驚異の部屋
驚異の部屋(きょういのへや)は、15世紀から18世紀にかけてヨーロッパで作られていた、様々な珍品を集めた博物陳列室である。ドイツ語のWunderkammer(ヴンダーカンマー)の訳語で、「不思議の部屋」とも訳される。ドイツ語ではKunstkammer(クンストカンマー)とも。
15世紀イタリアの諸侯や有力貴族の間で作られたことに始まり、16世紀にはドイツ語圏に伝わって、王侯貴族だけでなく学者や文人の間でも作られるようになった。自然物も人工物も珍しいものなら分野を隔てず一所に取り集められるのが特徴で、その収集対象も、珊瑚や石英を加工したアクセサリーや、アルチンボルドを始めとする奇想を描いた絵画、(しばしば架空の)動植物の標本やミイラ、巨大な巻貝、オウムガイで作った杯、ダチョウの卵、イッカクの角(ユニコーンの角だと思われていた)、象牙細工、ミニチュア細工、錬金術の文献、異国の武具、数学や医学用の道具、天球儀や地球儀、オートマタ、東洋の陶磁器、聖遺物やアンティークなど多岐にわたる。科学・分類学の発達と市民社会の台頭などにより18世紀半ばに廃れていったが、そのコレクションの幾つかは今日の博物館の前身となった。大英博物館もハンス・スローン卿のヴンダーカンマーの収集物を基にして作られたものである。
参考文献
- 小宮正安 『愉悦の蒐集 ヴンダーカンマーの謎』 集英社ヴィジュアル新書、2007年
- ホルスト・ブレーデカンプ 『古代憧憬と機械信仰―コレクションの宇宙』 藤代幸一、津山拓也訳、法政大学出版局、1996年
- エリーザベト・シャイヒャー 『驚異の部屋―ハプスブルク家の珍宝蒐集室』 松井隆夫、松下ゆう子訳、平凡社、1991年