クォーツ時計

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世界初のクォーツ式腕時計、アストロン(1969年)。

クォーツ時計(クォーツどけい)とは、水晶振動子を用いた時計である。水晶時計( Quartz clock/watch)または単にクォーツとも。20世紀後半から普及し、それまでのぜんまいばねを使用した手巻や自動巻時計に代わって、現在最も一般的な時計となっている。ぜんまいばねに代わる駆動としてステップモーターを使用しており、電源が必要なため電池が内蔵されている。 従来のぜんまいばね式時計のデザインを踏襲したアナログ時計のほか、同じく電源が必要な液晶LEDを時刻表示部に採用し数字で時刻表示したデジタル時計がある。

概要[編集]

水晶圧電体の一種であり、交流電圧をかけると一定の周期で規則的に振動する。クォーツ時計ではこれを応用し、通常は32,768Hz(=215Hz)の電気信号を水晶振動子によって発振し、それを分周(周波数を半分にする)を繰り返して1ヘルツの周波数の信号に変換し、それで電磁石を駆動して針を駆動する。このため、針式では1秒毎のステップ運針となる。デジタル時計の場合は1ヘルツの信号でカウターを繰り上げ動作させてその結果を表示する。

一般的なクォーツ時計の誤差は1ヶ月で15 - 30秒程度であり、特に精度の高いモデルでは1年で数秒程度となっている。周波数の誤差はトリマーと呼ばれるコンデンサで調節する。温度による周波数変化については特定の温度特性をもつコンデンサと組み合わせることや、温度特性が異なる複数の水晶振動子を使いる誤差を補正する製品が有った。現在では複雑な精度の向上機能は電波時計やGPS機能へ移行したために特に進歩は見られない。

クォーツ時計より精度が高いと言われる電波時計GPS時計は実質的には、電波に載せられた原子時計による正確な時刻情報を1日に数回受信して時刻を修正する機能を追加したクォーツ時計の一種である。

クォーツ時計は従来の機械式時計に比べ、精度が高く維持管理が簡単といったメリットがあるが、多くが一次電池使用なので定期的に電池交換が必要である。このため、太陽電池により充電が可能な2次電池を充電することで電池交換不要とした製品が増えているが、それでも2次電池の寿命が10年程度であり交換が必要になってくる場合がある。クォーツ式アナログ時計に関しては、クォーツ使用であっても物理的な運針機構があるため長期使用で分解掃除が必要となる場合がある。

電子部品が細かく複雑に配置されているため、故障の修理は困難で、多くの場合はムーブメントごと交換することになる。ただし、交換可能なムーブメントの在庫がない場合は修理不可能になる恐れがある。

歴史[編集]

第二次大戦後のスイスで作成されたクォーツ時計(左の写真)。ラ・ショー=ド=フォンInternational Watchmaking Museum所蔵。

1880年、クォーツの圧電効果ジャック・キュリーピエール・キュリーによって発見された。

1921年、最初のクォーツ水晶振動子Walter G.Cadyによって開発された。1923年イギリス国立物理学研究所D.W.Dyeベル研究所のWarren Marrisonは水晶振動子による精確な時間測定を行った。1927年、最初のクォーツ時計がベル研究所のWarren MarrisonとJ.W.Hortonによって作成された[1][2]。しかし、当時は能動素子真空管を使用していたためタンス並のサイズになり、研究機関や放送局での利用に限られていた。1932年、クォーツ時計によって地球の微小な周変化が計測された[3]。アメリカ国立標準局(現:アメリカ国立標準技術研究所)は、1930年代から1960年代の間、原子時計に取って代わられるまでは、クォーツ時計を用いて標準時を定めていた[4]。クォーツ時計が一般に広く使われるようになるには、半導体デジタル回路が安価に利用できるようになる1960年代を待たなければならなかった。

一方、日本においては、1932年に従来型より温度係数がはるかに小さい(10-7/℃を達成した)Rカット式水晶振動子古賀逸策によって発明された[5]。またセイコーは早くからクォーツ時計に注目しており、1958年からクォーツ時計の開発に取り組み[6]1964年東京オリンピックでは壁掛け時計並のサイズ(縦20cm×横16cm、厚さ7cm、運搬用のケースを含めた総重量がわずか3kg)まで小型化した時計を大会公式時計として提供[7]、実用に耐える技術水準を達成した。その後クォーツ時計は、価格は高価だったものの船舶用など、特殊分野向けの市販製品として販売された。

1967年、世界初のアナログ回路を用いたクォーツ腕時計のプロトタイプが登場した、スイスのCentre Electronique Horloger(CEH)によるBeta 1[6][8]、および日本のセイコーによるアストロンのプロトタイプである[6]

しかしながら、超小型化と強い対衝撃性が求められる腕時計ではクォーツの実用化は難航した。世界初の市販クォーツ腕時計は1969年セイコーによる「アストロン」であった[9][10]。当時の価格は45万円と、中型乗用車並みの価格[11]であったが、その後急速なコストダウンが進んだ。

1970年代にはセイコーが特許を公開したことで各メーカーがクォーツ時計の製造に参入し、市場を席巻してクォーツショックと呼ばれる現象を引き起こした。この時期はクォーツ時計の低価格化が進んだ一方、スイスをはじめとする欧米の時計メーカーは機械式の腕時計が売れなくなったことで大打撃を受け、特にアメリカ合衆国の時計産業はほぼ全滅状態に陥った[要出典]クォーツ危機英語版とも呼ばれる)。

1980年代までに、クォーツ時計の技術はキッチンタイマーや目覚まし時計、銀行の金庫の時限錠にまで応用されていった。

技術革新と各社間の競争により、現在では安価なクォーツ時計は100円ショップでも買えるぐらい安くなった。またクォーツショックのあと機械式腕時計(ぜんまいばね使用)が見直され、ブームが訪れている。

電波時計としてのクォーツ時計が普及した。

近年スマートフォンの普及とともにその内部に内蔵される電波時計としての役割を増していった。

従来、時計は精度が高いほど高性能であり高価であったが、一般的なクォーツ時計と機械式時計を比べるとクォーツ時計の月差と機械式時計の日差が同程度であり、完全に逆転している。本来は当然高精度のほうが良いが、近年は電波時計を搭載されたスマートフォンの普及により容易に正確な時刻を知ることができ、時計の携帯の必要が薄れつつある。そのため高価でも誤差が大きいと言える機械式時計において、こだわりを持って伝統的な意匠やメカニズム、ものづくりの思想を楽しむといった傾向が続いている。その一方で「クォーツ時計は安物の代名詞」とまで言われるようになってしまったが、実用時計としてのクォーツ時計の高コストパフォーマンスはゆるぎない。

脚注[編集]

  1. ^ Marrison, W.A.; J.W. Horton (February 1928). “Precision determination of frequency”. I.R.E. Proc. 16 (2): 137–154. doi:10.1109/JRPROC.1928.221372. 
  2. ^ Marrison, Warren (1948). “The Evolution of the Quartz Crystal Clock” ([リンク切れ]). Bell System Technical Journal (AT&T) 27: 510–588. ISSN 0005-8580. OCLC 5164028321. http://www.ieee-uffc.org/freqcontrol/marrison/Marrison.html. 
  3. ^ Marrison 1948.
  4. ^ Sullivan, D.B. (2001年). “Time and frequency measurement at NIST: The first 100 years (PDF)”. Time and Frequency Division, National Institute of Standards and Technology. p. 5. 2011年10月10日閲覧。
  5. ^ 古賀逸策と水晶振動子 (PDF) - 電気学会。
  6. ^ a b c Carlene Stephens and Maggie Dennis Engineering time: inventing the electronic wristwatch
  7. ^ セイコー 公式ウェブサイト
  8. ^ From the roots until today's achievements..”. Federation of the Swiss Watch Industry. 2007年12月6日閲覧。
  9. ^ クオーツアストロン(世界初のクオーツ腕時計) | セイコーウオッチ 後期 | THE SEIKO MUSEUM セイコーミュージアム”. museum.seiko.co.jp. 2019年10月19日時点のオリジナルよりアーカイブ。2019年10月19日閲覧。
  10. ^ Astron[リンク切れ]
  11. ^ 1966年に発売されたトヨタ・カローラE10が1台43万2千円だった。