晩婚化
晩婚化(ばんこんか)とは、世間一般の平均初婚年齢が以前と比べて高くなる傾向を指す言葉である。高年齢で結婚をすること、いわゆる「婚期」を過ぎてから結婚することを指して晩婚と言う。俗説として晩婚化は少子化・人口減と関連付けられ、経済悪化の一因とされる[1]。
世界的な傾向
先進国では結婚に対する考え方が「国民皆婚制」という、歴史的にも生物学的にも珍しい状態にある。しかしながらさも国民皆婚制が太古の昔から続いていたかのような俗論が蔓延しており [2][3] 本件もその文脈で語られることが多い問題の一つである。歴史人口学によれば晩婚化(非婚化)という概念自体は、近代以前の村社会とそれ以降との比較においての意味しかない[2][3]。
一方晩婚化は先進国だけでなく途上国でも確認されており、世界的な現象となっている。国連が世界192カ国を対象に、1970年代と1990年代で結婚等がどのように変化したかを調査した報告書[4]によれば、
- 「1970年代と90年代を比べると、世界の平均初婚年齢は2年近く遅くなり」
- 「晩婚化は7割以上の国でみられ、平均初婚年齢は男性が25.4歳から27.2歳に、女性は21.5歳から23.2歳に上昇した。上昇幅は先進国の方が大きいが、途上国でもアルジェリア、スーダン、マレーシアのように3歳以上上昇した国があった」[4]
となっている。
第二次世界大戦以前の社会においては、10代で結婚して所帯を形成することはごく自然な行為であり、全体にも平均初婚年齢は20歳前後に留まる時代が長かった。[独自研究?]これは進学率が低かったこと、及び低年齢から社会に出て手に職を付けることが当たり前でありかつ効率的であったことが理由の一つとして挙げられる。特に女子は長い間、進学せずに家事に就くことが当然と見なす社会的圧力に晒されていたため、進学や就職をせず親の縁談で伴侶を見つけて嫁ぐことも多かったので、女子の平均初婚年齢は10代後半で長く推移した。
大戦後、特に先進国において義務教育以上の就学課程(特に大学)への進学率が高くなると、平均初婚年齢は次第に20代へとシフトし始めた。この傾向は、高学歴を必要とする専門知識が求められる職種の増加、学歴重視の雇用者意識、女性の社会参加、看護・福祉のような女性が中心的な労働力を占める職種の社会的地位の向上、女性の経済的な自立と就業意欲の高まりなどを背景として、年々加速した(ただし女性の経済的な自立については異論も多い。次項参照)。
アメリカ合衆国の状況
既婚男性の満足度は独身男性より高い一方で、女性の場合はその逆となり、さらに独身女性の方が既婚女性よりも長生きをするという調査結果がある[5]。『女は結婚すべきではない』の著者のシンシア・S・スミスは、「現代の男性が結婚すると、家を手に入れ、家の世話をしてくれる家政婦と料理人、陽気な家族を得て、それにもう一人分の収入がプラスされる。だが女性が結婚すると増えるのは下宿人」であると、同性愛者の立場からアメリカの結婚事情が女性に厳しいことを指摘している[6]。
日本国内での意識
結婚時期
日本では民法上、結婚できる年齢は、2022年(令和4年)に男女ともに18歳と引き上げられた。しかし、日本国内では高校へ進学する人の割合が1学年あたり90%台に達してから既に長く、結婚して所帯を作ろうと考える年齢は、男女ともに18歳を下回ることはほとんど無い。
個人主義の浸透
一方、個人主義の観点から、当人にとっても周囲についても、独身でいつづけることに対する社会的な抵抗(俗には「世間体」と呼ばれる)が昔に比べて格段に低くなっている。このため、以前は長く独身時代に留まろうとする者を「独身貴族」「行かず後家」と揶揄することがあったが、就労して獲得した時間的・金銭的な余裕をもっと自分個人のために使い充足感を得ようと、より長く独身時代に留まろうとする者も多い。
高学歴化に伴う就労年齢の高年齢化・職場での競争の激化により、晩婚化の傾向には拍車がかかっている。昨今では、男女とも30代になっても独身を続けようと考えることに対する抵抗感は、彼らが前線に出て働いているオフィス街(特に大都市圏)などでは特に、ほとんど見られなくなっている[7]。
需給のミスマッチ
また、男女とも、お互いを結婚相手としてみなせない、という意識もある。現在の日本では女性が経済力を付ける一方、子育てのサポートが十分ではないために、女性の多くには子どもを産むと仕事を辞めざるを得ず、男性の収入を当てにする上方婚志向(収入・年齢・階層の高い者との結婚を希望する)が根強い。実際に、男性の所得が高くなるほど結婚した男性の割合が高くなり、20、30代の正規雇用で働く男性が結婚した割合は非正規社員の男性の約2倍だったとの調査結果もある[8]。
特に30歳代は男性の正規就業者の未婚割合が30.7%であるのに対して、非正規就業者は75.6%となっている。[9]
平均初婚年齢
2021年(令和3年)での夫の平均初婚年齢が31.0歳であり、妻の平均初婚年齢が29.5歳である[10]。1970年(昭和45年)では夫の平均初婚年齢が26.9歳、妻の平均初婚年齢は24.2歳であり、相対的には女性の初婚年齢の上昇の方が大きい。
第一子出生時の母親の平均年齢については、平均初婚年齢の約1年後という計算になる統計が出ており、2021年(令和3年)での第1子出生時の母の平均年齢は30.9歳である[10]。
近年の日本は晩婚化が進んでいると言われているが、他国の平均初婚年齢と比較した場合、2017年度のデータだと男性の場合はスウェーデンが36.6歳であるのに対し日本は31.1歳であるなど欧州の先進国は軒並み日本より晩婚化が進んでおり、アジアでも韓国は日本より平均初婚年齢が高くなっているなど、世界全体で見れば日本は晩婚の部類に入るが先進国の中では特に平均初婚年齢が高い部類ではない。
脚注
- ^ 例えば、浜田宏一・米エール大学名誉教授の以下の発言を参照のこと。
「たしかに人口増は経済成長のために必要だが、 『人口減がデフレの原因だ』と言った人は、まともな経済学者では一人もいない。 日本ではそれが盛んになって、日本銀行の白川総裁までそれに乗ってしゃべっていた 状態だった。[1]
- ^ a b 国民生活白書 少子社会の到来,その影響と対応 平成4年11月13日] 経済企画庁[2][リンク切れ]
- ^ a b 縄田康光 歴史的に見た日本の人口と家族 [3]
- ^ 2005年1月26日付配信 日経新聞
- ^ 『論争・少子化日本』(中公新書)P38
- ^ 『論争・少子化日本』(中公新書)P39
- ^ 30代前半の男性、半数が親と同居…不況背景?晩婚化も朝日新聞 2010年12月10日
- ^ 「男性の結婚率「非正規は半分」 雇用形態が影響 厚労省調査」ライブドアブログ、2009年3月12日
- ^ 平成22年 社会保障を支える世代に関する意識等調査報告書 厚生労働省
- ^ a b “令和3年(2021)人口動態統計月報年計(概数)の概況”. 厚生労働省. 2022年7月11日閲覧。