ボアーボム

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
ボアーボム
Babm
創案者 岡本利吉(普意識)
創案時期 1956年
設定と使用 国際補助語
話者数 約20人(1960年[1]
目的による分類
表記体系 ラテン文字
言語コード
ISO 639-3
テンプレートを表示

ボアーボムBabm)は日本哲学者である岡本普意識1885年1963年)が創案した国際補助語である。 岡本は1956年頃にボアーボムを考案。1960年9月28日には神田錦町学士会館において発表会が開催された。同年には民生館から解説書が出版され、1962年には同書の英訳版も著された。また民生館は雑誌『ボアーボムの友』(BABMET)も刊行していた。

この言語は先験語に分類され、音節文字としてラテン文字を用いる。 母音文字よりも多い子音文字が使用されているため、奇妙に圧縮された語で構成されているように感じられる。しかしながら、少しの訓練でボアーボムは簡単に読めるようになると岡本は述べる。

文字と発音[編集]

ボアーボムではラテン文字アラビア数字を用いる。 ラテン文字は音節文字として、以下のように発音する。

a アー b ボ c コ d デ e エー
f フ g ガ h ハ i イー j ジ
k ケ l レ m ム n ナ o オー
p ペ q ク r ラ s セ t ト
u ウー v ビ w ワ x キ y ユ
z ゾ

a, e, i, o, u は長く発音するので 長音字 と呼び、他の文字は短く発音するので 短音字 と呼ぶ。

例:Babm ボアーボム

x」はクサ行ではないので注意。

文法[編集]

名詞[編集]

否定[編集]

接中辞-u-(第一長音字の前におく)で「不」、接尾辞-cqで「無」、接尾辞-iqで「非」を意味する。

  • babm 世界語
    • buabm 不世界語
    • babmcq 無世界語
    • babmiq 非世界語

複数化接尾辞-a[編集]

複数化接尾辞-aを付加することで、複数形に出来る。

  • bcet 人 bceta 人々

補足語化接尾辞-e[編集]

補足語化接尾辞-eを付加することで、名詞、代名詞、動詞を補足語化できる。

  • bcet 人 bcete 人の
  • v 私 ve 私の
  • gof 飛ぶ gofe 飛ぶ(連体形)

所有格接尾辞-i[編集]

所有格接尾辞-iを付加することで、名詞、代名詞を所有の意味の補足語化できる。

  • bcet 人 bceti 人の
  • v 私 vi 私の

名詞化接尾辞-ll[編集]

名詞化接尾辞-llを付加することで、動詞や補足語を名詞化できる。

  • gof 飛ぶ gofll 飛ぶこと
  • coj 自由 cojll 自由なこと

代名詞[編集]

人称代名詞[編集]

VとYを単独で用いるときは、大文字を使う。

中性 男性 女性
単数 複数 単数 複数 単数 複数
一人称 V va ov ova iv iva
二人称 Y ya oy oya iy iya
三人称 x xa ox oxa ix ixa

非人称代名詞[編集]

名詞の前にある場合、補足語の役を果たす。

単数 複数
近称 iz このもの iza これらのもの
遠称 ez そのもの eza それらのもの
不定称 z あるもの za あるものら

関係代名詞[編集]

名詞の前にある場合、補足語の役を果たす。

単数 複数
近称 lri このもの lria これらのもの
遠称 lre そのもの lrea それらのもの
不定称 lr あるもの lra あらゆるもの
選択 lro どちらでも lroa どれでも

疑問代名詞[編集]

名詞の前にある場合、補足語の役を果たす。

単数 複数
近称 qwi このものか qwia これらのものか
遠称 qwe そのものか qwea それらのものか
不定称 qw なにか qwa なんでもか
選択 qwo どちらか qwoa どれでもか

一般付着辞[編集]

非人称代名詞、関係代名詞、疑問代名詞に以下の一般付着辞を付すことで、英語における5W1Hのような様態をあらわすことができる。 付着順序は、[代名詞]-[称]-[一般付着辞]-[複数]の順になる。

  • -d- 物 -g- 方法 -h- 時間 -k- 事項
  • -m- 理由 -n- 数量 -p- 場所
  • -t- 人間(非人称代名詞では使用しない)

動詞[編集]

否定[編集]

原形および原形の連体形で接頭辞u-を用いる。

  • gof 飛ぶ ugof 飛ばない
    gofe bpeb 飛ぶ鳥 ugofe bpeb 飛ばない鳥

しかし、その他の多くの形では接尾辞-uを用いる。

時制[編集]

現在形は無標。過去は接尾辞-ip、未来は、接尾辞-erで表す。 -のところは不明だが、そのまま補足語化接尾辞-eをつければ良いものと推測される。

過去 -ip 現在/通時 未来 -er
肯定 lodip 来た lod 来る loder 来るだろう
肯定連体形 - lode 来る -
否定 lodipu 来なかった ulod 来ない loderu 来ないだろう
否定連体形 - ulode 来る -

[編集]

連体形に関しては、-のところは不明。

肯定 連体形
準備相 ao lodao 来ようとする loda 
開始相 -ik lodik 来はじめる -
進行相 -io lodio 来ている lodi
反復相 -on lodon 来なおす -
継続相 -om lodom 来続ける -
完了相 -x lodx 来終える -

受動態と使役態[編集]

肯定 否定 -u
受動態 -ay fabay 見られる fabayu 見られない
使役態 -op fabop 見させる fabopu 見させない

自動詞と他動詞[編集]

これらの接尾辞は、普段使われることは稀であり、自動詞か他動詞か強調して伝えたいときに用いる。

肯定 否定 -u
自動詞 -eb bakeb 流れる bakebu 流れない
他動詞 -or bakor 流す bakoru 流さぬ

モダリティ[編集]

接尾辞を用いるものと、補足語(副詞)で表すものがある。 また、常用動詞で示すこともある。

補足語 接尾辞 常用動詞
容認 - -oj mij
希望 - -ab kog
義務 cis - sig
必要 - - kig
可能 - -ok mok
依頼 ck - lak
命令 cr - -
好意 cak - fok
丁寧 cj - -
推量 - -ir -
疑問 cw - -
祈願 cy - -


名詞の動詞化[編集]

名詞に動詞化接尾辞-ogをつけることで、動詞化できる。

  • mben 謙譲 mbenog 謙譲する

ただし、時制や相など他の動詞用接尾辞が付着している場合は-ogは使わない。

  • ragh 配膳 raghip 配膳した

また、病気名に-aqを付すことで、「 - を病む」という意味になる。

  • loqb チフス loqbaq チフスを病む

補足語[編集]

補足語とは、前置修飾語のことであり、体言に修飾するときは形容詞、そのほかのものに修飾するときは副詞として機能する。副詞として機能させる場合、副詞化接尾辞-wを付加することで、副詞であることを明示することができる。補足語の形状は、第一字がcであり、合計2 - 4文字で構成されている。

  • cefd 白い cefdw 白く
  • coip 優秀な coipw 優秀に

否定[編集]

名詞同様、接中辞-u-(第一長音字の前におく)で「不」、接尾辞-cqで「無」、接尾辞-iqで「非」を意味する。

  • ckag 活動の
    • cukag 不活動の
    • ckagcq 無活動の
    • ckagiq 非活動の

強調-a[編集]

接尾辞-aでその補足語の程度が著しいことを示す。

  • coj 自由な coja 著しく自由な

比較級と最上級[編集]

比較級は接尾辞-e、最上級は接尾辞-iで表す。

  • coje より自由な coji もっとも自由な

数詞[編集]

数詞は、名詞または補足語の役をなす。 アラビア数字、またはラテン文字にダイアクリティカルマークが乗った物であらわす。

0(o オー)、1 (b~ ボー)、2(d~ デー)、3(f~ フー)4(g~ ガー)、5(h~ ハー)、6(j~ ジー)、7(k~ ケー)、8(l~ ルー)、9(m~ ムー)、10(a ア)、100(o オ)、10^3(u ウ)、10^6(n¨ ナー)、10^9(p¨ ペー)

命数システムは、西洋式の三桁ごとに区切る方式か、粒読みを行う。

  • 3,219,876 (フーナー・デーオ・ボーアムーウ・ルーオ・ケーア・ジー / フー・デー・ボー・ムー・ルー・ケー・ジー)

序数は接尾辞-rをつけて作成する。

  • b~r 第一

語順[編集]

基本語準は、SVO型である。 そして補足語(形容詞および副詞)などの修飾語は前置され、前置詞を持つという点が漢文の文法に類似している。

  • cmo bpeb cgedw gof op djoh.(大 鳥 荒 飛 於 空)大きな鳥が空で荒く飛ぶ。

ゆえに英語では不自然なSOVOやSCVO語順も見られる。

  • Pabjt vew laijip pigm.(先生 私に 説明した 理論)先生は私に理論を説明した。
  • Ribt cmo dek hojm.(主婦 大 する 服)主婦は服を大きくする。

関係節が前の語に修飾するか、後ろに修飾するかは、状況によって異なっている。

  • Y habip op cmo hdat, Ired V widir.(君 住んだ 於 大 家, →其 私 買うだろう)君が住んだ大きな家を私は買うだろう。
  • Qwt pegip ce hatj, Ired Y pajipio?(誰 書いた その 本, ←其 君 読んでいた)君が読んでいたその本は誰が書いた?

繋辞文に関しては、「である」を表す接尾辞-oを用いたSC語順と、 繋辞動詞debを用いたSVC語順のものがある。

  • Rces cuojio.(奴隷 自不由最是)奴隷はもっとも不自由である。
  • cojill deb cdid pjob.(自由最事 是 永遠 理想)最大の自由は永遠の理想である。

脚注[編集]

  1. ^ 岡本普意識の自宅を拠点とする「ボアーボム推進本部」には当時「二十人ほどの若い篤志家」がおり、ボアーボムの「一層の完成に協力」していたという(『新潮』1960年1月号、9-10頁、新潮雑壇 世界語を創る男 その1)。なお『週刊新潮』1960年10月10日号(15頁)にはボアーボム発表会の記事あり。

参考文献[編集]

  • 岡本普意識『世界語ボアーボム : 文法と辞典』(DAJMCAPB BABM : BABJ DA BOBPATJ)民生館、1960年。(1989年に第二版発行)
  • 岡本普意識『世界語ボアーボム : 練習用教本』民生館、1992年。
  • 角石寿一『先駆者普意識 : 岡本利吉の生涯』民生館、1977年。

関連項目[編集]

外部リンク[編集]