マルテンス条項

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マルテンス条項(マルテンスじょうこう)とは、陸戦の法規慣例に関する条約前文に付された文言。条項の名は提唱者のフョードル・フョードロヴィッチ・マルテンス英語版、1845-1909)による。

概要[編集]

1899年のハーグ会議で提案され、国際人道法においても引用されている国際慣習法の1つである。諸条約による明文規定がない事項に関しても、慣習法や国際人道法の諸原則および公共の良心の要求に従わなければならないとする[1]

この条項は第一回ハーグ平和会議における陸戦の法規慣例に関する条約策定委員会・委員長をつとめたロシア帝国代表のフョードル・フョードロヴィッチ・マルテンスが1899年6月20日の委員会の席上で読み上げた声明が基となって条約前文に組み込まれたもので、以下の内容である[2]

一層完備したる戦争法規に関する法典の制定されるるに至る迄は、締約国は、其の採用したる条規に含まれざる場合に於いても、人民及交戦者が依然文明国の間に存する慣習、人道の法則及公共良心の要求より生ずる国際法の原則の保護及支配に立つることを以て適当と認む — マルテンス、「陸戦の法規慣例に関する条約」前文

陸戦の法規慣例に関する条約には第2条に総加入条項[注釈 1]が加えられており、マルテンス条項の明記は本条約が失効した際に非常に重要だった。

現在の明文化された国際人道法において明示的に禁止されていない兵器や攻撃手段であっても、規制がないからといって既存のルールの適用対象となっていない武器(たとえば自律型致死兵器システム-いわゆるドローン兵器)が無制限に使用されることを許しておらず、それが公共の良心の要求と国際慣習法に違反すると判断される場合、マルテンス条項に反すると見なされる[1]

脚注[編集]

注釈[編集]

  1. ^ 「条約の非締約国が一国でも参戦すれば、そのときから交戦国たる締約国相互間にも条約が適用されなくなるという趣旨」を定めたもの[3]

出典[編集]

  1. ^ a b 赤十字国際委員会「進化する軍事テクノロジーと人道支援 (PDF) 」『赤十字国際委員会ニュースレター』2020年10月、P.4
  2. ^ 天野尚樹「近代ロシア思想における「外来」と「内発」 F・F・マルテンスの国際法思想」(PDF)『スラヴ研究』第50号、北海道大学スラブ・ユーラシア研究センター、2003年、203-227頁。  該当箇所はp.208。
  3. ^ 藤田久一. "総加入条項". 日本大百科全書(ニッポニカ). コトバンクより2024年5月14日閲覧