努力義務

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努力義務(どりょくぎむ)とは、日本の法制上「〜するよう努めなければならない」などと規定され、違反しても刑事罰過料等の法的制裁を受けない作為義務・不作為義務のことである。

遵守されるか否かは当事者の任意の協力にのみ左右され、またその達成度も当事者の判断に委ねられる。憲法におけるプログラム規定と似ているが、プログラム規定は憲法上で行政立法の判断で国家が努力すべき義務と規定しており、国民に課されていない。

趣旨[編集]

努力義務規定は、主に国民に法的義務を課すのになじまない行為の作為または不作為を命じる場合、急激に規制を強化することによる激変緩和措置として設けられる場合、小規模団体に大規模団体なみの厳格な規制を一律作為または不作為を命じることがふさわしくない場合などに小規模団体について法文上何らかの措置を求める場合に規定される場合が多い。

国民の権利を制約するおそれのある行為に対する努力義務規定[編集]

例えば、東京都青少年の健全な育成に関する条例(昭和39年東京都条例第181号)7条は、図書類の発行等を業とするものに対し、「図書類又は映画等の内容が、青少年に対し、性的感情を刺激し、残虐性を助長し、又は自殺若しくは犯罪を誘発し、青少年の健全な成長を阻害するおそれがあると認めるときは、相互に協力し、緊密な連絡の下に、当該図書類又は映画等を青少年に販売し、頒布し、若しくは貸し付け、又は観覧させないように努めなければならない。」と規定しているが、仮にこのようなものを法的義務として罰則等を設けた場合、憲法21条の保障する表現の自由や刑罰法規の明確性を保障した憲法31条に抵触する恐れがある。

国民一般に一定の作為または不作為を命じることがなじまない場合[編集]

例えば、同条例10条1項は知事が指定した映画(青少年の健全育成を阻害するものとして同条例8条1項1号により知事が指定した映画)について、興行場を経営する者及びその代理人、使用人その他の従業者に対し「青少年に観覧させてはならない。」と義務規定を定め、同義務に違反した者に対し、知事部局の職員または警察官は警告を発することができ、さらにその警告に従わなかったときは刑事罰に処せられることが規定されている。

その一方で同条例10条2項において、「何人も、青少年に指定映画を観覧させないように努めなければならない。」と規定し、興行場関係者以外の一般市民に対しては努力義務を定めるにとどまっている。これは、国民全般に青少年に対し指定映画を観覧させないよう必要な措置をとることを法的義務を課すことは義務の範囲を不明確にするとともに、憲法31条で保障する過度に広範な刑罰規定の禁止の原則に抵触する可能性もあることから、そのように規定されたと解される。

激変緩和措置的意味合いのある場合[編集]

1999年改正前の男女雇用機会均等法は、募集・採用や配置・昇進についての差別的取扱いについて努力義務にとどまっていたが、1999年に義務規定に改められた。これは、急進的に新制度を導入することが当時の社会的事情では困難であったため、当面は新制度の浸透を図り、段階的に法律を改定すべきものと認められた事例である。民事訴訟法の1996年改正で盛り込まれた当事者照会に罰則がないのも同旨である。こちらは2008年現在まだ改正されていない。

法的効果[編集]

努力義務規定に違反したとしても直ちには刑事罰過料等の法的制裁を受けないが、過失犯となる犯罪では、努力義務規定に違反したために犯罪に当たる結果を惹起したとして(例:業務上過失致死傷罪など)、重過失や過失を推定され、結局犯罪として処罰を受ける場合もある。また、努力義務規定に違反した事を理由として民事訴訟上や行政訴訟上、重過失や過失を推定されるなど、不利益な取扱を受ける場合もある。

関連項目[編集]