

特徴

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螺環が半ば解けて互いに接していない、平面巻きの異常巻きアンモナイトである。成長初期の段階では前方に傾斜したような周期的な強いくびれを示す。また螺環の巻き方は同一種内でも変異が見られ、巻貝との対比から平巻型・旋回型・旋回軸変換型の3つに分類される[2]。また棚部一成・小畠郁生・二上政夫による1981年の論文では、成長初期段階ではくびれを示しながらも肋が存在しない状態で真っ直ぐに伸長し、湾曲成長が開始された後に肋が出現することが記されている[2]。その肋は同じくディプロモセラス科に属するポリプチコセラスのものに比べて鋭く[3]、また単純な環状をなす。螺環断面は円形に近い[1]

分類

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スカラリテス属はディプロモセラス科の中では極めて基盤的な属であり、ノストセラス科ユーボストリコセラス属から派生したと考えられている[4]。先述の1981年の論文では、トリアングリテス属およびリオプチコセラス属とスカラリテス属が枝分かれした後、本属から他のディプロモセラス科のアンモナイトが分岐したとされた[2]。また、岡本隆は少なくともポリプチコセラス属とライオプチコセラス属が本属から派生したと考えている[5][4]

また、S. mihoensis は下部チューロニアン階から産出したリュウガセラ属(Ryugasella)の種と形態が似ており、チューロニアン期のうちにスカラリテス属からリュウガセラ属が進化したことが示唆されている[6]

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2000年時点で日本からは S. aff. scalarisS. sp. AS. sp. B を含め8種が報告されている[7]。種によっては真円形に近い螺旋を描くものや楕円形に近い螺旋を描くものがいる。

S. antiquus
熊本県天草市御所浦町に分布する姫ノ浦層群から産出した標本NG45-001876を熊本県博物館ネットワークセンターが管理している[8]
S. cingulatum
後期サントニアンを示す種。スペイン北部のナバラ州に分布するOlazagutia累層でScalarites cingulatum帯が確認されている[9]
国立科学博物館東京都)の S. densicostatus
S. densicostatus
北海道・樺太中部軸白亜系に適用するものとして1942年に松本達郎が提唱した時代区分である後期ギリヤーク世(国際年代層序においてはチューロニアンごろ)の途中で S. mihoensis と共に出現し、前期浦河世(コニアシアンごろ)の末に S.mihoensis と共に姿を消している[10]。また、おそらく本種と思われる種が北海道夕張市の士幌加別川で上部チューロニアン階の下部化石群集から採集されており、浅海生物相を示すと解釈されている[11]
Rhyoptychoceras mikasaenseと似るが、S. densicostatusの方がくびれが強いことと、R. mikasaenseのような螺環の捻じれがないことで識別できる[12]
国立科学博物館の S. mihoensis
S. mihoensis
松本(1942)によると、北海道・樺太中部軸白亜系において S.densicostatum と共産する[10]。松本(1954)によると、外側に広がった肋がごく稀に存在することと、螺環に直線状に近い部位が存在していて螺旋がより楕円形に近いことから、本種は S. scalaris からポリプチコセラス属へ進化する中間段階を示唆している。また、肋は後湾曲成長の開始からほどなくして出現する[2]
国立科学博物館の S. scalaris
S. scalaris
幼体と成体の標本が確認されており、成長すると肋や周期的構造が増え、かつ巻き数も増えることが報告されている。また肋はやはり成長初期段階を終えて湾曲成長が始まった後に出現するが、S. mihoensis と比較すると出現が遅い[2]
S. venustus
南部樺太のMatmet岬に分布する砂岩・珪質粘土岩から構成される堆積累層(Penzhin層群、Bystrin層群、Veserov層群、Pillalvaia層群)の下部から産出している[13]

分布

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化石は南極大陸ブラジルスウェーデンデンマークドイツフランススペイン[9]ロシア[14]日本アメリカ合衆国メキシコ[15]と幅広く産出している[16]。日本の博物館が所蔵しているスカラリテス属の標本は北海道樺太の蝦夷層群から産出したものが多い[17]

脚注

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  1. ^ a b c 月間アンモナイト通信 Vol.2, no.2”. いわき市アンモナイトセンター (2020年2月1日). 2021年1月28日閲覧。
  2. ^ a b c d e 棚部一成; 小畠郁生; 二上政夫 (1981). “後期白亜紀異常巻アンモナイト類の初期殻形態”. 日本古生物学會報告・紀事 新編 (日本地質学会) 1981: 215-234. doi:10.14825/prpsj1951.1981.124_215. https://doi.org/10.14825/prpsj1951.1981.124_215. 閲覧は自由
  3. ^ 松本孝之、興津昌宏、大嶋秀明「岐阜県根尾村から後期白亜紀アンモノイドPolyptychocerasおよび花粉・胞子化石群集の発見」『地球科学』第62巻第2号、地学団体研究会、2008年、111頁、doi:10.15080/agcjchikyukagaku.62.2_109 オープンアクセス
  4. ^ a b 白亜紀ディプロモセラス科アンモナイトの適応放散に関する進化古生物学的研究”. 科学研究費助成事業データベース (2016年4月21日). 2021年1月19日閲覧。
  5. ^ 岡本隆、岡田基央「後期白亜紀異常巻アンモナイトPolyptychocerasの殻装飾に関する理論形態学的研究」『化石』第94巻、日本古生物学会、2013年、19-31頁、doi:10.14825/kaseki.94.0_19 閲覧は自由
  6. ^ 小畠郁生、二上政夫「北海道万字地域の白亜系」『Bulletin of the National Science Museum Ser. C Geology』第1巻第3号、国立科学博物館、1975年、103頁、2021年1月29日閲覧 閲覧は自由
  7. ^ Seiichi TOSHIMITSU; Hiromichi HIRANO (2000). “Database ofthe Cretaceous ammonoids in Japan ─stratigralphic dlistribution and bibliography─”. Bulletin of the Geological Survey of Japan (地質調査総合センター) 51 (11): 592. https://dl.ndl.go.jp/view/download/digidepo_9622056_po_51-11_02.pdf?contentNo=1&alternativeNo= 2021年1月28日閲覧。. 
  8. ^ スカラリテス”. 熊本県博物館ネットワークセンター. 2021年1月22日閲覧。
  9. ^ a b Thomas KüCHLER. Additional macrofossil biostratigraphic data on the Upper Coniacian and Santonian of the Olazagutia, lturmendi and Zuazu sections in the Barranca (Navarra), northern Spain. Geologische Bundesanstalt. p. 318. https://opac.geologie.ac.at/ais312/dokumente/SchriftR_Erdw_Komm_15_315_332.pdf 
  10. ^ a b 松本達郎「北海道・樺太中軸部白運堊系の層序學的分類に就いて : 日本白運堊系の層序の基礎的研究略報(其の 5)」『地質学雑誌』第49巻第582号、日本地質学会、1942年、92-111頁、doi:10.5575/geosoc.49.92 閲覧は自由
  11. ^ 二上政夫、宮田雄一郎「北海道中西部上部チューロニアン・アンモナイトの群集特性:コリンニョニセラス亜科の系統解釈に関する基礎的研究」『地質学雑誌』第89巻第1号、日本地質学会、1983年、31-40頁、doi:10.5575/geosoc.89.31 閲覧は自由
  12. ^ Tatsuro MATSUMOTO (1977). “Some Heteromorph Ammonites from the Cretaceous of Hokkaido : Studies of the Cretaceous Ammonites from Hokkaido and Saghalien-XXXI”. 九州大學理學部紀要 (九州大学理学部) 23 (3): 352-354. CRID 1390853649685741056. hdl:2324/1544178. https://doi.org/10.5109/1544178 2021年2月3日閲覧。. 
  13. ^ V. N. Vershchagin(著)、小西善治(訳)(編)「極東地域の白堊系の基礎的問題について その3」『地質調査所月報』第9巻第5号、地質調査総合センター、1958年、86頁。 閲覧は自由
  14. ^ 小玉一人、前田晴良、重田康成、加瀬友喜、竹内徹「ロシア・サハリン州南部ナイバ川(内淵川)流域に分布する白亜系上部の化石層序と古地磁気層序」『地質学雑誌』第108巻第6号、日本地質学会、2002年、376頁、doi:10.5575/geosoc.108.366 閲覧は自由
  15. ^ 田中啓策「地質調査所所蔵のメキシコ産白亜紀化石」『地質ニュース』第365号、地質調査総合センター、1985年、8頁。 閲覧は自由
  16. ^ †Scalarites Wright and Matsumoto 1954 (ammonite)”. Fossilworks. マッコーリー大学. 2021年1月22日閲覧。
  17. ^ Scalarites 属”. Japan Paleobiology Database. 2021年1月22日閲覧。

外部リンク

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