ピカール・レフシェッツ理論

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数学において、ピカール・レフシェッツ理論複素多様体上の位相的性質を、多様体上の正則関数臨界点を見ることによって調べる理論である。この理論はエミール・ピカールが複素曲面に対して著書 Picard & Simart (1897) 内で導入し、 Lefschetz (1924) において高次元へ拡張された。ピカール・レフシェッツ理論は、実多様体の位相的性質を実関数の臨界点によって調べるモース理論の複素版である。Deligne & Katz (1973) においてピカール・レフシェッツ理論はさらに一般の体上に拡張され、ドリーニュはこの一般化をヴェイユ予想の証明の中で用いた。

ピカール・レフシェッツ公式[編集]

ピカール・レフシェッツ公式は臨界点におけるモノドロミーを描写する。

f(k + 1) 次元複素射影多様体から射影直線 P1への正則写像とする。すべての臨界点は非退化かつそれぞれ異なるファイバー上に存在すると仮定し、それらの像を x1, ..., xnP1 と書く。xx1, ..., xn なる点 xP1 を取る。基本群 π1(P1 – {x1, ..., xn}, x) は点 xi の周りを周るループ wi によって生成され、各点 xi に対して x におけるファイバー Yx のホモロジー Hk(Yx) 内の消滅サイクル英語版(vanishing cycle)が存在する。ここで、ファイバーは複素次元 k であり、よって実次元 2k であることからこのホモロジーの次数は中間の次数であることに注意せよ。 Hk(Yx) 上の π1(P1 – {x1, ..., xn}, x) のモノドロミー作用は以下のピカール・レフシェッツ公式で得られる(他のホモロジー群上のモノドロミー作用は自明である)。 ∈ Hk(Yx) への基本群の生成元 wi でのモノドロミー作用は

で与えられる。ここで、δixi の消滅サイクルである。この公式は k = 1 のとき Picard & Simart (1897, p.95) において非明示的に(消滅サイクル δi の係数の明示なしに)現れている。Lefschetz (1924, chapters II, V) では任意の次元で明示的な公式が与えられている。


参考文献[編集]