代数学 における多重根号 (たじゅうこんごう)の式[注釈 1] は、少なくとも一つの根号(平方根号や立方根号など)の中に無理式[注釈 2] 含む無理式を言う。例を挙げると
5
−
2
5
{\displaystyle {\sqrt {5-2{\sqrt {5}}\ }}}
正五角形 を議論するに当たって登場するものとしては、以下の物が挙げられる。
5
+
2
6
{\displaystyle {\sqrt {5+2{\sqrt {6}}\ }}}
より複雑化した式のひとつとしては、以下のようなものがある。
2
+
3
+
4
3
3
{\displaystyle {\sqrt[{3}]{2+{\sqrt {3}}+{\sqrt[{3}]{4}}\ }}}
一重化 [ 編集 ]
多重の根号を持つ式の中には、一重の根号しか持たない式に書き直すことができるものもある。例えば
3
+
2
2
=
1
+
2
,
{\displaystyle {\sqrt {3+2{\sqrt {2}}}}=1+{\sqrt {2}},}
2
3
−
1
3
=
1
−
2
3
+
4
3
9
3
.
{\displaystyle {\sqrt[{3}]{{\sqrt[{3}]{2}}-1}}={\frac {1-{\sqrt[{3}]{2}}+{\sqrt[{3}]{4}}}{\sqrt[{3}]{9}}}.}
このような書き直しは一重化 (denesting ; 脱多重化) という(外側の根号が消えるので「多重根号を外す」というような言い方もする)。一重化の過程は一般には難しい問題と考えられる。
初等的な例 [ 編集 ]
特定のクラスの多重根号は初等的な計算に基づいて根号を外すことができる。以下の左辺の形をした二重根号の式が、右辺のように二つの平方根の和に分解できる条件を調べよう。すなわち、以下の等式
a
±
b
c
=
d
±
e
{\displaystyle {\sqrt {a\pm b{\sqrt {c}}\ }}={\sqrt {d}}\pm {\sqrt {e}}}
が成り立つと仮定する。両辺を自乗 した
a
±
b
c
=
(
d
+
e
)
±
2
d
e
{\displaystyle a\pm b{\sqrt {c}}=(d+e)\pm 2{\sqrt {de}}}
に対し、両辺の係数比較 (英語版 ) (両辺の有理成分同士、無理成分同士がそれぞれを等しいと置く)によって、問題は「和が a に等しく、積が b 2 c /4 に等しい二数 d, e を求めること」に帰着される。これは二次の根の公式 により、特定の二次方程式 を解く問題として解決することができる。あるいは以下のようにしてもよい:
証明
有理成分の比較 a = d + e から、d = a − e または
e
=
a
−
d
{\displaystyle e=a-d}
を得る。また、無理成分の比較 b √ c = 2√ de から、両辺自乗して先の式を代入すれば
b
2
c
=
4
d
(
a
−
d
)
=
4
a
d
−
4
d
2
{\displaystyle b^{2}c=4d(a-d)=4ad-4d^{2}}
となり、整理すれば二次方程式
4
d
2
−
4
a
d
+
b
2
c
=
0
,
{\displaystyle 4d^{2}-4ad+b^{2}c=0,}
を得る。これを解いて
d
=
a
±
a
2
−
b
2
c
2
.
{\displaystyle d={\frac {a\pm {\sqrt {a^{2}-b^{2}c}}}{2}}.}
a = d + e ゆえ、二つの解 d, e は互いに代数共軛 (英語版 ) となるから、
d
=
a
+
a
2
−
b
2
c
2
{\displaystyle d={\frac {a+{\sqrt {a^{2}-b^{2}c}}}{2}}}
ととれば e は
e
=
a
−
a
2
−
b
2
c
2
{\displaystyle e={\frac {a-{\sqrt {a^{2}-b^{2}c}}}{2}}}
と決まる
このやり方で
a
+
b
c
{\displaystyle {\sqrt {a+b{\sqrt {c}}\ }}}
の形の多重根式を一重化できるための必要十分条件 は
a
2
−
b
2
c
{\displaystyle {\sqrt {a^{2}-b^{2}c}}}
が有理数 となること、すなわち a 2 − b 2 c が平方数 となることである(そのとき、多重根式の一重化は上で見た通りの二つの平方根の和になる)。実際に、最初の例 a = 3, b = c = 2 では a 2 − b 2 c = 32 − 22 2 = 1 は平方数であり、d = (3 + 1)/2 = 2, e = (3 − 1)/1 = 1 となるから、所期の通り 3 + 2√ 2 = √ 2 + 1 を得る。
場合によっては、多重根式の一重化に高次の冪根が必要となるかもしれない。[要出典 ]
ラマヌジャンの等式 [ 編集 ]
シュリニヴァーサ・ラマヌジャン は、多重根号を外す操作を含む特徴的な等式をいくつも示して見せた。以下にそれらを列挙する[2] 。
3
+
2
5
4
3
−
2
5
4
4
=
5
4
+
1
5
4
−
1
=
1
2
(
3
+
5
4
+
5
+
125
4
)
{\displaystyle {\sqrt[{{}^{\scriptstyle 4}}]{\frac {3+2{\sqrt[{4}]{5}}}{3-2{\sqrt[{4}]{5}}}}}={\frac {{\sqrt[{4}]{5}}+1}{{\sqrt[{4}]{5}}-1}}={\frac {1}{2}}(3+{\sqrt[{4}]{5}}+{\sqrt {5}}+{\sqrt[{4}]{125}}\,)}
28
3
−
27
3
=
1
3
(
98
3
−
28
3
−
1
)
{\displaystyle {\sqrt {{\sqrt[{3}]{28}}-{\sqrt[{3}]{27}}}}={\frac {1}{3}}({\sqrt[{3}]{98}}-{\sqrt[{3}]{28}}-1)}
32
5
5
−
27
5
5
3
=
1
25
5
+
3
25
5
−
9
25
5
{\displaystyle {\sqrt[{{}^{\scriptstyle 3}}]{{\sqrt[{\scriptstyle 5}]{\frac {32}{5}}}-{\sqrt[{\scriptstyle 5}]{\frac {27}{5}}}}}={\sqrt[{\scriptstyle 5}]{\frac {1}{25}}}+{\sqrt[{\scriptstyle 5}]{\frac {3}{25}}}-{\sqrt[{\scriptstyle 5}]{\frac {9}{25}}}}
2
3
−
1
3
=
1
9
3
−
2
9
3
+
4
9
3
{\displaystyle {\sqrt[{\scriptstyle 3}]{{\sqrt[{3}]{2}}\ -1}}={\sqrt[{\scriptstyle 3}]{\frac {1}{9}}}-{\sqrt[{\scriptstyle 3}]{\frac {2}{9}}}+{\sqrt[{\scriptstyle 3}]{\frac {4}{9}}}}
[3]
他にも、以下に挙げるような一風変わった等式が、ラマヌジャンによって発見された。
49
+
20
6
4
+
49
−
20
6
4
=
2
3
{\displaystyle {\sqrt[{4}]{49+20{\sqrt {6}}}}+{\sqrt[{4}]{49-20{\sqrt {6}}}}=2{\sqrt {3}}}
(
2
+
3
)
(
5
−
6
)
+
3
(
2
3
+
3
2
)
3
=
10
−
13
−
5
6
5
+
6
{\displaystyle {\sqrt[{3}]{({\sqrt {2}}+{\sqrt {3}})(5-{\sqrt {6}})+3(2{\sqrt {3}}+3{\sqrt {2}})}}={\sqrt {10-{\frac {13-5{\sqrt {6}}}{5+{\sqrt {6}}}}}}}
ランダウのアルゴリズム [ 編集 ]
1989年 に、スーザン・ランダウ (英語版 ) が多重根号を外すことのできる多重根式を決定するための、最初のアルゴリズム を導入した[4] 。それ以前のアルゴリズムは、上手く行った場合もあったが、それ以外には適合しなかった。
無限多重根号 [ 編集 ]
平方根の場合 [ 編集 ]
特定の条件を満たす
x
=
2
+
2
+
2
+
2
+
⋯
{\displaystyle x={\sqrt {2+{\sqrt {2+{\sqrt {2+{\sqrt {2+\cdots }}}}}}}}}
のような無限多重平方根は有理数 を表す。根号 の中にも x が実現されていることに気付けば方程式
x
=
2
+
x
{\displaystyle x={\sqrt {2+x}}}
が得られるから、この有理数は求められる。つまり、この方程式を解いて x = 2 がわかる(両辺自乗して得られる二次方程式のもう一つの解 x = −1 は不適である。それは、規約により右辺が 2 + x の「正」の平方根を意味するから、左辺 x もまた正でなければならないことによる。)。同じやり方は、一般に n > 0 に対して
n
+
n
+
n
+
n
+
⋯
=
1
2
(
1
+
1
+
4
n
)
,
{\displaystyle {\sqrt {n+{\sqrt {n+{\sqrt {n+{\sqrt {n+\cdots }}}}}}}}={\frac {1}{2}}(1+{\sqrt {1+4n}}\,),}
同じく
n
−
n
−
n
−
n
−
⋯
=
1
2
(
−
1
+
1
+
4
n
)
{\displaystyle {\sqrt {n-{\sqrt {n-{\sqrt {n-{\sqrt {n-\cdots }}}}}}}}={\frac {1}{2}}(-1+{\sqrt {1+4n}})}
を示すのにも通用する。後者の式は、有理数 x > 0 によって
n
=
x
2
+
x
{\displaystyle n=x^{2}+x}
と表すことのできる任意の n に対して、x を値としてとる[注釈 3] 。
ラマヌジャンの問題 [ 編集 ]
ラマヌジャンは、雑誌 『Journal of Indian Mathematical Society』にこの問題を提示した。
?
=
1
+
2
1
+
3
1
+
⋯
.
{\displaystyle ?={\sqrt {1+2{\sqrt {1+3{\sqrt {1+\cdots }}}}}}.\,}
これはより一般的な公式を記述することにより、解くことができる。
?
=
a
x
+
(
n
+
a
)
2
+
x
a
(
x
+
n
)
+
(
n
+
a
)
2
+
(
x
+
n
)
⋯
{\displaystyle ?={\sqrt {ax+(n+a)^{2}+x{\sqrt {a(x+n)+(n+a)^{2}+(x+n){\sqrt {\mathrm {\cdots } }}}}}}\ }
これをF (x )と設定し、両項を2乗すると以下の式が得られる。
F
(
x
)
2
=
a
x
+
(
n
+
a
)
2
+
x
a
(
x
+
n
)
+
(
n
+
a
)
2
+
(
x
+
n
)
⋯
{\displaystyle F(x)^{2}=ax+(n+a)^{2}+x{\sqrt {a(x+n)+(n+a)^{2}+(x+n){\sqrt {\mathrm {\cdots } }}}}\ }
これは、以下のように簡略化できる。
F
(
x
)
2
=
a
x
+
(
n
+
a
)
2
+
x
F
(
x
+
n
)
{\displaystyle F(x)^{2}=ax+(n+a)^{2}+xF(x+n)\ }
よって、以下の通りに表される。
F
(
x
)
=
x
+
n
+
a
{\displaystyle F(x)=x+n+a\ }
よって、a =0, n = 1, そして x = 2を上の式に代入すると、
3
=
1
+
2
1
+
3
1
+
⋯
.
{\displaystyle 3={\sqrt {1+2{\sqrt {1+3{\sqrt {1+\cdots }}}}}}.\ }
ラマヌジャンは彼のノート(現存せず)において
5
+
5
+
5
−
5
+
5
+
5
+
5
−
⋯
=
2
+
5
+
15
−
6
5
2
{\displaystyle {\sqrt {5+{\sqrt {5+{\sqrt {5-{\sqrt {5+{\sqrt {5+{\sqrt {5+{\sqrt {5-\cdots }}}}}}}}}}}}}}={\frac {2+{\sqrt {5}}+{\sqrt {15-6{\sqrt {5}}}}}{2}}}
という無限多重平方根の根号を外した式を述べている。(上式の符号のパターンは +, +, −, + の繰り返しである)
ヴィエトの円周率公式 [ 編集 ]
円周率 π に関するヴィエトの公式 (英語版 ) は
2
π
=
2
2
⋅
2
+
2
2
⋅
2
+
2
+
2
2
⋯
.
{\displaystyle {\frac {2}{\pi }}={\frac {\sqrt {2}}{2}}\cdot {\frac {\sqrt {2+{\sqrt {2}}}}{2}}\cdot {\frac {\sqrt {2+{\sqrt {2+{\sqrt {2}}}}}}{2}}\cdots .}
立方根の場合 [ 編集 ]
特定の場合において、
x
=
6
+
6
+
6
+
6
+
⋯
3
3
3
3
{\displaystyle x={\sqrt[{3}]{6+{\sqrt[{3}]{6+{\sqrt[{3}]{6+{\sqrt[{3}]{6+\cdots }}}}}}}}}
のような無限多重立方根もまた同様に有理数を表す。再び、式全体がそれ自身の中に見つけられることを利用して
x
=
6
+
x
3
{\displaystyle x={\sqrt[{3}]{6+x}}}
だけを残す。方程式を解いて x = 2 が求まる。より一般に、n > 0 に対して
n
+
n
+
n
+
n
+
⋯
3
3
3
3
{\displaystyle {\sqrt[{3}]{n+{\sqrt[{3}]{n+{\sqrt[{3}]{n+{\sqrt[{3}]{n+\cdots }}}}}}}}}
は方程式 x 3 − x − n = 0 の実根である。特に n = 1 のとき、根はプラスチック数 ρ (約 1.3247 )になる。
同じ手順で、任意の n > 0 に対して
n
−
n
−
n
−
n
−
⋯
3
3
3
3
{\displaystyle {\sqrt[{3}]{n-{\sqrt[{3}]{n-{\sqrt[{3}]{n-{\sqrt[{3}]{n-\cdots }}}}}}}}}
の値を方程式 x 3 + x − n = 0 の実根として得ることができる。
関連項目 [ 編集 ]
^ 厳密には「根号」(radical sign) は冪根 (radical) を表すために用いる記号のことを言うのであって、記号でなく「根号が入れ子になった式」(英 : nested radical ) そのものを「多重根号」と呼ぶのは甚だ不適当であるが、慣用的に式そのものを「多重根号」と呼ぶことがあるようにも思われる。少なくとも「多重根号の式」のように呼ぶならば取り立てて齟齬はないはずである
^ ここでは「無理式」 (irrational expression) を慣用に従って「根号の中に変数を含む代数式」の意味で用いる[1] 。「無理式」の語義「有理式でない代数式」を厳密にとれば本項で扱うべき式以外のものをも含むから、そうでないことを明確にするならば根式 (英 : radical expression ) を用いるほうがより適切と思われる。
^ 明らかに 1 + 4n = 1 + 4x + 4x 2 = (2x + 1)2 だから (−1 + √ 1+4n )/2 = x
外部リンク [ 編集 ]