エンダーズ・デッドリードライヴ 東京蹴球旅団2029

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エンダーズ・デッドリードライヴ 東京蹴球旅団2029
著者 後藤勝
イラスト 高田桂
装幀 シャン・ジャン
発行日 2014年7月26日
発行元 カンゼン
ジャンル サッカーSF
日本の旗 日本
言語 日本語
形態 上製本
ページ数 337
公式サイト https://www.kanzen.jp/book/b181705.html
コード ISBN 978-4-86255-264-8
ウィキポータル 文学
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エンダーズ・デッドリードライヴ 東京蹴球旅団2029』は、後藤勝小説カンゼンから2014年7月に刊行されたサッカー小説。2029年の東京を舞台としている。[1]

あらすじ[編集]

Prologue 地獄と余命[編集]

パラグアイのクラブ「リベルタ」に所属する日本人サッカー選手・群青叶は、コロンビア西岸の都市カリでの決勝戦でPKを外す。サッカー賭博に大番狂わせの結果を招いた群青は、麻薬密売組織の怒りを買い拉致されるが、東京のプロサッカークラブ「銀星倶楽部」常務、松重崇によって救い出され、帰国する。

第一章 端っこの懲罰[編集]

「銀星倶楽部」オーナーの上水流領の死後、群青は同クラブの社長に就任。経営危機に揺れるクラブの再建に乗り出す。 しかしカジミエシュ・チェシュラック監督の更迭と、ライバルチームの「インテルクルービ」による彼の引き抜き、銀星倶楽部の女子部にあたるGEKKOコンピュータシステムサッカー部の解散とそれを批難するキャプテン栢本里昴との出会い、インテルクルービへのスタジアムの優先使用権譲渡など、いくつもの予期せぬ出来事にさらされ、新米社長の群青はうろたえる。

第二章 巡る季節とヴェルヴェットの傷[編集]

群青は、三軒茶屋で反体制勢力による突発的な暴動に出くわす。このとき、混乱のなかで少女を助けだしたことから、地元の愚連隊を取り仕切る男にしてスーパーマーケットチェーンの経営者、山田と出会う。 群青を援助したいと申し出てきた山田は、知恵袋としてホッケー界の裏番だと自称する若い女性アスリート、ミダイを呼ぶ。 ミダイは話し合いのためやってきた里昴から、チームメイトに蓮田チカというろう者サッカー代表がいると聞き、激しく動揺する。そして血相を変え、チカに逢わせてくれと里昴に懇願するのだった。

ミダイは銀星倶楽部女子部の練習場を訪れ、「過去の暴動に巻き込まれたとき、ホッケースティックで暴漢を殴ったため、その破片でチカの頭に重傷を負わせてしまったこと」をチカに謝る。チカはこれを受け容れた。 練習が始まった頃、インテルクルービの練習場所をまちがえた外国人の少女のタチアナ達がグラウンドに姿をあらわす。里昴のはからいでいっしょに練習をすることになった。負けん気の強いチカとタチアナがとっくみあいの喧嘩を始めた。群青が仲裁して事なきを得ると、インテルクルービ専務の上水流奏がタチアナたちを迎えに来る。 少女たちとともに車に乗せられた群青は、そこで奏から、銀星倶楽部強化部長の柳川が選手の移籍に際して不当に利益を得ていたことを知らされる。 群青は柳川を懲戒免職にしたが刑事告訴はしなかった。[2]

チェシュラックの後任監督・老松は、選手の能力を生かせていなかった。群青と松重は彼の解任を決めた。 しかし、柳川がいないので新たな監督を探すのは困難だった。 悩んでいた群青は、社会人チームの試合を見て、「ベイサイド」というチームの監督・木瀬正親と話しあい、彼をスカウトすることを決めた。

第三章 黄昏の突破口[編集]

後日、木瀬が正式に監督として就任する。 名古屋でのアウェーゲームの結果は2対1で負けだったが、試合内容は以前よりも進歩していた。しかし、試合結果を伝える記事は13敗したことを批判するものばかりだった。 次の試合で負けた後の会議で、群青は客観的なデータを示して木瀬を擁護した。 インテルクルービとの試合は0対3で完敗だった。一部の過激なサポーターが銀星を罵倒する。 その翌日、群青は監査役と松重から呼び出され、現状のままでは、整理縮小の検討に入ると聞かされる。

奏が訪ねてくる。「神足グループ外の関連企業からの出資」という都合がよすぎる話に、群青は懸念をもつ。 里昴が、神足は信用できないと主張し、育ての親・栢本涼風についての話をする。かつて神足は反体制活動組織「エンダーズ」のリーダーだったが、その罪は構成員だった涼風が背負ったという。 山田からの電話でも、田頭によると、神足の意向は銀星俱楽部を植民地化することだという。 その話を聞いた奏は神足のやり方を疑いはじめる。

翌日、奏はインテルクルービを解雇される。 インテルクルービの新たな専務は松重だった。その一方、奏は銀星俱楽部に戻ることになった。 フットボールリーグ臨時理事会前に、関東、中京、関西の主要なクラブに銀星の延命に協力してもらえることになった。 群青は理事会当日、「地域活動の好反響と観客動員の増加。地域密着が進んでいること。経営が改善の方向に向かっていること」ことを主張した。 予想通りインテルクルービの社長は銀星の救済に反対した。名古屋のクラブの代表はこれに異議をとなえた。 議長は、北関東のクラブ「鹿島N.W.O.」元最高顧問の田頭重國に相談することを提案した。

群青は神栖の田頭のもとを訪ねた。 聞かされた話は、「人間が世界を再認識するための宗教以外の手段とはフットボールである」こと。 また、それに関連して、田頭は「神足がフットボールクラブを買収したのは社会の枠組みを変えるためであり、それは人類に大きな影響を及ぼすだろう」と推測している。 また、次シーズンから開催される新たな世界大会「ゲオ・グランデ」の1枠にインテルクルービの代表が選ばれた場合、国際的な協会組織で日本のチームに不都合な決定を下すよう働きかける可能性があるという。 このため、銀星俱楽部はインテルクルービに勝つことを求められる。 群青が帰り支度をしていたとき、奏が救急車で運ばれた。彼女が白血病であることがわかった。

翌日、群青は木瀬との今後の相談のため、奏を神栖に残して帰京した。 戦力補強についての話し合いは難航した。 群青の大先輩・山鹿が連絡してきた。相談のため、山鹿のいる伊勢に行くことになった。 彼らは伊勢神宮を参拝する。奏の病と銀星倶楽部の現状についての話をして、群青は少し気持ちが落ち着いた。

東京に戻った群青。 その後、里昴は、ディータァ・フローエの連絡先をチカから受け取る。 実の父親がまだ生きていて日本にいるという事実が里昴をいら立たせていた。 群青は領のことをまだ許せてはいないことについて考えていた。しかし、フローエも領のように何かを償おうとしている可能性があるので、里昴にフローエと話すことを勧めたが、彼女は反発した。

その次の日、群青は奏を迎えに行った。彼女は元気そうだったが不安そうだった。 里昴と昨日の夜の父との通話についての話題になった。彼が元プロサッカー選手であること、来日後里昴が生まれたが、彼女が2歳のときに離婚し、両親ともに里昴を置いて帰国したことについて話した。 里昴が脅迫気味に説得した結果、釧路のキャンプ地をただ同然で使わせてもらえることになった。 これはチームにとって貴重なキャンプの機会であり、新鮮な環境で選手たちの心と体をさらに鍛え上げることが期待できた。

第四章 終端、そして天国へのかすかな路[編集]

群青と里昴は事前の打ち合わせのため、前日に釧路のキャンプ場に向かった。 フローエの過去の行為と、彼がインテルクルービと関係が深いメディアにコネがあったことに激怒、号泣している彼女に対し、群青は「自分とクラブのこと優先で彼女をないがしろにしていたこと」を謝罪した。

キャンプ後、チームの雰囲気は見違えるほどよくなった。 銀星倶楽部は、相手がどんなに強くても主導権を握ってゲームに勝とうとするチームになり、年棒の低い選手が果敢に攻める姿勢が評価された。

最終節、試合会場は湾岸スタジアムだった。そのとき、スポーツによる金儲けを毛嫌いする極左集団が脅迫状を送ってくる。 会場では厳重な警備体制が敷かれていた。 しかし、試合当日、プレミアシップの開設と発足前最後のリーグ戦を記念するセレモニーの会場で、爆弾および銃撃テロが起こる。現場は戦場のような大惨事だったが、神足と里昴は群青にスタジアムへ行くことを促す。

インテルクルービとの試合の結果、2対3で銀星俱楽部が勝った。銀星俱楽部は来期のプレミアシップ参入資格を得た。

試合後、神足はインテルクルービを経営している理由を群青に聞かれ、「特定の地域に根差さない国際的なクラブが定着することが、大きな枠組みでみた人類の共生につながる。その変化を見てみたいのかもしれない」と答える。

里昴からの電話で、群青は奏の病室に向かう。 そこで奏が語ったのは、サッカーと政治が切り離せないことを示す歴史と、インテルクルービ入社の理由。 それは、サッカーを通じて人を連帯させるための社会研究であり、地域や民族を根拠としないサッカークラブを作って、人々が地元へのこだわりを捨てる状況に導き、環境汚染やパンデミックなどで人が住めなくなった土地から安全な土地へ移動する行為を受け入れてもらいやすくすることだった。 二週間後に奏が亡くなった。死因が本当に白血病だったのかは不明である。

Epilogue 回天[編集]

翌年の1月4日、里昴が群青のマンションを訪ね、奏の死でふさぎ込んでいる群青を励ました。 その二週間後の新体制記者発表の日、里昴は群青を送り出す。

登場人物[編集]

銀星倶楽部[編集]

群青叶(ぐんじょう かなえ)
本篇の主人公。フットボールクラブ「銀星倶楽部」のオーナー社長上水流領と、妾の母の間に生まれた。母と死別したあと叔父と叔母の許に預けられるがひきこもりを繰り返し、ドロップアウト。単身、南米へと渡り現地でプロサッカー選手となる。コロンビア遠征の際にマフィアに捕らえられるが、銀星倶楽部の常務である松重崇に救われ帰国。父の死後、遺言により銀星倶楽部の社長に就任する。経営難により弱小クラブに転落したこのクラブを存続させることが使命。しかし数多くの困難に直面する。
松重崇(まつしげ たかし)
銀星倶楽部の常務。社長の上水流領が倒れたあとは実質的に同社の指揮を執っている。群青をコロンビアの危機から救い出す際に米軍の協力をとりつけるなど、謎めいたところがある。
上水流領(かみずる かなめ)
銀星倶楽部のオーナー社長。本妻との間にできた娘の上水流奏に社長就任を断られ、妾の子である群青にその座を委ねたのち死亡。
カジミエシュ・チェシュラック
元銀星倶楽部の監督。頑固で偏屈。内部告発をしようとして解雇され、インテルクルービの監督に就任する。
栢本里昴(かやもと りよん)
消滅してしまった女子サッカーチーム「GEKKOコンピュータシステムサッカー部」(実質的な銀星倶楽部女子チーム)の元キャプテン。銀星倶楽部女子部としての復活を、社長になったばかりの群青に直訴する。人種的にはドイツ系かスラヴ系らしく、群青よりも背の高い金髪碧眼の女子。
蓮田チカ
ろう者サッカーの代表選手。小学校高学年と見間違えそうな小柄な女性。「GEKKOコンピュータシステムサッカー部」所属。
旧副都心暴動に遭遇したときの傷が原因で高度難聴になった。
老松尚之(おいまつ なおゆき)
チェシュラックの後任の監督。トップチームでの監督経験がない。その戦術は選手の能力を引き出し切れているとは言えないもの。
木瀬正親(きせ まさちか)
社会人サッカーチーム「ベイサイド」の監督だったが、老松の後任としてスカウトされる。

インテルクルービ[編集]

上水流奏(かみずる かなで)
「インテルクルービ」の現場トップにあたる専務。一時期は「銀星倶楽部」にも務めていた。上水流領の娘で、群青から見て腹違いの姉。
神足一歩(こうたり かずほ)
「インテルクルービ」のオーナー。成り上がりの実業家。

その他[編集]

山田
反社会的勢力を思わせる雰囲気の男性。輸入食品を取り扱うスーパーマーケット「東岸山田(とうがんやまだ)」の経営者。
李弥台(リ・ミイタイ)
通称ミダイ。長身の女性。「ホッケー界の裏番」を自称している。山田の愚連隊と協力関係にある中国マフィアの娘。
栢本涼風(かやもと すずか)
里昴の育ての親。実は神足がかつてリーダーだった反体制組織「エンダーズ」の一員であり、収監中。
田頭重國(たがみ しげくに)
鹿島N.W.O.の元最高顧問。
山鹿
群青の大先輩。東京の企業チーム「残光金属サッカー部」に所属していた。現在では三重県伊勢市のアマチュアクラブ「大和蹴球団」に所属。
ディータァ・フローエ
里昴の実の父。元プロサッカー選手。現在では、釧路のアマチュアクラブ「トルメンタ・エネルノルテ」の総監督。

用語解説[編集]

本作はパラレルな近未来(2029年)の日本を舞台とし、独自の用語が存在する。

世界同時内戦(グランデサストレ)
格差の拡大と貧困層の増大により、2024年に各国で相次ぎ内戦が勃発。連動して世界に大きな混乱をもたらした。日本も例外ではなく半年以上も戦乱がつづき、収束後も汚染区域が「ゾーン」と呼ばれて隔離され、往来にパスポートが必要になるなど、影響が残っている。対立は根深く、現在も暴動やテロが絶えない。
新都心線
成田空港と羽田空港を結ぶ鉄道新路線。地下深くにある新東京駅に停車する。光学迷彩による不可視モードを搭載している。
放棄区域(ゾーン)
情報統制のため原因ははっきりしていないが、居住に適していないと判断され立入禁止になった区域のこと。都内にも東京タワーの周辺などに存在する。
香取市、潮来市、神栖市、鹿島市
神官が統治する自治区。異教徒は拒まないが、厳重な警備体制が敷かれている。

サッカーに関する劇中用語[編集]

エンダーズ
「トップリーグの覇権争いから弾かれた隅っこにいるクラブ」を指す。実は過去の「富裕層への抵抗運動で中心的な役割を果たしていた名無しの集団とその構成員につけられたコードネーム」(p200)として使われた名称だった。
フットボールリーグ
日本最高峰のプロサッカーリーグ。ディヴィジョン1からディヴィジョン3までの三部制で、2030年から最上位の「プレミアシップ」が開設される。4部から下はアマチュアのアンダーカテゴリーとされ、オーバーリーガ(全国)、レギオナルリーガ(地域)、ランドクライスリーガ(都道府県)の各カテゴリーが存在している。
銀星倶楽部(ぎんせいくらぶ)
東京湾岸部の南で支持されているプロフットボールクラブ。かつては平均観客動員20,000人を誇る人気クラブだったが、現在では存続が危ぶまれている。第一章の時点では士気が低い。
インテルクルービ
東京湾岸部の東で支持されているプロフットボールクラブ。海外進出をめざしている。神足による買収の前は「東京インタースポーツクラブ」という名称だった。ワールドクラスの外国籍選手を複数獲得する予定。ホームタウンにとらわれない国際的なクラブを謳い、世界平和を目標に掲げている。
セントラル、ノースエンド
それぞれ、東京の赤羽スポーツの森公園競技場、駒沢オリンピック公園総合運動場陸上競技場の周辺を支持範囲とするプロフットボールクラブ。
湾岸スタジアム
晴海埠頭に存在する巨大なスタジアム。2020年の東京オリンピックに向けて建設された。「銀星倶楽部」の母体企業、月光運輸ホールディングスが建設費用の40%を供出している。そのため「銀星倶楽部」のホームスタジアムとなっていた。このほか東京オリンピックのためいくつかの陸上競技場や専用球技場が改修されプロ興行に対応するようになっている。
鹿島N.W.O.
北関東のプロフットボールクラブ。インテルクルービに次ぐ実力をもつ。運営母体は新世界秩序クラブという社交とスポーツの会員制組織。

脚注[編集]