コンテンツにスキップ

増六の和音

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』

2021年8月9日 (月) 01:02; SeitenBot2 (会話 | 投稿記録) による版 (Botによる: 保護テンプレートの除去)(日時は個人設定で未設定ならUTC

(差分) ← 古い版 | 最新版 (差分) | 新しい版 → (差分)
ハ長調およびハ短調の場合。左からイタリアの増六、フランスの増六、ドイツの増六

増六の和音(ぞうろくのわおん)は、ドッペルドミナントの第5音下方変位諸和音のうち、使用頻度の高い第2転回位置の和音の総称で[1]、イタリアの増六、フランスの増六、ドイツの増六がある。これらのヨーロッパの各国に因んでつけられた名前は、その正確な由来については音楽学者の意見が一致していない。 増六度音程は、異名同音で言えば短七度と同じだが、和声機能としては異なる。すなわち二つの増六度の構成音は導音・下行導音として、開く形で1オクターブ(完全8度)に向かう強い推進力を持っている。増六の和音は主に18世紀後半のウィーン古典派の作品などに頻繁に見られる。

増六度

[編集]

増六度は、典型的には下方変位したⅵ度音scale degree 6ハ長調であれば変イ)と上方変位したⅳ度音scale degree 4(ハ長調であれば嬰ヘ)の2音の間隔のことをいう。下方変位したⅵ度音scale degree 6はドッペルドミナントの下方変位した第5音、上方変位したⅳ度音scale degree 4はドッペルドミナントの第3音であり[1]、標準的な声部連結では、この後に属和音または属七の和音が直接的または間接的に続き、両方の音がⅴ度音scale degree 5属音、ハ長調であれば)に解決される。であるから当然に短七度scale degree 6scale degree 5の間隔)と異名同音では表記されず、増六度と表記される。

Play

種類

[編集]

イタリアの増六

[編集]

Play

イタリアの増六(It+6、It6)は、外見的にはiv6 の六度音をscale degree 6に、四度音を scale degree 4 に変形したものであるが、第5音が下方変位したドッペルドミナント七の和音 (scale degree 2-scale degree 4-scale degree 6-scale degree 1) の第2転回位置 (scale degree 6-scale degree 1-scale degree 2-scale degree 4) の根音scale degree 2を省略したものである[1]。増六の和音の中は唯一3音から構成される和音であり、scale degree 1重複している。

フランスの増六

[編集]

Play

フランスの増六(Fr+6 または Fr4
3
)は、イタリアの増六と似ているが、scale degree 2 が追加され、第5音が下方変位したドッペルドミナント七の和音 (scale degree 2-scale degree 4-scale degree 6-scale degree 1) の第2転回位置 (scale degree 6-scale degree 1-scale degree 2-scale degree 4) の完全型となる[1]。フランスの増六の構成音は結果的には平均律による異名同音で全音音階に含まれるが、オクターヴを等分割した全音音階とは意味が異なる。

ドイツの増六

[編集]

Play

ドイツの増六(Ger+6 または Ger6
5
)もイタリアの増六と似ているが、scale degree 3 が追加されている。第5音が下方変位したドッペルドミナント九の和音 (scale degree 2-scale degree 4-scale degree 6-scale degree 1-scale degree 3) の第2転回位置 (scale degree 6-scale degree 1-scale degree 2-scale degree 3-scale degree 4) の根音scale degree 2を省略したものである[1]scale degree 6scale degree 5scale degree 3scale degree 2の間に生じる平行5度を回避するためには、属和音類との間に主和音の第2転回位置を挟み、scale degree 3を保留または半音上行させscale degree 3へ導く[2]、またはscale degree 3scale degree 2へ導き「フランスの増六」に変化させてから属和音類へ連結する、などの方法がある。ヴォルフガング・アマデウス・モーツァルトはこの平行5度を回避せずに多用したため「モーツァルト5度」と呼ばれるが、和声学または和声法の観点からは必ずしも歓迎されないグレーゾーンである[3]

ドイツの増六は、属七の和音と異名同音で同一であるが、上述のように結果論に過ぎない。VI7=V7: A, C, E, G

脚注

[編集]
  1. ^ a b c d e 島岡譲ほか『和声 理論と実習』2、音楽之友社、1965年、59頁、ISBN 978-4276102064
  2. ^ 島岡譲ほか『和声 理論と実習』2、音楽之友社、1965年、64頁、ISBN 978-4276102064
  3. ^ 演奏家のための和声のはなし(4)記号 西澤健一