牧野訴訟

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牧野訴訟(まきのそしょう)は、老齢年金における夫婦需給制限規定が平等権を規定した日本国憲法第14条に違反するとして争われた、日本の裁判[1][2][3]

概要[編集]

北海道の開拓農民であるXは1965年1月に70歳になったので、国民年金法に基づいて老齢福祉年金を受け取れることになった[4]。しかし、Xの妻Yがすでに1963年3月に老齢福祉年金の支給を受けていたため、国民年金法の夫婦受給制限規定により、Xに対しては老齢福祉年金の年額1万5600円(1967年1月以降は1万8000円)から3000円に相当する部分が減額された[1][4]。同様に以前から老齢福祉年金の支給を受けていたYも同様の減額を受けた[4]

Xは国民年金法の夫婦需給制限規定は夫婦者である老齢者を不当に単身老齢者と差別し、かつ夫婦者である老齢者を個人として尊重しないものであって、日本国憲法第13条と日本国憲法第14条に違反し無効であり、これに基づく減額も無効であるとして国に対して1965年2月から1967年4月まで6750円の支払いを求めて1967年2月に提訴した[1][4]。この訴訟は当初は本人訴訟であったが、後に朝日訴訟を担当した渡辺良夫[要曖昧さ回避]弁護士らも参加した[4]

国側は夫婦減額制限の理由として「夫婦の場合は生活費に共通の部分があるはずなので、単身生活者との均衡を図るためにその共通部分を差し引く必要がある」「老齢福祉年金は無拠出制であるから受ける者にとって権利というより、国が財政、社会情勢等を考慮して行えばいいことである」と主張した[4]

1968年7月15日東京地方裁判所は「老齢福祉年金の夫婦需給制限を規定した国民年金第79条の2は日本国憲法第14条に違反する」として減額した6750円を支払うよう国に命じる判決を言い渡した[4]。社会保障訴訟において日本国憲法第14条違反の主張が受け容れられた最初の判決となった[1]

国は控訴したが、1969年の国民年金法改正で夫婦需給制限規定が廃止されたことをうけて、高等裁判所段階で和解が成立した[1][3]

脚注[編集]

  1. ^ a b c d e 憲法判例研究会 (2014), p. 296.
  2. ^ 戸松秀典 & 初宿正典 (2018), p. 414.
  3. ^ a b 佐藤幸治 & 土井真一 (2010), p. 190.
  4. ^ a b c d e f g 「老齢年金 夫婦減額制は違憲 生活実態に合わぬ 国側敗訴 東京地裁が判決」『朝日新聞朝日新聞社、1968年7月15日。

参考文献[編集]

  • 憲法判例研究会 編『憲法』(増補版)信山社〈判例プラクティス〉、2014年6月30日。ASIN 4797226366ISBN 978-4-7972-2636-2NCID BB15962761OCLC 1183152206全国書誌番号:22607247 
  • 戸松秀典初宿正典 編『憲法判例』(第8版)有斐閣、2018年4月。ASIN 4641227454ISBN 978-4-641-22745-3NCID BB25884915OCLC 1031119363全国書誌番号:23035922 
  • 佐藤幸治土井真一 編『憲法』 2巻《基本的人権・統治機構》、悠々社〈判例講義〉、2010年4月1日。ASIN 4862420133doi:10.32286/00026096ISBN 978-4-86242-013-8NCID BB01867048OCLC 836288002全国書誌番号:21750875 

関連項目[編集]