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アシロ目

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
アシロ目
生息年代: 後期白亜紀 - 現世, 72.1 - 0 Mya[1]
ソコボウズSpectrunculus grandis
分類
: 動物界 Animalia
: 脊索動物門 Chordata
亜門 : 脊椎動物亜門 Vertebrata
: 条鰭綱 Actinopterygii
上目 : 棘鰭上目 Acanthopterygii
階級なし : スズキ系 Percomorpha
: アシロ目 Ophidiiformes
学名
Ophidiiformes
L. S. Berg, 1937

アシロ目学名: Ophidiiformes)は、硬骨魚類の分類群の一つ。2亜目4または5科で構成され、約120属に540種以上が所属する大きなグループである。サンゴ礁域から海溝の深部に至るまで、幅広い分布域をもつ。一部に淡水魚汽水魚も含む。

概要

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アシロ目の魚類はほとんどが海水魚であるが、フサイタチウオ科の一部は淡水域に生息する。深海に生息する種類が多く、アシロ科に所属するヨミノアシロは水深8,370mで確認されている。体型は細長く、タラ類に似て尾部が伸長している。腹鰭は喉の位置にあり、鰭としての形態は不明瞭で1-2本の軟条からなる。背鰭と臀鰭の基底は長く、尾鰭とつながっていることが多い。長い鰭と体をくねらせるようにして、海底近くを遊泳する底生魚である。吻部の両側に二対の鼻孔を持つ。アシロ亜目は卵生であるが、フサイタチウオ亜目の魚類は卵胎生で、雄は交接器を有する[2]

分類

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アシロ目はアシロ亜目とフサイタチウオ亜目の2亜目からなり、Nelson (2006) ではアシロ科・カクレウオ科・フサイタチウオ科・ソコオクメウオ科・ニセイタチウオ科の5科、100属が設置される[3]。Møller et al. (2016) による分子系統解析では、新たにアカネイタチウオ科が設立され、ソコオクメウオ科をフサイタチウオ科に含める見解が示された[4]。Campbell et al. (2017) によれば、ニセイタチウオ科はフサイタチウオ科に含まれる[5]。少なくとも540種が含まれ[2]、FishBaseでは4科に約560種が記載されている[6]

アシロ亜目

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アシロ亜目 Ophidioidei にはアシロ科およびカクレウオ科が含まれ、およそ58属300種が所属する[2]。卵生で、雄は交接器を持たない点でフサイタチウオ亜目とは区別される。背鰭・臀鰭と連続した尾鰭を持つ。カクレウオ科は浅い海域に生息するが、アシロ科には深海魚が多い。

アシロ科

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イタチウオ Brotula multibarbata(イタチウオ属)。アシロ科の中では数少ない浅海魚で、食用にされる
ソコボウズ Spectrunculus grandis(ハダカイタチウオ属)。世界最深部の魚類の1種。海溝付近の海底で生活し、7,000m以深からの採集記録がある[7]

アシロ科 Ophidiidae は4亜科50属265種を含み、アシロ目で最大のグループとなっている[2]。FishBaseでは50属276種が記載されている[8]。背鰭の鰭条の長さは臀鰭と同じか、あるいはさらに長い。肛門と臀鰭の起始部は胸鰭よりも後方にある。ほぼ全ての属が深海で底生生活を送る。食用魚として利用される大型種は南半球に多い[9]

  • イタチウオ亜科 Brotulinae 1属6種。吻(口先)と顎にヒゲがある。
    • イタチウオ属 Brotula
  • オビアシロ亜科 Brotulotaeninae 1属4種。ヒゲはない。
    • オビアシロ属 Brotulotaenia
  • アシロ亜科 Ophidiinae 8属約65種。ヒゲはなく、腹鰭の位置は極端に前寄りである。リングGenypterus blacodes)は輸入食用魚として知られる。
    • アシロ属 Ophidion
    • 他7属(Genypterus など)
  • シオイタチウオ亜科 Neobythitinae 40属約200種。腹鰭を欠く種類がある。沿岸から超深海帯まで、分布域は広範囲にわたる。本亜科は単系統ではない。
    • イトヒキイタチウオ属 Homostolus
    • ウミドジョウ属 Sirembo
    • オオイタチウオ属 Bassogigas
    • オザワアシロ属 Bathyonus
    • クマイタチウオ属 Monomitopus
    • クロウミドジョウ属 Luciobrotula
    • クロソデイタチウオ属 Epetriodus
    • コガシラアシロ属 Barathrites
    • コンニャクイタチウオ属 Lamprogrammus
    • シオイタチウオ属 Neobythites
    • シロチョウマン属 Glyptophidium
    • スイセイアシロ属 Benthocometes
    • タライタチウオ属 Porogadus
    • ハゴロモアシロ属 Mastigopterus
    • ハダカイタチウオ属 Spectrunculus
    • ハナトゲアシロ属 Acanthonus
    • ハリダシアシロ属 Xyelacyba
    • ヒメイタチウオ属 Pycnocraspedum
    • フクメンイタチウオ属 Bassozetus
    • フリソデアシロ属 Eretmichthys
    • モモイタチウオ属 Dicrolene
    • ヨミノアシロ属 Abyssobrotula
    • ヨロイイタチウオ属 Hoplobrotula
    • リュウジンアシロ属 Alcockia
    • 他17属

カクレウオ科

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オニカクレウオPyramodon ventralis(オニカクレウオ属)。他生物との共生はせず、自由生活を送る
Echiodon rendahli(クマノカクレウオ属)の幼魚。カクレウオ科魚類の幼魚は特徴的な形態をとる

カクレウオ科 Carapidae は3亜科8属35種からなる[2]幼生は背鰭の第1棘が長く伸びた独特の形態をしている。背鰭の鰭条は臀鰭のそれよりも短い。肛門と臀鰭の起始部は体の前方、普通は胸鰭よりも前にある。鰓は大きく開き、鰓蓋骨にはトゲがない。本科魚類の多くはナマコ貝類の体内に隠れ住む習性を持つ。幼生期は2期に分けられ、第1期には浮遊生活を送るが、第2期には背鰭・体長がともに短くなり、この時期に他生物との共生を開始するとみられている。

  • オニカクレウオ亜科 Pyramodontinae 3属7種。胸鰭は頭部とほぼ同じ長さ。
    • オニカクレウオ属 Pyramodon
    • ソコカクレウオ属 Eurypleuron
    • Snyderidia
  • カクレウオ亜科 Carapinae 4属29種。胸鰭の長さは頭部よりずっと短い。腹鰭を欠く。
    • カクレウオ属 Encheliophis
    • クマノカクレウオ属 Echiodon
    • シロカクレウオ属 Carapus
    • シンジュカクレウオ属 Onuxodon
  • Tetragondacninae 1属1種。
    • Tetragondacnus

フサイタチウオ亜目

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フサイタチウオ亜目 Bythitoidei はフサイタチウオ科、アカネイタチウオ科およびニセイタチウオ科を含み、およそ60属240種以上から構成される[2]。ニセイタチウオ科をフサイタチウオ科に含める場合もある[5]。卵胎生で、雄は属・種ごとに形態の異なる交接器を持ち、分類に利用されている。尾鰭は背鰭・臀鰭と連続するか、あるいは独立している。

フサイタチウオ科

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オオソコイタチウオ属の1種(Cataetyx messieri)。尾鰭は背鰭・臀鰭と連続する
Bidenichthys consobrinus(フサイタチウオ科)。尾鰭は独立して存在

フサイタチウオ科 Bythitidae は37属107種を含む。尾鰭の連続性に基づき、2亜科(BythitinaeおよびBrosmophycinae)に細分されることもある。鱗と浮き袋をもち、鰓蓋骨には鋭いトゲがある。サンゴ礁から深海まで幅広く分布し、約5種が淡水・汽水域に生息する。浅海に生息する種類は一般に小型・夜行性であり、未記載種が多数存在するため今後分類が拡大する可能性がある[9]Lucifuga 属には6種の盲目魚が含まれ、鍾乳洞などに生息している。

  • オオソコイタチウオ属 Cataetyx
  • サラサイタチウオ属 Saccogaster
  • セダカイタチウオ属 Oligopus
  • ネッタイイタチウオ属 Brosmophyciops
  • フサイタチウオ属 Abythites
  • ボライタチウオ属 Diplacanthopoma
  • 他29属(Ogilbiaなど)

ソコオクメウオ科

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ソコオクメウオ属の1種(Barathronus bicolor)。ソコオクメウオ科の魚類は退化的な目が特徴である

ソコオクメウオ科 Aphyonidae は6属22種を含む。眼は退化的で、鱗と浮き袋がない。鰓蓋骨のトゲはないか、あるいは小さい。ほとんどの種類は700m以深に生息する。現在はフサイタチウオ科に含める見解がある[4]

  • ソコオクメウオ属 Barathronus
  • 他5属(AphyonusMeteoriaNybelinellaParasciadonusSciadonus

ニセイタチウオ科

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ニセイタチウオ科 Parabrotulidae は2属3種を含む。ウナギのように細長く、腹鰭を持たない。本科の分類学上の位置に関しては議論があり、アシロ目に含めないとする見解もある[10]

  • Leucobrotula
  • ニセイタチウオ属 Parabrotula

アカネイタチウオ科

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アカネイタチウオ科 Dinematichthyidae は25属114種を含む。フサイタチウオ科から分割された[4]

  • リュウキュウイタチウオ属 Alionematichthys
  • サンゴイタチウオ属 Diancistrus
  • アカネイタチウオ属 Dinematichthys
  • 他22属

脚注

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  1. ^ “Teleostean Otoliths From The Late Cretaceous Maastrichtian Age Severn Formation Of Maryland Usa”. Proceedings of the Biological Society of Washington (Biological Society of Washington) 96: 658-663. (1983). https://www.biodiversitylibrary.org/part/45364. 
  2. ^ a b c d e f 遠藤広光 (2018)「アシロ目」中坊徹次(編/監修)『小学館の図鑑Z 日本魚類館』pp.164-165、小学館、ISBN 978-4-09-208311-0
  3. ^ Nelson JS (2006). Fishes of the world (4th edn). New York: John Wiley and Sons 
  4. ^ a b c Møller, Peter Rask; Knudsen, Steen Wilhelm; Schwarzhans, Werner; Nielsen, Jørgen G. (2016-07). “A new classification of viviparous brotulas (Bythitidae) – with family status for Dinematichthyidae – based on molecular, morphological and fossil data”. Molecular Phylogenetics and Evolution 100: 391–408. doi:10.1016/j.ympev.2016.04.008. https://linkinghub.elsevier.com/retrieve/pii/S1055790316300409. 
  5. ^ a b Campbell, Matthew A.; Nielsen, Jørgen G.; Sado, Tetsuya; Shinzato, Chuya; Kanda, Miyuki; Satoh, Takashi P.; Miya, Masaki (2017-04). “Evolutionary affinities of the unfathomable Parabrotulidae: Molecular data indicate placement of Parabrotula within the family Bythitidae, Ophidiiformes”. Molecular Phylogenetics and Evolution 109: 337–342. doi:10.1016/j.ympev.2017.02.004. https://linkinghub.elsevier.com/retrieve/pii/S1055790317301136. 
  6. ^ Order Summary for Ophidiiformes”. fishbase.se. 2025年3月10日閲覧。
  7. ^ 『深海生物図鑑』 pp.244-247
  8. ^ FAMILY Details for Ophidiidae - Cusk-eels”. fishbase.se. 2025年3月10日閲覧。
  9. ^ a b 『日本の海水魚』 pp.121-123
  10. ^ Nielsen JG et al (1999). FAO species catalogue. Vol.18. Ophidiiform fishes of the world (Order Ophidiiformes) 

参考文献

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外部リンク

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