ヴェルクマイスター音律

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ヴェルクマイスター音律(ヴェルクマイスターおんりつ、: Werckmeister temperaments)は、アンドレアス・ヴェルクマイスター によって彼の著作に記述されたいくつかの音律である[1][2][3]。この音律は紛らわしい2種類の方法で番号付けがされている。一つ目はヴェルクマイスターの1691年の論文において「よく調整された音律」として提示された順番を示すもので、もう一つは彼のモノコード上のラベリングを示している。モノコードラベルはIIIから始まる(純正律がI、1/4コンマ中全音律がIIとラベルされているため)。

調律I(III)、II(IV)、III(V)は五度圏長三度の表によって視覚的に提示されており、 分割されたコンマ英語版の画分によって調整がなされる。ヴェルクマイスターはオルガン製造職人の記法 ^ を下向きの調整(音程を狭める)に、v を上向きの調整(音程を拡げる)に使用した(これは直観に反しているように見えるが、オルガンのパイプの末端の形状を変化させる円錐型の調律具の使用法に基づいている)。純正五度は単純にダッシュである。ヴェルクマイスターはシントニックコンマピタゴラスコンマのどちらが意図されているかについて明示していない。それらの間の差(いわゆるスキスマ)はほとんど聞き取れず、それを五度の間に割り振ることができると彼は主張している。

最後の「セプテナリウス」調律は(コンマを使った手法によってこの調律を近似しようという一部の現代の著者らの試みをよそに)コンマの観点から考え出されていない。その代わりに、ヴェルクマイスターはモノコード上の弦長を直接的に示し、その弦長からそれぞれの五度がどのように調整されるべきかを計算した。

ヴェルクマイスターI(III): 1/4コンマ分割に基づく「正しいテンペラメント」[編集]

この音律はピタゴラス音律と同様におおむね純正な(完全)五度を用いているが、C-G、G-D、D-A、B-Fのそれぞれの五度は小さくされている、すなわち1/4コンマだけ狭められている。ヴェルクマイスターは半音階音楽("ficte")を演奏するのに特に適したものとしてこの音律を指定した。そのため近年はJ・S・バッハの音楽のための音律として人気が出ているのかもしれない。

五度 調整 三度 調整
C-G ^ C-E 1 v
G-D ^ C-F 4 v
D-A ^ D-F 2 v
A-E - D-G 3 v
E-B - E-G 3 v
B-F ^ F-A 1 v
F-C - F-B 4 v
C-G - G-B 2 v
G-D - G-C 4 v
D-B - A-C 3 v
B-F - B-D 2 v
F-C - B-D 3 v

Werckmeister temperament major chord on C.mid メジャートニックコードを再生[ヘルプ/ファイル]

現代の著者ら[誰?]はピタゴラスコンマを使用した場合の周波数の関係[要出典]と音程の正確な数値を計算してきた。

厳密な周波数関係 値(単位: セント
C 0
C 90
D 192
D 294
E 390
F 498
F 588
G 696
G 792
A 888
B 996
B 1092

ヴェルクマイスターII (IV): Orgelprobe に含まれているもう一つのテンペラメント、1/3コンマ分割[編集]

ヴェルクマイスター第2において、五度C-G、D-A、E-B、F-C、 B-Fは1/3コンマ狭く調整され、五度G-D、E-Bは1/3コンマ拡げられている。その他の五度は純正である。ヴェルクマイスターは主に全音階音楽(すなわちほとんど黒鍵を使わない)を演奏するためにこの調律法を指定した。その音程のほとんどは1/6コンマ中全音律に近い。ヴェルクマイスターはまたこの調律法について、C=120単位に設定した、モノコード長の表を示した。モノコード数にしたがうと、GおよびDは理論値よりもいくらか低いが、その他の音はいくらか高い。

五度 調整 三度 調整
C-G ^ C-E 1 v
G-D - C-F 4 v
D-A ^ D-F 1 v
A-E - D-G 2 v
E-B ^ E-G 1 v
B-F - F-A 1 v
F-C ^ F-B 4 v
C-G - G-B 1 v
G-D v G-C 4 v
D-B v A-C 1 v
B-F ^ B-D 1 v
F-C - B-D 3 v
厳密な周波数関係 値(単位: セント 近似モノコード長 値(単位: セント
C 0 0
C 82 - (misprinted as ) 85.8
D 196 195.3
D 294 295.0
E 392 393.5
F 498 498.0
F 588 590.2
G 694 693.3
G 784 787.7
A 890 891.6
B 1004 1003.8
B 1086 1088.3

ヴェルクマイスターIII (V): 追加のテンペラメント、1/4コンマ分割[編集]

ヴェルクマイスター第3において、五度D-A、A-E、F-C、C-G、F-Cは1/4コンマ狭く、五度G-Dは1/4コンマ広く調整されている。その他の五度は純正である。この音律は前の2つと比べて平均律に近づいている。

五度 調整 三度 調整
C-G - C-E 2 v
G-D - C-F 4 v
D-A ^ D-F 2 v
A-E ^ D-G 3 v
E-B - E-G 2 v
B-F - F-A 2 v
F-C ^ F-B 3 v
C-G ^ G-B 2 v
G-D v G-C 4 v
D-B - A-C 2 v
B-F - B-D 3 v
F-C ^ B-D 3 v
厳密な周波数関係 値(単位: セント)
C 0
C 96
D 204
D 300
E 396
F 504
F 600
G 702
G 792
A 900
B 1002
B 1098

ヴェルクマイスターIV (VI): セプテナリウス調律[編集]

この音律はモノコードの長さの196()の部分への分割に基づいている。次に、様々な音が、その音高を生み出すために駒を196の部位のどこの置くべきかによって定義される。得られた音階は有理数の周波数関係を有するため、上述した無理数の調整値とは数学的に異なる。しかしながら、実際上は、どちらも純正と非純正に響く五度を含む。ヴェルクマイスターはまた、全長を147分割した音律も示している。これは単純に196分割音律の音程の移調である。ヴェルクマイスターはセプテナリウスを「コンマの分割を全く行わないが、にもかかわらず実際上は本当に満足できるほど正しい追加の音律」と記している。

これらの音律の明らかな問題はD(または移調版ではA)に与えられる値である。ヴェルクマイスターはこれを176として書いた。しかしながら、これは音楽的に悪い効果を生み出す。その理由は、五度G-Dは非常に(半コンマ以上)低くなり、三度B-Dは純正であるが、D-Fは1コンマ以上高くなるためであり、これらは全て音律に関するヴェルクマイスターの著作物のその他の部分と矛盾する。モノコード分割の図において、数「176」は極端に右よりの位置に書かれている(175が書かれるべき位置)。したがって、176という数は175の間違いと考えられ、175を使うと音楽的にはるかに矛盾のない結果が得られる。両方の値を下の表に示している。

D=175を用いる音律では、五度C-G、G-D、D-A、B-F、F-C、B-Fは純正よりも狭く調整されるのに対して、五度G-Dは広く調整される。その他の五度は純正である。

モノコード長 厳密な周波数関係 値(単位: セント)
C 196 1/1 0
C 186 98/93 91
D 176(175) 49/44(28/25) 186(196)
D 165 196/165 298
E 156 49/39 395
F 147 4/3 498
F 139 196/139 595
G 131 196/131 698
G 124 49/31 793
A 117 196/117 893
B 110 98/55 1000
B 104 49/26 1097

出典[編集]

  1. ^ Andreas Werckmeister: Orgel-Probe (Frankfurt & Leipzig 1681), excerpts in Mark Lindley, "Stimmung und Temperatur", in Hören, messen und rechnen in der frühen Neuzeit pp. 109–331, Frieder Zaminer (ed.), vol. 6 of Geschichte der Musiktheorie, Wissenschaftliche Buchgesellschaft (Darmstadt 1987).
  2. ^ A. Werckmeister: Musicae mathematicae hodegus curiosus oder Richtiger Musicalischer Weg-Weiser (Quedlinburg 1686, Frankfurt & Leipzig 1687) ISBN 3-487-04080-8
  3. ^ A. Werckmeister: Musicalische Temperatur (Quedlinburg 1691), reprint edited by Rudolf Rasch ISBN 90-70907-02-X

外部リンク[編集]