シンハーサナ・ドゥヴァートリンシカー
『シンハーサナ・ドゥヴァートリンシカー』(サンスクリット: सिंहासनद्वात्रिंशिका siṃhāsana-dvātriṃśikā)は、教訓的内容を持つ、32話からなるインドの説話集。題は日本語に訳した『獅子座三十二話』の名でも知られる(なお、「獅子座」とは玉座のことで、星座の名前ではない)。
概要
[編集]インドの他の多くの説話集と同様、枠物語の形式を取っている。枠物語では11世紀パラマーラ朝のボージャ王が古代のヴィクラマ王の玉座を発見するが、すわろうとすると玉座に彫られた32の天女の像が止め、ヴィクラマ王のような優れた王でなければすわることができないという。32の像はそれぞれヴィクラマ王の事績を語る[1][2]。
ボージャ王の治世よりも後の時代に書かれたことは確実であるが、正確な成立年代は明らかでない。著者名も不明である[3]。
原作は失われているが、さまざまな伝本がある。フランクリン・エジャートンは南インド本(SR)、韻文本(MR)、簡略本(BR)、ジャイナ本(JR)、ヴァラルチ本(VarR)に分けるが、ヴァラルチ本はほとんどジャイナ本と同じである[4]。
翻訳
[編集]『シンハーサナ・ドゥヴァートリンシカー』はアクバルの時代にペルシア語に翻訳された[5]。ヒンディー語版『スィンハーサン・バッティースィー』はフォート・ウィリアム大学の教材として、ラッルーラール(en)によってブラジュ・バーシャー語版から翻訳され、1805年に出版された[6][7]。他の現代インド諸言語にも翻訳されている。モンゴル語のものは『アラジ・ボージ』(ボージャ王)の名で人気のある物語になった[8]。
英語訳はエジャートンにより5種の伝本を別々に翻訳したもの(1926)のほか、A.N.D.Haksarのもの(1998)などがある。ハンス・ヨルゲンセン(en)はネワール語版から英語に翻訳している(1939)。
脚注
[編集]- ^ Keith (1920) p.292
- ^ 松村(2006) p.287
- ^ Edgerton (1926) pp.lii-lviii
- ^ Edgerton (1926) xxix
- ^ 真下 (2011) p.80,89
- ^ 倉橋(2017) pp.157-158,268
- ^ 『東京外国語大学附属図書館第3回講演会記念特別展示 西洋を中心としたインド研究史資料―16世紀から19世紀まで―』2002年 。
- ^ Bawden, C.R. (1960). Tales of King Vikramāditya and the Thirty-two Wooden Men. International Academy of Indian Culture
参考文献
[編集]- 倉橋愛『大英帝国の「外国語大学」 : Fort William College の創設から廃校まで』大阪大学博士論文、2017年。doi:10.18910/61834。
- 真下裕之「インド・イスラーム社会の歴史書における「インド史」について」『神戸大学文学部紀要』第38巻、2011年、51-107頁、doi:10.24546/81002753。
- 松村恒「『獅子座三十二話』グジャラート伝本へのジャータカの影響の痕跡」『印度學佛教學研究』第55巻第1号、日本印度学仏教学会、2006年、287-280頁、doi:10.4259/ibk.55.287。
- Edgerton, Franklin (1926). Vikrama's Adventures or The Thirty-Two Tales of the Throne. Harvard University Press
- Keith, A. Berriedale (1920). A History of Sanskrit Literature. Oxford University Press