ボタフメイロ
ボタフメイロ(botafumeiro)はスペインガリシア州のサンティアゴ・デ・コンポステーラにあるサンティアゴ巡礼路の目的地である大聖堂に存在する著名な巨大振り香炉。この香炉は焚いた香を入れた後、聖堂内を振り子のように振る儀式に使われている。「ボタフメイロ」とはガリシア語で「煙を吐き出すもの」を意味している[1]。
解説
[編集]サンティアゴ・デ・コンポステーラ大聖堂のボタフメイロは世界で最も大きな香炉の一つで[2]、重量は80kg[3]、高さが1.60mある。現在のボタフメイロは黄銅の合金と青銅で作られ、20µmの銀でめっきされている。金色の光沢がある。1851年に金銀細工師のJosé Losadaが制作した。
通常は教会の展示室に置かれているが[4][5]、重要な宗教儀式が行われる際には大聖堂に運ばれて滑車から伸びるロープに繋げられる。現在の滑車は1604年に設置されたもの。
ロープは20年程度で交換されている。現在は以前より太いロープが使われるようになったため、摩擦による摩耗が強くなり寿命が短くなっている。2004年のロープ交換も当初の予想よりも早めに行われた[6][7]。2004年以前のロープは麻[8]やエスパルト[9]と呼ばれる草を使い、スペイン西端の都市ビーゴで作られていた。2004年からは人工繊維が用いられている。
ボタフメイロの他にも「La Alcachofa」(アーティチョーク)[9]又は「La Repollo」(キャベツ)[10]と呼ばれる銀色の吊り香炉があり、ミサによってはこちらが使われる場合がある。こちらは1971年にマドリードのLuis Molina Acedo工房の工芸家によって製作された。
ボタフメイロやAlcachofaには40kgの炭と香がシャベルを用いて充填される[11]。ロープは外れないように複雑な結び方でボタフメイロと繋ぐ。香炉を振る時は、初めは人力で香炉を押して始まる。「Tiraboleiros」と呼ばれる8人の赤いローブを着た男性[12]がロープを引っぱり、徐々に香炉の振り幅が大きくなっていく。振りによって翼廊の天井近くまで香炉は届くほどになる。この時のスピードは68km/hにも達し、聖堂に集った民衆に香が行き届くようになる。
スイングの最高潮ではボタフメイロが21mの高さまで上り、翼廊両端にほぼ達する65mの弧を描く。最大角は82°。最大の振り幅はおおよそ17サイクル目で到達し、開始から80秒ほどかかる。
儀式には毎回250€がかかる。高価ではあるものの、訪れる巡礼者や旅人、観覧者は絶えない。
歴史
[編集]伝承では、11世紀にサンティアゴ・デ・コンポステーラ大聖堂にて振り香炉が使われ始めたとされる[13]。大聖堂に到着した巡礼者は疲労し不潔な状態の者が殆どであった。ペストや伝染病が猛威を振るった時代に、香は病の予防効果があると信じられていた。
13世紀に滑車の機構が取り替えられ[14]、それまで1.5m程度であった振り幅が大きく伸び、Tiraboleirosによってロープを引っ張るようになった。
15世紀にルイ11世 (フランス王) が教会に寄付を行い、1554年に新しい銀の香炉が使われ始めた。装飾で名高かったこの香炉は、スペイン独立戦争 (1808–1814) の際にナポレオンの軍勢によって1809年4月に持ち去られてしまった[10]。1851年になりLosadaの制作した現在のボタフメイロが代わりに据えられた。
使用開始から155年経過した2006年に修復が行われ、へこみや亀裂の修復と、銀の再めっきが行われた[15]。
事故
[編集]過去、ボタフメイロのスイングによって数件の事故が発生している。ロープから外れてしまうためにフックの付いたロープが使われた時期もあったとされる。
著名なものの一つにキャサリン・オブ・アラゴン来訪時の事件がある。アーサー王太子との婚姻に向けた旅の途中であった1499年に妃は大聖堂を訪れていた。その際にボタフメイロが聖堂の高窓を破って飛び出してしまった。この時は人的被害がなかったとされる。
1622年、1925年、1937年には、ロープとボタフメイロを繋ぐ器具が破損する事故が起きている。1622年にはボタフメイロが Tiraboleiros の傍に落下した。1937年7月にもボタフメイロが落下し、燃えた石炭が地面にまき散らされる事故が発生している。
現在では対策として「セイラーズノット」でボタフメイロは繋がれている[16]。
ボタフメイロの重量
[編集]ボタフメイロの重量は、レポートによって大きく差がある。様々な儀式で使われ、内容により中に入れる香の量に差があるためとされる。これまでに報告された例は以下。
脚注と参考文献
[編集]- ^ In Galician, "botar" means "to eject, to throw away, to expel", from Occitan, and "fume" means "smoke", from Latin [1].
- ^ The claim that the Botafumeiro is the largest thurible in the world is often made, but in fact there is a thurible in Lohne, Oldenburg, Germany that reportedly weighs 500 kg and stands 3.21 meters high [2].
- ^ There are many other weights given in the literature, as can be seen in this section.
- ^ Camino de Santiago (Way of Saint James) pilgrimage, Galicia Guide: Guide to everything Galicia; includes a picture of the Botafumeiro in the museum library of the cathedral.
- ^ Santiago de Compostella Old City Monuments, Galicia Espana The Tourist Guide
- ^ a b The use of La Botafumeiro, the smoking pot, in the cathedral has been suspended Archived 2006年5月16日, at the Wayback Machine., Ivar Rekve, Santiago Today, August 6, 2004
- ^ The Botafumeiro swings again Archived 2007年12月9日, at the Wayback Machine., Ivar Rekve, Santiago Today, Thursday, August 19, 2004
- ^ Santiago at last, Charles Ranald, The Daily Telegraph, 17 October 2001
- ^ a b El Botafumeiro, Javier Mosquera, Vivelacuidad, January 31, 2007.
- ^ a b Der Botafumeiro, santiago-online website
- ^ The incense is made from hardened plant resins.
- ^ "tiraboleiros"はガリシア語で"turifer"(香の運び人。ラテン語に由来)を意味している。
- ^ One document from around 1300 describes the Botafumeiro as "now part of the ceremony" [3].
- ^ A picture of the Botafumeiro pulley mechanism beneath the dome
- ^ Pictures of the Botafumeiro being repaired and restored in 2006
- ^ Picture showing the knot securing the Botafumeiro
- ^ Speaking in Tongues: Stories from the Road to Santiago, G. Tiao, Harvard Advocate, Fall, 2005 Archived 2007年9月28日, at the Wayback Machine.
- ^ Le Botafumeiro differential equation example
- ^ HÀNH HƯƠNG NĂM THÁNH SANTIAGO DE COMPOSTELA 2004, Tứ Linh, Vietnamese account.
- ^ costasur site services for visitors and residents of santiago de compostela
- ^ Galicia Guide article
- ^ The Pilgrimage to Santiago de Compostela: A Closer Walk, Gary T. Johnson, 2002
- O Botafumeiro: Parametric pumping in the Middle Ages, Juan R. Sanmartín, American Journal of Physics, Volume 52, Issue 10, October 1984, pp. 937–945