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筋電計

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筋電計(きんでんけい、electromyograph - EMG)とは、筋電図(electromyogram - EMG)を測定、表示、計測、(解析)する、検査装置である。

原理

筋電図検査(electromyography - EMG)とは、神経から筋にかけての疾患の有無を調べる生理学的検査のひとつである。 一般に、刺激電極と、測定電極(関電極)、不関電極(基準電位用、いわゆるアース)を持ち、電気刺激装置と、オペアンプ等による信号増幅器、表示、記録部を持つ。古い機械は、移動するロール紙の上をペンが左右に動くアナログ式であるが、20世紀末からは、ADコンバータを通し、得られた信号を電子計算機を用い、表示処理だけではなく、解析機能を持つ装置が主流となって来ている。

歴史

筋電計の歴史は1800年代初期のルイージ・ガルヴァーニによるカエルの実験にまで遡る。この生物電気の発見により、神経に電気を流すと筋が収縮することがわかり神経生理学の研究が始まり、記録に使用された装置は後年キモグラフとして発展した[1]ヘルマン・フォン・ヘルムホルツ達は神経を刺激するための電気は矩形波のパルス信号が最適であることを発見して、現在でも神経刺激には短時間の矩形パルスが用いられるようになった[1]。1820年にはガルヴァーニの功績を讃えてガルバノメータとも称される検流計ハンス・クリスティアン・エルステッドが開発したことで本格的な電気生理学的研究が開始され、ドイツのフェルディナント・ブラウンの開発した陰極線管(ブラウン管)を利用して、1920年頃にハーバート・ガッサージョセフ・アーランガー達によってオシロスコープが開発され、これを用いた神経生理学研究が開始されて現在まで使用される[1][2]

1942、3年頃に脳波の計測で有名なHerbert Jasper達が筋電計の開発を開始して、1946年アメリカのHuddleston&Golsethが現在の筋電計の原型を開発して、その後、各国で改良され現在に至る[1]

使用方法

一般的な使用方法としては、

  1. 対象とする筋の出来るだけ近くの皮膚表面に、電極を貼る(表面電極)か、または、対象とする筋束に直接針電極を刺入し、
  2. その筋を支配する神経の出来るだけ近くに、2つの刺激電極を貼る。神経に針を刺すのは余りにも痛いので、針電極は用いない。正しく神経の近くに刺激電極を設置しないと、検査に必要な刺激を与えるための電圧が高くなり、無駄に痛いだけなので電極を設置する位置に気をつける必要がある。
  3. 刺激電極に電気刺激(パルス電流)を流し、筋の収縮が起こると、筋電図が得られる。
  4. 筋電図を読み、反応の大きさ、刺激からの遅延時間(運動神経伝道速度)、反復刺激に対する反応等を読み取る。これが検査結果である

検査の種類

  • 末梢神経伝導検査

手足に分布する神経(末梢神経)の働きを調べる。弱い電気で神経を興奮させ、手足を動かす。

  • 表面筋電図検査
  • 針筋電図検査

電極の入った細い針を筋肉に直接刺して、力を入れたり、抜いたりして筋肉の状態を調べる。診断のため、いろいろな筋肉を調べるが、何ヵ所になるかは症状により違ってくる。

表面筋電図

主に付随運動を客観的に評価するために用いる。

針筋電図

刺入時異常活動

刺入時の異常としてはミオトニー放電と複合反復放電が知られている。

ミオトニー放電

ミオトニー放電は急降下爆撃音を特徴とする所見である。刺入時放電が長く持続するもので、単一運動単位が毎秒100回以上もの高頻度で自発放電を続け、次第に振幅と頻度を減少させる。先天性ミオトニアや筋緊張性ジストロフィーで認められる。慢性脱神経時にも認められることがある。

複合反復放電

発火頻度、振幅に増減なく一定の発火頻度、振幅が持続し、波形も一定している。急に始まり、急に終わるのが特徴である。振幅は50μV~1mV、持続時間は50~100msecで一群の筋が同期して発火しているものと考えられている。偽ミオトニー放電ともいう。ヘリコプターの音、機関銃の音と形容されることが多い。

安静時異常活動

線維自発電位

陽性相からはじまる2~3相からなる波形であり、通常振幅は1mV以下でMUPよりも小さい。発火のパターンは規則的であるが。発火頻度は15Hz程度である。不規則な線維自発電位というものも提唱されているが、規則的な線維自発電位とは別の機序によるものと考えられている。

陽性鋭波

急な陽性相とそれに続く緩徐な陰性波からなる波形で持続はおよそ100msecとなる。発火パターンは規則的であり、発火頻度は15Hz以下である。

線維束自発電位

振幅が1mV以上あることから神経束由来と考えられている。不規則な出現をする。

ミオキミー

同一の運動単位が反復放電したり、多数の運動単位が同時に放電するときに生じる。群化した放電である。手根管症候群などで認められる。

クランプ

高頻度のMUP発射が突然認められ、突然終了する。

ニューロミオキミー

極めて高頻度のMUP発射が認められ徐々に振幅が減少していく。

多重発射

最大収縮時の異常

最大収縮時は干渉波の形成をみる。振幅は神経再支配により大きくなることもある。

随意収縮時の異常(MUPの異常)

干渉波ではなく運動単位が観察しやすい程度の力を入れた状態で行う。

高振幅電位
低振幅電位

針の位置が発火点より遠い場合が殆どであるが、短持続時間、多相性、低振幅はミオパチーのMUPに特徴的な所見である。

多相性電位

いくつかのMUPが組み合わさって多相化するのではなく運動単位が多相化すると多相性電位となる。そのため規則的な発火となる。

early recruitment

最弱収縮から複数のMUPが同時発火することであり、ミオパチーに特徴的な所見である。

rapid recruitment

弱い収縮に対して不釣り合いにたくさんのMUPが出現する場合や、正常より弱い収縮で完全干渉パターンとなること

レベル診断

部位 刺入電位 安静時 MUP 干渉波 主な疾患
正常 正常 電気的静止 正常MUP 干渉波形 なし
上位ニューロン 正常 電気的静止 正常MUP 減少 脳血管障害
錐体外路系 正常 電気的静止または群化放電 正常MUP 減少または群化放電 パーキンソン症候群
前角細胞 正常 線維束自発電位、線維自発電位 高振幅電位(多相性電位) 減少 ALS
下位ニューロン 正常 線維束自発電位、線維自発電位 多相性電位(高振幅電位) 減少 多発性神経炎
神経筋接合部 正常 電気的静止 正常から低振幅 正常から減少 重症筋無力症
筋膜 延長、ミオトニー放電 電気的静止 正常から低振幅 正常から減少 筋緊張性シストロフィー
筋実質 正常から短縮 電気的静止(線維自発電位) 低振幅 正常から増加 筋シストロフィー、多発筋炎

対象疾患

関連項目

参考文献

  • 神経電気診断の実際 ISBN 4791105486
  • 神経伝導検査と筋電図を学ぶ人のために ISBN 9784260118804
  • 筋電図・誘発電位マニュアル ISBN 4765311457
  • 臨床神経生理学 ISBN 9784260007092
  • 時実利彦、津山直一『筋電図の臨床』共同医書、1952年。 
  • 久保田博南『電気システムとしての人体』講談社、2001年。ISBN 9784062573382 
  • 杉晴夫『生体電気信号とはなにか』講談社、2006年。ISBN 9784062575232 
  • ロバートガランボス 著、菊池/南谷 訳『神経と筋肉』河出書房新社、1972年。 
  • 長嶋洋一「特集:「生体センシング入門」」『インターフェース』、CQ出版、2015年4月、ASIN B00S5TLDKY 
  • 辰岡 鉄郎「筋電図」『トランジスタ技術』、CQ出版、2014年2月。 

脚注

  1. ^ a b c d 筋電計・誘発電位計の歴史”. ミユキ技研. 2016年12月9日閲覧。
  2. ^ 宇川義一『神経、筋生理機能検査機器、臨床検査とME』コロナ社、1986年、73-95頁。 

外部リンク