セントログラフィー

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標準偏差楕円から転送)

セントログラフィー(英語: centrography)とは、点データの分布の中心やばらつきを捉えるための分析方法である[1]。平均中心や標準距離、標準偏差楕円などの測度があり[2]、これらは、統計学における平均分散などの測度を2次元空間に拡張したものである[1]

地理学では、点パターン分析英語版認知地図の研究などで利用される[3]

平均中心[編集]

平均中心は、記述統計学における平均に対応した測度である[2]

)の座標および座標を, とするとき、平均中心は式(1)で表される[2]


(1)

次に、点に重みがある場合を考える。点の重みをとするとき、加重平均中心(重心)は式(2)で表される[2]


(2)

平均中心の具体例として、人口重心が挙げられる[4]

標準距離[編集]

標準距離は、平均中心からの距離の標準偏差のことである[5]記述統計学における標準偏差に対応した測度で、式(3)で表される[2]。標準半径と同一である[6]

(3)

点に重みがある場合は、式(4)で表される[2]

(4)

また、加重平均中心と点ユークリッド距離とするとき、式(5)で表現できる[7]

(5)

標準偏差楕円[編集]

標準偏差楕円と平均中心(×印)

標準偏差楕円standard deviational ellipse)は、点分布のばらつきを表現した楕円のことである[5]記述統計学における標準偏差に対応した測度であるが、点分布パターンで方向性のばらつきが存在する場合に用いられる[8]。点データの平均的な位置、ばらつき、方向と形状を数値化するとともに、楕円として図化もできる[9]

点に重みがない場合

の位置を、座標変換により座標系で式(6)のように表現する[10]


(6)

これにより、平均中心が座標の原点に表示されることになる[10]

次に、標準偏差楕円の長軸短軸がy軸・x軸と重なるように座標回転させ、座標系で式(7)のように表現する[10]


(7)

このとき、は回転させた角度である[注釈 1][11]

座標系におけるx軸・y軸の標準偏差, は式(8)で表現できる(および座標の平均中心)[12]


(8)

ここで、およびが成立するため、式(7)を代入して、式(9)が成立する[12]


(9)
点に重みがある場合

座標変換により点の位置は式(10)で表現できる[7]


(10)

次に、標準偏差楕円の長軸短軸がy軸・x軸と重なるようにだけ座標回転させる[注釈 2][7]

ここでx軸・y軸の標準偏差, について、式(11)が成立する[12]


(11)
分布形状の表現

分布形状を表現する測度として、円形係数coefficient of circularity)があり、式(12)で求められる(ただしは円形係数、は標準偏差楕円の長軸、は標準偏差楕円の短軸である)[7]

(12)

をとり、のときは線分のときはをなす[7]

また、離心率を用いて標準偏差楕円の形状を評価することもできる[13]

地理学における利用

1971年にRobert S. Yuillにより有用性が主張されて[注釈 3]から、地理学で応用されるようになってきた[14]

また、認知地図の研究でも用いられ、Nathan Gale[注釈 4]によると、標準偏差楕円を用いることで、認知地図の歪みを構成する2成分である錯誤と系統的歪みを分離することができる[15]。認知地図から得られた標準偏差楕円の重心の位置と実際の位置のずれは系統的歪みであり、被験者全体的な傾向を示すが、標準偏差楕円の大きさは錯誤に由来し被験者により異なるものであり、被験者間での比較に利用できる[15]

脚注[編集]

注釈[編集]

  1. ^ このとき、以下の式が成立する。
  2. ^ このとき、以下の式が成立する。
  3. ^ Yuill, R. S. 1971. The Standard Deviational Ellipse; An Updated Tool for Spatial Description. Geografiska Annaler: Series B, Human Geography 53: 28-39. doi:10.1080/04353684.1971.11879353
  4. ^ Gale, N. 1982. Some Applications of Computer Cartography to the Study of Cognitive Configurations. The Professional Geographer 34: 313-321. doi:10.1111/j.0033-0124.1982.00313.x

出典[編集]

  1. ^ a b 伊藤 1997, p. 319.
  2. ^ a b c d e f 杉浦 2003, p. 2.
  3. ^ 浮田ほか 2004, p. 162.
  4. ^ 鈴木 1984, p. 550.
  5. ^ a b 駒木 2013, p. 133.
  6. ^ 鈴木 1984, p. 566.
  7. ^ a b c d e 鈴木 1984, p. 551.
  8. ^ 杉浦 2003, pp. 2–3.
  9. ^ 鈴木 1984, pp. 565–566.
  10. ^ a b c 杉浦 2003, p. 3.
  11. ^ 杉浦 2003, pp. 3–4.
  12. ^ a b c 杉浦 2003, p. 4.
  13. ^ 杉浦 2003, pp. 4–5.
  14. ^ 鈴木 1984, p. 549.
  15. ^ a b 若林 1989, p. 345.

参考文献[編集]

  • 伊藤悟 著「点分布パターン分析」、山本正三奥野隆史・石井英也・手塚章 編『人文地理学辞典』朝倉書店、1997年、319頁。 
  • 浮田典良 編『最新地理学用語辞典』(改訂版)原書房、2004年。ISBN 4-562-09054-5 
  • 駒木伸比古 著「集積を把握する」、村山祐司・駒木伸比古 編『新版 地域分析』古今書院、2013年、131-141頁。ISBN 978-4-7722-5272-0 
  • 杉浦芳夫 著「点分布パターン分析」、杉浦芳夫 編『地理空間分析』朝倉書店〈シリーズ人文地理学〉、2003年、1-23頁。ISBN 4-254-16713-X 
  • 鈴木厚志「セントログラフィック法による都市機能の空間的形状分析―水戸市を事例として」『地理学評論』第57巻第8号、1984年、549-570頁、doi:10.4157/grj1984a.57.8_549 
  • 若林芳樹「認知地図の歪みに関する計量的分析」『地理学評論』第62巻第5号、1989年、339-358頁、doi:10.4157/grj1984a.62.5_339