多重ディスパッチ

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多重ディスパッチ: Multiple dispatch)またはマルチメソッド: Multimethods)は、多重定義された関数メソッドからそこで呼び出されるべき1つの定義を選出し実行する(ディスパッチする)際に、2個以上の複数の引数が関与してどれかひとつを選ぶこと(特殊化)がおこなわれるものである。

概要[編集]

多重定義を許すプログラミング言語では、同一の名前の(すなわち、多重定義された)関数メソッドのうちのどれを呼出す(ディスパッチする)かを決定する、ということをしなければならない。

多くのオブジェクト指向プログラミング言語は単一ディスパッチである。すなわち、メソッド呼び出し(Smalltalkなら「メッセージ送信」、C++なら「メンバ関数呼び出し」)において、引数の1つが特別に扱われ、呼び出すべきメソッドの特定に使われる。構文上もその引数を特別に扱い、ドットを挟んで、そのオブジェクトを選択する式と、呼び出すべきメソッドの名前を記述する(例えばspecial.meth(other,args,here))。(これは、そのような言語ではそのメソッドをそのオブジェクトが「所有する」ような形となるため、オブジェクトによって名前空間を指定するのが自然であるため、という理由もある)

多重ディスパッチを採用する言語では、全ての引数がメソッド選択という観点では平等に扱われる。第一引数、第二引数、第三引数とマッチングを行うが、どれか特定の引数がその関数やメソッドを「所有」しているわけではない。

初期の多重ディスパッチを採用した例として Common Lisp Object System がある。

静的と動的[編集]

型システムがある(静的な)言語では、実行前に解決(binding)が行われる。

動的言語のように実行時に型検査(動的検査)を行う(en:Late binding)言語の場合は、実引数として与えられたオブジェクトを検査して解決が行われる。

言語and・or処理系によっては、コンパイル時に型が確定する場合はコンパイル時に解決を行い、それが不可能な場合だけ実行時に解決を実施する、といったものもある。

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多重ディスパッチと単一ディスパッチの違いは例を見れば明らかになるだろう。宇宙船や小惑星といったオブジェクトが出てくるゲームを想定する。2つのオブジェクトが衝突する場合、何と何が衝突するかによってプログラムは様々な反応をすると想定する。

Java[編集]

Java のように単一ディスパッチしかしない言語では、コードは次のようになる(ただし、Visitor パターンをこれに活用することも可能)。

 /* Java の "instanceof" オペレータを使って、実行時のデータ型比較をする */
 class Asteroid extends Thing {
     public void collide_with(Thing other) {
         if (other instanceof Asteroid) {
             // 小惑星と小惑星の衝突を処理
         }
         else if (other instanceof Spaceship) {
             // 小惑星と宇宙船の衝突を処理
         }
     }
 }
 
 class Spaceship extends Thing {
     public void collide_with(Thing other) {
         if (other instanceof Asteroid) {
             // 宇宙船と小惑星の衝突を処理
         }
         else if (other instanceof Spaceship) {
             // 宇宙船と宇宙船の衝突を処理
         }
     }
 }

Common Lisp[編集]

Common Lispのように多重ディスパッチをする言語では、コードは次のようになる。

 (defmethod collide-with ((x asteroid) (y asteroid))
   ;; 小惑星が小惑星に衝突する場合を処理
   ...)
 (defmethod collide-with ((x asteroid) (y spaceship))
   ;; 小惑星が宇宙船に衝突する場合を処理
   ...)
 (defmethod collide-with ((x spaceship) (y asteroid))
   ;; 宇宙船が小惑星に衝突する場合を処理
   ...)
 (defmethod collide-with ((x spaceship) (y spaceship))
   ;; 宇宙船が宇宙船に衝突する場合を処理
   ...)

このように、引数のデータ型を調べるコードを、引数部分に完全に組み込むことができている。

多重ディスパッチがあると、クラスがあって、そこにメソッドが属しているという考え方はあまり意味を持たない。collide-with という名前のメソッドは、引数ごとにそれぞれ2つのクラスと関連付けられている「普通の関数呼び出し」に過ぎなくなる。結果として、メソッドを呼び出す際の特殊な構文を必要としない。

C++[編集]

C++のオーバーロードはコンパイル時に静的に引数のデータ型を調べることでなされる。従って、実行時に動的に引数のデータ型を調べる多重ディスパッチとは異なる。

Python[編集]

言語として多重ディスパッチをサポートしていない場合でも、ライブラリによる拡張で多重ディスパッチ機能を追加することは可能である。例えば、PythonCLOS風のマルチメソッド機能を追加するモジュール multimethods.py がある。

 from multimethods import Dispatch
 from game_objects import Asteroid, Spaceship
 from game_behaviors import ASFunc, SSFunc, SAFunc
 collide = Dispatch()
 collide.add_rule((Asteroid, Spaceship), ASFunc)
 collide.add_rule((Spaceship, Spaceship), SSFunc)
 collide.add_rule((Spaceship, Asteroid), SAFunc)
 def AAFunc(a, b):
     "Behavior when asteroid hits asteroid"
     # ...define new behavior...
 collide.add_rule((Asteroid, Asteroid), AAFunc)

 # ...later...
 collide(thing1, thing2)

機能的には CLOS の例によく似ているが、その構文は通常の Python のものである。

Python 2.4 の decorators を使って、グイド・ヴァンロッサムはマルチメソッドのサンプル実装を行い[1]、構文を単純化した。

 @multimethod(Asteroid, Asteroid)
 def collide(a, b):
     "Behavior when asteroid hits asteroid"
     # ...define new behavior...
 @multimethod(Asteroid, Spaceship)
 def collide(a, b):
     "Behavior when asteroid hits spaceship"
     # ...define new behavior...
 # ... define other multimethod rules ...

プログラミング言語におけるサポート[編集]

汎用のマルチメソッド機能をサポートするプログラミング言語は次のとおりである。

何らかの拡張でマルチメソッドをサポートする言語として、次のものがある。

参考文献[編集]