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'''トビムシ目'''(トビムシもく; Collembola)は、原始的な[[昆虫]](とみなされている)の群である。よく飛び跳ねるものが多いので、この名がある。森林[[土壌]]中では平方メートルあたり数万個体と極めて高い密度に達する。
'''トビムシ目'''(トビムシもく; Collembola)は、原始的な[[昆虫]](とみなされている)の群である。よく飛び跳ねるものが多いので、この名がある。森林[[土壌]]中では平方メートルあたり数万個体と極めて高い密度に達する。


== 特徴 ==
== 形態 ==
トビムシ目は、原始的な[[昆虫]]の1つの群と見なされている。基本的な構造には昆虫と共通する点が多いからであるが、跳躍器や粘管などの独特の器官をもち、触覚に筋肉があるなど特異な特徴をもつ。このため昆虫綱にいれるべきかどうかという点については議論がある。近年は分子的手法による系統推定により、トビムシ目よりも甲殻綱のほうが有翅昆虫に近縁であるとする研究者もいる。
トビムシ目は、原始的な[[昆虫]]の1つの群と見なされている。基本的な構造には昆虫と共通する点が多いからであるが、跳躍器や粘管などの独特の器官をもち、触覚に筋肉があるなど特異な特徴をもつ。このため昆虫綱にいれるべきかどうかという点については議論がある。近年は分子的手法による系統推定により、トビムシ目よりも甲殻綱のほうが有翅昆虫に近縁であるとする研究者もいる。

変態せず、脱皮を繰り返して成長する。成熟後も脱皮を繰り返す。多くの場合、年多化であり温帯では年間3-6世代が経過する。


様々な形のものがあり、例外は多いが、一般には長い[[触角]]を持ち、体は細長く、[[胸部]]3節には各1対、計3対の足がある。これらの点は、昆虫の標準的な構造である。特殊な点としては、通常の昆虫では腹部に11の体節があるのに対して、トビムシでは6節しかない。また腹部下面にはこの目の旧名の元になった腹管(粘管)という管状の器官がある。これは体内の浸透圧を調整する機能を持つといわれている。また、腹部末端には2又になった跳躍器官がある。この器官は叉状器と呼ばれ、普段は折り曲げて腹部下面に寄せられ、腹面にある保持器によって引っかけられている。これがはずれると筋肉の収縮によって叉状器が伸び、トビムシは大きくはねる。
様々な形のものがあり、例外は多いが、一般には長い[[触角]]を持ち、体は細長く、[[胸部]]3節には各1対、計3対の足がある。これらの点は、昆虫の標準的な構造である。特殊な点としては、通常の昆虫では腹部に11の体節があるのに対して、トビムシでは6節しかない。また腹部下面にはこの目の旧名の元になった腹管(粘管)という管状の器官がある。これは体内の浸透圧を調整する機能を持つといわれている。また、腹部末端には2又になった跳躍器官がある。この器官は叉状器と呼ばれ、普段は折り曲げて腹部下面に寄せられ、腹面にある保持器によって引っかけられている。これがはずれると筋肉の収縮によって叉状器が伸び、トビムシは大きくはねる。
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*マルトビムシ科は、丸っこい頭と膨らんだ腹部をやや幅の狭い胸部でつないだ形で、触角、足、又状器は長め。体節が違いに融合している。
*マルトビムシ科は、丸っこい頭と膨らんだ腹部をやや幅の狭い胸部でつないだ形で、触角、足、又状器は長め。体節が違いに融合している。


== 生活史 ==
交接は行わず、雄は土の表面に精包を置き、雌がそれを拾い上げることで受精が行われる。
変態せず、脱皮を繰り返して成長する。成熟後も脱皮を繰り返す。多くの場合、年多化であり温帯では年間3-6世代が経過する。一部に夏季の乾燥を避けるために夏眠をする種もおり、これは年一化性の種である。
また、交尾を経ないで繁殖する単為生殖を行う種がしられており、深層性の生活を行うものに多い。


基本的には交接は行わず、雄は土の表面に精包を置き、雌がそれを拾い上げることで受精が行われる。ただしマルトビムシの一部ではオスが触角をつかってメスの触角をつかみ、後脚を使って直接精包を受け渡すものもある。また、交尾を経ないで繁殖する単為生殖を行う種が知られており、深層性の生活を行うものに多くみられる。


== 生息環境 ==
== 生息環境 ==

2006年8月6日 (日) 03:08時点における版

トビムシ目/粘管目
分類
界: 動物界 Animalia
門: 節足動物門 Arthropoda
綱: 昆虫綱 Insecta
目: トビムシ目 Collembola

トビムシ目(トビムシもく; Collembola)は、原始的な昆虫(とみなされている)の群である。よく飛び跳ねるものが多いので、この名がある。森林土壌中では平方メートルあたり数万個体と極めて高い密度に達する。

形態

トビムシ目は、原始的な昆虫の1つの群と見なされている。基本的な構造には昆虫と共通する点が多いからであるが、跳躍器や粘管などの独特の器官をもち、触覚に筋肉があるなど特異な特徴をもつ。このため昆虫綱にいれるべきかどうかという点については議論がある。近年は分子的手法による系統推定により、トビムシ目よりも甲殻綱のほうが有翅昆虫に近縁であるとする研究者もいる。

様々な形のものがあり、例外は多いが、一般には長い触角を持ち、体は細長く、胸部3節には各1対、計3対の足がある。これらの点は、昆虫の標準的な構造である。特殊な点としては、通常の昆虫では腹部に11の体節があるのに対して、トビムシでは6節しかない。また腹部下面にはこの目の旧名の元になった腹管(粘管)という管状の器官がある。これは体内の浸透圧を調整する機能を持つといわれている。また、腹部末端には2又になった跳躍器官がある。この器官は叉状器と呼ばれ、普段は折り曲げて腹部下面に寄せられ、腹面にある保持器によって引っかけられている。これがはずれると筋肉の収縮によって叉状器が伸び、トビムシは大きくはねる。

世界で3000種以上記載されており、日本国内では14科103属約360種が報告されている。分類は形態的特長によって行われている。 さまざまな姿のものがあるが、代表的なものは、次のような形のものである。

  • ツチトビムシ科は温帯林の有機物堆積層において最も一般的なグループで、種数も多い。又状器の長さや体色などは種により様々である。
  • トゲトビムシ科やアヤトビムシ科は体長と同じくらいの触角と又状器を持ち、活発に跳ね回る。表層性または樹上性のものが多い。
  • シロトビムシ科は眼が退化しており、多く場合、色素と又状器をもたず土壌中での生活に適応している。体表に擬小眼とよばれる防御物質の分泌腺を多数持つ。
  • ムラサキトビムシ科は、太めの体に短い触角と足、又状器をもつ。体色は紫から褐色。高い集合性を持つ。キノコを食害することがある。
  • イボトビムシ科は楕円形で偏平、触角、足は短く、体中にイボ状の突起がある。色が派手なものも多い。
  • マルトビムシ科は、丸っこい頭と膨らんだ腹部をやや幅の狭い胸部でつないだ形で、触角、足、又状器は長め。体節が違いに融合している。

生活史

変態せず、脱皮を繰り返して成長する。成熟後も脱皮を繰り返す。多くの場合、年多化であり温帯では年間3-6世代が経過する。一部に夏季の乾燥を避けるために夏眠をする種もおり、これは年一化性の種である。

基本的には交接は行わず、雄は土の表面に精包を置き、雌がそれを拾い上げることで受精が行われる。ただしマルトビムシの一部ではオスが触角をつかってメスの触角をつかみ、後脚を使って直接精包を受け渡すものもある。また、交尾を経ないで繁殖する単為生殖を行う種が知られており、深層性の生活を行うものに多くみられる。

生息環境

乾燥に弱く、水湿地、土壌などに生息する。特に土壌中に生息するものが多く、土壌中の個体数はササラダニと並んで節足動物では最も数が多いものである。まれに畑地などで大発生をして、辺り一面を埋め尽くして人を驚かす種がある。ほかに、海岸、洞穴、アリの巣に住むものもある。

北アメリカにはある種のシロアリの兵アリの頭の上に住み、兵アリが働きアリから餌をもらう時、わきから食べるトビムシが知られている。

食性は多くの種が雑食で、落ち葉や腐植を中心に食べるものが多く、真菌の菌糸や胞子、バクテリア、藻類、花粉、線虫なども摂食することが報告されている。

ある種のトビムシは、雪解けの時期に大発生をするものがあり、ユキノミと呼ばれる。場合によっては数メートルにわたって雪の表面が真っ黒になり、窪みにたまったトビムシはスプーンですくえるほどになる。


生態系における機能

トビムシ目は森林林床などの堆積腐植層において、有機物の分解過程の重要な構成要素となっている。土壌分解系において有機物を摂食するが、実際には、一緒に摂食している微生物(主に真菌)を経由して主要なエネルギーを得ている二次分解者にあたる。排泄された糞粒を培地にして再び微生物が繁殖するため、微生物はトビムシ(やササラダニ)により摂食されても容易に現存量は減少せず、むしろトビムシにより土壌分解系の回転が促進される。このプロセスを通じて植物遺体の砕片化と無機化が進行する。

参考文献 詳しく勉強したい方へ

  • 武田博清 (2002). 「トビムシの住む森 ・土壌動物から見た森林生態系」. 京都, 京都大学学術出版会

 和文で手軽に読めるものとしておすすめです。トビムシを経由して森林生態学を概観できる内容となっています。


専門的に勉強される方には下記の著作を推薦します。

  • 青木淳一編著(1999). 「日本産土壌動物」. 東京, 東海大学出版会

  分類検索を行うための図鑑で、トビムシのみならず土壌動物を研究する際には必須のツールとなっています。

  • Hopkin, S. P. (1997). Biology of the Springtails. New York, Oxford University Press.

  トビムシの生態学、行動学、分類学、生理学など多岐にわたったレヴューとなっている著作です。

  • Wardle, D. A. (2002). Communities and Ecosystems: Linking the aboveground and belowground components. Princeton, Princeton University Press.

  地下部生態系と地上部の生食連鎖系との関連を包括的に勉強したい方にお勧めです。